マジックカースト 〜苦しい魔法世界〜

浅村 英字

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第弐章 才能

修行

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 俺は世間一般的に『無記の示唆』と呼ばれているらしい。まぁ、俺自身それを気にしたことないし、魔法を使わなければ他の人に気づかれることすらない。十分だ。

「永和、おはよう」

 そのことを高校最初の異性の友人にも、昨日知られた。『今まで通り』とは言ったものの、最近の行動は何を考えてるのか分からなかった。異常にアタフタしてたし、俺を見るなりすぐどこかに行ったりして。

「何か、今日すげぇ気張ってんな」

「そりゃ気張るよ」

 俺の前にいるこの女子は、どうしてか顔が赤くなって俺の顔を見ない。

「それじゃ行くぞ」

 とりあえず、俺は約束していた場所に日向を連れて行く。今日の最高気温は三十五度を超えるらしいから、集合場所を映画館にして正解だった。日向を待つ時間も、決して苦しいことなかった。

「え?何見んの?」

「悪い、何の話?」

 俺には何の話をしているのか、理解できなかった。俺は映画を見る気なんて一切ないのに、日向は何を言ってるのだろう。

「え?映画見るんじゃないの?」

「言ってなかったっけ?」

 これから行くのは、姉の職場『魔導警察』だ。俺も姉の『紬』に魔力コントロールを教えてもらった。彼女が魔力コントロールを練習するなら、俺より姉の方が適任だった。

「聞いてない!」

「永和!お待たせ、準備できたよ」

 後ろから姉の紬の声がした。一昨日くらいから姉に根回しして、今日を迎えた。

「姉貴、悪いな。俺には上手く説明出来なさそうだから、あとは姉貴に任せていい?」

「え?」

「オッケー!ついでに永和も来るでしょ?」

「うん」

「は?」

 俺と姉の紬の会話に、一々突っ込んでくる日向の声が面倒に思えてきた。

「何?!」

「いや、話の流れが全然掴めないんだけど・・・」

「魔力コントロール。俺も姉貴から教わったんだ、お前も姉貴から教わったほうが必ずいいだろ」

 どうしてか、物事を口に出さない。日向らしくない今に、違和感を感じる。

「聞いたよ?魔力ドバドバ使うんでしょ。あなたを『最強に近い・・魔導士』にしてあげる」

 姉は俺の時と同じ言葉使いで、日向を誘う。姉もまだ最強の存在には成れていない。だから『近い・・』と言うのだろう。でも俺は、魔導警察の中でも、姉が最有力と呼ばれていることを知っているのだけど・・・。

「そっちかぁ・・・」

「嫌だったか?」

「嫌って言うか・・・『俺とじゃ』って言ってたから」

 俺はつい、笑ってしまった。俺って、特に説明してなかったのだと。上手く説明するのもそんなに好きじゃないけど、これは流石にまずいと思った。

「悪い悪い。それ『練習する』って意味でだよ」

 腰を抜かした日向に手を伸ばし、俺たちは姉の車に乗る。目的地は日向がこれからの成長するためには欠かせない、魔導警察の特別訓練施設だ。

「どこ行くの?」

「魔導警察の訓練場だよ。上の人に相談したら、意外にも許可貰えたからねっ」

 特殊な訓練場は、本来魔導警察のみが使用できるもの、そう他の人たちに理解されている。でも、警察官からの申請で使用許可が降りるみたいだ。そう、俺が中学生のころに知った。姉と日向の会話が、俺にとっては懐かしく思えた。

「そんな場所に私が行ってもいいんですか?」

「大丈夫。関係者が一緒なら、誰でも入っていいから」

 そう言われてから十分程度、訓練場について俺たちは車から降りる。そこの空気はとても汚く、苦しい。その懐かしい空気を俺は感じるが、そこに初めて来た日向は苦痛でしかないだろう。

「何、この空気・・・?」

「すごく息しずらいでしょ。永和は、大丈夫?」

 俺も懐かしいから、ちょっと呼吸するのに手こずる。

「ちょっと、時間が欲しい感じかな・・・」

「なら、その待ってる間に日向ちゃんにここのことを教えるね」

 そう言って、姉はこの空間のことについて語り出す。

「この施設は、魔力コントロールの特訓するのに使われるんだけど、ここかなり息しづらいでしょ?その理由はここに充満している『魔源マナ』なの」

 ここの魔力は、排気ガスのように汚くて息がしづらい。
 魔法使いに取って呼吸とは、酸素を吸って二酸化炭素を出すと同時に、空気上の魔力の源である『魔源』を体内に取り込んで貯めるということをしている。もし、その魔源が淀んでいると、魔法使いはその魔源を体内に取り込まないようにと息ができなくなる。

「なら・・・どうして、紬さんは平気なんですか?」

「それは、魔源の良いところだけを吸ってるからだよ。呼吸の仕方にコツがあんの」

 魔源はどこにあっても必ず、同じものだ。しかし、あたりの悪いものを吸着させるという性質があるため、淀んでしまうことが多々ある。姉や魔導警察のエリートはその淀んでいるところを除いて、体内に入れる呼吸法をしている。

