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終わりの始まり
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メイドちゃんが甘えん坊状態になってしまったので、ずっと抱き着かれていると身動きが取れないので姫様のベッドであやそうと思い移動すると姫様もベッドに入ってきて、三人で座りながら暫くはゆったりと過ごした。
気が付くとメイドちゃんがすぅすぅと眠ってしまったので、頭を撫でながら、姫様に今後はどうするのか聞いてもいいのかなっと思っていると
「今後はね、この街から離れて、ある作戦を決行するための準備を進めていきたいんだけど」
きゅっと私の服を握りしめながら不安そうにしている、姫様もずっと、不安と闘い乍ら頑張ってきたんだよね。
街を離れるということは暗殺の危険もあるってことだよね?守ってくれる傍にいてくれる人が欲しいってことだよね!
頼ってくれて嬉しい!!
「No2が居ない今、医療班を離れるのは難しいと思う、けれど、きっとNo3、もといネクストが頑張ってくれるよ、私も付いて行く」
不安そうにしている姫様を抱き寄せると
「…ありがとう、遠慮なく頼るね」服を掴んでいた力がより強くなる。
「うん、出来ることがあれば、何でも言ってね?」ぽんぽんっと肩を叩いてあげると
「んじゃ遠慮なく魔力タンクとして頑張ってもらうね!毎日、アレ飲んでね!!」
にぱーっと屈託のない笑顔で思い出したくない味のドリンクを毎日飲めとえぐい要求をしてくる…もしかしなくても、はめられた?
「姫様も飲むんだよね?」にっこりとした笑顔の人に質問を投げかけると返事が返ってこない…
耳に手を当てて「…ぇ?」聞こえないふりをしないの!!
肩をがっしりと掴んで、正面から凄む様に「飲むよね?」圧をしっかりと言葉と手に乗せていくと
「・・・・はい、飲む」観念したみたいで眉をひそめてうげぇっとした顔をしている、あの味を思い出してしまったのだろう。
あの味に慣れないとなぁ、飲めないことは無いんだけど、飲まなくてもいいなら飲みたくないよ。うげぇ…
気を取り直して、作戦があるのなら聞いておきたいよね?
「それで、今後はどうするの?」私も準備とかいろいろとしないとね全貌があるのなら教えてほしい
暫く沈黙した後、ゆっくりと姫様の口が開くと驚きの内容だった
「…話したくない」ん?なんで?なんでさ?
「どうして?信用できない?」あれかな?私が知ってしまうと動きに制限されるやつ?それとも外部に漏れると困るやつ?
「ううん、違うの作戦の全容を聞いたら絶対に怒ると思うから言いたくないの」掴んでいた服がさらにしわしわになる。
怒る?作戦内容で?…考えよう、私が怒る内容について、そうすれば自ずと作戦内容が見えてくるはず。
私が怒る内容ってことは、姫様が単独で自爆覚悟で特攻したりとか?それともベテランさんとか?
応えに辿り着きポロリと言葉が漏れでる。
「あ、そうか、命を使用する作戦ってことだ。何かを犠牲にする作戦ってこと?」
私の考えがあっているみたいで姫様は肯定してくれる、けれど、想像以上の内容が返事として帰ってくる。
「うん、そう、概ね正解、王都から南にある都市全部を犠牲にする」
・・・ぇ?どういうこと?なんで?
「うん、言葉の意味の通り、敵の位置が掴めない以上、対策をどうしたらいいのか、やりようが無いの。ある作戦を覗いてね、その作戦を決行するためにも、少しでも多くの人達を王都よりも北に向けて出発してもらって、今まで住んできた街を放棄してもらうの」
あ!そういうことね!…よかった、南の街に住む人類全てを犠牲にするのかとおもったけど、そうじゃないのね。
「でもね、この作戦を決行するうえでどうしても、最低限、ある手順を踏まないと実行できないの、たぶん、それが団長にとって一番、怒るポイントだと思う」
そりゃぁ、今までの生活を捨てての移動なんて生活するために必要な仕事を全部放棄しないといけないってことはさ、生活苦になってしまって、ぁ、そうか受け入れ先である王都が受け入れないかもしれないってこと?難民になるからかな?
