おまえの死体(ちゃば)でお紅茶を淹れてやりますわぁぁっっ!!

腎臓の猫

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 お嬢さまとマホは京を追って、
 最東端のロケーション〝展望〟へとたどり着いた。

 「ふふ、セバスはんすごぅおしたからって、えろぅ気ぃ大きなりはって。
 あんさん、黒地にぃ緑のデバイスの箱、
 お部屋にいっぱい積みあげてそうどすなぁ」
「あらあら感心ですわねえ。
 こんな状況ですのにまだポンポン言葉が出てくるなんて。
 お口に連射マクロでも組んでやがるのかしら?」

 現状、僕らはものすごく有利だ。その事実は揺るがない。
「しかし視野が狭いのではなくて?
 バグったパスファインダーかと思いましたわ。
 周りを見なさい。
 現実でもゲームの中でも、おまえの味方は一人もいませんわよ」
「それがなんやというんどす?」

「二対一。二対一ですわよ。
 セバスチャンのIGLも含めれば、実質三対一でしてよ。
 おまえの頭はテンキーレスなんですの?」
「そうだそうだーぅぇっ☆☆」

 京は最東端のなかでもさらに最東端、
 太い柱と二か所の渡り廊下で空中に浮かんだような見た目をした、
 円形の建物の中に閉じこもっていた。
 お嬢さまとマホは、南側の渡り廊下を見おろせる位置へと陣どり、
 京から四十メートルほどのところで様子を見ていた。

「さあ、もう逃げられませんわよ」
 張りつめた空気が流れた。

 ヘタに手だしはできない。
 京がなにを考えているのかわからないからだ。
 ゼロイチを僕のもとに向かわせた時点で、
 たとえゼロイチが僕に勝とうが人数的不利をこうむるとわかっていたはずだ。
 ポジション的にも、
 二人がいる場所のほうが京よりも高いうえに安地もこちら側に寄っている。
 どちらが有利かなんて明白すぎる。

 お嬢さまもマホも京も、それどころか周囲の人間もなにも言わない。
 どんな奇策が飛びだしてくる?
 かたずをのんで見まもる僕らだったが、その緊張感は唐突に崩れた。

 ポンッ!
 と、なにか勢いよくフタみたいなものが開いた音がして、現実世界の音だと理解し、そちらを見やると、
「んぐ、んぐ、んぐ」
 どこから取りだしたのか、一升瓶の酒をラッパ飲みする京がいて、
「……??????」

 いっきに飲みほして、ひと言。
「ふふ、ほほほっ、けっこうなお点前でぇ」
 なにからツッコめばいい?
 高校生が飲酒してることか?
 一升瓶の酒をイッキしてることか?
 試合中に飲酒してることか?

 いろいろと理解が追いつかないまま、
 酒を置いてマウスとキーボードに手をかけた京を見ていると、
 ズガァァァン! 
 と、今度はヘッドホンから空気を裂く残響を残す低音が一発、耳に響いて、

「ふぃぎぃぉょっ☆☆」
 マホがやられていた。
「なっでボクがいっつも最初に狙われっちゃんのーーーぃぇ☆☆」

「クレーバーですわっ!」
「なっ、でもどこから――」
 つぶやいたものの、そんなこと考えるまでもなかった。
 ただ、理解が追いつかなかった。
 ありえない。ヤツがそんなフィジカルをもっていたなんて。
 わざわざ隠しておくメリットはないだろう。
 だって四十メートルだぞ?
 四十メートル離れた敵の頭を一瞬で撃ちぬくフィジカルを、
 隠しておく理由があるわけない。
 それこそそんな神業を再現できるのは、お嬢さまくらいしか――

「お抹茶がぁぁ……! 入りましたぇぇぇ……!!」
 まさか、と思った。
 けれどそれしかない。

「アイツ、わたくしと砂勝負しようってことですの? 上等ですわ」
 気づいたときには、再び京が顔を出すところだった。
 僕はとっさに叫んだ。
「ダメです飛んでっ! ジャンプですお嬢さま!」

