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4. たすけて。
しおりを挟む「たすけて。」
そう言えない人間もこの世の中にはいる。
“トー横” “グリ下”
最近はSNSでも話題になっているが、かつては私もそこの場の一人だった。
今ほど大きくはなっていなかったが。
待ち合わせのホテルが近くにあったため、ふらっと通りかかっただけ。
路上に座り込む同い年くらいの子たち。
笑ってるのに、目がどこか遠い。
確実に未成年なのに手にしているのはアルコールの缶と、紙タバコ。
『ごめん、スマホ無くしちゃって、電話かけたいからスマホ貸してくれない?』
同い年ぐらいの女の子だった。
かわいそうだなーとおもいつつ、私は彼女にスマホを貸した。
『ありがと!!まじ神!!』
それだけ言うと彼女は自分のスマホに電話をかけた。
『もしもしー??あ、みぽ!なんだーみぽがもってたのかよ~!今から取りいくから!』
少し間をおいて、彼女がこちらを振り返る。
『ごめん、スマホ友達がもってた!!まじ助かった~!ねぇ、てかこの後暇?お礼させて!!』
「え?」
そう言う間もなく、
彼女は私の手首をつかみ、
“仲間”のところへ引っ張っていった。
彼女の名前は、しおり。
年齢は、私の一つ下。
両親は離婚して、父親に引き取られた。
でも、父親からのDVに耐えられず、
もう家には帰りたくないらしい。
『ここにはね。』
しおりは、すこし誇らしそうに言った。
『同じ“傷”を抱えた“仲間”がいっぱいいるんだよ。』
その言葉はあたたかいような、冷たいような不思議な感じだった。
しおりに引っ張られて、
高架下の影がいちばん濃い場所へ連れていかれた。
段ボールの上に座る子、
壁にもたれてスマホをいじる子、
笑っているのに、誰の目にも光がなかった。
年齢は、きっと私と同じくらい。
でも、時間の進み方だけが、違う気がした。
『新しい子?』
誰かが言った。
しおりは、私の肩に手を回して、
『うん、さっきスマホ無くして助けてくれたんだよね~!』
“助けて”
その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。
一人の女の子が、缶酎ハイを差し出してきた。
「喉乾いてない?」
受け取ると、手が震えているのが分かった。
私のじゃなくて、その子の。うでは傷だらけだった。多分、自分で作った傷。
『この辺の人?最初はここ怖いでしょ』
別の子が笑った。
『でもさ、家よりマシなんだよね』
みんなが、同時にうなずいた。
私は、何も言えなかった。
しおりは、私の耳元で小さく言う。
『ここにいると、ひとりじゃなくなるよ』
その言葉に、
一瞬だけ、心がほどけそうになった。
――ここにいたら、孤独じゃなくなるのかもしれない。
でも同時に、
戻れない場所に足を踏み入れた気もしていた。
遠くで電車の音が鳴る。
誰かの笑い声が、やけに高く響く。
私は、その輪の中に立ったまま、
自分がどこにいるのか、分からなくなっていた。
『名前は?』
「ま、きです。」
咄嗟に嘘をついた。本名を言ってはいけないと思った。
『まきたゃはパパ活?それとも立ちんぼ?』
「えっ、と、パパ活…です…」
初めて自分の口からその言葉が出て鳥肌がたった。
『パパ活か~、私も前パパ活してたんだけどさ、Twitter垢バンしまくりでさ~、』
しおりは、何ともない顔で話を続ける
『でも、最近もっといい稼ぎ方みつけて!まきたゃもよかったらどう??』
戸惑う私を置いて、スマホの画面をだした。
『こうやって、動画を撮るだけで1日8万!!』
そこには、“どこかの場所”の盗撮画面が映ってた。
一瞬で、何を意味しているのか分かった。
喉の奥が、きゅっと縮む。
「……それ、だめなやつじゃ……」
声が、かすれていた。
しおりは、肩をすくめて笑う。
『みんなやってるって。
バレなきゃ、ただの“楽な稼ぎ”だよ』
その言葉が、
私の中に残っていた“線”を、静かに踏み越えてきた。
――あ、今、越えた。
そう思った瞬間、
足元が、ふっと消える感覚がした。
ここから先は、
もう“戻る”って言葉が、意味を持たない場所。
誰かの笑い声。
電車の音。
ネオンの光。
そのすべてが、遠くなる。
たすけて。
でも、その声は、
もうどこにも届かない気がした。
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