甘味、時々錆びた愛を

しろみ

文字の大きさ
7 / 27
或ル勉学

1

しおりを挟む
「おはよう國弘くん!さっそくだけど國弘くんには大学受験してもらいまーす!」
「……は?」

朝早くから突然部屋に入ってきてそんなことを言う博士。大学受験?高校も卒業できてない僕になぜ大学を受けさせる必要があるのか。

「あの、僕大学行く気なんてないんですが……まず高校出てないし」
「それは知ってるよ!記憶を見たんだからね」
「知ってるんだったら何でまた……」
「……そういや國弘くんには仇討つってしか言ってなかったね」
「え?」
「前記憶を見せてもらった時のアレだよ」
「あぁ……アレですか」

以前、僕は博士の作った(のかは定かではないが多分作った)機械によって、少しだけ彼に記憶を覗かれたのである。記憶を見た途端、急に博士は出掛けていったので状況がまるで読めなかったが、何故今更。

「あのときどこ行ってたか教えてあげるよ」
「……どこなんです?」
「君の、元住居だよ」
「……え、何で」

博士の口から信じられない言葉が。何故、彼は僕の……親戚の家なんかに行ったんだ。意図が読めない。

「思い出したくないだろうけど……國弘くんの親戚は、お母さんやお父さんの遺産をすべて持っていってたんだよ……とりあえず國弘くんに入るはずだったお金はすべて僕の口座に振り込んでもらったよ。全部」
「……かなり生々しい話ですね、」
「まぁ僕の手に掛かればこんくらいはチョロいね、あと國弘くんが成人になるまでの養育費も、月一度僕の口座に振り込まれていくから」
「うわぁ……」

更に告白される信じがたい話に、僕は疑問というより意味が分からなくて曖昧な返事しかできなかった。まず博士は僕の親戚に何をやらかしたんだ。確かに悪い人だったがお金を踏んだくる博士もなかなかの暴君である。

「だから國弘くん大学生になろう!お金はいっぱいあるんだよ!」

だから何故そうなる。金にもの言わす気かこの人は。

「お金の問題じゃない!頭がないんですよ僕には!」
「あるじゃん、白銀に輝く麗しの髪にルビーのように暖かでありながらも攻撃的な光を湛える瞳……」
「何ですかその文学くさい表現は……そういう意味じゃなくて、僕勉強できないんです」
「え?國弘くん頭良さそうな顔してバカなの?」
「……えぇ、バカですよ」

直球でぶちこんできたこのデリカシー無し男に苛々を募らせてもしょうがない。この人は多分ろくな理由もなく僕を大学に送り込もうとしている。行ってたまるか。

「じゃあ僕が勉強教えてあげる!」
「……博士、」
「何?國弘くん」
「……僕の将来に大学は必要でしょうか?」
「いるよ!」
「何でですか?だって僕の将来の夢は……」
「?」

本当は恥ずかしくて死にそうなくらいだが、大学受験なんてめんどくさいことはしたくない。僕はこう言うことにした。

「博士の、お嫁さんなんですよ……?」
「ッ國弘くん……!」
「だから博士、僕は毎日博士のために部屋を掃除したり洗濯をしたりして、あたたかいご飯を作って……夜には、えっちしたりするのが……僕の将来の夢なんです、だから大学なんて」
「それとこれは関係ない!けどえっちはしよう!毎日!」
「…………」
「明日から勉強だからね!」
「…………はぁ……」

何でそうなる。恥を忍んで頼んだというのに。明日は部屋の掃除してやらない、そう思ったけど。

「……僕の行ってる大学だから、ね?」
「…………」
「入ったら、一緒にキャンパスデートしよ?」
「……ッ、分かりましたよやればいいんでしょやれば!」

僕はこの男の提案、お願い事にどうも弱いようだ。







「國弘くんはねー……学科は何がイイ?僕が入ってる授業は……機械工学Ⅰ・Ⅱと、生物学Ⅰ・Ⅱ、あと……」
「なんかもう訳がわからない次元です、生物学ならできると思うんですが……」
「君たまに剥製作ったりしてるもんねェ……薬学とかどう?」
「絶対無理です」
「むぅぅ……」

博士はベッドの上に腰掛けて、股の間に僕を座らせて大学のパンフレットをぺらぺらと捲っていく。雰囲気は楽しそうだから自分の見た目がまた好奇の目に晒されるのかと思うと憂鬱になる。博士はそれを知ってる筈なのに。

「何か一番楽そうなのがイイです」
「それじゃ行く意味ないじゃん」
「行く気ないんですけど」
「じゃあ無理矢理にでも行く気にさせたげる!明後日オープンキャンパスあるから無理矢理にでも連れていく!」
「……めんどくさいなァ」
「めんどくさいとか言わない!」

博士の胸にぽすっ、と凭れる。はぁと溜め息を吐けば、博士が肩に顎を乗せてきた。

「くにひろくんあったかいね」
「博士もあったかいですよ」
「あー……やっぱり大学とかめんどくさい?」
「……まぁ、めんどくさいというか見た目でよく虐められてたので……またそういうのがあったら嫌だなぁって……」
「大学はそんなことないよ、いろんな髪色の人がいるし、いろんな国の人が学びに来てるから……國弘くんの過去を考えたらやっぱり、友達作って欲しいなって思ったんだ……」
「……博士、」

首を動かして博士の方を見ると、ね?と微笑みかけてくる。彼は僕自身よりも僕のことを考えていてくれた。それがとても嬉しくて、ただそれを言葉にするのは恥ずかしいので、今日もそっけないことを言ってしまう。

「……案外まともなこと言えるんですね」
「案外って何だよ!」
「……いつもふざけ散らかしてるので、ちょっと吃驚しました」
「散らかしてはない!僕は部屋しか散らかさないよ」
「……、そんなあなたが大好きなんです」
「ッ……ありがとう、僕も國弘くん大好き」

だけど結局、こうやって博士に強く抱き締められて甘えてしまうのだ。服越しに彼から伝わる体温が心地よくて身を委ねる。あまりにも気持ちよくてそのまま微睡みかけたそのとき、博士が僕の下腹部にそっと手を回してきた。

「はかせ……なにして、」
「……セックスしたい」
「…………いいですよ、」
「珍しいね、いつもは嫌がるのに」
「したくてしょうがないんでしょう?」
「うん……けど、」
「……?」
「國弘くんが学科決めるまで我慢する」
「……、あんたから言い出したんでしょ……」
「えー?國弘くんセックスしたいの?」
「……学科決めます」
「……ふふ、どこにしよっか」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...