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7/6 13:00 天気:雨
しおりを挟む地面と雨は、強く叩きつけている。昨日までの晴天が嘘だった様な、裏返しの天気。アスファルトが歪みそうなほど、大粒で強い雨は、水不足の地面を潤すのだろう。
明日は、織姫と彦星は会えるのだろうか。そう思ってしまう程、俺らが住む世界は、土砂降りだ。
「おじさん、、、雨だね。」
見慣れた顔に、薄く塗られた化粧。いつも着ている白いワンピースではなく、淡く可愛らしい水色のワンピース。入院患者には見えない、見舞いに来たのかと思われそうな、ごく普通の女がそこには立っていた。
一瞬、誰だかわからずに、焦った。が、どうやら待ち合わせをしていたコイツで間違いはないらしい。
いつもの女の様で、別人の様な女は、俺の居る整形外科病棟の前まで、ご丁寧に迎えに来てくれたってこった。
しかも、昨日のお粧し宣言とやらは、本当だった。ステテコで、ラフな格好をしているのが恥ずかしくなる。
「んじゃ、行くか。」
女だと意識しない様、はっきりと視界には入れずに歩き出すと、服の裾を掴まれ、行手を阻まれる。
なんだ?と、声を出し、振り返る前に、女は言葉を発する。
「おじさん、、あの、、わ
「あら、空ちゃん。神原さんとお出かけ??仲良くなってよかった。」
その女の声も、よく聞くナースの声に遮られる。
柔らかく笑う戸田美桜の顔は、いつも険しい顔をしているとは思えない程に、穏やかだ。まぁ、険しい顔をさせている原因は、俺なのだが、、。
ん?ナースは今、俺とコイツが仲良くなって良かったって言ったか?
男の服の袖を握り、引き止める女。その光景は、別れを惜しむ恋人同士の様にも見えてしまうのでは無いだろうか。
そんな事を考えると、顔に熱が集まっていく様な気がした。隠す様に、顔を逸らし、口からは出任せが溢れる。
「違う違う、、なんだ、その、、子守だ、子守!」
咄嗟に思い付いた言葉は、女を深く傷つけたなんて、俺は知りやしない。
「はぁ!?私がお粧しして迎えに来たってのに、子守!?美桜ちゃん!!このおじさん、有り得ないんだけど!!」
「アンタが短冊を書きたいとか言うから、仕方なーく、付き合ってやってるんだろ??」
「っ、、、そっか。」
言った言葉を間に受けたのか、隣にいた女は、今の天気の様な厚い雲の覆い被さった、泣き出しそうな顔をしている。いつもは挑発的な言葉に乗っかってくるのに、今日のこいつはよくわからない。
流石に悪かったと思ったが、既に遅かった。
「はぁ、やっと仲良くなったと思ったんだけど、目の錯覚だったかなぁ、、。」
俺らのやり取りを、呆れ顔見ているナースが視界に入る。どうせ、いつもの風景だ。
「あの、神原さん、ちょっと大人気無いんじゃないですか??空ちゃんがこんなに可愛い格好して迎えに来てるって言うのに。私も、空ちゃんの立場だったら、拗ねちゃうかも。」
「、、、っ、、あー、俺が悪かったよ。」
「ほら、そんな素っ気ない態度で、心無い言葉。そんなんじゃ、空ちゃんに本気で嫌われちゃいますからね~。」
女の頭をぽんぽんと撫で、じゃ、私は仕事に戻るんで。と、冷たく俺に言うと、戸田美桜は俺達に背を向けて立ち去って行った。
ナースには、女心がわかってないと怒られるし、コイツは元気なくなってしまうし、、俺が悪い事なんて、1番俺がわかってる。
「なぁ、、子守なんて言って悪かった。」
立ち止まって、微動だにしない女に謝る。
「私も、、、おじさんを無理矢理付き合わせて、、ごめんなさい。」
お互いが珍しく素直だ。これも、この雨のせいだろうか。この後悔も、雨と共に流れ落ちてくれるといいのに。
「っ、、、」
何と言っても対抗してくるのが、通常であったのに、それすらも無い。元気がないコイツを見るのは、凄く珍しい光景だった。
だから、なんと声をかけていいのか、わからない。ただ今は、何処からか聞こえる心電図の音、ナース達の声、廊下に響く足音で作られた無言の空間が、そこには広がっていた。
このままではダメだと、本能が言っている。ゴクリと息を飲み、俺は決意した。
「空、悪かった。」
声は震えて無かっただろうか、緊張してるのがバレて無いだろうか。ただ、それだけが気掛かりだと思った。
俺の中の意地を張り合っていた糸は、こんなにも簡単に解けてしまった。出来ないと思い込んでいたのは、俺だけだったのかもしれない。
『7/6 天気:雨 初めて、アンタの名前を呼んだ。』
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