最前線

TF

文字の大きさ
601 / 657

Cadenza ルの力 ②

しおりを挟む
元々、この術式は物凄い魔力が必要なんだよね、故に最後の最後にしか使えない。
そもそも、私だけじゃどう足掻いても無理なんだよね、時を超えてでも私と繋がることが出来る超常なる術式、どう頑張っても再現なんて出来そうもない解析も恐れ多くてできやしない、始祖様が残してくれた寵愛の加護。

その素晴らしき慈愛が私達聖女に与えられたからこそ、出来ている芸当。
神の如き御業を私のような力無き矮小な存在でも実現可能なんだよね。

その加護に最後の願いを託し加護を失っている、この状況、今更、何を警戒するのやら?
敵にその力がバレてしまったとしても…
寵愛の加護が無い限り、過去の私に繋げることは出来ないから、口に出しても良いんだけどね?
それでも…私はあの獣共に寵愛の加護っという存在を認識してほしくない。
既に知ってそうな気がするけどな!

私の答えに叔母様は呆れた表情をして机を人差し指で叩いている。
「やっぱり貴女は忘れているのね、手を出しなさい」
手を伸ばすと指先が触れ
「!?」
一瞬だけ記憶が流し込まれる!?ぇ?なんで、出来るの!?
「あいつには秘密にしているけれど、私は貴女から多少記憶を受け取っているのよ」
「みたい、ですね」
その一度の経験で身に着けたのだから、この人は油断が出来ない。
まさか、叔母様が魂の同調を扱えれる何て思ってもいなかった。
「もう一度言うわ、貴女が使う術の中に妹はいるの?」
お母様?…いたら、私はこんなにも焦がれたりしない
「もう一度言います、叔母様、いないです」
その一言に納得してくれず椅子の背もたれに勢いよく体重を預け眉間に皺を寄せて腕を組みテーブルを睨みつけている
「おかしいわね、はっきり言うわよ?聖女として、であれば、あの子の方が才は上なのよ、ただ、性格がとても穏やか過ぎるがゆえに、教会の駒として使い古されて捨てられる未来しかなかったのよ、妹はね」
そんな未来、想像するだけで全ての教会を燃やしつくてしまいそう…
「だから、私は…聖女を物としか考えていない教会を変える為にも、妹が邪魔だったのよ」
視線は此方に向けられることなく悪態をつく。照れ隠しなのか悪ぶりたいのか、態度を変えることが無い。
叔母様のそういう一面、私は理解しています、己の罪を今となっても憂いておられるのですね。
悪態をつく様にお母様の事を邪険に言いますが、叔母様とお母様の手記も私は読ませていただいております。

叔母様がお母様の事をとても慈悲深く愛しているのも知っております。

「その妹が?貴女に?何も残さないわけがない…私は知りたかったの、私では加護の全てを見渡す事なんて出来なかった、私では、始祖様の御心に触れることが出来なかった、私では…ルの力に目覚めなかった、妹なら、妹だったらどんな力に目覚めたのか…希望を委ねていたの」
一言一言、言葉が零れていく度に彼女から猛想いが崩れ落ちていく。
とても悲しそうな声、今にも崩れていきそうな程、弱々しい、あの叔母様が…
弱い所を見せることが無い誇り高い人、そんな人でも縋りたくなるほどに、今の状況は良くない。

…そんな人に私という人物は
「その、希望っというのは?」
ナチュラルに相手の感情を無視して好奇心が勝ってしまっている。

相手の事を尊重しない私の事を叱りつける事も無く、そのまま、悲しそうな声がこの小さなテーブルの上に綴られていく
「これは、完全に私の妄想よ?妹であれば、愛するだーりんを助けることが出来たんじゃないかってね、考えてしまうことがあるのよ…あの子は癒しの力も、過去に記載されていたルの力、その全てではないけれど扱うことが出来たのよ」
いやしの、ちからは、確かに、寵愛の加護の中に収められている楽譜の中にある、ことはあるけれど、始まりの聖女様、白き黄金の太陽と共にこの大陸を平和へと導いた聖女様が起した奇跡とは、別物なんだけど?
彼女の奇跡が楽譜の中に収められていて私という魔力集積魔道具を介して歌うことが出来たのであれば、死を超越した軍隊を生み出し、精神が崩壊しないかぎり戦い続ける事が出来、敵が誰であろうと負けることはないんだけどね。
「もちろん、伝説の聖女様ほどの癒しは扱えれないわよ?癒しと言っても指先を切ってしまったときに傷口を塞ぐ程度のものよ?」
その術式でしたら、回復の陣として此方でも活躍しております
でも、これは、寵愛の加護の中に…加護にアクセスすることが出来たら見つけれることが出来る、残されていた術式、ですよ?
叔母様はアクセス…

嗚呼、そうか、叔母様は寵愛の加護にアクセスできたとしても全てを見通せているわけじゃないから、見つけれなかったってことかな?
今、私が扱うことが出来るのも楽譜として取り込んでいるから出来ているだけで、私が知らないルの力、その根源に出会っていなければ、術式へと歌をコンバート出来ていない。

