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三位に入れたとはいえ、依然として僕らと京のあいだには大きな差がある。
それは、僕らがまだマッチポイントを獲得できていないという点だ。
二位に入っているウッちゃんのチームもマッチポイントを獲得してはいるが、
ここまで一度もチャンピオンを獲っていないので特別恐れる必要はない。
大会ルールでは、
必要なポイント数を獲得してからもう一度チャンピオンを獲る必要がある。
つまるところ、僕らのやることは変わらないのだ。
「また同じムーブで行きます。
あと、次はキル稼ぎのために少し積極的に動きます」
僕らは再び、同じ集落へと降下した。
素早く物資を集めて最速で向かった先に見えた光景も、
前の試合と同じ混沌だった。
飛びかう銃弾と暴言。
野生の猿のような雄叫び。
なにも変わっていない。
「ん……?」
「どっしたぅっんー?☆ セバぴっぴ☆」
「……いや、なんでもないです」
変わっていないはずなのに、僕はどこか違和感を覚えた。
「行きましょう」
それが頭の片隅に引っかかりながらも、
五、六部隊ほど減るのを待ってから、
僕は二人を連れてフラグメントイーストに侵攻していった。
■ ■ ■
最初に向かったのは南西の建物。
僕がまずここに向かったのは、
地理的な近さに加えて簡単に落とせると踏んだからだ。
現在、二階で二つの部隊が戦闘していて、片方の部隊は一人だけ生きている。
周囲の建物は一番近くでも四、五メートルは離れているうえ、
他部隊はみんな目の前の戦いに手いっぱいで漁夫がすぐ来そうな雰囲気もない。
窓が多いので、グレネードを簡単に投げいれられる。
実際、ここの攻略は簡単だった。
まず、僕がフラググレネードをいくつか投げいれる。
この時点で一部隊が壊滅し、残り三人のうち一人にも大ダメージが入った。
グレネードを投げると同時に、
一階にいるお嬢さまに、階段へ射線を通してもらう。
そうすると、ヤツらの逃げ道はひとつ。
バルコニー、外階段と通じている二階の扉だけ。
そこをマホが塞いでしまえば、あとはどうやっても逃げようがない。
追いこみ漁方式だ。
キルポイントを四獲得した勢いで、次は北の建物群へと向かった。
ここは三つの建物が密集している。
一番東に低くて縦長な四角形の建物、
その北西と南西にそれぞれ三階建ての建物。
いまだに四つほどの部隊がグチャグチャにいり乱れていたので、
ここではお嬢さまのフィジカルを生かすことにした。
とはいっても、頭空っぽで特攻したわけではない。
「マホさんは窓のフチから中に射線通してください!」
マホにはお嬢さまのサポートに回ってもらい、
しとめ損なった敵を削りきったり、
お嬢さまにヘイトが集まらないよう動いてもらう。
僕は窓から投げものを三つほど入れて移動し、
ほかの建物からの新手を防ぐべく、
通り道になりそうなところにテルミットを投げて妨害する。
ほとんどこれのくり返しで三つの建物を制圧した。
そうして次は道路を挟んで西にある駅へ行こうか、と外に出たところで、
「そろそろほかんとこから漁夫来てもおかしくなくぇなーい?☆」
たしかにありえるな、と思った。
駅を隔てた向こう側は戦闘が終わっていそうな雰囲気があったし、
初動で、北のロケーション〝エピセンター〟に一部隊だけ降下していたから。
先ほどと同じ作戦で行けば、駅の中の敵をつぶすくらいはできる。
けれど、駅は出入口が多い。
そのうえで複数の漁夫に挟まれるのはさすがにキツい。
いったん、制圧した建物の中で様子をうかがうことにした。
足音が増えた。
窓からのぞくと、読みどおり、さらなる漁夫が駅にやってきていた。
しかも、すぐ隣のロケーション〝フラグメントウエスト〟からも別部隊が侵攻してきているのが見えた。
息をひそめてじっと待った。
狙うはキル稼ぎだ。
少し待つと、物量で押してくるゲーセンのガンシューティングのように、
敵がどんどんあふれてきた。
僕が指示して、二人はフォーカスを合わせて撃ち、また合わせては撃った。
敵はみんな、数発の射撃で終わるほどボロボロだった。
最後は頃合いを見て飛びだし、
念のため追いこみ漁方式で駅の中に残った一部隊をキルした。
楽な仕事だった。
これでもう、僕らはキル数と順位の合計で、
この試合の終了後にマッチポイントを獲得することが確定した。
もう、残り部隊は僕らを含めて三だ。
しかし――
