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「魔力を込めて斧を投げてみたんだがよ、当たることは当たる軽めに投げたとしてもしっかりと斧が的に刺さったから、あたいの直感は間違っちゃいねぇって拳を握り締めたさ!」
斧を握っていない方の腕で上腕二頭筋に力を籠め力こぶを作りアピールしてくるけど、そこは筋肉と関係ないんじゃないのかな?
「はい、その姿から私も学び、考えたんです。もっと強く、傍にいるためには、速さだけではダメだと…」
閃光さんも、女将の動きを見て新たな気づきを得たってことだね。
戦士達が各々、己が持つ経験を生かそうと足掻くからこそってことか。
お互いを高めあう、いいね。まさに偉大なりし戦士長が望んだ光景だったんだろうね。
「目指す先は、見えてます。見え続けていました。私が永遠に感じていた埋めることが出来なかった敵との差…先輩に有り、旦那にもある。そして私にないモノ…何年も何度も幼いころから感じ続けていた劣等感。それをこの瞬間、乗り越える、その時が来たのだと天啓を得ました」
空を見上げ遠い遠い場所を見つめるように、心穏やかに語っている。
彼女との接点は私ってあんまり多くないから、どんな悩みや苦悩を抱えてきたのか知らないから、彼女の気持ちを心の底から理解は出来ない、それでも。
私と一緒でさ、目指す先があるのに届かない、いくら頑張っても触れる事すらできない見えているのに届かないっていうさ、苦悩は…わかるよ。うん。すごく。わかっちゃうなぁ。
「この溢れ出る魔力をより鋭くできないかと」
彼女が得た天啓、それこそが、私が知りたかった部分。
鋭く?…魔力を?
魔力は不定形、なら、より薄く、より鋭くすることも理論上はできる。
けど…そんなの術式も無く可能なの?制御しきれるの?

複雑な術式を同時に発動させ、尚且つ、制御しきらないとできない芸当
私一人では実現不可能な領域、自分が出来ないからっという理由で否定してしまいそうになるが、否定することが出来ない。

だって、見せてもらったから。
論より証拠、この眼に焼き付いてる、彼らの偉業が。

再現するとなると…
剣に、ううん、刃に魔力の層を作って幾重にも魔力の刃を形成した?それも極限にまで薄く強固に、そうしないと一回切るだけで魔力の刃の層が消える。
魔力に関しては魔石から補充されるとしても、そんな芸当…できちゃったってことだよね。はぁ、戦士達の研鑽を甘く見過ぎていたってことか…

術式こそ全てじゃない、各々が歩んだ歴史、努力、紡がられてきた想い…
そ、う、だよね。私は、殆ど独りだった、研究を手伝ってくれる人たちは居たけれど、多くの起点は私だったもん…その違い、かな。
そんなことないっと優しく抱きしめられるような感覚にすり寄るようにし、お礼を言う。

ごめん、訂正、愛する旦那が傍にいて、時折、助言をしてくれたおかげで、私は私の戦いを全力で駆け抜けることが出来たよ、にへへ。

「この天啓を形にするためには、私一人では辿り着くのに時間が足りませ。なので、この場に居る全員に試してもらいました。唯一、刃を鋭くするという感覚、そのきっかけを掴んだのが私と先輩です、なので、チームを分けて研鑽を積むことになりました。私達、二人で試し続けてみたんです」
「そしてよ、戦士長が言ってた言葉の通りさぁね、力を合わせることで辿り着く境地があるってやつさぁね!あたい達は新たな術を編み出し、何時だって出来るようになったわけってことさ!」
斧を持っている腕を天高く掲げ
「ほれ!こんな感じでよ!」
自慢気にアピールしてくれるけど…んー…見えない。
私には魔力の刃、その層が見えないんだよなぁ、術式を使えば感じることが出来るんだろうけれど、魔力使いたくないんだよなぁ…

周囲の人達が頷いて自慢げに胸を張ってるところ悪いけどさ、私には見えないんだよな!…ちょっとくやしい!

得意分野で先を越されるのってこんなにも悔しいのだと心の中で地団駄を踏んでいると。
『見えないのなら重ねればいい』
唐突な旦那のアドバイスに気が付く、こういったさり気無い助言大好き!愛してる!ん~ッチュッチュ!
お礼としてキスをプレゼントしてみるが、反応が返ってこない!もう!

小さく咳ばらいをして女将の方へと視線を向けると視線が重なるので
「女将ーちょっとさ、腕が届く位置まで近づいてきてもらってもいい?」
「いいぜ、何するんだい?」
女将を呼びよせると腕が届く距離まで近くに来てくれるので彼女の太ももに手のひらをあて
彼女から溢れ出ている魔力を少々拝借しつつ、魂の同調を行い、彼女の五感にアクセスする
魂の同調を行われているのがわかったのか
「ぉ?なにを?」
特に慌てることも無く拒絶することも感覚を受け入れてくれる。
「…ぁーなるほどねぇ、さすがは師匠だ不思議な感覚だねぇ」
五感を盗み見てるのに怒る様子も無い。
女将のそういう器の大きなところ大好き、幼い私が悪さしてもしょうがないねぇっていつも、許してくれたよね…