可能性があるとすれば、私も全ての、加護の中を完全に見通せたわけではない。
もしかしたら、お母様の楽譜は寵愛の加護に取り残されているのかもしれない。

でも、それを確認する術はもう…

自然と天を見上げてしまう
「私はね、元々、術式を得意とはしていなかったのよ、私よりも妹の方が術式に長けていると秀でているとわかってから、このままだと妹に…妹から多くの術を教えてもらったのよ、姉なのにね、そして妹が教会の駒となってしまう、そんなの許せるわけないじゃない。だから…妹に教わるだけじゃなくそれ以上を目指し習得するために、必死に…本を読み、多くの方にご教授してもらい、術に対して見識を深めていったのよ」
申し訳ないけれど、叔母様の語りに耳が反応しない、気になって仕方がない。
今となっては確認できない、でも…うん。おかしいよね?
だって…何度も何度も、寵愛の加護にアクセスし続けてきた私が…お母様に気が付かないなんて、そんな事があるわけ、ない…
それにだよ?最後の聖女である私のことを…
寵愛の加護、始祖様の疑似人格様が、最後の加護を継し者であり最後の欠片である、私に…その事を教えてくれないわけがない。

彼は…何時だってぶっきらぼうで私達に興味が無さそうな雰囲気を出していても
見守ってくれていた…手も貸してくれた。
その彼が、教えてくれないわけがない。

だから、お母様はルの力に目覚めていません。
楽譜として残されるほどの力に目覚めていません。

薄くなった始祖様の血では、もう、ルの力を顕現する程の器にはなりえません。

故に…私達は始祖様から授かった子よりも速くに寿命を迎える。
始祖様から子を授かった聖女様達の子孫、その手記でも20歳を超えている方は多くいた。
次代へ繋げるために、子を産んで…次へと繋げていけた聖女たちは多くいた…

でも、代を重ねるごとに20を超える者が減っていった。

純粋に始祖様の血が薄れてきたからだと私は思っている。
始祖様の血が薄いのであれば、力に目覚める事なんて稀だと思っていた。

「私よりも才がある妹が、力に目覚めていていないなんて…はぁ…もしかしたら、妹であれば、世界を救う程の願いを…ルの力であれば、っという淡い希望は無しってことね。それならそれで、切り替えていきましょう。貴女は言うまでもないでしょ?目覚めているのでしょう?」
小さく頷く、叔母様がその事を知っているのであれば、その認識は正しい。
「なら…貴女が新たなルの力に目覚めて、世界を救うっというお伽噺のような英雄譚のような都合のいい話なんて無いってことなのでしょうね」
そう言いながら叔母様の顔は穏やかで紅茶が入ったカップに唇をつけている。
お母様の力っという、もしもの希望が消えてなくなったのに…
こういう切り替えの早さが叔母様の強みなのかもしれない。
「都合よく期待に応えられなくてごめんなさい」
つい、謝ってしまう、私よりも鋭い考察力を持ち、次へと切り替える早さに勝てないと感じてしまった。
「らしくないわよ、謝るなんてね、そもそも、そんな力があるのなら最初っから使ってるわよね」
ごもっともです。
矮小で弱小な私だって、そんな英雄譚で語られていくような超常なる力があれば、負けていない。
「良いのよ私達は泥臭く最後まで足掻きましょう、貴女の事ですから、スピカの為に大きな剣を用意してくれたのでしょう?」
にっこりと淀みない笑顔、その笑顔を曇らせるか、怒りによって顔をゆがめてしまうか、わかっていても、その件に関しては反論したくなる…でも!
その感情を抑え、どうして剣のことを知っているのかそちらの方が大事。
「あの剣を叔母様はご覧になられたのですか?」
「ええ、ふとした弾みでこいつが見つけたのよ貴女の隠し部屋をね」
ポンポンっと優しく指先で胸を叩いている。
成程ね、見つけたのはお母さんの方なんだ。
だとしたら、運命のいたずらってやつかな?
まぁ、そもそも?あの部屋ってさ、見つかっても特に問題ない部屋だし別に良いんだけど

あの大剣は私の旦那様が持つべき剣だからね?

「スピカが大きくなるまでの間、あの剣を誰が扱おうが文句はないわ、新品じゃないとダメなんて、そんな贅沢言いません、母として愛する子供が救世主として生きなければいけない世界の方が心が苦しくてよ?それはもう、天から雨粒のように悲しみを流してしまいますわ」
小指を立てて優雅に紅茶を飲んじゃって、まったく、叔母様のこういうところが素なのかな?
「あの、叔母様」
こんな機会は二度とない気がする、今のうちに聞けることは聞いておきたい
「質問があるのでしょう?こいつが起きるまでの間くらい付き合ってあげるわよ」
落ち着いたその表情はまさに聖女そのものだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊王の愛し子

百合咲 桜凜
ファンタジー
家族からいないものとして扱われてきたリト。 魔法騎士団の副団長となりやっと居場所ができたと思ったら… この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】温かい食事

ここ
ファンタジー
ミリュオには大切な弟妹が3人いる。親はいない。どこかに消えてしまった。 8歳のミリュオは一生懸命、3人を育てようとするが。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

異世界ラーメン屋台~俺が作るラーメンを食べるとバフがかかるらしい~

橘まさと
ファンタジー
脱サラしてラーメンのキッチンカーをはじめたアラフォー、平和島剛士は夜の営業先に向けて移動していると霧につつまれて気づけばダンジョンの中に辿りついていた。 最下層攻略を目指していた女性だらけのAランク冒険者パーティ『夜鴉』にラーメンを奢る。 ラーメンを食べた夜鴉のメンバー達はいつも以上の力を発揮して、ダンジョンの最下層を攻略することができた。 このことが噂になり、異世界で空前絶後のラーメンブームが巻き起こるのだった。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

処理中です...