おまえの死体(ちゃば)でお紅茶を淹れてやりますわぁぁっっ!!

腎臓の猫

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 実戦、
 実戦、
 実戦に次ぐ実戦。
 何回戦ったのだろうか。
 わからないけれど、少なくとも両手両足の指では数えられないのは確かだ。

 ある部隊は鉛弾を何十発もたたきこまれ、
 ある部隊はグレネードとともに爆散し、発狂とともに消えていく。
 オンラインの日常だ。
 僕らもそんな部隊のひとつだった。

「ピークしすぎぅだょセバスぴっぴ!☆」
 ひとつ、受けとめないといけない現実がある。
 察してはいたものの、認めたくなかった現実が。
「すみません……!」
「謝っている暇があったら回復しなさい!」
 僕は足手まといだ。

「ええい、このままだと一方的にやられちまいますわ。
 こちらからっちまいますわよ!」
「てょっ☆ そっちは別パがゃ――!☆」

 毎回――ってほどではないにせよ、
 僕が最初に大きく削られたり落とされたりして、
 人数不利で全滅のパターンが多い。
 その原因はもう、はっきりしすぎている。

「お嬢さま、わたくしめも一緒……に……」
 例によって、あの重さだ。
 敵にエイムを合わせようとするたび、あの重さが身体にまとわりついてくる。
 それで、気づいたときにはやられている。

「おほほほほっ!! 漁夫なぞわたくしには関係ありませんの!
 六タテチャンピオンですわ~~~!!」
 ……そんな人数不利などものともせず、
 お嬢さまが一人ですべてをブチ壊して終わらせる展開もあるにはある。

 が、こんなのはいくらお嬢さまであっても毎回できる芸当ではなく、
・相手が格下で
・お嬢さまが得意武器を拾えていて
・お嬢さまの調子がよくて
・ポジションが不利すぎない
 と、好条件が重ならないかぎり実現しないスーパープレイなのだ。

「やぇー、勝手に突っこむんとかなくなぅーい?☆」
「はいはい。勝てばよいのですわ、勝てば」
「前ん試合ときはぇそれでやられてたんじゃーぃん☆☆
 そのあと逆転したんのは誰のおかげだっと思てっんのさーっ☆」

「……あのときも僕が最初に削られていなければ」
「コイツの言葉は気にすんなですの。
 というか、まだ重さとやらは克服できていませんのね……」

 いちおう、あの重さは敵にエイムを合わせようとしなければ現れはしない。
 たぶん、目の前の敵に集中しすぎて脳がオーバーヒート状態になっているのだと思う。感覚的にそれはわかる。
 だけどそれがわかったとして、銃を撃てない僕がいることになんの意味があるだろうか。

 でも、これは諦めではない。
「お二人とも、もうひと試合おつき合いいただけますか」

 最適な判断ではないかもしれない。
 例えば、力を貸してくれる人を見つけて、
 僕の代わりに出てもらうほうがずっといい。

 だとしても、僕は言ったのだ。
 〝貴族のプライドをかけた闘いだ〟と。
 あの言葉はお嬢さまだけにあてたのではない。
 使用人にだって、お嬢さまの一歩うしろを歩む者としてのプライドがある。

「当然ですわセバスチャン。
 強くなってもらわねば。
 わたくしたちのお屋敷を燃やしたあの京都女に鉄槌を下すために……!」

 なにより、屋敷を燃やしたのが僕って事実を闇に葬るためにも!
 初心者の僕に負けるという屈辱トラウマをアイツに植えつけて!
 僕を見るだけで逃げてしまう状態にできれば!!
 なんとか!!!!

 僕は再びマウスとキーボードに手をかけた。

「そっーだっ☆ 一個思っつったんだけっどさー☆
 銃が撃てなんいなら撃たなきゃよくなーっーい?☆☆」
「え? それってどういう……」
「いっからいぅからー☆ とりぇまボクのゆうとぅりにやってみーぃ?☆☆」