「ここ一帯は制圧しましたね、いちおう」
「ええ、ですがセバスチャン――」
「京ぴっぴぇは……ー?☆」
あれだけ狂っていたはずのヤツの声を、僕らは聞いていなかった。
なにより画面左上のキルログはずっと見ていたが、ヤツの名前を見ていない。
まちがいない。
今回、京はここに降りていなかったのだ。
「もしかして……」
僕がひとつの可能性に気づいたところで、
唐突にゆっくりとした拍手が鳴りひびいた。
「……!☆」
「あんさんら、すごぅおすなぁ。ご苦労さまどすぇ」
あれは演技だったか。
ヤツは、ハナから狂ってなどいなかったかったのだ。
「とくにセバスはん。
初心者さんや聞いてましたのに、あんなにIGLできはるなんてなぁ」
駅から一〇〇メートルほど南、
雪をかぶった巨大な岩の頂上にひとり、ヤツが立っていた。
「おまえ、やはり狂っていませんでしたのね」
「あれま、いやどすなぁ。うち、狂ったなんて言っとりませんと思いますが。
ちゃんと頭でもの考えてはります?
そや、やっぱりお猿さんやったんどすなぁ?
前頭葉さん小さ小さなってWキーから手ぇ離せへん、
ノシャーTDMのまん中コンテナに生息してはるお猿さんどすぇ」
「あら、わたくしはWASDではなくQWES派でしてよ」
当然ながら、お嬢さまにあの程度の煽りなど通用しない。
ヤツはそれを見て、むしろ満足げに笑うと、
「! きさま、どこへ――!」
唐突に岩から飛びおり、僕らとは反対側へと姿を消した。
「追いかけますわよ」
「ややっ☆ あんなん罠っしょー☆ どっすんセバぴっぴぅ―?☆」
一瞬のうちに、頭のなかでいろいろな可能性が駆けめぐった。
追いかける?
マホの言うとおり罠だったら?
いや、罠だったとしてもとんでもなく画期的な作戦を思いつくなんて不可能だ。
なぜなら、ヤツのチームは人数が一人少ないうえ、
残り部隊だって僕らと京を含めて三つしかない。
思考はすぐに追いかける方向へと傾いた。が。
「お嬢さま、マホさん、すぐ追いかけましょう」
「ふふふ。セバスはん、いま、グレネードいくつ残ってはりますぅ?」
ヤツが指摘するとおり、グレネードの残数はゼロ。
「……僕はあとから追いかけます」
だとしても、考えは変わらない。
だって、僕がいないあいだに戦闘が始まって、ヤツがゼロイチと合流しようが、
状況は二対二だ。
お嬢さまとマホは走りだした。
僕はデスボックスを漁りに、駅の中へ降りた。
ない…………ない……。
すぐに間違いに気づいた。
どのデスボックスにも、グレネードはおろかまともに物資が入っていない。
そうだった。
ここでは、序盤でいくつもの部隊がメチャクチャに戦っていたじゃないか。
お嬢さまたちは東へ走りつづけ、距離がどんどん離れていく。
しかたない。
僕は駅を出て、隣のロケーションへと走った。
あっちは、広さのわりに序盤で降りていた部隊は少なかった。
その数部隊も、みんな漁夫をするためにフラグメントイーストに近い南側に降りていた。
北側はそもそも漁られていないかもしれない。
「あった!」
走っている最中に見えた。
最北端に二つ固まっているうちの手前、二階まで入れる建物。
その一階、ドアの向こうに弾薬がいくつかとテルミッドグレネードが落ちている。
扉を開けて拾った。
まだあるかもしれない。
階段をのぼると、奥まった窓辺のところにひとつだけ落ちているのが見えた。
フラググレネードだった。
拾おうとして窓辺に歩いた、そのときだった。
モニターに映る視界、その四隅がビリビリと揺れた。
同時に足が遅くなった。
「セバスチャン!」
「セバぴっぴょ!?」
一瞬の間をおいて体力が半分近く削られ、
「ああ、言いわすれてぇました。
いま、セバスはんいゃはるそこらへんのもの、
うちの使用人が全部拾って置きなおしときましたぇ」
アークスターを刺されたのだと理解し、振りかえると、
「……ゼロイチ君」
そこに立っていた。
「いま向かいますわ、セバスチャン!」
「いいえ問題ございません。お嬢さまたちは京を」
「ですが――」
「僕を信じてください、お嬢さま」
もちろん、問題ないなんてウソだ。
完全にしてやられた。
だけど、これは僕らにとって好都合でもある。
京が孤立しているのだとがわかったのだから。
どうする。
いや、もう考えるまでもなくわかっていた。
この状況だと、さっき拾ったテルミットは役にたたない。
あとはお守り代わりに持ってきたP2020はあるけど……。
「ゼロイチ君! 目を覚ましてくれ!
