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―――――――
―――――
――…
『犬なのですわぁっっ!!!!』
『……え?』
『聞こえなかったかしら?
きょう、この瞬間からおまえはわたくしの犬になりますの。
名前は……そう、セバスチャン! セバスチャンですわっ!!』
『いや、あの、えぇ?
犬にセバスチャン――? じゃなくて犬って?』
『あら、知りませんの?
ヨーロッパだと、犬は一四〇〇〇年前ほど前から人とともにあるそうですのよ。
狩猟にも適した家畜ですの』
『家畜』
『お嬢さま、犬呼ばわりはどうかと……』
『うっせぇですわよじいや!
コイツは孤児だったのでしょう? だったら問題ありませんわ。
なに、ゆき場のない孤児に人権など――』
『シンプル差別発言はおやめください。
はあ、なぜこんなふうに育ってしまったのやら……。
この子は普通にお屋敷に置かせていだたきます。
これを機に、少しは健全な人づきあいをお覚えください』
『ふん、クソくらえですわ。
犬がよいとわたくしが言ったのだから、
犬じゃなきゃお屋敷には置いてやりませんわよ?
わたくしが誰か忘れたのかしら?
お父さまにあることないこと言いつけてやりますの』
『わがままはいけませんぞ。ご当主さまにも許可は得ておりますし……』
『やーーーっっ!! なんでなんでなんでーーーー!!
いーーやーですわーーーーっっ!!
家畜じゃなかったらおうちおいてやりませんのーーーーーっっ!!!!』
『『…………』』
『あのー、君ぃ……』
『あ、もういいですなんでも。犬でも家畜でも』
…………
……
『あ! きみが新しく来たっていう、うわさの……
えっと、田中くん? 鈴木くん?』
『セバスチャンで。
なんかこの名前じゃないとあの子が怒るから』
『そっか、よろしくね。
あたしのことはお姉さん――
いや! アネさんで! アネさんって呼びなさい!
さっそくだけどセバスくん、あたしヒマしててさ……
APEX、いっしょにやんない?』
『APEX?』
『うんうん、パソコンのゲームで、いわゆるFPSっていうヤツなんだけどね、
ほんとは妹とやるつもりだったんだけどさ、
じいやがやらせちゃダメって言うから――』
…………
……
『え……なに、きみ? プロゲーマー?
そういうドッキリ? 配信とかであるアレ?
初心者のフリして空気悪くしようっていうアレ?』
『よくわからないけど、さっき言ったとおり本当の初心者だよ』
『初戦から爪痕ダブハン取る初心者がいてたまるか!』
『そう言われても。
〝バトロワで勝つことは移動に勝つこと〟
っていうアネさんの言葉どおりにやっただけなんだけど……』
『あんな超適当なアドバイスで爪ダブ取れるの!?
才能じゃんそれ! ずる!
あームカつく! もっかい!』
…………
……
『ときにセバスチャン。
おまえ最近、ずいぶんお姉さまと楽しそうにしていますわね』
『お嬢さま、お食事中にはしたないですぞ』
『あー、いいよいいよ。そんな厳しくしなくてもさぁ~』
『当主さま、しかし――』
『じいや、会話をさえぎらないでくださいまし。
話を戻しますわ。
セバスチャン、わたくしの犬としての自覚が足りぬのではなくて?』
『犬としての自覚とか言われても……』
『あーもう、ムカつきますわね、おまえ。
自主性に欠けるうえに口答えする犬など、もういりませんわ。
追放ですの追放』
『えぇ……』
『お嬢さま、さすがに追放はできかねます。かように短期間で追いだしては、家名に泥を塗ることになりかねません』
『いいんじゃない? 追放』
『当主さま!?』
『だって養子にしたわけじゃないじゃん?
その子のここ最近の記憶いじって孤児院に送っちゃえばさ、
な~んかよからぬうわさが立つこともないでしょ?』
『記憶を消す? もしや例の……?
