甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル開講

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体験授業や学内の案内を終えた辺りで、僕は博士を待っていた(何故かメールでご丁寧に待ち合わせ場所が送られてきたから待たざるを得なくなった)。オープンキャンパス自体が昼前からの開始だったので、早めにご飯を済ませていたことが災いして中途半端な時間帯にお腹が空いてしまい、暫く虚しい思いをしていた。博士が待ち合わせ場所にくる時間までどうするべきか。近くのベンチでスマホを触っていると聞き覚えのある声が耳に入る。
大学のマップを片手に虎太郎がこちらに駆け寄ってきたのだ。

「うさちゃんこんな所にいたんだ、学食行こうぜ」
「え?」
「オープンキャンパスだから学食タダらしいよ、どうせだから一緒になんか食べよーぜ」
「いいの?」
「勿論だろ俺も一人だし、ここで出逢ったのも何かの縁?的な?」
「……うん、」

友達がいるってこんな感じなのかな、と思いながら虎太郎の後をついていく。途中で何度かお腹が鳴って虎太郎に笑われ、それをあしらうって流れでだらだらと会話をしつつ学食のある建物まで向かった。

「此処らしいよ……へーすげえな、何かカフェもあるらしいぜ、……うさちゃん?」
「ケーキ食べ放題行ってきます」
「おー行ってこい……ってえええ!?はや!!」

目の前できらきらと輝き艶めく赤白黄色ピンクにブラウンに惹かれ、いつのまにか皿一杯にケーキを盛り、虎太郎を無視して席を確保していた。

「何だよそのケーキの量!!!」
「え?虎太郎も取ってきなよ」
「いや俺甘いもの好きって程でもないからいいわ、別の持ってくる」
「んー、じゃあ此処で席取っとくねー」
「おうよ」

たっぷりと盛ったケーキの山をうっとりと眺めていたら、いつの間にかガッツリ食べ物を皿に盛った虎太郎が横に座った。どうやらビュッフェ形式らしい。二人で手を合わせ、いただきますと言ってそれぞれの食べ物に手をつける。

「……虎太郎も大概じゃん」
「やっぱり男はこんだけ食わなきゃな!うさちゃんも白いしほっそいからもっと食えよ」
「……そんなに細いかな?白いのは生まれつきだけど」
「へぇ……というかめっちゃ綺麗に盛ってるなケーキ……」
「いやだってやっぱりケーキは美しくないと」
「……美しく?」
「虎太郎はもっと見た目に気を使うべきだよ、何でこんなにご飯とおかずグチャグチャに盛ってんだよありえない」
「食えたらいいんだよ食えたら!」
「よくない!料理は味も見た目も大事だからね!」
「拘りすげえな……うさちゃん料理とか好きなん?」
「うん、料理楽しいし保護者が料理できないから毎日作ってるよ」
「なるほどなー……俺もそれなりに飯作るけどだいたい貰った弁当食ってるな」
「そうなの?バイトとかで?」
「いや、俺モデルだから」

突然のまさかの告白に、一瞬だがケーキを食べる手が止まる。確かに綺麗な顔立ちにスタイルだが、まさかそれを売りにしていたとは。吃驚したがあの社交性や振る舞いを見ていたら、何となくだが納得はできた。

「……え?」
「男が読むような雑誌のモデル」
「へぇ……僕雑誌読まないんだよね……」
「読めばいいよ!そうだあと最近写真集出してもらえるっぽい」
「へぇー……じゃあ今度持ってきてよ」
「今度っていつだよ」
「……入学したら?」
「オッケー、落ちんじゃねーぞ」
「うん、頑張る」
「……まぁ俺が落ちたら本末転倒だけどな」
「そりゃあね」
「入学したら祝いにうさちゃんの作る飯食いに行くわ」
「僕祝われてないじゃん……」
「たくさんケーキ持ってきてやるよ」
「待ってる」

彼のためにも、そして大学を勧めてくれた博士のためにも、僕は勉強を頑張って入学しなければならないと思った。僕自身まさかこんなに早く友達ができるなんて思っていなかった。多分運がすごく良かったのだろう。
互いに食べ物を食べ終えてからスマホを見ると、大体丁度いい時間だった。僕は虎太郎と別れて博士が指定した待ち合わせ場所まで向かった。すると、張本人はいたのだが何故か様子がおかしい。

「……博士?待たせてしまってごめんなさい、」
「ん、いいよ……じゃあ帰ろっか」
「博士は大学に残らなくてもいいんですか?」
「僕は非常勤だからね、片付けとかは終わらせたし」
「そうなんですか……」

博士はいわゆる不機嫌で、僕に目を合わせず、そのまま先にすたすたと行ってしまう。僕は慌てて彼を追い掛けたのだった。







「博士、」
「何?國弘くん」
「僕何かしましたか?」
「え?」

何故か気まずくなってしまった空気のまま研究所へと帰ってきた。靴を脱いで廊下を歩く博士の姿を見送っていると、やはり様子がいつもと違うので、僕も靴を脱いで後を追って問い掛けた。

