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成程ね、剣にへばりついた液体を振り払うって感じかな。
魔力を飛ばすってのはさ、直ぐに納得できたよ?でもね、納得できないのが、どうやって魔力に性質を付与したのかって部分なんだけど?
そこが分かれば、魔道具に組み込んでさ、小型の魔石と繋いで、剣に鋭さを付与することが出来るんだけど?
そうすれば一気に戦力が向上するんだけど?
もしもに備えて技術班達にさ研究する様に伝えておきたいけど…伝えたところでって感じかな?そんな時間は無さそうだし。
「ただ、何度か振り下ろしているうちに剣に魔力を込めたとしても、僅かに刃から魔力が零れ落ち魔力の感覚が千切れて消えてしまったのである」
蛇口をひねってコップに液体を注ぎ続けていけば何時かは溢れるってことだよね。
「消えないようにするにはどうすればよいのか…吾輩達は必死にこの先を求めて鍛錬したのである。少しでも、僅かでも、新たな気づきがあれば直ぐに共有し、遂には、刃に集まる魔力を留める方法に気が付いたのである、魔力を留める方法を身に着けたのであれば」「自分達が出来る限界まで魔力を集める練習をしたのさ!」
最後の部分を女将がかっさらう様に大きな声で割り込んでくる。
ベテランさんは特にいやそうな顔をせず、ふんっと鼻から大きな息を吐きだすだけ。

ってかさぁ、説明してくれる皆の顔が凄く生き生きしてるなぁ…そんなに練習が楽しかったのかな?
彼らの目が輝いてるし、説明も何時もよりも早口になっているし、全員が笑顔なんだよね。
最後の練習がどれ程…彼らにとって有意義な一時だったのか、楽しかったのか伝わってくる。

冷静に彼らの立場に成って考えてみると…うん、そりゃそうだよね。
彼らは何年も何年も研鑽を積んでも、成長することなんて無くずっと停滞していた。
ベテランさんに至っては成長するっと言う事を半ば諦めていた、後続の育成と家を豊かにすることが彼の進む道と決め毎日、何も文句を言わずに仕事に専念してくれていたもんね。

何時だっけかな?お酒の席で、悲しそうな顔で呟いてたもんね。
確か、もう、成長することが無いって高みが何処にあるのかわからないって…

夢を見るのが愚かだと己の限界を決めつけ、彼は高みへと昇ることを諦めていた。
最後の最後、覚悟を決めたからこそ、見えた先…敬愛する追い付くことが出来ない背中。

彼らの体に秘めた才能、鍛錬を積んでも見えなかったものが見えたからこそ彼らは追い付いた。
ある日、彼らの師が見せた最後の姿、一部の人は目に焼き付き網膜からその映像が離れることが出来なかったあの悲しみ、その道標があるからこそ、彼らは鍛錬を絶やさなかった。

尊敬する彼の域、その高みへと昇ることが出来るたことに、心の底から嬉しいんだろうね。

各々が己の成長を噛み締めている姿に胸が自然と締め付けられる様な熱くなるような、何とも言えない感覚に包まれている説明の続きが始まる。
「その過程で吾輩達は気が付いたのである、皆が同じではないのであると、各々が魔力を留めれる量に大きな差があるのだと、丸太がどの様に破壊されるのかでわかったのである」
剣に乗せた魔力が多く圧縮し質量を付与すればするほど単純にさ、威力も範囲も向上するもんね。
「こればっかりはな!魔力操作に関してはよおめぇには敵わねぇからな!認めるよ、剣に魔力を込め留めれる量ってのはよ、ああ、こればっかりは認めてやるよ。おめぇが一番上だなベテランさんよ」
少々不貞腐れつつ?照れつつ?鼻頭を指で掻きながら褒める姿を見て笑みが零れそうになる。
「はっはっは!であるな!」
先輩に褒められて嬉しそうにして…すーぐ調子に乗るのがベテランさんの悪い所でもあるから、作戦前に緊張の紐をしっかりと引き締めてもらう様に奥様かNo2にお願いしておこうかな?
「吾輩こそ至高!っとまでは言えないのであるな。魔力を込める量に関しては吾輩が一番だとしても、吾輩は応用力に欠けているのである。吾輩では考えつかぬ発想、魔力を込めた、これだけでは技とは言えないのである、拳を握り締める、吾輩はそれをただただ力いっぱい振り下ろしぶつけるだけである、地の理も天の理、そう言ったものは全てなく純粋たる力をぶつける、子供の喧嘩のようなもの、だったのである。これを武とは言えないのである。武とは、技とは、握りしめた拳、その先、足を踏みしめ体を捻りより強く打つ、相手との距離が僅かでも足りぬのであれば拳を捻り僅かな距離を埋める、そう、武とは力だけにあらず、その先へと一歩先へ進めたのは!…残念ながら吾輩ではないのである、こいつである」
ティーチャーくんの近くに歩き、ベテランさんも彼の成長が嬉しいのか、ばしばしと愛弟子の肩を叩いている。
肩を叩かれている人物も先輩であるベテランさんが居ない場所では、ベテランさんの事を師匠と呼んでいたりする。
尊敬する師匠が嬉しそうにしているのが、嬉しいのか珍しく照れている。
肩を叩かれた後、少し気恥しそうに口を開く
「剣全体に魔力を込める、単純な威力に関してはまったくもって先輩には敵いませんでした。僕も何度も何度も先輩のように魔力を込め続けて理解しました。何度か魔力を込め続けて見て気が付いたんです。自身が安定して魔力を込めれる量があり、それ以上を込めたとしても維持することが難しい、つまり、自分には適していない、っという結論に至ったんです」
成程ね、それに関しては術式班でも良く問題になっていたもんなぁ。
私はさ、術式に相性なんて無い!って思ってた、正しく術が発動する手順を踏めば誰でも出来るってのが、魔術だって思ってた。
でも、術式班によっては火を灯しやすい人もいれば、風を発生させやすい人もいた、その逆も然り。