「難民が増えるってことかな?」姫様に自分の考えがあっているのか確認するが答えはNO,首を横に振る
なんだろう?難民が発生することがいけないの?それとも、難民を受け入れたくない?
「そもそも、王都が難民を受け入れない?」
あ、これはYESなんだ、こくりと首を縦に振ってくれる。そうだよね、王都よりも南には数多くの街があって、その全て王都に辿り着いたら住む場所がないから、受け入れようがない、ある程度なら可能だと思うけれど全ては受け止めれない。
「でも、王都から最善の街までの間ってさ、土地って結構、余ってるし、所有権も王都所属の土地じゃなくて、大半が最前線の街管理の土地になってるよね?」
土地の所有権を確認するとYESと頷いてくれる!
「だったら、さ、王都が受け入れなくても、私達なら受け入れることは出来るよね?建物がないから、野宿になるけど」
そうだよね建物がないから、野宿になっちゃう、テントの数も豊富にあるわけじゃないし、適当な布で作ってもいいけど雨が降ったら最悪だよね?環境が悪いと病気も蔓延しちゃうから、よくないしなぁ、どこかに、安全な場所って
そこまで考えが、思考がある場所に行きつくように辿り着くと、稲妻のような閃きが湧いて出てくる
「あ!まって、それにほら、最前線の街にはどうしてか知らないけど誰も済んでいない建物がいっぱ…ぇ、そういうことなの?」
前々からずっと謎に思ってきた、最前線の最奥、死の大地とこの街を獣から守るために作られた城壁ともいえる壁からもっともっと王都側にある商業施設エリア、女将がお店を出してたり、お洋服のお店があったりするエリアがある。
そのエリアの殆どが2階建てとか、3階建てになってて、しっかりと居住エリアとしても完備されている、住む人がいないのに、どうしてか知らないけれど、王都の一等地クラスの人が住むとしても遜色のない、
非常に居心地がいい完璧な家が数多く立ち並んでいる。
こんなにも街としての機能を要しているのか謎だった、商業だけだったら、住む必要性は左程いらないと思っていた、だって、私達、最前線の街で働く人はちゃんと寝泊まりするための寮があるし、必要ある?って思っていた、まさか、このため?
「うん、私個人でね出せる範囲でもいいから予算汲んで、もしも今後の作戦に必要な資産が足らなくなると困るから、影響の出ない範囲で、尚且つ、大工さんの手が空いているときに出来る限り、無理のない範囲でコツコツと建てたエリア」
あれって、何処から予算を組んでいるのか知らなかったけれど、姫様の個人資産からだったんだ。
「建ててる最中もね、じみーに反発があったんだよ?だって、今現時点で必要がないから、どうして建設するのかって、方々から反対の声があったんだよ?」
そりゃねぇ?使う予定のない家なんて、どうして建てるんだろう?ってなるよね?ただでさえ、油断すると上空から強襲さえる可能性がある街で、無駄に建物を増やすのかなってなるよね?
「みんな、不思議そうな顔してたもの。無駄金じゃんって色んなところから声が出てても、趣味があるからこそ頑張れる人の為!ってごり押して、納得してくれなかったけれども、頼み込んで、しっかりと手を抜くことなく作ってくれた、あのエリアはね、来る日に備えて難民を受け入れるために作ったエリアなんだ」
そうだったんだ、てっきり、もっともっと、死亡率が低下して、姫様の名声が高まってきて、色んな人材が自ら来てくれるようになってきたから、街に人が増えてきているから、いつか寮だけじゃ入りきらない為に備えてなのかなー?って、それにしては気が早すぎないのかな?って、疑問には思っていたけれど、この事態を見据えていたの?
