甘味、時々錆びた愛を

しろみ

文字の大きさ
6 / 27
或ル導入

5

しおりを挟む


「……國弘くんって何でも食べるんだねェ」
「……!!?」

男の真後ろに突然現れたのは博士の姿だった。

「……誰だよアンタ」
「んー……君たちくらいの年齢からしたら通りすがりのお兄さんかな」
「……、」
「まぁ僕が誰かなんてどうでもいいんだよ、その子返してくれないかな?」
「……はぁ?嫌なんだけど、何?返したらアンタが相手してくれるの美人さん」

男は振り向いて博士の方を見る。若干戸惑ったようだが暫くしてから博士を睨み付けた。美人って怖いなと他人事のように見ていたら、博士が突然男に顔を寄せ、耳許で彼に話し始めた。

「正直さァ、青姦なんてこんなところでするもんじゃないよ……おちんちん我慢できなかったの?」
「っ……!アンタには関係ないだろ!」
「あとこうやって一方的に押し付けちゃダメでしょ?……優しく、しなきゃ……ね?」
「……ッ!!!??」

男は目を見開く。何をしたのかと思い、目線を落としたら、博士が有らん限りの力で、先程僕の口に捩じ込まれようとしていたあれを握り締めているではないか。何この人かなり怖い。

「そんなイイ顔しないでよ……勃起する」
「ッ~~……!!!!」
「……何してんですか博士、」
「ほら僕が相手してあげるよ?君が口説いたんだからね?責任取れよドーテーさん」
「……その人僕で童貞喪失してますよ」
「えーそうなの?なら尚更責任取って貰いたいんだけどォ」

口振りこそはおどけているがやっていることが目も当てられない、というか痛そう。
僕は、笑いながら男の急所を苛めている博士を見てほっとする。
彼は僕を助けてくれた。

「もうお婿に行けないんじゃない?あはははは」
「……いろんな意味で酷いです博士」
「あっそうだ、お金貰ってくねェ」

博士は息絶えかけている男のポケットから万札を2枚奪い取った。

「せっかく僕が相手してあげたんだから、これくらいは貰っとかないとね」
「……そんな汚いお金、取らなくてもいいでしょ」
「そお?でもこういう奴にお金持たせておくとろくな事がないからね」

博士は笑って万札をポケットにしまい込む。近場の水道で手を洗ってから、僕を強く抱き締めた。

「……何で叫ばなかったんだよ國弘くん!」
「…………」
「探すの苦労したんだからな……ばか!國弘くんのばか!ばーか!」
「……子供ですか、」
「僕が助けに来なかったらあのまま酷い目に遭ってたんだよ?嫌だったんでしょ?僕は嫌だよ!」
「…………ごめんなさい、」
「もう絶対こんな目に遭わせないから、でも僕のせいなんだよね……本当にごめん」

博士の心音が聞こえる。どきどきと、とても速い。

「……いいです、博士が身体目当てじゃないことが分かりましたから」
「え?身体目当てだと思ってたの?」
「はい」
「酷いなァ國弘くん……じゃあ本当に身体目当てじゃないってこと教えてあげるよ、ちょっと来て」

博士は僕の手を取って茂みから出て、手を繋いだまま道を歩く。僕も手を握り返す。
すっかり日も落ち、街灯やネオンの光が一段と際立つようになった。
しばらく歩くとホテル街らしきところに着いた。ちょっと待て。

「着いた!入ろ!」
「ええええ!博士さっきの発言は何だったんですか!」
「え?身体目当てじゃないってやつ?」
「そうです!だってここラブホテルじゃないですか!」
「あー……そうだったね、でも此処しか予約取れなかったんだよ……」
「何で!」
「僕の知り合いがやってるんだよ此処、いろんなサービスしてもらったからね?大丈夫いやらしいことしないから!」
「超怪しいです……」
「まあまあ」