自分の主人を救うんだろ、ゼロイチ君!」
「……」
「まぁた感情に訴えはるんどすかぁ? ワンパターンどすなぁ」
詰みか。
しかたない、二人の指揮に回ろう。
数発、銃声が響いた。
体力が削れた。
が、僕はあと一発のところで生きていた。
「セバス……チャンさん…………」
ゼロイチの銃が、あさっての方向へ弾を放っていた。
間一髪、ゼロイチが理性をわずかに取りもどしてエイムをずらしたのだ。
「逃げ……て……」
弾がきれ、リロードに入る。
銃口は、僕のほうへ向けまいと必死に震えている。
そこで思った。
どうして僕は、無抵抗で倒されようとしているんだ。
この際、倒されるのはしかたない。
どうせ逃げたって、初心者の僕じゃ限界がある。
それならいま、ゼロイチが稼いでくれているこの一瞬はチャンスだ。
ヘタクソでも当てられるこの距離にいる、この一瞬が。
なるべくダメージを与えてお嬢さまたちにバトンパスするチャンスは……
これが最後だ。
迷わず銃を抜く。
照準器をのぞきこむ。
マウスを滑らせる。じっくり狙う必要なんてない。
左クリックに指をかける。
ズウウゥゥゥンンン……
「……くっ!」
重い。鈍い。
こんなものに負けていられるか。
右の人差し指に力をこめる。
おまえは、ゼロイチがつくってくれたチャンスをムダにする気か?
指の重さに逆らって、クリックボタンがさらに沈んでいく。
これくらいなんだってんだ。お嬢さまに対して大口をたたいたのはどこの誰だ?
ボタンはさらに沈み、ついにカチッとした心地よい感触が指に伝わ――
「っ!?」
らなかった。
代わりに伝わってきたのは、アークスターみたいなイナズマが奔る感覚だった。
「指がぁぁっ!?」
つった。そりゃもう盛大に。
僕は人差し指をおさえ、床にくずれ落ちた。
お嬢さまは思わずマウスとキーボードから手を離して、僕のほうを見た。
「セバスチャン!? 今度はいったい――」
「い、いや、お嬢さま、僕はだいじょう……ぶ……」
そしたら今度は、腕全体にイナズマが奔った。
「腕がぁぁっ!?」
朦朧とする意識のなか、僕はマホがでっけーハリセンを持っているのが見えた。
「おまえ、なにしてやがりますの!」
「こーゆうのってぅたたけば直るっしょー☆
祖父ぴっぴの知恵袋ぇゅ☆☆★」
「当然のように二発いかないでくださる!?」
「おぼふ」
「ほら! おまえのせいでセバスチャンがどこかで見たコラ画像のような顔になってしまいましたわ!」
二発目の打撃で、腕から奔ったイナズマが頭をしびれさせた。
「あぁ……セバスチャン、わたくしをまた独りにしないでくださいまし……」
イナズマとともに、
手紙の指示のもと真実にたどり着いた某老人か、
もしくは海に落ちて記憶を失った某スパイがごとく、
閉ざされていた記憶が僕の中をいっきに駆けぬけた。
……ああ、そういうことだったのか。
〝利き手に埋めこんで、人格や行動のコントロールを可能にする――〟
〝子機を対象の利き手に埋込み、親機を埋込んだ人物による人格や記憶の書換え、ある程度の行動制御までをも可能にする――〟
そう、あれは僕がまだ幼かったころ……。
『おまえを雇ってやりますわ。さあ、おまえはわたくしの……』
僕は犬だった。
三位に入れたとはいえ、依然として僕らと京のあいだには大きな差がある。
それは、僕らがまだマッチポイントを獲得できていないという点だ。
二位に入っているウッちゃんのチームもマッチポイントを獲得してはいるが、
ここまで一度もチャンピオンを獲っていないので特別恐れる必要はない。
大会ルールでは、
必要なポイント数を獲得してからもう一度チャンピオンを獲る必要がある。
つまるところ、僕らのやることは変わらないのだ。
「また同じムーブで行きます。
あと、次はキル稼ぎのために少し積極的に動きます」
僕らは再び、同じ集落へと降下した。
素早く物資を集めて最速で向かった先に見えた光景も、
前の試合と同じ混沌だった。
飛びかう銃弾と暴言。
野生の猿のような雄叫び。