「それにね、商業エリアからね、農業エリアってね、そこまで離れていないからね、歩いて行けるほど近いから、今まで農業とか営んできた人たちも安心して、働けるようにしてあるの」
そうなんだよね、だから、女将の家族のことを考えて、そういった配置にしてあるのかな?って思ってたけど、ちゃんと意味があったんだね、姫様は好きな人には徹底的に甘いところあるから。
「でもね、難民を受け入れるとね、どうしても、大きな一つだけ、なんだけどね、問題が浮上してくるの、団長はその問題って、なんだと思う?」
「食料!」きりっと素早くこたえる、けれども、自信満々に答えたんだけど、姫様の反応がよろしくない、間違えたみたい。
「ぅ、ぅぅん、違う…そりゃ食料も大事だけど、ぶっちゃけると我が最前線の街が開拓してきた農業エリアは王都全てを賄えるほどの食糧生産能力があるから何も問題ないの」
ぇ?食料の生産量ってそんなに多かったの!?
「この街は、何も、私が起こした産業だけで潤っているわけじゃないんだよ?」
売り上げの多くは姫様が作った便利な魔道具だとずっと思っていたけれど、いろんな産業がしっかりと機能しているんだね。
「あ~そっか、そうだよね、思い出してみれば、団長って、あんまりそっち方面の会議に参加しないもんね、この街は畜産も農業も成果がずば抜けてて、王都と、最前線の街全ての食糧庫になってるんだよ?ちゃんと色んな街に最前線で作られた作物が届けられているんだよ?」
なるほど、確かにこの街で飢えることは絶対にないって豪語するのはそういうことなんだ。ほかの街から仕入れているからってことじゃなくて、しっかりと地産地消をしてきたってことなんだね。
食料の問題じゃないってことは、新しい人が起こす問題…ぁ!じゃぁ治安だ!子供のころ、家の近くに見慣れない人がいると、ご近所の人達みんな、警戒してたから、きっとそうだよね?治安問題じゃないのかな?姫様は人の悪意がどうのこうのってよくいうもんね!
「治安でしょ!」ドヤ顔でいうと、んん~っと呆れられた顔をしている
「治安もくそもないよ、この街に来れる人でそんな悪事を働こうとする人なんてそうそういないよ、職も仕事も何もかも満たしてあげるから犯罪に手を染める人はそうそういないよ」
言われてみれば、そうだよね仕事があって、ご飯も美味しくて、家族も笑顔だったら、わざわざ、犯罪を犯す必要性ってないのかも?
「人はね、食べる場所、寝る場所、仕事をする場所、生きるのに必要な物がそろっていたら、そうそう、犯罪に手を染めないし、この街で犯罪をしようものなら、デッドライン特攻の刑に処されるから、やる勇気はないよ?一応、この街の騎士部隊の人達が敵の侵入を許さないためにも巡回警備しているし、団長は知ってるよね?この街の騎士部隊が如何に優秀なのか?」
うん、もちろん知ってる、弱小領主が抱えている私兵団に比べたら練度も個人的な総合力も段違いに差があるよね。
それに、そんなえげつない刑罰をちらつかせられたら誰も、犯罪に手を染めないようね、見つかる=死だもんね、処刑されるんじゃなくて恐怖に怯えながら、誰も見送ってくれない孤独な死って、相当辛いよね。
なんだろう?本気でわからないんだけど?ほかに何があるのだろうか?
応えに辿り着けない私を見かねて答えをサラッと教えてくれる
「王都と教会が許さないの」その声は冷酷に冷淡だった、姫様は言いにくいことや人の悪意に関することをいうときはいつも、冷たい声で淡々と言葉を発する。
…ん?なんで?難民を受け入れるのだから王都の懐が痛むわけでもないし、治安が悪くならないし、いいことづくめじゃないの?あと、どうして教会が出てくるの?迷える人達を救行為って尊い行為じゃないの?
姫様の言葉の意味を考える、納得が出来ない。
「そうだよ、迷えいし心の安寧、救いを求める難民を、心も体も何もかも、満たされるように救ってあげるなんてそれはもう、たいそう素晴らしい出来事じゃん?とうぜん、そういうのってさ、本来実行するのってさ、どこの立場の人だと思う?」
その言葉にはっとする、そうじゃん、そうだよ!教会だ、今まで信仰して寄付とか清掃とか色々としてきてもらった尊き信者を守るのが教会の仕事じゃない!!