「!」
 反射的に飛んだお嬢さまの胴体に、クレーバーの一閃が突きささる。
 四分の三ほどの体力を削られたが、なんとか死は回避できた。

「あれまぁぁ! よけちまったらどタマにブチこめねえどすぇぇ!!」
 間違いない。
 あれはお嬢さまをコピーしている!
 合わせるのがうまいのは、味方に対してだけではなかったのだ。
 そして酒は、京の潜在的な観察力とコピー能力を最大化させるための、
 お嬢さまでいうデ○スのような存在なのだろう。

どタマにブチこまれるのはおまえっでしてよっ!」
 僕のいきなりな指示に応えつつも、
 お嬢さまは空中でスコープをのぞきこんでいた。
 しかもその照準は、ピッタリと京の頭の真芯をとらえていた。
 着地するのと、京の頭を一発の弾丸が貫いたのは同時だった。

「ふほほほほっ! やりますなぁ!!」
 が、大ダメージを与えたものの、ヤツは倒れない。
 当然だ。なぜならいま、お嬢さまが持っている武器はクレーバーではないから。
 同じくボルトアクションのスナイパーライフルではあるが、
 普通に拾えるセンチネルだ。
 ケアパッケージ武器のクレーバーとは大きく性能差がある。

「うちもこの感覚に慣れてきましたぇ。
 次は動きやがろうが外さねぇどす!」
 お互いに物陰へ隠れる。
「お嬢さま、いったん回復を」
「わかっていますわ。しかし気休めにしかなりませんわね……」

 状況を整理しよう。
 フィジカルは互角。
 このレベルのフィジカルにおいては、
 ポジション有利はたいしたアドバンテージにならない。
 そうなると、武器の差が顕著に表れてくる。
 こちらはヘッドショットしようが二発当てなければならないのに対し、
 向こうはヘッドショット一発だ。
 攻略の糸口を探らなければ。

「とりぇまー、安地収縮まで待ったほーがよさげじゃなーいぇ?☆」
「そうですね。ちなみにグレネードって持ってますか?」
「ゼロですわ。
 すべてセバスチャンに譲っていましたもの。
 あったとしても、おのれのエイム以外で戦うなど邪道ですの」

 これはもう、運に任せるしかないか?
 さいわい、いまお嬢さまのいる位置は最終安地に入りそうだ。
 戦いを捨て、物陰で安全地帯の収縮を待つ。
 最後は完全に閉じていく円にギリギリまで入り、
 京から射線の通らない位置で回復しながら耐久する。
 経験がないからどうなるのかわからない。
 これしかないのか?

 悩む。
 飛びだせば相手が外すことを願う運ゲーになる。
 飛びださなければ相手の回復ミスを願う運ゲーになる。

 どうするか、と決めあぐねていると、
「セバスチャン、デ○スを」
 言われて、腕時計をサッと見る。
「? まだ効果はきれてませんよね?」

「ボトルごとよこしやがれですの」
「ボトルごと……まさかそれって……!
 でもアレは、アレだけは……!」
 お嬢さまが首を横に振る。
「ほかに方法がございまして?」

「……」
 なにも言いかえせず、僕は沈黙する。
 そのままうつむき、うーん、と少し迷ってからボトルを差しだした。
「約束ですよ。ちゃんと戻ってきてください。
 これが終わったら全部話してもらうんですから」

 お嬢さまは勝ち気に笑って、
「当然ですわ。わたくしを誰だと思ってやがりますの」
 ガシリとデ○スのボトルを受けとった。

「お話、終わりはったどすかぁ??
 さっさと出てきゃがれですわどすっ!!」
「言われなくとも」
 お嬢さまはキーボードを操作しつつ、
 右手をマウスから離してボトルのフタを開けた。

「あァ!? 嬢ちャんどうしちまッたてンだァ!?
 アレじャあエイムなんてェ……!」
 それからボトルに口をつけて、
 ゲーマーがポテチを喰らうがごとくガーッとかきこみながら、
 どうどうと歩いて物陰から出た。
「なんスかあの先輩! こんな状況でラッパ食いしてるッス!」
「あれまあれまぁ! うちも舐められたもんどすなぁ!」