なにも変わっていない。
「ん……?」
「どっしたぅっんー?☆ セバぴっぴ☆」
「……いや、なんでもないです」
変わっていないはずなのに、僕はどこか違和感を覚えた。
「行きましょう」
それが頭の片隅に引っかかりながらも、
五、六部隊ほど減るのを待ってから、
僕は二人を連れてフラグメントイーストに侵攻していった。
■ ■ ■
最初に向かったのは南西の建物。
僕がまずここに向かったのは、
地理的な近さに加えて簡単に落とせると踏んだからだ。
現在、二階で二つの部隊が戦闘していて、片方の部隊は一人だけ生きている。
周囲の建物は一番近くでも四、五メートルは離れているうえ、
他部隊はみんな目の前の戦いに手いっぱいで漁夫がすぐ来そうな雰囲気もない。
窓が多いので、グレネードを簡単に投げいれられる。
実際、ここの攻略は簡単だった。
まず、僕がフラググレネードをいくつか投げいれる。
この時点で一部隊が壊滅し、残り三人のうち一人にも大ダメージが入った。
グレネードを投げると同時に、
一階にいるお嬢さまに、階段へ射線を通してもらう。
そうすると、ヤツらの逃げ道はひとつ。
バルコニー、外階段と通じている二階の扉だけ。
そこをマホが塞いでしまえば、あとはどうやっても逃げようがない。
追いこみ漁方式だ。
キルポイントを四獲得した勢いで、次は北の建物群へと向かった。
ここは三つの建物が密集している。
一番東に低くて縦長な四角形の建物、
その北西と南西にそれぞれ三階建ての建物。
いまだに四つほどの部隊がグチャグチャにいり乱れていたので、
ここではお嬢さまのフィジカルを生かすことにした。
とはいっても、頭空っぽで特攻したわけではない。
「マホさんは窓のフチから中に射線通してください!」
マホにはお嬢さまのサポートに回ってもらい、
しとめ損なった敵を削りきったり、
お嬢さまにヘイトが集まらないよう動いてもらう。
僕は窓から投げものを三つほど入れて移動し、
ほかの建物からの新手を防ぐべく、
通り道になりそうなところにテルミットを投げて妨害する。
ほとんどこれのくり返しで三つの建物を制圧した。
そうして次は道路を挟んで西にある駅へ行こうか、と外に出たところで、
「そろそろほかんとこから漁夫来てもおかしくなくぇなーい?☆」
たしかにありえるな、と思った。
駅を隔てた向こう側は戦闘が終わっていそうな雰囲気があったし、
初動で、北のロケーション〝エピセンター〟に一部隊だけ降下していたから。
先ほどと同じ作戦で行けば、駅の中の敵をつぶすくらいはできる。
けれど、駅は出入口が多い。
そのうえで複数の漁夫に挟まれるのはさすがにキツい。
いったん、制圧した建物の中で様子をうかがうことにした。
足音が増えた。
窓からのぞくと、読みどおり、さらなる漁夫が駅にやってきていた。
しかも、すぐ隣のロケーション〝フラグメントウエスト〟からも別部隊が侵攻してきているのが見えた。
息をひそめてじっと待った。
狙うはキル稼ぎだ。
少し待つと、物量で押してくるゲーセンのガンシューティングのように、
敵がどんどんあふれてきた。
僕が指示して、二人はフォーカスを合わせて撃ち、また合わせては撃った。
敵はみんな、数発の射撃で終わるほどボロボロだった。
最後は頃合いを見て飛びだし、
念のため追いこみ漁方式で駅の中に残った一部隊をキルした。
楽な仕事だった。
これでもう、僕らはキル数と順位の合計で、
この試合の終了後にマッチポイントを獲得することが確定した。
もう、残り部隊は僕らを含めて三だ。
しかし――
「ここ一帯は制圧しましたね、いちおう」
「ええ、ですがセバスチャン――」
「京ぴっぴぇは……ー?☆」
あれだけ狂っていたはずのヤツの声を、僕らは聞いていなかった。
なにより画面左上のキルログはずっと見ていたが、ヤツの名前を見ていない。
まちがいない。
今回、京はここに降りていなかったのだ。
「もしかして……」
僕がひとつの可能性に気づいたところで、
唐突にゆっくりとした拍手が鳴りひびいた。
