甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル導入

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「國弘くんお腹空かない?」
「……起きてから何も食べてませんからね」
「どっか美味しいもの食べに行こう、國弘くんお店知ってる?僕知らないからさ」
「そうですね、あそことかどうです?」

僕は博士をお洒落そうなカフェに連れていく。博士の横を通りすがる女の子が必ず振り向いてる。ある二人組の女の子達に至っては「あの人格好いいねー!」「カップルかな?」とか不本意なことを言っている。こんな男同士のカップルいてたまるか。

「國弘くん僕たちカップルだって!」
「ちょっ何言ってるんですか!シーッ!」
「だってェ……」
「……まぁいいです、着きましたよ」

そうこう言っているうちにカフェの前に着く。
店の扉を開けば、ゆったりした音楽にふわりといい香りが僕たちを包み込んだ。カウンターの店員に人数を聞かれ、二人ですとだけ言って席を案内してもらう。

「博士、何か食べます?」
「僕はいいや、何か飲み物飲みたい」
「そうですね、ドリンクのメニューはこちらです」
「んー……どうしよ」
「僕はクリームパスタにしようかな、あっあとパフェ食べよ」
「國弘くんよく食べるよね、ほっそいのに」
「見た目で判別しないでくださいよ」
「まぁねぇ……」

僕はテーブル端の呼び鈴を押す。僕と同い年くらいの可愛らしいウェイトレスが注文を聞きに来てくれた。

「これ押すと人がくるんだね!すごい!」
「……、ご注文は……って霧夜先生?」
「え……?」

ウェイトレスが博士の方を見てそう言った。知り合いなのか。

「あぁ……どうも、」
「やっぱり先生だ~!いつも白衣でだらしないから気付かなかったですぅ」
「……知り合いですか?」
「いや、大学の生徒だよ」
「こちらの方は弟さんですか?」
「いえ……」
「國弘くん?僕の恋人」
「ッ何言ってるんですか!違いますから!ただの……親戚です、」
「ふふ、ご注文は何に致しますか?」
「……あっ、そうですね……」

僕は慌てて自分の頼むものと博士の頼むものを注文した。
先程のウェイトレスは去り際、ほんのり顔が赤かった気がする。あの人絶対博士のこと好きだな。

「可愛らしい生徒さんですね、」
「……妬いてる?」
「いえ、別に」
「そんなハッキリと!てか國弘くん何で親戚とか嘘ついたの!」
「他に言うことがなかったからです」
「あるじゃん!家族とか恋人とか嫁とか!」
「いや嫁って何ですか!」
「およめさんだよおよめさん!國弘くん僕の嫁になってくれないのかな~……」
「それ以前に僕男ですから」
「……男とか関係ないよ、僕は」

博士はそう言いかけて口をつぐんだ。
何か騒がしいなと思い辺りを見回すと、先程のウェイトレスの友人らしい女の子たちがきゃあきゃあと黄色い声をあげている。

「えっ霧夜先生 !? ほんとだ!私服めっちゃお洒落!」
「横にいる子誰だろ?真っ赤な目だ」
「てか霧夜先生ちゃんとした服着てたら超イケメンだよね~!」

女の子たちは口々に各々の言いたいことを言っていく。やっぱり博士は格好いいんだなあって思いながらそれらを聞き流す。それらを一瞥してから博士が微笑んだら女の子たちが更に沸く。アイドルか何かの扱いを受けてるのかこの人は。
注文した食事が届き、僕はテーブルに並べられたパスタをただ無心に食べた。彼はメロンソーダを頼んだらしく、バニラアイスの上に乗った一際目につく赤いさくらんぼを口に含んだ。

「…………モテるんですね、博士」
「……僕不快なこと聞いちゃったからもう帰りたい」
「……?」

博士は明らかに嫌そうな顔をしてメロンソーダを啜っていた。

「國弘くんが食べ終わるまでは待っておくから大丈夫だよ」
「……ありがとうございます、」
「國弘くんって本当に美味しそうに食べるねェ」
「そうですかね?確かに美味しいですけど」
「僕にもちょーだい」

博士は僕に甘えたような笑顔を見せる。先程女の子に向けた笑顔とは全く違うものだ。
博士は僕のフォークを使ってパスタを巻いた。

「あれ、巻けない」
「下手くそですね博士」
「ちょっともー!僕パスタ食べたことないんだよ!」
「あははっ、待ってください……巻きますから」

博士からフォークを貰い、くるくると巻く。一口分巻いてから博士に差し出した。

「はい、あーん」
「國弘くん、」
「どうしました?……ッ!」

突然、目の前が暗くなる。フォークを皿の上に落としてしまった。口がメロンソーダの味に支配される。暫くすると視界が明けて、博士の幸せそうな顔が見える。

「えへへぇー」
「……ッ、」
「パスタいただきます、んん……美味しい」
「…………」

一呼吸してから気づく。キスされた。
目立ちたくなかったのに、周りの客がひそひそと話をしているではないか。

「國弘くん顔真っ赤~」
「ッ真っ赤~じゃない!もう!」
「そんな怒らなくてもいいじゃん……可愛いよ」
「何でそうお気楽なんですか!もうやだ恥ずかしい!可愛くない!」