「何かいつもと違うなぁって思って……」
「そうかな?」
「……いつもと違うといえば、博士の授業してる姿……すごく人気でしたね、女の子とかきゃあきゃあ言ってましたし」
「……國弘くんは?」

さっきまで全く此方を向かなかったのに、突然此方を向いて博士は問い掛ける。僕は?どういうことだろう。

「え……?」
「……國弘くんはどう思った?」
「え、あ……そうですね、普段と違って……すごくかっこよかったなって……思ったり、えへへ……」
「それだけ聞けたらいいや、國弘くんに見てもらうためにわざわざ授業入れてもらったんだから」

僕のため?もしかして彼は、僕に自分の働いてる姿を見せるためにオープンキャンパスへと連れていったのか。少し可愛いところもあるんだなと思っていたら、急に僕の身体を自分の方に寄せて抱き着いてきた。

「でもさァ、國弘くんが熱っぽい目で見てくるから途中で何度か勃起しかけちゃった」
「ッ……台無しです」
「いつでもあんな風にってわけにはいかないからね」
「……、」
「こんな余裕なくてだらしないところ見せられるのは國弘くんにだけだよ」
「……博士、」

どうやら機嫌は直ったのか、博士は僕の方を見つめて優しく微笑んだ。そして、ひょいと肩を抱かれて脚を抱えこまれる、いわゆるお姫様だっこをされて博士の部屋に連れていかれた。そのままベッドの上に転がされ、博士が上に覆い被さってくる。

「ちょっ何するんです!」
「そりゃあもちろん」
「……、するんですね、」
「今日は素直だね、いつもこうだったら……いやむしろモーションかけて来てくれたら大歓迎なんだけど」
「……分かりました、じゃあ今日は僕からしますよ」
「え?本当に!」
「はい」

僕の横にごろんと寝転ぶ博士の上に乗って、ネクタイをほどく。ワイシャツのボタンを外そうとしたら、突然博士が僕の手を掴んで制止した。

「……ちょっと、脱がすのは」
「…………何ですか、僕からって言ったじゃないですか……文句は言わせませんよ」
「でも、ちょっと」
「……浮気でもしたんです?」
「違うよ!ただ、見せたくないものが……」
「…………やっぱり浮気したんじゃ、」
「そういうのじゃない!……古傷があって」
「傷ですか、……確か博士、セックス中はいつもシャツとズボン着てますよね」
「うん、傷を隠したくて」
「そんなに傷だらけなんですか?」
「まぁね……だからさ、脱がせるのは下だけに」
「嫌です」

僕は博士の手を振りほどき、無理矢理シャツのボタンに手を掛け引っ張る。博士も諦めたようで、僕の方から目を逸らしていた。漸く上半身を晒せる状態となり、彼のシャツの前を開ける。

「っ、」
「……引いたでしょ?」
「…………どうして、こんな……」

初めて見る博士の上半身には、ひどく大きく裂けたのであろう傷を縫った跡が何本もあったのだ。左肩から胸にかけて縦に一本、右の脇腹から腰まで伸びる縫い跡が一本、鳩尾部分をぐるりと一本、他に幾つか傷跡が身体に張り巡らされていた。こんな傷、普通じゃ有り得ない。

「……ちょっと昔、いろいろあって」
「…………博士は……ずるいですよね、」
「え?」
「博士はずるいって、言ってるんです!」
「ご、ごめん國弘くん……でも、」
「あんたは僕の記憶を勝手に見たくせに……僕には何にも教えてくれない!僕は博士にとって何なんですか!都合のいい使用人ですか?恋人じゃ、ないんですか……ッ、」
「違う!違うよ國弘くん……」
「も……もうやだ、これ以上裏切られるのはごめんなんです、もう……」
「分かってるよ……けど、僕のことを話すのは……あまりいいことじゃないんだ……」
「いいことじゃなくても……好きな人のことを知りたいって思うことはいけないのですか?」

次第に目頭が熱くなって、博士の胸の上にぽたぽたと涙を落としていた。博士はただつらそうに眉を寄せて、僕の髪の毛をすくばかりだ。指に絡めては、するするとほどけていく。

「國弘くん、本当にごめん」
「……何で謝るんですか、」
「僕のことは、ちゃんと話すから……泣かないで」
「……、」
「絶対に國弘くんのこと裏切ったりしない、だから……もう少しだけ待って」
「…………もう、分かりましたよ……」

博士の手が背中に回り、僕を強く抱き締め包み込んだ。初めて感じた、博士の肌の体温。とても温かくて心地よい。

「……では、博士が話すまでセックスはお預けですね」
「えっ!」
「当たり前でしょ」
「何でそうなるの……」
「僕は怒ってるんです、それともこのガチガチの性欲の塊……握り潰しましょうか?」
「嫌だ!我慢します!そして教えます!」
「ふふ、それでいいんですよ」

我ながら引く下ネタを言ったなと思い、一人心の中で苦笑したが、博士を上から眺めるこの光景は悪くない。たまにはこういうのもいいんじゃないかな。僕は博士に向かって微笑を漏らし、彼を置いたままベッドを後にしたのだった。






-END-
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