お気は確かでございますか!?』
『そう、最近開発させたヤツね。
ほらあの、なんだっけ、ジョーダン……ナントカって人の映画見てさ、
すっごいおもしろかったのよ~。
で、催眠術かけるシーンでインスピレーション沸いてさ。
いや~だいぶ難航したよ。
でも途中で助っ人が――アレは人なのかな? まあいいや――
とにかく、助けがあってや~っと完成したってわけよ~ははは~』
『あの、なんの話ですか? 記憶がどうとかって』
『ああごめんごめ~ん。
キミで実験させてもらうよ。
ぼくの会社で開発させたチップ的なアレをね。
簡単に言えば、親機を埋めこんである人――つまりは僕だね――
が、キミの目を見ると人格とか記憶とか操れるようになるってヤツだよ。
安心して、手術自体に痛みとかはないから。
ただ、ちょ~っと僕から離れたあと無気力とか偏頭痛くらいの症状は出るかもしれないけどね、はは』
『いやいやいや、痛みとかじゃなくて……えええぇぇ……』
『…………ん、お待ちくださいましお父さま!
その親機とやらは、わたくしに埋めこむこともできまして??』
…………
……
『ヘイ、ブルドッグ。ひざまずきなさい』
『ワン』
『映画〝デッド・サイレンス〟の監督は、ジェームズ――?』
『ワン!』
『おーーほっほっほっほっ! 愉快ですこと!
これでこそわたくしのセバスチャンですわっ!! おほほほほ!!』
『……』
『おーほっほっ……』
『……』
『ふう。くっだらねえ~ですわ。それになーーんか違えんですわよねえ』
『……』
『あ! わかりましたわ、顔ですの!
おまえのどこがセバスチャンですの!?
だましやがりましたわね! そんな典型的な平てえ顔して――』
『お。もしかしてもう、例のチップ的なアレ埋めこんだの?』
『あらお姉さま、そうでしてよ。
でも、思ったよりおもろくないですわね。五分で飽きちまいましたわ。
やっぱり記憶を消して孤児院送りにしますの。
ついでに、わたくし以外からの命令は受けつけないようにしておきますわ。
ひとたびわたくしの所有物になった以上、
ほかのヤツに操られるのはムカつきますもの』
『そっかぁ。だったら、ついでにFPSができなくなるようにしといてくれない?
あたしもさ、才能の差見せつけられてムカついてたんだよね~』
―――
―――――
――――――…
「セバスチャン、セバスチャン、どうか目を……」
「はっ」
「うわ急に目を覚ますんじゃねえですわ!」
あー、なるほどなるほど。そういうことね。
ろくな趣味をもっていなかったのも、
アネさんが僕のところに来たのも、
すぐに使用人として適応できたのも、
僕が理由もなくお嬢さまの言葉を信じたのも、
お嬢さまと暮らすようになってから偏頭痛が治まったのも、
京が僕を洗脳できなかったのも、
エイムを合わせようとしたら頭のなかが重くなったのも、全部――
「……」
「セバぴっぴ、大丈夫(だっじょぶ)そーぃぅ?☆」
「……せ」
「せ?☆」
「せ……」
「せ?」
「せ……!」
「せ?」「せ?☆」
「盛大な茶番じゃねーーーーかああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」
ガバッ!
はね起きた勢いで、マウスを手に取った。
もう、いままでの僕とは違う。
マウスを手にした時点で、エイムは合っていた。
それも寸分たがわず、ゼロイチの頭にピッタリと。
「セバスチャン……いったい……?」
「オイオイ、ハンドガンでド正面からタイマンなんてェ……!」
タタタタタンッ!
「うっ!?」
「――そだろォォん!?
なんだあの連射速度ぉぉぉ!?!? フルオートかよぉぉぉ!?」
「まさかアレは!
一定以上の速度で連打することで、
本来の上限を大きく超えた速射が可能になるウラ技……!?
ワ○ップに載ってはいたが、本当に実在したとは……!!」
左人差し指のBPMは三百超え。
一発ではたいしたことないダメージが、五、六発束になって頭にたたきこまれる。
「もう……これ以上は……逃げ……」
そこでとうとう、ゼロイチの気力がきれた。
同時に、まるで機械のようにスーッと銃口が僕の方向を向いた。
「セバぴっぴ!☆ よぇけて――☆」
言われるまでもなく、僕はよけていた。
「なんスかあのキャラコン!?」
その動きは、AIチップを埋めこんでアップグレードされた人間のごとく。
「指の動きが虫みたいでキモすぎるッス!! さすがにドン引きッス!!」
動きながら、さらに五、六発をたたきこむ。
胴体や足ではなく、頭に。
「なに起きてはるんどす……あのエイム……!」
そしてトドメの一撃をたたきこむべく、人差し指が沈んでいく。
「あと一発!」
その一発は、確かな重みをもってゼロイチの頭を貫いた。
が、指がクリックを完全にたたく直前、僕の目はとらえた。
銃をしまって、テルミットを構えるゼロイチの姿を。
それからいっさいの準備動作を見せず、
文字どおりの最速で僕に向かってテルミットを投げたのを。
「相打ちか……」
ひとりごちて、ゲーミングチェアにもたれかかる。
周囲はしんと静まりかえっていた。
クワイエット・プレイスくらい。
静まりかえって、僕のことを困惑と好奇の目で見ていた。
少し恥ずかしいけれど、それでも、相打ちにもっていけて本当によかった。
ふう、これであとはお嬢さまたちに――
って! そうじゃなくて!