      ■ ■ ■


 マホからの助言は、本当にシンプルなものだった。
 それこそ、すべてを聞いてもなお、
 マッチングまでの待機時間を余らせるほどに。

 そのシンプルさゆえに試してみる価値はあると思ったし、
 戦法をひとつ、思いついていた。

 そうして臨んだ試合は、
 初動で敵と出くわさなかったおかげでスムーズに準備を整えられた。

「わたくしは先に向かっていますわ。すぐに追いかけてきなさい」
 ただ、いくらスムーズとはいっても僕が一番遅かった。
 それは僕の操作がおぼつかないせいでもあるし、
 思いついた戦法のせいでもある。

 準備を終えた僕は、北上して〝仕分け工場〟に向かった。
 安地に入る目的もあったが、第一に漁夫の利を狙うためだ。

 仕分け工場には、三部隊が降下していたのが見えた。
 だから試合開始直後から銃声が響きつづいていたし、
 もうひと部隊くらい、すでに別のロケーションから漁夫が介入していてもおかしくない。

「お待たせいたしました」
 僕が到着したとき、その銃声はお嬢さまたちへと引きつがれていた。

 銃声が鳴っていたのは、仕分け工場北東の一番大きな建物。
 線路にまたがって建っている、貨物列車の停車場所だ。
 お嬢さまはその一階部分、線路の上から。
 マホはそれを見おろすように屋上から吹き抜けをのぞいて。
 前の戦いで消耗した敵部隊を、南西の角へとジリジリ追いつめているのが見えた。

「やっと来ましたわね。わたくしに続きなさい、セバスチャン!」
「ぅやっ、突っこみすぎっしょー?☆」

 ところで、建物の中は逃げ道が限定されやすい。
 例えば、いまの敵部隊の状況だと、大まかに言えば三つしかない。
 北側にある長いコンテナの陰に向かうか、
 南側の階段をのぼるか、
 西の狭い部屋に入り、出入口の扉から出ていくか。

 いまの僕にとっては、これ以上ないおあつらえ向きの状況だ。
 初めはコンテナのルート。
 そこを狙い、僕はグレネードを投げた。あいさつがてらに四つ。
 炎の壁を発生させるテルミットグレネードだ。

「隙だらけですわっ」
 すかさず、お嬢さまが逃げ場を失って立ちどまった一人を狙い、
 マホは上からほかの二人をけん制する。
 ワンダウン。

「そっち逃げってんよぅ☆」
 逃がさない。
 右前へ走り、階段に逃げようとする敵を視界にとらえる。
 ソイツの進行方向に、アークスターをいくつも投げた。
 手裏剣型の、くっついてから三秒で爆発するグレネードだ。

「! 刺しました!」
 狙ったわけではないものの、
 投げたアークスターのひとつが階段の敵に刺さった。
 こうなれば、足が遅くなるうえ大ダメ―ジは免れない。
 その足元に追加で二つ三つ投げておけば、生きのびるすべはない。

 あとは消化試合だ。
 残り一人が逃げこんだ狭い部屋にフラググレネードをいくつか投げこみ、
 扉から出ていかざるをえない状況にして、
 その先には屋上から回ってきたマホがいて――

 追いこみ漁をするかのごとく、僕らは一部隊を撃破した。
「うまくいった……!」

 銃を使わず、投げものを大量に拾って戦えばいい。
 それがマホの助言。
 くわえて僕は、グレネードで敵の妨害や誘導ができると考えた。
 シンプルだけど効果的な戦法だ。手ごたえもあった。
 けれども、むろん欠点がないわけではない。

「あらあらあら~~」
屈伸ホクッんてる場合じゃなっよっ嬢ぴっぴ!☆ 漁夫来てんっからー☆」
「何匹来ようが同じでしてよ。
 やっちまいますわよ、セバスチャン」
「……僕、もう投げもの残ってないんですけど」

 それは継続戦闘能力に乏しいことだ。
 こんなふうに連続して戦う場面になると、厳しいものがある。

 漁夫の部隊にまず目をつけられたのは、屋上で孤立していたマホだった。
 カバーしようにも投げものはない。
 マホが孤立してしまっているから、どっちみち素早いカバーはできない。

「お嬢さま、ここはわたくしたちだけでも引いたほうが……」
 マホは速攻で囲まれてダウンさせられてしまった。
 いくら一対三であろうと、射線管理がうまいマホが、だ。
 相手はザコではない。