博士はへらへら笑ってメロンソーダを啜った。何が楽しいんだ。

「國弘くん、」
「……なんですか」
「パフェ来たよ、」
「えっ、あ!やったァ!」

先程とは違う、ウェイターさんが僕の頼んだパフェを持ってきてくれた。博士がやらかしたことを忘れて甘いものに目を輝かせる。
グラスを手に取ろうとしたら、博士が奪い取ってしまった。

「はい、あーん」

博士はスプーンでパフェに乗っているアイスを掬い、僕の口に近づける。

「え?」
「國弘くんしてくれたから」
「……さっきみたいに目立ちたいんですか?」
「國弘くんとイチャイチャしたいだけなんだけど」
「……」

とりあえずこの人には何を言っても無駄なことがよく分かった。でも、女の子にきゃあきゃあ言われていた博士が僕しか見ていないんだと思うと、少し優越感を感じる。
はあと小さくため息をついて、スプーンの上のアイスを食べた。

「んん、しあわせ」
「甘いのってそんなに幸せになるの?」
「はい」
「じゃあちょーだい」
「……その手には掛かりませんよ」
「むぅぅ……」

どうせまたキスする気だったんだろう。パフェを奪い取りさくさく食べ進める。

「……そっけないなァ」
「あなたがひっつきすぎなんですよ」
「そうかなァ」
「……他の人にもそうしてるんです?」
「するわけないじゃん」
「へぇ……」

パフェを完食して、席を立つ。会計票を握り締めてカウンターに向かう。博士はあのカードを出して支払いを済ませてた。あれは僕が知ってる限り、ものすごい金持ちが持つカードだ。彼はものすごい金持ちなんだろう。ただ、暗証番号を聞かれて分からなかったらしく小さな紙にサインをしていた。相変わらず文字が汚くて思わず吹き出してしまった。初めて彼と会った時を少し思い出した。
それから商店街を少し歩き、彼が勤めている大学の近くまで来た。彼の仕事の話などを聞きながら道を歩いていると、少し大きな公園に着いた。
子どもたちが砂場で山を作ったり、滑り台を滑ったり、小さなアスレチックで遊んでいる。博士が近くの自動販売機で飲み物を買ってくれ、それを飲みながら他愛のない話をしていると、遠くで夕刻を告げるチャイムが鳴り響いた。

「あ、そういえば今何時だっけ?」
「5時くらいでしょうか」
「5時か……、ん?ごめん電話入ってたみたい、ちょっと待ってて」

僕は席を立ち、かなり離れたところで電話をする博士を待っていた。どうやらかなりの長電話らしい。
仕事の話か何なのか分からないが、周りの人に内容が聞こえないように話をしているため、僕は何もすることがなく退屈でしょうがない。

「……はぁ、ねむ……」

かれこれ15分程経ったが一向に戻ってくる気配がない。何をそんなに長話しているのか分からない。先程まで元気に遊んでた子供達は親に連れられて公園から出て行ってしまう。
通路として通りすがる人を眺めていたら、突然見知った顔が視界に入った。

「……國弘じゃん、何でこんなところにいるの?」
「……人を、待ってます」
「そっかァ……まだ来ないの?」
「そうですね」
「久しぶりだけどやっぱ目立つなーこの髪!あと目な!相変わらず俺を睨んでくるところもなァ」

男は僕の髪をグシャグシャと掻き、目をじろじろと見る。そして、ズボンのポケットから皺だらけの万札を3枚出した。

「まさか今日お前に会えるとは思わなかったからさァ、高校やめたって聞いたときビックリしたよ」
「……」
「ほら、折角再会したんだし……前みたいに抱かせろよ」
「……、」
「前は金出したら喜んで股開いてくれたじゃん、いつもより多めに出すからさ、な?」
「……」

あぁ、吐きそうだ。気分が悪い。あのときのことを思い出す。
高校に通っていたときに苛められてた記憶が甦ってくる。抵抗する僕を無理矢理敷いて連れとマワしていた男の姿はあのときのままだった。
博士はこちらに気がついていない。

「…………」
「だんまりってことはOKってことでいいんだな?」
「……ッ、」

声が出ない。怖い。身体も動かない。博士、何で気付かないんだよ。さっきまでベタベタ引っ付いてたのに。僕のこと恋人みたいな扱いしてたのに。
男に腕を引っ張られる、怖い、助けて。茂みに連れ込まれて直ぐ様ズボンと下着を脱がされた。

「ッ、」
「相変わらず肌白いんだな、ここも昔と変わってない」
「ッう……」

抵抗したら殴られたり蹴られたりしたせいで声も出なくなってしまった。何度叫んでも無駄だったから、今回も無駄だと思っていた。本当は嫌なのに、もうこんな目に遭いたくなかったのに。
男は自らの肉棒を無理矢理僕の口に押し付ける。

「ほら、咥えろよ」
「ッ、」

こんなときに博士の顔がよぎる。そういえば博士も僕に性的な要求をしてきたな。出会った時から今日までずっと優しくしてくれたけど、きっと博士も僕にこういうことさせたくて雇ったんじゃないのか、そう思うと抵抗する気も失せて、男のそれを咥えこもうとした、その時。

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