「お嬢さま! いままで隠してましたね!?」
「なんなんですのセバスチャン……
きょうのおまえは寝たり起きたりオンオフの切り替えが激しいですわね。
ラピッドトリガーでも搭載してやがるんですの?」
「…………」
「あの使用人を見なさい。無ですわよ、無。
おまえもあのくらい落ちつきなさいな」
「いろんな意味で! あなたが! 言うなやぁ!! です!!!!」
肩で息をしながら続ける。
「だましてましたよね、僕のこと」
僕がそう言うと、お嬢さまは理解したらしく、キッと口を結んでから開いた。
「気づいちまったのですわね。
すまねえございませんでしたわ。
信じていただけないかもしれませんけれど、だますつもりはありませんでしたの」
「それならどうして、というかなんで――」
僕のことを使用人にした?
疑問を口にしようとした僕の言葉を、お嬢さまはさえぎって、
「セバスチャン。いまはそれどころではありませんの」
モニターに向かった。
「なにを、いまさらこんな茶番……!」
「ヤツはわたくしたちのお屋敷を奪ったのですわよ?
あ、ついでにお姉さまも」
「どうでも……」
「それにヤツをぶっ倒して優勝すれば、
話題になって当分は食いぶちに困りませんの」
「よく、はないか。うん」
「この戦いが終わったら、すべてお話いたしますわ」
そうしてお嬢さまはマウスを握りなおし、勇ましい口調で言った。
「いよいよ本当の最終決戦ですわ」
マホがやる気に満ちた顔でうなずく。
これに勝ってももう一回勝たなくてはいけないことは言わないでおいた。
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『犬なのですわぁっっ!!!!』
『……え?』
『聞こえなかったかしら?
きょう、この瞬間からおまえはわたくしの犬になりますの。
名前は……そう、セバスチャン! セバスチャンですわっ!!』
『いや、あの、えぇ?
犬にセバスチャン――? じゃなくて犬って?』
『あら、知りませんの?
ヨーロッパだと、犬は一四〇〇〇年前ほど前から人とともにあるそうですのよ。
狩猟にも適した家畜ですの』
『家畜』
『お嬢さま、犬呼ばわりはどうかと……』
『うっせぇですわよじいや!
コイツは孤児だったのでしょう? だったら問題ありませんわ。
なに、ゆき場のない孤児に人権など――』
『シンプル差別発言はおやめください。
はあ、なぜこんなふうに育ってしまったのやら……。
この子は普通にお屋敷に置かせていだたきます。
これを機に、少しは健全な人づきあいをお覚えください』
『ふん、クソくらえですわ。
犬がよいとわたくしが言ったのだから、
犬じゃなきゃお屋敷には置いてやりませんわよ?
わたくしが誰か忘れたのかしら?
お父さまにあることないこと言いつけてやりますの』
『わがままはいけませんぞ。ご当主さまにも許可は得ておりますし……』
『やーーーっっ!! なんでなんでなんでーーーー!!
いーーやーですわーーーーっっ!!
家畜じゃなかったらおうちおいてやりませんのーーーーーっっ!!!!』
『『…………』』
『あのー、君ぃ……』
『あ、もういいですなんでも。犬でも家畜でも』
…………
……
『あ! きみが新しく来たっていう、うわさの……
えっと、田中くん? 鈴木くん?』
『セバスチャンで。
なんかこの名前じゃないとあの子が怒るから』
『そっか、よろしくね。
あたしのことはお姉さん――
いや! アネさんで! アネさんって呼びなさい!
さっそくだけどセバスくん、あたしヒマしててさ……
APEX、いっしょにやんない?』
『APEX?』
『うんうん、パソコンのゲームで、いわゆるFPSっていうヤツなんだけどね、
ほんとは妹とやるつもりだったんだけどさ、
じいやがやらせちゃダメって言うから――』
…………
……
『え……なに、きみ? プロゲーマー?