「コツは、魔源をちゃんと感じること。これができないと、魔力コントロールをマスターするなんて夢のまた夢だよ・・・」

「く、苦しい・・・」

 慣れない魔法使いは、この状況に長時間いると、呼吸困難の発作を起こしかねない。
 俺は姉が話している間に、以前の感覚を思い出して、ちゃんと呼吸できるようになっていた。

「日向、大丈夫?」

「永和・・・は、大丈夫なの?」

「うん、もう平気」

 日向は、苦しさのあまりに膝をついてうずくまっていた。あと数分もすれば、呼吸困難で気絶しそうだった。

「日向、目閉じてみて・・・」

 苦しみ続ける日向の姿をこれ以上、俺は見ることはできなかった。彼女の顔を包み込み、俺の中の魔力を彼女の中に流し込む。日向の顔が少しだけ明るくなる。

「大丈夫。俺を信じれる?」

 日向は俺の声が聞こえると、頷いて俺の指示に従う。落ち着いたあと、無理矢理ではあっても深呼吸をする。

「目を閉じて、自分の魔力に向き合え」

 そこから十分近く時間が経つと、日向が平常心を保ち始めた。

「ありがとう、永和。もう大丈夫」

 立ち上がった日向の目は、とても強い意志を持っていた。姉も日向に駆け寄って、飲み物を彼女に飲ませる。

「すごいよ、日向ちゃんは。永和は、このレベルに対応するのに二日もかけてんだよ」

「え?!」

 姉の言う通り、俺は日向が十五分程度で慣れたこの環境に、二日も時間をかけた。もし俺の魔力量を才能とするなら、日向の対応力も才能と呼ぶべきだろう。

「それをものの十五分でできるなら、ここからは早いよ」

 軽く準備運動をした後、姉は魔法について話し始めた。

「一応聞いとくけど、魔力と魔法の関係とかをちゃんと理解してる?」

 軽く頷く日向と俺。前回の俺は、魔力をコントロールすることだけを練習してたから俺もよく知らない。

「いい?魔力はよく水に例えられるの。空気上にあったり、人をコップとして魔力が溜まったりね。
 魔法を使うってのは、そのコップから水を飲むってこと。その飲む量を調節するのが、魔力コントロールの概要みたいなものよ」

 姉の例え方だと、俺はコップの水を飲むんじゃなくて、そのまま垂れ流しているようなものなのだろうか。そう考えると、ある一つの仮説が俺の中で成立した。

「まず、魔法陣を使う魔法をやってみて?」

 俺は二人から距離を取って、仮説を検証し始めた。もし、この仮説が立証できたら、魔導部の何人かとやり合ってもいいかもと思った。

「永和?」

「俺はちょっと試したいことあるから、そっちは姉貴に任せるよ」

 そこから一時間後。三人のお腹も空いてきたから、訓練場のキッチンに立つ。冷蔵庫の中身は意外にも充実していた。簡単なミートソーススパゲッティを作って昼食を済ませようと、調理を始める。

「ここは楽ですね、向こうと違って」

 そりゃ、ご飯食べるところまで淀んだ魔源を流すことはできないだろう。

「そりゃ、ここでご飯食べるからね。・・・にしても日向ちゃんは、魔力コントロールの天才だよ。もうだいぶ出来てきてるよ」

 姉は料理してる俺の横で、日向のことを褒め始めた。その結果が嬉しくて俺も声が漏れる。

「どう?日向は。実感とか・・・」

「永和に教えてもらった時より大分実感してるよ。魔力の動きとかも、読めるようになってきたの!・・・でも、だからこそ今の永和がどれだけ強いか、戦わなくても分かるよ」

 高い魔力を持つ魔導警察は、全員と言っていいほどの人が自身の魔力を自由にコントロールできる。俺は姉貴もではあるが、そういう高い魔力を持つ人たちにも魔力コントロールを教えてもらったっけ。だから無意識のうちに戦闘時には、自身の魔力をなるべく下げてやるようになってた。今日も同じように、仮説を立証するときには下げてたな。

「そっか、そりゃよかった。今は?どのレベル?」

「もう、威力調節だよ。永和が一日かけてたのを、日向ちゃんはものの十分でこなすからね」

 姉の言葉が、俺に対する当て付けのように感じる。しかし姉の分も盛り付けて、テーブルに並べる。

「それじゃ、もう標的調節も?」

「そうそう。もう魔法展開の最終段階よ」

 魔法を発動するには、三段階の作業がいる。ただし一般的には、これを噛み砕いて伝授させたことで、誰でも魔法が出来るようになっている。その三段階の作業が、魔法陣展開・標的調節・威力調節だ。それぞれに分配する魔力を瞬時に調節できて一人前だ。日向は、その一人前の道を少しづつ登っていると言うことだろう。

「すごいでしょ!・・・永和は?何してるの?」

「今までは魔道具を使って、聡とやり合ってたんだけど・・・、やっぱりそれだけだと、遠距離魔法でやられるだけだから。その対策」

 それの内容とは、自分の魔力を壁としてその魔法を制裁すると言うものだ。これが上手くいったら剣術でも磨くか・・・。

「「「頂きます」」」

 美味しいと言ってくれるが、俺自身、味には少し後悔が残る。だが空気が違うからか、味が割り増しでよく思える。

「ご飯食べたし、さっ!修行の続きしよ」

 姉の声かけから、また三人で訓練を再開しようとさっきの部屋に戻る。
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