あの雨のように

浅村 英字

文字の大きさ
59 / 67
十二限目

告白

しおりを挟む
 検査入院は、特に問題がなく退院までスムーズに行われた。その後しばらくして期末テストの期間が始まった。一学期の終わりを告げる学年集会。どうでもいい話を先生から言われて、俺たちは帰路に立った。咲楽は部活に追われ、少しだけ話して部活に向かった。
 時間が出来たからと、俺は学校を改めて巡回していた。

「華巳先輩」

「あ、辰矢くん。今日はどうかしたの?」

「別に、時間が出来たので適当に歩いてただけです」

「そうなんだ、時間あるなら少し話しよ」

 最初の頃の様に俺たちは屋上の扉の前に腰を下ろした。

「何かあったんですか?」

「実はね。四季の最終オーディション行くの!」

 俺の作品のオーディション、一般の人からも募集をしていた。でもこれは、意味のないことだと思っていた。一般の人が戦争として演技をしてきた人たちに勝てるはずがない。俺はそう思っていた。

「それで、明日から東京に行くの」

「そうなんですね。頑張ってください」

 どうしてか、先輩と話したくないと思えた。この状況を咲楽に見られたら、どう思うだろう。心配されるだろうか。どんな相手でもやきもちを焼く彼女なら、華巳先輩となったらどう思うんだろうか。
 しばらくして、先輩は準備のためだと下校した。

「華巳先輩がオーディションね」

 先輩はオーラが強すぎる。自分ならできるという自信が。俺の作品、少なくとも四季のキャラクターに先輩は不適格だ、いらない。今回のオーディション、申し訳ないけど先輩は受からせない。

「申し訳ないし、先輩用の作品でも作るか」

 先輩が主役、面白くなさそうだな。何もかもが完璧すぎる。
 俺はワボでネット記事でも見ながら俺は咲楽を待つことにした。確か部活が終わるまであと三時間、小説の内容を考えようにも、今は気分じゃない。やはり罪悪感は持ってしまうんだろう。

