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Cadenza 花車 23

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車輪をこいで病棟を出ていくと、外からは色んな音が聞こえてくる。
耳を澄ませると…
誰かが始祖様の壁の外で戦っている金属がぶつかる音。
街の中では何かを作っている様な音。
修練場がある方向ではお祭り騒ぎのように色んな音が聞こえてくる。
人の声、手を叩くような声、誰かが歌ってる様な声、その中で時折聞こえてくる何かが砕けるような音。

…この街は、静かにしないといけない、けれども、耳を澄ませれば色んな音が聞こえてくる。
これが許されるのも全て始祖様が築いてくれた大きな大きな壁のおかげ。
私達が敵との闘いに備えるために全て用意してくれた、始祖様には感謝が尽きることは無い。

願わくば、最後の戦いに挑む前に彼からお言葉を頂きたかったけれど…

もう…彼と繋がっている感覚は完全に閉ざされている…

始祖様から頂いた加護は人々を助けるために使わせてもらった。
そのおかげで一時とはいえ時間を稼ぐことが出来、こうやって準備を終える事も出来た。
何から何まで、彼のおかげ。

力も授けてもらっているのに、それなのに、私達は今だ脅威を振り払えていない。
力に溺れた愚かな私達、その結末が目の前まで迫ってきている。

…人類の存続をかけた最後の戦いがもう目の前に…

今度はもう絶対に失敗が許されない。
始祖様の加護が無い限り、私はもう過去へと情報を飛ばすことが出来ない。
最後のチェスを…

将棋と違い、駒の再利用は出来ない、死んだら最後のチェスを

始めましょう先生。
何方が先にお互いのキングを討ち滅ぼせれるかチェックメイトなんて温い事は無い。
確実にお前のキングを潰させてもらうぞ…糞ドラゴン。

祈りだけとは違う、恨みという負の感情すらも、私は飲み込む。
全ての感情を呑み干し乍ら先へ進む、最後の訓練へと…





「お!もう用事はいいのかい?師匠!」
修練場の奥へと進んでいくと
埃まみれの女将が近寄ってくれるので席を外していた間の事を確認する。
「うん、こっちは問題ないよ、そっちは?」
「…そうかい、師匠がそういうのならあたいは何も言わないよ、こっちはねぇ」
口角を上げながら顎先を集団に向けると
「聞こえていたのであるぞ、此方も何も問題ないのである!問題ではないが、吾輩が最も秀でているのがわかったのであるな!ガッハッハ!」
「・・・!」
「これ程までに扱いが難しいと感じましたよ、根本的な部分が魔術とはかけ離れていますね、されど」
各々が同時に返答が返ってくる、同時に言うなよ、私じゃないと聞き取れないし、表情を把握できないってーの。

ベテランさんのあの口ぶりってことは、ある程度の魔力を飛ばすってのは使いこなせてるって感じかな?
奥様は頷いているけれど、それは旦那の事を肯定しているってことかな?だったら、貴女はどうなの?
ティーチャーくんは何も問題なさそうだね、器用貧乏だからね。

「それじゃ、その口ぶり、信頼してるからね?どの程度扱えれるか見せてもらってもいいかな?」
この一言に直ぐに一人の戦士が前へ出て、それを見た人たちが動き始める。
「それでは、最も才ある吾輩から!我らが境地、その眼へと!御覧じろ!っである!」
腕をぶんぶんと激しく回している、準備運動からなのか自慢したい気持ちが先走っているのか肩を回してから剣を抜くような仕草で剣を構えて集中するかと思ったら、止まることも無く、そう、集中する動作も無く剣を振り上げ瞬時に振り下ろすと振り下ろした先に設置してある丸太が綺麗に切れる…
あの太い丸太が切れてる!?ぶつけて砕くのではなく!?
魔力を飛ばすだけじゃなく鋭さも付与できているってこと!?…まさかの才能!
「どうであるか?褒めてくれてもいいのであるぞ?」
これに関してはもう頭を空っぽにするほどの衝撃を魅せてくれた合谷拍手を惜しみなく送るよ!
「すごい凄い!魔力の塊をぶつけるだけじゃなくて魔力に形状を意識して的にぶつけれている!飛ばす感覚も完全!凄いじゃん!」
「そうであろうそうであろう!吾輩の真なる才はここにあったのである!」
胸を張って鼻を高く上げている、その仕草に文句何ていえない!
ほんっと驚き、元々さベテランさんって武の才はあるってさ、思ってたけれど…実は魔力関係、こっち方面にも才があったんだ。

─ これに関しては予想外

唐突な声、その声に頷く。頷いてしまう程に、彼の一撃は予想外。
今代の記憶でも、これに関しては前例がないノーデータだからね、誰がどの才を秘めているか何てわからないもんね。
私達が辿り着いた研究はさ、あくまでも既存の人物が世に示した才を参考として、その人物が持つ因子と照らし合わせて誰がどの才能を引ているのか参考にしていた。
つまり、私の研究は全てを解き明かしたわけではない、どの様な才があるのか、あくまでも推察にしか過ぎない。