そういうドッキリ? 配信とかであるアレ?
初心者のフリして空気悪くしようっていうアレ?』
『よくわからないけど、さっき言ったとおり本当の初心者だよ』
『初戦から爪痕ダブハン取る初心者がいてたまるか!』
『そう言われても。
〝バトロワで勝つことは移動に勝つこと〟
っていうアネさんの言葉どおりにやっただけなんだけど……』
『あんな超適当なアドバイスで爪ダブ取れるの!?
才能じゃんそれ! ずる!
あームカつく! もっかい!』
…………
……
『ときにセバスチャン。
おまえ最近、ずいぶんお姉さまと楽しそうにしていますわね』
『お嬢さま、お食事中にはしたないですぞ』
『あー、いいよいいよ。そんな厳しくしなくてもさぁ~』
『当主さま、しかし――』
『じいや、会話をさえぎらないでくださいまし。
話を戻しますわ。
セバスチャン、わたくしの犬としての自覚が足りぬのではなくて?』
『犬としての自覚とか言われても……』
『あーもう、ムカつきますわね、おまえ。
自主性に欠けるうえに口答えする犬など、もういりませんわ。
追放ですの追放』
『えぇ……』
『お嬢さま、さすがに追放はできかねます。かように短期間で追いだしては、家名に泥を塗ることになりかねません』
『いいんじゃない? 追放』
『当主さま!?』
『だって養子にしたわけじゃないじゃん?
その子のここ最近の記憶いじって孤児院に送っちゃえばさ、
な~んかよからぬうわさが立つこともないでしょ?』
『記憶を消す? もしや例の……?
お気は確かでございますか!?』
『そう、最近開発させたヤツね。
ほらあの、なんだっけ、ジョーダン……ナントカって人の映画見てさ、
すっごいおもしろかったのよ~。
で、催眠術かけるシーンでインスピレーション沸いてさ。
いや~だいぶ難航したよ。
でも途中で助っ人が――アレは人なのかな? まあいいや――
とにかく、助けがあってや~っと完成したってわけよ~ははは~』
『あの、なんの話ですか? 記憶がどうとかって』
『ああごめんごめ~ん。
キミで実験させてもらうよ。
ぼくの会社で開発させたチップ的なアレをね。
簡単に言えば、親機を埋めこんである人――つまりは僕だね――
が、キミの目を見ると人格とか記憶とか操れるようになるってヤツだよ。
安心して、手術自体に痛みとかはないから。
ただ、ちょ~っと僕から離れたあと無気力とか偏頭痛くらいの症状は出るかもしれないけどね、はは』
『いやいやいや、痛みとかじゃなくて……えええぇぇ……』
『…………ん、お待ちくださいましお父さま!
その親機とやらは、わたくしに埋めこむこともできまして??』
…………
……
『ヘイ、ブルドッグ。ひざまずきなさい』
『ワン』
『映画〝デッド・サイレンス〟の監督は、ジェームズ――?』
『ワン!』
『おーーほっほっほっほっ! 愉快ですこと!
これでこそわたくしのセバスチャンですわっ!! おほほほほ!!』
『……』
『おーほっほっ……』
『……』
『ふう。くっだらねえ~ですわ。それになーーんか違えんですわよねえ』
『……』
『あ! わかりましたわ、顔ですの!
おまえのどこがセバスチャンですの!?
だましやがりましたわね! そんな典型的な平てえ顔して――』
『お。もしかしてもう、例のチップ的なアレ埋めこんだの?』
『あらお姉さま、そうでしてよ。
でも、思ったよりおもろくないですわね。五分で飽きちまいましたわ。
やっぱり記憶を消して孤児院送りにしますの。
ついでに、わたくし以外からの命令は受けつけないようにしておきますわ。
ひとたびわたくしの所有物になった以上、
ほかのヤツに操られるのはムカつきますもの』
『そっかぁ。だったら、ついでにFPSができなくなるようにしといてくれない?
