おまえの死体(ちゃば)でお紅茶を淹れてやりますわぁぁっっ!!

腎臓の猫

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『おまえ、ゆくあてがございませんの?』

 ? これは?
 たしか、僕はアイツに染めれらて……。

『へえ、大変ですわね……と、言うとでも?』

 そうか、これは走馬灯ってヤツか。
 本当に染まりきってしまったんだな。
 いざそのときを迎えると、あんがい冷静になってしまうもんなんだなあ。

『わたくしのお父さまよりは楽でしてよ。
 お父さまは毎日毎日、お金を洗うのに忙しいんですの。
 家族にも構っていられぬほどに』

 だけど、走馬灯にしては目の前のお嬢さまが幼くて小さいな?
 いやでも、目線の高さは僕とそう変わらないから……
 これは僕も小さいってことか。

 ……。
 僕とお嬢さまは、小さいころ会っていた?

 いやいや、それはない。
 まだ知りあって二週間ちょっとだろ、僕らは。
 だって小さいころの、それこそ小学生のころは――

 ……。
 ろくに思いだせないな、小学生のころのこと。
 一ミリも。

『そうだ、よいアイデアを思いつきましたわ。
 おまえ、わたくしのもとに来なさい』

 思えば、どうして出会って一週間で適応できたんだろうか。

『おまえを雇ってやりますわ。
 さあ、おまえはわたくしの――…』

 そうか。
 そうだよ。
 僕は小さいころ、お嬢さまの使用人だったんだ。
 いまのいままで忘れていた――というか、いまもまだはっきりとは思いだせないけれど、身寄りのない孤独な僕を救ってくれたのは、お嬢さまだったんだ。

 バカか僕は。
 どうして忘れていたんだ、こんな大切なこと。
 どうして諦めかけていたんだ。

「セバスはん」
 染められてしまった?

「ふふ、セバスはん」
 黙れ。なにを言ってやがるんだ。

「セバスはん………………セバスはん…………セバスはん……」
 おまえは誰だ。誰の使用人だ。

「セバス――チャン!!」
 僕の主人は、いつだってお嬢さまただ一人だ!



 ……
 …………
「ハーーァ……ハーーーァ……」
 はね起きて、深く息を吐く。

 戻ってこられた。
 声はもう聞こえない。幻影も、現実でも。
 僕はチップ的なアレに勝ったんだ。

 安心しかけたところで我に返り、周囲を見まわす。
 火が消えているのか、部屋は薄暗かった。
 そのせいで寒いはずなのに、汗をびっしょりかいていた。

 状況はなにひとつ好転していない。
 どうするか考えなければ。

 改めて息を整える。
 無意識に右手でハンカチを探しかけて、
 上着のポケットに入れていたのだと思いだす。

 あれ? そういえば僕、両手を拘束されていたよな……。

 そう気づくと同時に、なにかスッキリとした匂いがすると気づいた。
 それも、少し懐かしさを感じる、抹茶とは違う渋みをもった匂いが。

「この匂いは……」
「ウバ茶で御座ります」
 薄闇の中、急須を手に京の一番弟子が正座していた。

「いつのまに……!」
 驚きこわばる僕をよそに、弟子はたんたんと茶碗に紅茶をくんでいく。
 コトリと穏やかな音をたてて、茶碗が月明かりの下に置かれた。

「どういうつもりだ」
「どうぞ御召し上がり下さいませ。気つけに成ります」
「気つけ? なにを言っているんだ」
「三日程は御気を失って居らっしゃいましたので」

 なにを考えてるんだ、コイツ。
 困惑したまま固まっていると、
 言葉足らずであるとようやく理解したのか、弟子が口を開いた。

「セバス様。の場所から貴方様を御救い致します」
 が、続いて飛びだした言葉もあまりに唐突で、

「え? 救う? 救うって? 解放するってことか?
 どうして? 茶番はたくさんだ。なにをたくらんでいる、きさまら」
 思わずたたみかける僕。

 対して、弟子は言葉を選んでいるのか、少し沈黙したのちにこう返した。
「これはあるじの指示に依る物では御座りません。わたくしの独断なので御座ります」

 それからひと呼吸おいて、
「セバス様、どうか御願い致します。
 我が主を――京様を、御救いして……頂けませんでしょうか」

 声を震わせ頭を下げる姿が、そこにあった。
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