「……!☆」
「あんさんら、すごぅおすなぁ。ご苦労さまどすぇ」
あれは演技だったか。
ヤツは、ハナから狂ってなどいなかったかったのだ。
「とくにセバスはん。
初心者さんや聞いてましたのに、あんなにIGLできはるなんてなぁ」
駅から一〇〇メートルほど南、
雪をかぶった巨大な岩の頂上にひとり、ヤツが立っていた。
「おまえ、やはり狂っていませんでしたのね」
「あれま、いやどすなぁ。うち、狂ったなんて言っとりませんと思いますが。
ちゃんと頭でもの考えてはります?
そや、やっぱりお猿さんやったんどすなぁ?
前頭葉さん小さ小さなってWキーから手ぇ離せへん、
ノシャーTDMのまん中コンテナに生息してはるお猿さんどすぇ」
「あら、わたくしはWASDではなくQWES派でしてよ」
当然ながら、お嬢さまにあの程度の煽りなど通用しない。
ヤツはそれを見て、むしろ満足げに笑うと、
「! きさま、どこへ――!」
唐突に岩から飛びおり、僕らとは反対側へと姿を消した。
「追いかけますわよ」
「ややっ☆ あんなん罠っしょー☆ どっすんセバぴっぴぅ―?☆」
一瞬のうちに、頭のなかでいろいろな可能性が駆けめぐった。
追いかける?
マホの言うとおり罠だったら?
いや、罠だったとしてもとんでもなく画期的な作戦を思いつくなんて不可能だ。
なぜなら、ヤツのチームは人数が一人少ないうえ、
残り部隊だって僕らと京を含めて三つしかない。
思考はすぐに追いかける方向へと傾いた。が。
「お嬢さま、マホさん、すぐ追いかけましょう」
「ふふふ。セバスはん、いま、グレネードいくつ残ってはりますぅ?」
ヤツが指摘するとおり、グレネードの残数はゼロ。
「……僕はあとから追いかけます」
だとしても、考えは変わらない。
だって、僕がいないあいだに戦闘が始まって、ヤツがゼロイチと合流しようが、
状況は二対二だ。
お嬢さまとマホは走りだした。
僕はデスボックスを漁りに、駅の中へ降りた。
ない…………ない……。
すぐに間違いに気づいた。
どのデスボックスにも、グレネードはおろかまともに物資が入っていない。
そうだった。
ここでは、序盤でいくつもの部隊がメチャクチャに戦っていたじゃないか。
お嬢さまたちは東へ走りつづけ、距離がどんどん離れていく。
しかたない。
僕は駅を出て、隣のロケーションへと走った。
あっちは、広さのわりに序盤で降りていた部隊は少なかった。
その数部隊も、みんな漁夫をするためにフラグメントイーストに近い南側に降りていた。
北側はそもそも漁られていないかもしれない。
「あった!」
走っている最中に見えた。
最北端に二つ固まっているうちの手前、二階まで入れる建物。
その一階、ドアの向こうに弾薬がいくつかとテルミッドグレネードが落ちている。
扉を開けて拾った。
まだあるかもしれない。
階段をのぼると、奥まった窓辺のところにひとつだけ落ちているのが見えた。
フラググレネードだった。
拾おうとして窓辺に歩いた、そのときだった。
モニターに映る視界、その四隅がビリビリと揺れた。
同時に足が遅くなった。
「セバスチャン!」
「セバぴっぴょ!?」
一瞬の間をおいて体力が半分近く削られ、
「ああ、言いわすれてぇました。
いま、セバスはんいゃはるそこらへんのもの、
うちの使用人が全部拾って置きなおしときましたぇ」
アークスターを刺されたのだと理解し、振りかえると、
「……ゼロイチ君」
そこに立っていた。
「いま向かいますわ、セバスチャン!」
「いいえ問題ございません。お嬢さまたちは京を」
「ですが――」
「僕を信じてください、お嬢さま」
もちろん、問題ないなんてウソだ。
完全にしてやられた。
だけど、これは僕らにとって好都合でもある。
京が孤立しているのだとがわかったのだから。
どうする。
いや、もう考えるまでもなくわかっていた。
この状況だと、さっき拾ったテルミットは役にたたない。
あとはお守り代わりに持ってきたP2020はあるけど……。
「ゼロイチ君! 目を覚ましてくれ!