「くっ……」
 でも、お嬢さまは迷っていた。

『貴族精神をもつ人間として、引くことを覚えられない戦いがあるのよ』
 アネさんの言葉を思いだした。
 あの姉あってこの妹あり。
 僕は、一度たりともお嬢さまが逃げる場面を見たことがない。
 どんな戦いであろうと全力で、
 真正面から突貫してきたのがお嬢さまなのだ。

 迷いは数秒のあいだ足を止め、
 また、いともたやすくやられる原因となった。

 僕らは屋上から撃ちおろされ、
 焦って逃げた先の階段にはもう一人が待ちかまえていて、
 さらにもう一人がうしろから到着して……
 抵抗も許されず、僕らは全滅させられてしまった。

 すみません、ペースを考えずに投げすぎました。次はもっとやれます。
 そう口にしようと思った。

 が、間髪いれず観戦画面から聞こえてきた銃声に、
 僕はおろかお嬢さまも思わず黙ってしまった。

「ありぉっ、これって……☆」
 当然ながら、観戦画面は自分をキルした人間を映す。
 そして、さらなる漁夫が来ていたりなんてこともなかった。

「あれまぁ、あれまぁ、あれまぁ」
 声が、近場から聞こえていた。
 具体的には、僕らのすぐうしろの席から。

「いつのまに来やがったんですの、おまえ」
「ずっと、おんなしとこにマッチングするまでスタンバってましたぇ」
 場に緊張が走る。

 お嬢さまはいろいろと言いたいことがありげに拳を握ったが、
 それをこらえて言葉を発した。
「どういうつもりですの」

「ふふ、ただの気まぐれどすぇ。
 セバスはんがここいるいう書きこみ見てぇ、寄ってみただけどす」
 口ではそう言っているものの、本当のところはわからない。
 けれど、僕としてはそれ以上に、ひとつ気がかりがあった。

「……ゼロイチ君」
 京のうしろに立つ、着物姿で背の低い男の子。
「ゼロイチ君?」
「……」
 想像したとおり、呼びかけてみても反応しない。

「かんにんどすぇ。
 この子ぉ、なんでかいま、ようしゃべれんようになっとりますさかい」
「まったくよく言うな。自分でそんな状態にしたくせに」
 アネさんの件といい、コイツは……!

 場の緊張感が、一触即発なものへと変わっていく。
「ねーっ☆ ホントはぃぅー、なぇんしに来たん?☆
 きゃぷっゅ☆ まっさかまさっかー、ボクらんとリアルファイトしにきたっじゃなーよねーぇ?☆☆」
 僕らの様子を見ているのか、どこかで店長の咳払いが聞こえた。

「いややわぁ、うち、そない荒くたいことするつもりおへんぇ」
 京は見せつけるかのように、大げさに言葉を紡ぐ。
「心配せんでも、うちはもうきます」
 そのさまは、まるでアクションシーン以外は二流の役者。

「あんさんらも、せいぜい引くこと覚えろdsどす
 ……ねえ? セバスはん」
 二流の笑顔を残して、京は去っていった。


      ■ ■ ■


「あんの野郎ォ、わたくしのお屋敷を燃やしておきながらのうのうと……!!」
 怒りが収まらないのか、お嬢さまがひとりごちる。

 アレは明らかにケンカを売りにきていた。
 警告も兼ねているだろう。
 このまま手を引かなければ、あすの試合は同じ結果になるぞ、と。

「京ぴっぴてー、いっつっもあんな感じなんだっよねーぅ☆
 あーやってー、復讐ゅっん心に火つけってホントーの全力出さってから潰すっ的なねー?☆ 
 んで、いろっな強い人ぶっ倒しぅて死体撃ちパフォで会場ょ沸かせまくりっ☆」

 引き際を考えないといけない、か。
 たしかに一理ある。
 そのつもりはないけれど。現実世界では。

 ことゲーム内においては無視できない言葉だ。
 いつ攻めて、いつ引くか。
 バランスが重要なのを痛感している。
 その昔、アリストテレスだってそう言っていた。

 でも、お嬢さまにはそれができない。
 マホにも無理だ。アイツは慎重すぎるし、なにより、まだ百パーセントの信頼はおけないから。
 誰かがやらなければならない。

「お二人とも、ひとつご提案がございます」
 誰か、バランスをとってまとめる役が必要なのだ。

「わたくしめに、インゲームリーダーIGLをお任せいただけないでしょうか」
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