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巨大スライム
しおりを挟む「つまり、地上では爆発で起こった圧力波を散らすことができても、水中だったら真っ直ぐ水の中を通ってその圧力がフルにぶつかり、肺や内臓の中の空気を思いっきり潰すため、地上では助かる距離でも水中だったら死ぬってことか?」
ルネは聞いた話しをまとめて、この考えで合ってるか確認する。
「うん。そう」
'てか、何で知らないのよ。魔法は高度な計算から成り立つものでしょう。あんな意味不明な魔法の計算はできて、こんな簡単なことは知らないの?一体この世界の基準はどうなってるのよ!'
頭の基準が高いのか低いのかよくわからず、そのせいで苛つきが抑えられず、つい素っ気なく答えてしまう。
「なるほど。そういうことだったのか」
ルネはようやく水中での爆発の威力の謎を理解でき喜ぶ。
後ろで聞いていた2人も同じような表情をする。
「それにしても主人はとても博識だな。様々な分野に精通していることは知っていたが、こんなことも知っているとは思わなかった。このことが世論に広がれば多くのものが主人に感謝するだろうな」
ルネは料理以外で初めてローズを褒めた。
自分の知らない知識で初めて戦闘に役立つものを教えられたため、いつもより少しだけ柔らかい口調で話す。
「は?なんで?」
私はルネの言っていることが理解できず眉間に皺を寄せる。
「なんでって、それりゃあ海の魔物に怯えることが減るからだよ」
海の魔物のせいでこの世界の住人の9割以上は海に入ったことがない。
入った者もほとんどが海の魔物のせいで死んだ。
なす術もなく死んでいく。
どれだけすごい魔法使いだろうと、海の底にまで魔法は届かないし、海の中では陸と違い上手く魔法を操れない。
水の魔法使いでも、生まれたからずっと海で住んでいる魔物たちには水の操作では到底敵わない。
水の妖精と契約したものなら話は別だが。
対抗できる力として氷と雷の魔法があるが、広大な範囲で使うことができないため、単独なら勝てるが、集団相手だと負けてしまう。
だが、今日ローズがした方法なら安全のまま確実に魔物たちを倒すことができる。
中には防御魔法を使えるものもいるので絶対とは言い切れないが、セイレーン相手なら死ぬ確率は格段に低くなる。
これは間違いなく、後世に語り継がれるほどの実績になるだろうとルネは思った。
そして、そうなれば自分の主人はさらなる高みへと昇り、世界中の人間を操り、いろんな国の食材を手に入れ新たな料理を作り出してくれるだろう、とルネは素晴らしい未来が訪れると信じて疑わず、よだれを流しながら気持ち悪い笑いをする。
'なに、こいつ?急にキモくなったんだけど'
ルネの笑みを見て顔がひきつる。
'いや、こんなことはどうでもいい。それよりも、問題がある。このことが知られれば間違いなく、面倒なことになる。でも、教えなければ、これからも大勢が死ぬことになる。迷うことなどないとわかっているが……まじで、面倒なことになるな'
私はため息を吐きながら、水中の爆発のことが知られた後の出来事が簡単に想像できてしまい、今から頭が痛くなる。
両手で頭を押さえながら唸っていると、死んだ魚のような目をしたアスターとシオンと目が合った。
'あ?何見てんだ?'
私は2人の目が気に食わず睨む。
だが、2人は意に介さず感情のない目で見続ける。
誰も目を逸らさず睨み合うこと数秒たったとき、突然10メートルを超える大きな何かが海から出てきた。
そのせいで普通なら絶対水にかからないところまで波がきて襲いかかってくる。
ルネは「あぶねっ」と飛んで避難するが、睨み続けていた3人は避けることなく直撃する。
そのため3人は波に全身を覆われた。
それを見ていたルネは「え?なんで?」と避けずに波にのまれた3人を見て困惑する。
波がひいていくと3人が姿を現した。
ルネは「何をしてるんだ?」と馬鹿にしてやろうと近づくと、主人だけわかめが全身に絡まり、わかめの化け物に変身していて、つい吹き出してしまった。
笑いすぎてお腹が痛くなり、そのせいで飛ぶことが困難になった。
ルネは砂の上に落ちた後もわかめの化け物に一瞬で変身した主人を見て笑い続けた。
私はルネが何故笑っているのかわかっていたが、今2人から目を背ければ負けな気がして睨み続けた。
ルネは後でぶっ飛ばすと決めて。
睨み合いはすぐに終わった。
ルネが我慢できずに笑ったように2人も少しして我慢の限界がきて吹き出した。
ようやく睨み合いが終わり、私はさっきの波はなんだったんだ?と海の方を見るとあり得ない光景を目にして固まってしまう。
そんな私を見た3人は、どうしたんだ?と海の方を見ると同じように固まった。
全員、夢でも見ているのかと思い頬をつねった。
私は痛みでこれが夢ではないとわかると「ねぇ、あれって一応スライムってやつでいいのよね?」と3人に尋ねる。
元の世界で見た青くてぷよぷよしているためスライムだと思うも、断言できないのはその大きさからだった。
スライムは自分より小さい魔物のように描かれていたが、どう見ても目の前にいるスライムは高さ10メートル以上もある巨大スライム。
これをスライムと言っていいものなのか。
スライムを見上げながら頬を引き攣らせているとルネが「一応スライムだ」とスライムを見たまま呟く。
'あ、やっぱりスライムなんだ'
それを聞いて、私はなんとも言えない気持ちになる。
「初めて見た」
シオンもスライムを見たまま呟く。
'悪魔の王と冬の王も見たことないスライムがなんで今現れるかな'
私は思いっきり拳を握り、面倒ごとが更に増えたことに苛立つ。
いくら、今いるところから侯爵たちと離れていたとしても、こんな巨大なスライムが現れたら誰かが見ている可能性がある。
「あー、クソ」
私は頭をガシガシとかきながら、こう祈るしかなかった。
これ以上面倒ごとが増えるのが嫌で「どうか、誰もこれを見ていませんように」と。
だが、そんな私の祈りなど意味をなさないかのように、外で料理を作っていた侯爵と使用人、外にいた一部の領民は巨大スライムを目撃してパニックに陥った。
侯爵が「大丈夫だから心配ない」といくら言っても消えるまでは、皆不安だった。
その頃、アイリーンたちは建物の中にいたため巨大スライムには気づかなかった。
気づいたとしても、退治班の2人なら余裕で倒せるとわかっているので、なんとも思わなかった。
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