魂の同調により彼女の視界が私にも見えるようになったので
「その状態でさ、さっきのやってよ」
「応さ!」
彼女にお願いすると快く引き受けてくれる。
ついでに彼女の体内、魔力がどう流れていくのか感じて見ようと試みたが

…無理だった。

彼女の体に満たされている魔力の厚みがとても深く広くて流れ何て見えない、ううん、把握しきれる量じゃない。
例えるなら、大きな灯り、部屋中を照らしつくすほどの灯りの近くに立ってみて、その光源から生み出される光の一粒がどのように流れていくのか感じて見極めろって言うくらい無理、不可能、人では出来ない。

全てを見極めることは出来ないけれども、一点に集中すれば。
彼女が意識している感覚に重ねれば…目指す先は腕の部分。

女将が集中している様に私も集中すると感覚が重なって行く。
うん、女将の腕…手のひらから魔力が斧へと込められていく感覚が伝わってきた。

斧へ流れていくだけじゃないもっとその先…
魔道具からその先へと彼女の感覚は途切れることなく続いていってる、斧に込められていく魔力を刃の先へと集め、集めてから更に魔力が薄く形成されて…

その状態をキープしているのがわかる。
溢れ出る魔力を使って常時形成している、成程ね…
無限の魔力があるからこそ出来る芸当ってことだね、高出力の魔力を常に一点へと集め放出し続けている、それも、己の感覚だけで形を形成しながら。

彼女の魔力の流れや、魔力をどの様に扱っているのか、感覚だけれど、何となく掴めた。
それが女将にも伝わったのか、彼女の体が動こうとするのを感じたので
「んで、こう!」
視線を向けると手首のスナップだけで軽々と斧を投げられた。
綺麗な放物線を描き吸い込まれる様に、芸術、うん、一つの極められた芸。
投げられた斧は綺麗に流れていきカンっと音を立て丸太に深々と斧が刺さった。

さっきは横向きで投げてた、今回は縦方向。
横方向で投げたときは首を撥ねるみたいに丸太を真横に切ったけど、縦方向で投げると的に刺さってる。

斧をティーチャーくんが丸太ごと近くにまで運んで来てくれる。
丸太に深々と刺さった斧を引き抜くと亀裂が縦に走り丸太が割れる。
「軽めに投げて刺さっちまうんだからよこえぇよな。っま、これのおかげでよ。あたいの苦手とする遠距離でも攻撃する方法が出来たってのが嬉しいさぁね、あれだろ?こういうのを手札が増えるって言うんだったかねぇ?」
「うん、そうだよ、戦う上での選択肢が増える、投擲斧なら数あるから幾らでも投げていいからね。ってかさ、元々、女将が全力で斧を投げたら敵の皮膚を切り裂いて、その衝撃で骨や中を壊すことができてたよね?あーでも」
自分で言っておきながらそれが通用するのは雑魚までと直ぐに悟ってしまう。
女将が想定している敵はそんな雑魚共じゃない。
「そうさぁね、けったくそわりぃけどよ、2そくほこ…人型の奴らには斧なんて投げても当たらねぇし、当たったとしてもさほどきいちゃいねぇんだよな、悔しいがよ」
斧の持ち手の方から締め上げるようなキュリっという音が聞こえてくる。
「でも!これは違う!あたいらも弓と同じように!手軽に、手の届かない敵にも攻撃できる!ってのが最高じゃってわけさぁね!」
斧を持っていない腕で斧を投げるようなフォームを繰り返し嬉しそうにしている。
女将って弓の扱い下手糞って聞いたことがあるから、遠距離っていう選択肢が無かったんだろうね。
「そうである、先輩は真っすぐに突っ込んでくる敵を正面から受け止めるしか能が無いのである」
「るせぇ、何時の話をしてんだい、それを注意されて何度も練習して斧を投げれるようになったろーが」
茶化すようにベテランさんが口を挟んできて、直ぐに悪態をついて返している。
二人はほんっと仲が良いよね、兄弟みたいだなって昔から思ってた。

「そうである、それも過去の話である、今は違うのである!」
「応さ!新たに会得した技!敵を確実に痛めれることが出来る選択肢が増えるってのは、いいねぇ…若い頃を思い出すよ」
「っであるなぁ」
二人が小さく何度も頷いてしみじみと分かり合っている…
「あたいだって感じてんだよ、あれ以来、いや、もっと前からだねぇ…これから先、今までのあたいじゃ、死ぬだけだってよ。この緊張感、危機感ってやつかい?」
どっちかって言うと生存本能じゃないかな?おかあさ…No2が言うには女将って危険を察知する能力が高いっていってたもんね。
「敵の強さ、一撃でこっちの鎧をぶち抜く強さ、ひと噛みで肉体を真っ二つに切り裂く牙、一つのミスで死んじまう、あたいのように目の前で戦う方法しかないってのは命が幾つあっても足りやしない。迂闊に敵の懐に飛び込むわけにはいかないからね、でもよ、姫ちゃんのおかげで、おっと、師匠のおかげでよ!あたいは新たな力を得た!これがあれば臨機応変ってやつかい?動けるってもんさぁね!!」
うんうん、そうだね、って、頷きたいけれど、賢い頭が警告してくる。

これには弱点があると…

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