早速疑わしいが、まあ仕方ない。
博士に連れられてホテルのロビーまで行く。手続きを済ませて、案内人に連れられて、エレベーターで最上階まで行く。

「國弘くん喜んでくれるといいなァ」
「……?」

博士がやたらそわそわしているのが気になるが、着いたようだ。エレベーターから出て、明らかに豪華そうな部屋の扉の前に博士が立った。

「今日は國弘くんと遊べて良かったよ」
「……僕も、いろいろありましたが……楽しかったです」
「では最後に、僕から……僕の家族になる國弘くんにプレゼントを、はい!」

博士は扉を開く。扉の奥に広がっている世界は、あまりにも現実離れしたものだった。

「え……すご、……」

広々とした部屋の中に芸術品のように並べられたスイーツが輝いていた。高級ホテルのファーストクラスの部屋のような、いや僕自身は行ったことないから分からないが、とにかく煌びやかといった表現が正しいだろう。
目の前に広がる光景に吃驚しすぎて言葉が出なくなった。

「國弘くん甘いものが好きって言ってたから、ケーキとかいっぱい用意したんだけど……どう?」
「……え、と……博士、何でこんな……」
「…………好きだからだよ、恥ずかしいんだけど本当に好きだから、でも僕どうやって國弘くんと付き合えばいいか分かんなくて……確かに不快にさせたかもしれない、けど……どうしても、仲良くなりたくて……」

珍しく小さな声で辿々しく喋る博士。耳まで真っ赤だ。

「……仲良くって、本当に子供みたい、博士」
「これでもすごく悩んだんだよ!結局……女の子落とすみたいなやり方になっちゃったんだけど、僕がこんなに悩むの國弘くんだけなんだからな!本当に!しばらく寝てないし!」
「……なら悩まなくてもいいじゃないですか……寝てくださいよ」
「分かってないな國弘くんは!好きな人のためなら寝る間も惜しんで悩めるもんなんだよ」
「そうなんですか……?」

博士は僕を椅子にかけて、優しく微笑みかける。改めて彼の顔をじっくりと見ると本当に綺麗だ。

「僕の力じゃ君の苦しい記憶は消せないけど、思い出させないようにすることはできると思うし、それを越えるしあわせな時間を過ごしていきたいと思ってる……から、」
「……博士、」
「僕の、恋人になってください……」

最後の辺りは尻すぼみになって全く聞こえなかったが、返事は決まっている。

「…………僕で、宜しければ……お願いします、」

初めてかもしれない、本当に人を好きになったのは。僕の目の前で微笑む美人は、時に空気を読まない上に人目も憚らない、さらには現実離れしたようなことばかりするし、終いには僕がいないと何もできないという子供のような人物だが、これだけは言える。僕はそんな彼に惚れてしまったのだ。

「……ありがとう、大好き……國弘、」
「…………呼び捨て、ですか」
「たまにはこうやって愛を囁くのもいいかなって」
「ふふ、あなたらしい……」

博士は机に並べられた皿を一枚取ってから、ケーキを1つ取った。フォークでそっと一口分を取り、僕の口に近づけた。

「此処なら好きなだけイチャイチャできますね」
「そうだね、はい……あーん」

僕はケーキを口に含む。クリームの甘さが口に柔らかく広がっていく。飲み込むのを抑えて、博士の唇にそのまま口づけする。口内のケーキを博士の口に運んで、そのままじっくりとケーキと口づけを堪能する。

「ッ……!」
「……仕返しです、」
「っもう!かわいいな國弘くんはァ!」

博士はケーキをほったらかして僕に抱き着いてくる。あまりにも突然すぎて受け身が取れず、されるがまま強く抱き締められる。

「あぁもう國弘くん可愛すぎてセックスしたい!」
「……」
「僕もうギンギンだからね?なんかもういろんな汁出てる気がするんだよね!」
「下劣だ!……分かりましたよもう、」
「……いいの?」
「…………えぇ、」
「やったァ!ちょっと待ってねズボンとパンツ脱がしたげるから」
「え !? 着たままですか?」
「そりゃあそうだよせっかく國弘くんが選んでくれたんだし國弘くんの服もかわいいし」
「……はいはい、分かりました」

博士の獲物を嗜もうとするギラついた瞳を見て思った。今夜、僕は彼のものになるんだと。それも悪くない、僕は博士の唇に軽く口づけした。愛してます、そう呟いて。





-END-
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...