自分の主人を救うんだろ、ゼロイチ君!」
「……」
「まぁた感情に訴えはるんどすかぁ? ワンパターンどすなぁ」
詰みか。
しかたない、二人の指揮に回ろう。
数発、銃声が響いた。
体力が削れた。
が、僕はあと一発のところで生きていた。
「セバス……チャンさん…………」
ゼロイチの銃が、あさっての方向へ弾を放っていた。
間一髪、ゼロイチが理性をわずかに取りもどしてエイムをずらしたのだ。
「逃げ……て……」
弾がきれ、リロードに入る。
銃口は、僕のほうへ向けまいと必死に震えている。
そこで思った。
どうして僕は、無抵抗で倒されようとしているんだ。
この際、倒されるのはしかたない。
どうせ逃げたって、初心者の僕じゃ限界がある。
それならいま、ゼロイチが稼いでくれているこの一瞬はチャンスだ。
ヘタクソでも当てられるこの距離にいる、この一瞬が。
なるべくダメージを与えてお嬢さまたちにバトンパスするチャンスは……
これが最後だ。
迷わず銃を抜く。
照準器をのぞきこむ。
マウスを滑らせる。じっくり狙う必要なんてない。
左クリックに指をかける。
ズウウゥゥゥンンン……
「……くっ!」
重い。鈍い。
こんなものに負けていられるか。
右の人差し指に力をこめる。
おまえは、ゼロイチがつくってくれたチャンスをムダにする気か?
指の重さに逆らって、クリックボタンがさらに沈んでいく。
これくらいなんだってんだ。お嬢さまに対して大口をたたいたのはどこの誰だ?
ボタンはさらに沈み、ついにカチッとした心地よい感触が指に伝わ――
「っ!?」
らなかった。
代わりに伝わってきたのは、アークスターみたいなイナズマが奔る感覚だった。
「指がぁぁっ!?」
つった。そりゃもう盛大に。
僕は人差し指をおさえ、床にくずれ落ちた。
お嬢さまは思わずマウスとキーボードから手を離して、僕のほうを見た。
「セバスチャン!? 今度はいったい――」
「い、いや、お嬢さま、僕はだいじょう……ぶ……」
そしたら今度は、腕全体にイナズマが奔った。
「腕がぁぁっ!?」
朦朧とする意識のなか、僕はマホがでっけーハリセンを持っているのが見えた。
「おまえ、なにしてやがりますの!」
「こーゆうのってぅたたけば直るっしょー☆
祖父ぴっぴの知恵袋ぇゅ☆☆★」
「当然のように二発いかないでくださる!?」
「おぼふ」
「ほら! おまえのせいでセバスチャンがどこかで見たコラ画像のような顔になってしまいましたわ!」
二発目の打撃で、腕から奔ったイナズマが頭をしびれさせた。
「あぁ……セバスチャン、わたくしをまた独りにしないでくださいまし……」
イナズマとともに、
手紙の指示のもと真実にたどり着いた某老人か、
もしくは海に落ちて記憶を失った某スパイがごとく、
閉ざされていた記憶が僕の中をいっきに駆けぬけた。
……ああ、そういうことだったのか。
〝利き手に埋めこんで、人格や行動のコントロールを可能にする――〟
〝子機を対象の利き手に埋込み、親機を埋込んだ人物による人格や記憶の書換え、ある程度の行動制御までをも可能にする――〟
そう、あれは僕がまだ幼かったころ……。
『おまえを雇ってやりますわ。さあ、おまえはわたくしの……』
僕は犬だった。
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