「あれ、辰矢?」

 俺の退屈を薙ぎ払ってくれるのは、やっぱり咲楽だった。でもその姿は運動着じゃなくて、よく見ている制服だった。

「咲楽、部活は?あと三時間くらいあるはずじゃ」

「うん、そのはずだったけど、バスケ部が明日練習試合あるからって体育館取られた」

 そっか。ならちょうどいいか。

「なら、ちょっと遊び行かん?」

「いいよ」

 俺たちは、学校を後にしていつものようにショッピングモールに向かった。

「そういや、明日薫と申良って知ってる?」

「そりゃもちろん、入学早々付き合い始めて今もずっと付き合ってるんだもん。さすがに噂になるよ」

 そうだ。俺は明日薫が親友だから知って気にしたことなかったけど、あの二人はすごいスピード感で青春をスタートさせたんだった。

「あいつら、実はここで付き合ったの知ってる?」

「そうなの!こんな学校に近い道端で?」

「そうだよ。優真と明日薫の三人で遊んだ時に教えてもらった」

 俺は咲楽のことを知る必要がある。そのためには話題から話を広げていかなきゃいけない。

「えぇ、私だったら嫌かな。大げさじゃなくていいから、ちゃんとムードがあるところがいい」

「そうだよな。俺もそう思う」

 ちゃんとムードがあるっていったいどういう状態を言うんだ。俺はワボを開いて三人のグループにメッセージを送る。

『告白にいいムード教えて。下校中に出来るやつ』

 きっと弥生と未来ならなにかしら答えてくれるだろう。あの二人との関係は何の問題もなくいい感じに続けられていた。こういう時に役にたつとは思ってもみなかった。

『公園』『帰りの電車が出発する前!!』

 二人からの返信は予想以上に早く帰ってきた。どちらもありだと思ったけど、こういう時は弥生の方を採用した方が無難な気がする。

『ありがとう』

「今日はどこ行く?」

 咲楽と話をしたいと思って俺なりに調べていた、今週の新作のドリンクでも飲みに行こう。

「新作、もう飲んだ?」

「ううん、まだ!」

 咲楽も気に入ってくれてよかった。俺たちは普通の高校生のように人が多く集まるカフェに来た。来たことある雰囲気があるここが、なんの興味も沸かなくなっていた。

「そういえば、辰矢とここに来るの初めてだね」

 別の店舗にはよく行っていた。その時はここに来る勇気がなかった。そうだ、思い出した。前ここに来たのは響空とだった。響空と最後の時間を過ごした場所が、ここだった。

「だな」

「前はここに来ようともしなかったのに、なんか気が変わったの?」

 俺はもう、あの時の事は何とも思ってない。だから、笑うことが出来た。

「別に。覚えてない」

「そっか」

 新作のカフェオレを二種類頼んで、俺たちは颯爽と帰ることにした。途中の公園のベンチに腰掛けて話をすることにした。

「美味しいね」

「うん、今月は当たりみたい」

「そうだね、先月のは結構な外れだったけどね」

 俺たちは二人で笑いあって楽しい時間が続いてた。でも、俺は終止符を打たなきゃいけないと、覚悟を決めた。

「俺さ、咲楽のこと。好きなんだよね」

 返事は分かってるつもりだった。

「私も辰矢のこと好きだよ」

 これからが、俺にとっての勝負の瞬間だった。

「付き合ってほしいと思うけど、俺いつ死ぬか分からない病気を持ってて」

「それ、関係ある?」

「は?!」

 さすがに驚いた。先がないというのは俺にとってとても重大な問題だったのに、それをなんとも思われないのはさすがに意外だった。

「いや、関係あるだろ」

「少なくとも私は何とも思わない。というか、それってみんな一緒じゃん?」

 いや、決して同じじゃない。同じじゃないはず。

「私だっていつ死ぬか分からない。もしかしたら事故とかで死ぬかもしれないんだから変わらないよ」

「いや、違うだろ」

「とにかく、私が言いたいのはあなたとの時間が、大事なの。もしもの時はその時に考えようよ。私はいつでも、横にいるから」

 これだけ明るい子を他に知らない。俺の最後は、こういう子に横にいて欲しい。
 俺の病気を受け入れて、八樹のことを喜んで、一緒にいる時間が幸せで、これ以上の子を探すのは、少なくとも俺に残っている時間では不可能だろう。

「分かった」

 俺はベンチから立ち上がり、咲楽の前に左ひざをついて右手を差し出す。そして、今までの思いも含めてここで吐き出す。その手はこの前の様に冷たく、震えていた。
 咲楽が望む言葉は、たった一つしか分からない。その一つだと俺の感情を伝えるのには短すぎる。俺は咲楽の顔を見て、俺を助けてくれた時のことを思い出す。あの時から、今までで俺は咲楽がいたから変わっていけた。成長できた。

「咲楽、俺はいつも明るくて満面の笑みで笑ってくれるあなたが好きです。俺と付き合ってください」

 咲楽はいつものように満面の笑みで俺の手を握り返してくれた。

「もちろんです」

 彼女は笑い過ぎたのか、一粒の涙を流した。

「ありがとう」

 俺は彼女の涙を拭って、力いっぱい抱きしめる。彼女が俺の前から離れない様に。昔の様に今ある幸せを逃がさない様に。今この瞬間をかみしめる、この感情が良い意味で彼女に伝わったらいいなと、ただ願う。

「辰矢、嬉しいけど、ちょっと、苦しい」

「あ、ごめん」

 いつも見てきた彼女の顔は、今日だけ、どこか違っているように見えた。今まで見てきた咲楽の顔とは違って、手に負えないほどまばゆく光っていた。

「私も大好き!」

 そう言って俺を抱きしめる咲楽、その声はただただ大きいなという感情でしかなかったが、それも愛おしいと思えた。

「これからよろしく、咲楽」

「うん!ずっとそばにいてあげる!」

 俺は先がないんだ。その時間だけでも彼女を幸せにしたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

処理中です...