得意な分野もあれば不得手な分野もある。
魔術という枠組みの中でもそういう個性があるのだと今ならわかるよ。

「妻にあいに…もとい、術式を学びに研究塔を幾度か訪れた際に度々、耳にする言葉、効率よく動く、同じ事を複数の人がしない、役割分担を守るっと言う言葉。その言葉に後押しされました」
今代の記憶が蘇ったよ。
そういえば、私が居ないときに研究塔に遊びに来てるって職員が微笑んで報告してくれてたんだよなぁ。
「彼らの言葉の通り、僕達に残された時間はわずか、その僅かな時間で僕らは誰かの道を辿るのではなく各々が最も各々が思い描く高みへと昇らなければいけない。全員が同じこと研究し全員が同じ事が出来るように、それも大事です、ですが、それは最低限で問題が無いはずです。各々が最低限、魔力を扱えれるようになり、魔力を込めれる様になれば、皆、ベテランさんと同じ高みへと昇るのではなく、思いつく限り手数を増やすべき、その方が司令官も助かるはずだと、作戦の幅を広げることが出来る。そう思い、先輩達に相談しました」
機転が利くのは彼の良い所でもあるんだよね。
だからこそ、騎士の部のまとめ役として彼が適任なんだよね、騎士の部は戦士達と違って力量も技量も育ってないから集団で連携を組んで個ではなく全で動き敵を討つ。
故に、数多くの手段がモノを言う。
「かといって、込めて飛ばす以外の選択肢が他に何があるのか、示さないと先輩達は納得してくれません。なので、物は試しと魔道具から剣へと流れていく魔力、全身から集めた魔力を大雑把に剣に乗せ続けるのではなく、魔術と同じく魔力に何かしらの指向性を持たせてみようとしたんです。術式と同じように魔力を術式を発動する陣に込めるように一点へと込めていったんです。そう、刃っという一点に。強く強く魔力を集めてみたのです」
ほんっと嬉しそうに楽しそうに饒舌に語ってくれるね。
普段、口数が少ない彼がこんなにも嬉々として語ってくれるのがお姉さんとしても感慨深く、胸が熱くなっちゃうよね。
「漠然とした剣に魔力を込めていくとは違って、魔力を一点へと集めていくことが出来る、その方法を先輩に伝えると」
「より強く、より狙いやすく、的に魔力を飛ばすことが出来るようになったのである」
研究研鑽過程を聞いて納得する。
成程ね~、例えるならお盆の上に大雑把に水滴を乗せてお盆を振り回して投げるよりも、最も作用点として飛ばしやすい場所に水滴を集めた方が的に水を当てやすい。
より魔力を一点に集中させて飛ばした方が魔力の密度も向上する、つまるところ、的へ当たった時の衝撃も威力も上がる。

だからといってさ、先ほど見せてくれた演武。
音も無く物質は切れたりしないよ?
どうやってその境地に辿り着いたのか語って欲しいかな。
言葉にすることで自分達も理解力を高めて新たな気付きへと至ることもあるから。

っという指導者としての思惑もあるんだけど、気になってる部分もあるんだよね。
だってさー、私が創った魔力の刃、念動力という力場を発生させてから念動力を任意の形に変質させてから念動力を敵にぶつけるようにして切る!っていう、方法もあるけれど、物質を切る時は絶対に衝撃音がでる。

どうやって、あんな、すっと、音も無く綺麗に切れたのだろうか?
どうやって、あそこ迄、細く鋭く魔力を形成したのだろうか?
それを知れば私もいざって時に役に立つ。

「これによって僕達も魔力を飛ばすっという方法もより強く出来るようになりました」
「ですが、夫ほどの威力は無く」
「あたいに至っては命中率が悪いときたもんだ」
威力に関しては、込めた魔力がモノを言うから、魔力を操る精度の問題だもんね?
命中率もそうだけどさ何度か練習を繰り返せば掴めれるでしょ?
「んでな、あたいは思ったんだよ、今まで感じたことがねぇモノよりもさ、何度も何度も手に馴染んだものがあるじゃねぇかってな!」
自慢気に突き出してくる得物
「あたいは斧を投げる方が得意だってね」
女将は殴る蹴る叩く切るといった豪快な動き以外にも斧を投げたりするのも得意としている。手に馴染んでいる武具の方が扱いやすい、非情に理にかなっている。

…あぁ、そうか、だから、なんだね、あの魔道具はどの武具にも取り付けれる様にと考案し、行きついた答えが、あの形ってことか。

やるじゃん、今代の私。
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