どうせ死ぬなら、青空の下で死にたい。

白峰楓

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7/5 天気:晴れ

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「おーじさん!!今日は晴れだねぇ!!」


「おう、そうだな。」


今日も俺のテリトリーには、女の声が聞こえる。耳にタコができるぐらい聞き飽きたこの声を、何処か心待ちにしている自分がいる事に、最近気がづいてしまった。正直、キモいと思う。
コイツが来ない日には、何かあったのかと心配になる。この感情の正体を知らないほど、俺は子供じゃない。


「暑いね!!」


、、まぁ、要するに、逃げ場である裏庭にコイツは足をズカズカと踏み込んでくるって訳だ。
遠慮のない女。年頃だとか言うんだったら、もっとしおらしくしとけばいいのに、と思うが、喧嘩になるのも怠いぐらい暑くなって来たので、しばし休戦。


「なになに、おじさん。元気ないよね??もしかして、、夏バテ??夏はまだまだ始まったばっかりだよ??」


俺の顔を覗き込んで来るコイツは、自覚が無さすぎる。鈍感なところにも、少し苛立つ。俺とお前は、男と女なんだぞ。ナースしか来やしない場所で、何かあったら遅いだろ。俺だからよかったものの、、、。あぁ、らしくない。これも全部夏のせいだ。


「ぜーんぜん、夏バテでも何でもねぇよ。ただ、アンタと揉めるのが怠いと思うぐらい、あちぃだけ。」


ぬるい芝生に横になり、横目で女を見る。素直な俺の言葉に驚いたのか、困った様な顔をして女は黙る。
静かに俺の隣に座る姿は、華麗だ。ずっと病院に居るコイツは、日に焼けた事がない様な白い肌をしている。だけど、消えそうにない血色のいい唇は、肌に映え、時より女なんだと俺を意識させる。
身体の線は細い。だけど、胸はナースよりあるし、育っている。あんなクソまずい病院食で、良くここまで大きくなったもんだ。


「じろじろ見ないでよ。」



嫌そうな顔をして、こっちを見る女と目があった。薄い虹彩は、何を写して生きてきたのだろうか。白い病院と、狭い裏庭にしか知らない女は、この場所が世界の全てなのだろうか。柄にも無い事を考えてしまう自分に動揺する。
可哀想だと、心の何処かで思った。


青く、雲のない夏色の空が、深い緑の隙間から覗く。隣にいるコイツみたいな空。お前の名前が空なのも、何度も会ってると納得した。

今年も夏が来た、来てしまった。そりゃ生きていれば四季が巡り来る事なんてわかっているけれど、俺は夏が1番嫌いだ。学生の頃は、嫌いじゃなかったけれど、社会人になれば、ただ暑いだけの季節。ジリジリと寿命を擦り減らし、番いを見つけようとする蝉は、実に滑稽だ。俺が蝉の立場だったら、そんな事も言えないぐらい必死なんだろうな、なんて頭の片隅で思う。


「そういえば、おじさんは病院内の短冊に願い事書いた??」


「あ??そんなのあったっけ。」


「あるよ~!!正面エントランスの、総合受付のところに!!」


思い浮かべてみるが、全然想像が出来ない。いつ退院出来るかもわからない状態だから、しばらく自分のフロアと、この場所、それから院内のコンビニしか行ってない。そういえば、俺、、、


「おじさん。もしかして、エントランス行った事ない??」


「無いかもな。」


「だと思った!!じゃあ、明日、短冊一緒に書こうよ!」



何で、俺がそんなめんどくせぇ事をしなければならない。普通、子供が喜ぶイベントに大の大人が参加しないと思うんだが。それに、俺は七夕ってイベントは好きじゃない。リア充達が盛り上がってる中、俺は毎年仕事なんだぞ。学生時代にも、苦い思い出があった事を思い出して、身震いする。

よし、断ろう。そう思ったが、キラキラした瞳のコイツを見てると、断るに断れない。何でこの女はこんなにも嬉しそうなのか。叶えたい願い事でもあるのだろうか。退院したい、、??とか、そんなところだろう。


「ね??良いでしょ??」


女は、両手を合わせて、顔を覗き込んでくる。ドキッとしてしまう自分がいて、、、こりゃ重症だ。
そんな仕草はどこで覚えた。その態度で、どれ程の男が落ちると思ってんだ。俺だからよかった、、、いや、俺でもダメだ。自分の感情を吐き出す様に、ため息をつく。



「はぁ、、仕方ねぇな。」



「やった!!じゃあ、明日もココに集合ね??ちゃーんとお粧ししてくるから!!」


期待させるような言葉を吐き、女は立ち上がる。今日は、早い退散だ。まぁ、明日も会えるしな。
俺も、そろそろ病室に帰るか。

コイツと並んで、俺達は裏庭から歩き出した。



『7/5 天気:晴れ 俺の隣に座る、空を映した様な女。アンタと、明日も会う約束した。』


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