 お嬢様の視界の先に、クレーバーを構える京の姿を認めた。
「なんしてんのさーぇ!☆ 血ぅ迷ったんーー?☆☆」
 無言で、お嬢さまは立っている。

「お望みどおりぶっ殺したりますえぇ!!」
 縮まっていく京の十字線クロスヘア
 そのまん中に、お嬢さまの頭。
「わっぅーー☆☆ 終わぇりだぅぁぇ☆☆」
「死ねえええぇぇぇぇどす!!!!!!」

 一閃。
 太い低音。
 残響でゆがむ空間。
 顔をそらすマホ。
 ハッと息をのむ群衆。
「ふほほほほ」
 笑う京。
「ほほほほほほ!」
 笑いが、空間を飲みこみかける。

「――ほ?」
 しかし。


「遅え、ですの」


 血は巡る。
 巡っている。
「な――? なんなんどす、当たったはずや――」
 京はすぐに身を隠す。
 それからライフルのコッキング動作が終わるやいなや、再び顔を出した。

「死ねどす!」
 当たらない。
「死ねどす!」
 当たらない。
「な、なにがぁ……!?
 まん中とらえてますのに!!
 そや弾抜けや! 弾抜けどす!」

 いままでで一番の慌てぶりを見せる京に、お嬢さまはたんたんと言う。
「いいえ、弾抜けではございませんの。
 かといっておまえのエイムがズレているわけでもありませんわ」
「なに言うたはるんどす! わけわかりませんぇ!」

 お嬢さまはため息をつく。
「言ったではありませんか。遅すぎますわ。
 もういちど試してみたらどうですの?」
 お嬢さまに挑発されるがまま、
 京はもういちど顔を出し、スコープをのぞきこむ。

 たしかに、そのエイムは誰がどう見てもお嬢さまの頭をとらえている。
 ――引き金を引く、その瞬間までは。

「オイ……まさかとはァ思うがよォ、
 嬢ちャンのヤツ、着弾するまでの短ェあいだにかわしてやがるッてのかよォ??
 それも左手一本、キーボードの操作だけでェ??」
「そんなバッカなーーーぁ!?!?
 クレーバーの初速は秒速七四九メートル(攻略WIki参照)だぞーーーぉ!?!?」

 普段、人間の脳は十パーセント程度しか稼働していない。
 いつか見た映画でも言っていたので、これは反論の余地がない科学的事実だ。
 そして、使われていない九十パーセントを起こすためにはなにが必要か?
 そう、クスリだ。

 過剰服薬オーバードースによって、お嬢さまは第二形態へと進化する……!

「アアァァァァいいねぇぇ! いうなればアレは――」
「ラッパ食いオーバードー……ッス!」
 クスリによって加速された脳は、百パーセントの力を発揮するのだ!!

「なんでぇ! なんでぇ! 当たらんのどす!」
 カチッ、カチッ!
 とうとう、京の弾がきれた。

「あら。もっと粘ってくれってもよろしっくてよ?
 いま、わたくしの右手はReflex Arenaでボットとおピョンピョンたわむれているところですもの。
 それにしてもアリーナ系もやっぱりいいですわねえ。
 おまえの弟がハマるのもうなずけますわ」
「嬢ぇ……!
 あんさん、とことんまでうちのことこけにするつもりどすなぁ!」

 京は物陰から飛びでて、渡り廊下を走りだした。
「せめてぇあんさんのその顔に左ストレート入れたりますわどすぇ!!」
「へえ。まだ諦めないその根気は気にいりましたわ。
 それならひと思いに――」

 お嬢さまはマウスを握りなおし、息を小さく吐いた。
 青い意志ほのおが瞳にきらめく。
 背中にユニオンジャックが輝く。
 そのさまは、まさしく一流のアクション俳優。
 デン○ル・ワシントンもまっ青になるほどの狂いのなさ。
 確かな意志が、
 身体を、
 腕を、
 指先を、
 コンマ一ミリの狂いも見せず優雅に動かしていく。

 この光景を見ていた人は、口をそろえて言ったという。
 貴族は死んでいなかったと。

「死ぃぃねええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
 ――――!
 ――!!
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