あたしもさ、才能の差見せつけられてムカついてたんだよね~』
―――
―――――
――――――…
「セバスチャン、セバスチャン、どうか目を……」
「はっ」
「うわ急に目を覚ますんじゃねえですわ!」
あー、なるほどなるほど。そういうことね。
ろくな趣味をもっていなかったのも、
アネさんが僕のところに来たのも、
すぐに使用人として適応できたのも、
僕が理由もなくお嬢さまの言葉を信じたのも、
お嬢さまと暮らすようになってから偏頭痛が治まったのも、
京が僕を洗脳できなかったのも、
エイムを合わせようとしたら頭のなかが重くなったのも、全部――
「……」
「セバぴっぴ、大丈夫(だっじょぶ)そーぃぅ?☆」
「……せ」
「せ?☆」
「せ……」
「せ?」
「せ……!」
「せ?」「せ?☆」
「盛大な茶番じゃねーーーーかああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」
ガバッ!
はね起きた勢いで、マウスを手に取った。
もう、いままでの僕とは違う。
マウスを手にした時点で、エイムは合っていた。
それも寸分たがわず、ゼロイチの頭にピッタリと。
「セバスチャン……いったい……?」
「オイオイ、ハンドガンでド正面からタイマンなんてェ……!」
タタタタタンッ!
「うっ!?」
「――そだろォォん!?
なんだあの連射速度ぉぉぉ!?!? フルオートかよぉぉぉ!?」
「まさかアレは!
一定以上の速度で連打することで、
本来の上限を大きく超えた速射が可能になるウラ技……!?
ワ○ップに載ってはいたが、本当に実在したとは……!!」
左人差し指のBPMは三百超え。
一発ではたいしたことないダメージが、五、六発束になって頭にたたきこまれる。
「もう……これ以上は……逃げ……」
そこでとうとう、ゼロイチの気力がきれた。
同時に、まるで機械のようにスーッと銃口が僕の方向を向いた。
「セバぴっぴ!☆ よぇけて――☆」
言われるまでもなく、僕はよけていた。
「なんスかあのキャラコン!?」
その動きは、AIチップを埋めこんでアップグレードされた人間のごとく。
「指の動きが虫みたいでキモすぎるッス!! さすがにドン引きッス!!」
動きながら、さらに五、六発をたたきこむ。
胴体や足ではなく、頭に。
「なに起きてはるんどす……あのエイム……!」
そしてトドメの一撃をたたきこむべく、人差し指が沈んでいく。
「あと一発!」
その一発は、確かな重みをもってゼロイチの頭を貫いた。
が、指がクリックを完全にたたく直前、僕の目はとらえた。
銃をしまって、テルミットを構えるゼロイチの姿を。
それからいっさいの準備動作を見せず、
文字どおりの最速で僕に向かってテルミットを投げたのを。
「相打ちか……」
ひとりごちて、ゲーミングチェアにもたれかかる。
周囲はしんと静まりかえっていた。
クワイエット・プレイスくらい。
静まりかえって、僕のことを困惑と好奇の目で見ていた。
少し恥ずかしいけれど、それでも、相打ちにもっていけて本当によかった。
ふう、これであとはお嬢さまたちに――
って! そうじゃなくて!
「お嬢さま! いままで隠してましたね!?」
「なんなんですのセバスチャン……
きょうのおまえは寝たり起きたりオンオフの切り替えが激しいですわね。
ラピッドトリガーでも搭載してやがるんですの?」
「…………」
「あの使用人を見なさい。無ですわよ、無。
おまえもあのくらい落ちつきなさいな」
「いろんな意味で! あなたが! 言うなやぁ!! です!!!!」
肩で息をしながら続ける。
「だましてましたよね、僕のこと」
僕がそう言うと、お嬢さまは理解したらしく、キッと口を結んでから開いた。
「気づいちまったのですわね。
すまねえございませんでしたわ。
信じていただけないかもしれませんけれど、だますつもりはありませんでしたの」
「それならどうして、というかなんで――」
僕のことを使用人にした?
疑問を口にしようとした僕の言葉を、お嬢さまはさえぎって、
「セバスチャン。いまはそれどころではありませんの」
モニターに向かった。
「なにを、いまさらこんな茶番……!」
「ヤツはわたくしたちのお屋敷を奪ったのですわよ?
あ、ついでにお姉さまも」
「どうでも……」
「それにヤツをぶっ倒して優勝すれば、
話題になって当分は食いぶちに困りませんの」
「よく、はないか。うん」
「この戦いが終わったら、すべてお話いたしますわ」
そうしてお嬢さまはマウスを握りなおし、勇ましい口調で言った。
「いよいよ本当の最終決戦ですわ」
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