魔力を飛ばす才なんて誰が秘めてるか何てさ前例がないからわからないもんね。

「わーったよ、何度も何度もうっせえぇな!すぐ追い越してやらぁ!」
胸を張り鼻を天高く上げて自慢気にしている弟弟子のドンドンっと激しい音を出しながら肩を叩いて払いのけるようにその場からどかすと
「次の的セッティングしましたよー」
ティーチャーくんが合図を送ってくれると合図を受けた女将はダンダンっと地面を足で叩く様に踏み気合を入れてから
「次はあたいの番だね!」
斧を切っ先を的へ向けて、ふと近くにいるベテランさんを見て
「ほれ!おめぇは大事な大事な奥さんの的を取ってきな!」
しっしっと手のひらを返して未だに自慢げなご満悦さんを追い払い
「しかと見ててくれよ師匠!あたいだってやれんだからよ!」
手に持っているのは愛する旦那の大剣ではなく、昔から愛用している斧?っじゃないか、気持ち小さいってことは、他の戦士達が使う斧かな?
斧を真横水平に持ってるけど?振り下ろすのではなく水平に振って飛ばすってことかな?
「あたいは…こう!!」
どんな動きをするのかと見ていたら、振りかぶることなく手首の力だけで重たい斧をサイドスローで…投げた!?振らないの!?

投げ飛ばされた斧が回転しながら的へ飛んでいく!それも物凄い速さで!
斧が横方向に回転しながら飛んでいき、大きな扇風機のような音が聞こえる。
誰しもがこれ程まで力強く斧が投げられたらどうなるのか、易々と予想できる

だけど、結果は違った。
誰しもが予想できない結果だった

豪快な音が止むと的は綺麗に切れ、斧の刃先が地面に吸い込まれた。

「っしゃ!」
女将は、投げた斧の結果に満足したのか腕を上げてガッツポーズを取っている
その結果に周知の人達はさも当然っと言わんばかりに頷き拍手を送っている
つまり、これは今回だけが特別ではないってことになる。

驚きの結果をもう一度見つめ、遅れて心が驚き思考が理解する。

まさか、音も無く、丸太が切れてっていうか、当たった衝撃もなく貫通するみたいに切れた!あのふっとい丸太が!!
丸太をぶった切った斧が地面に突き刺さってる、刃の部分が深く深く地面に突き刺さってる…それ程までに?切れ味が鋭かった?それとも投げられた威力が高かった?
斧が丸太に当たった衝撃音も無い、ってことは切れ味が鋭かったって事かな?
カーンってぶつかった音なんてしなかったもんなぁ…丸太が裂けるような音も無かった。

表現するなら空気を切るみたいに丸太をきった!って感じでしょ?…うっそ、でしょ?
…どう、やったの?

ベテランさんのように魔力を飛ばしながら切った?でもそれだとさ、刃に乗せた魔力が遠心力で飛んで行かない?…だとしたら周囲にいる人達も危険だけど、そんな雰囲気も無かった?
っとなると、考えられるのが刃に魔力を乗せたまま投げたってこと、だよね?しかも、鋭さを付与した状態で
観察&考察をしている間にも周囲は動く
「新しい丸太を設置したのであるぞー!」
ベテランさんの声で思考の渦から抜け出して視線を向ける
「次はわたくしめの番です。是非とも姫様に見届けてもらいたいです。私が彼の背中を預かるのに最も適しているのだと!!」
徐々に声に力が籠っていき彼女の熱意と決意が伝わってくる。
「・・・!」
構えたと思った瞬間、彼女が視界から消える。

目の前から追い付けないほどの速さで動いたのだと思考が理解する前に音が鼓膜を駆け抜けていく。

ッシっという細く鋭い音が鼓膜を通り抜けてから何が起きたのか理解する。

まるで徒手空拳の練習をしている最中にジャブを放っていると口から漏れ出るような声を置いていくように閃光さんが瞬時に瞬きを許さぬ速さで加速するために地面を蹴り目標へと飛んでいくき、地面を擦る様なスライディングでもしたかのような音が修練場を埋め尽くしている。

彼女が飛ぶ先は決まっている、結果が示された場所へと視線を移すと土煙が舞い上がって見えない。

閃光さんは、ベテランさんが用意してくれた的へと跳躍している、これは間違いない土煙の中に今もいるだろうし、私にアピールするために制止してるだろうね。
彼女が居た場所、地面を蹴った場所から的まで、距離にしておよそ、5メートルってところかな?それくらいは離れているであろう距離を…うん、的迄の間に地面を蹴った窪みが無い、っとなると、たったのひと蹴りで跳躍していったことになる。

あれ程の地面を擦る音を奏で威力を乗せた一撃がどの様な結果になったのか、心が躍らないわけがない。
丸太がどの様な結果になったのか土煙が消えるまで心を躍らせていると…見えてくる、そう、見えてしまった。この結果は賞賛に値する。

先ほどと同じく有り得ない結果!
手に持っている鉄剣は刃を潰してある!
一切の鋭さが無いというのに!

丸太に深く深く剣が突き刺さってる!?っていうか貫通してるじゃん!

え、それって、刃を潰してある鉄剣じゃないの!?
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