その仕事を奪っちゃうから、メンツが潰されるってこと?
「教会って、そんなにダメなところなの?メンツなんて気にしないで喜んで手助けしてくれるものじゃないの?」
幼い頃に掃除とか讃美歌とかいろんな行事をお爺ちゃんやお祖母ちゃんと参加してたから、そんな、悪い場所だとは思えないんだけど?メンツぐらいで怒るような組織なの?
私の言葉に姫様が一瞬、遠い目をした後、切なそうな声で教えてくれる
「うん、ある日を境に一気にダメになったんだ、たぶん、団長が幼い頃からかな?そのころから、ゆっくりと内部が腐っていったと思うよ?団長はさ、教会が柱にしてる信仰って何か知ってるよね?」
「月と始祖様を信仰の対象としてるのでしょ?」これは自信がある、一応、熱心ではないけれど、信徒だからね?ちゃんと教会でのお話はいっぱいいっぱい聞いてきたからね。
「もう一つ忘れてるよ、昔から一番、信仰の対象だった、アレが抜けてるよ?」
・・・あれ?おかしいな、結構、幼い時から神官さんのお話は聞いてきたと思うけれど?なんだろう?
「聖女伝説と、深い結びつきがある神様、昔はね、世界情勢が病とか戦争とかで、この大陸全土が人の心も荒んで苦しくて、食べるものも少なくて犯罪も多かった時代があるの」
神様はわかるけれど、神様と結びつきが強い聖女様?…聖女様伝説って詳しい無いから、何も言えない。
「教会内部で、小さくもめ続けているのね、聖女様伝説と始祖様伝説、どちらが民衆の支持を得られるのかって」
どちらも大事じゃないの?人類を救世したのだから、そのどちらも神様からの御使いじゃないの?二つの教えがぶつかることっておかしくない?
「結果はね、今の人達は古すぎる聖女の伝説よりも、資料もいっぱい残ってて絵本もいっぱい出てる、民衆の身近に存在している、始祖様信仰が勝ってるよね。それによって、教会内部の、昔からある教会の始まりでもある、聖女様伝説を信仰している一派が追いやられてしまったの、その結果、信仰深い神を信じている人達がどんどん、王都にある教会から爪弾きされて、王都の教会は、信仰心が薄い人たちで構成されてしまって腐り果てたんだよ」
そうだね、私も始祖様のことは信じているけれど、聖女様のことは、信じていないかも。
でも、始祖様を信仰するのは良くないことなの?救世主を待ち望んではいけないの?
「聖女様が提唱する教えは、清く正しくをもっとうとして、尊き行為を推奨する教えだけど、始祖様の教えは違う、捉え方によっては力こそ正義、清く正し生きる?それよりも、明日を勝ち取る力を求めよって解釈できてしまうの」
この力で全て解決できるのは救世主である始祖様だからこそであって、弱い私達は隣人と力を合わせて困難に立ち向かえって教えてもらったけれど?違うのかな?
「うん、違わないよ。その教えで正解。でもね、貴族たちは違うよ?始祖様の教えを自分たちの尺度で解釈してるからね?その殆どが、力さえあれば何をしても許されると解釈してるよ、そんな貴族が支援している王都の教会が、こんな未曽有の事態に、何も付け入るスキを与えないで、私達が横やりして犠牲者無くして信者を囲ってさ、教会のプライドとか矜持とか関係なしに完璧に助けてしまったらどう思う?」
誰も犠牲が出ない最高の結果じゃないの?何か困るようなことあるの?
「完璧すぎる救済は、聖女様の再来と認定されてしまって、王都にある教会は始祖様一派が中心となるから、完璧に救済してしまったら私が聖女様の再来、再誕、降臨、そのどれかを謳われてしまって、私と助けた民衆が教会と真っ向から衝突することになるの。」
そこまで愚かじゃないでしょ?衝突する意味ってあるの?
「バカみたいだよね。人を純粋に助けたいだけなのにね、聖母のごとき慈悲深き行為を嘲笑うかの如くあいつらは反発するよ?自分たちの立場が危うくなるから…だから、確実に邪魔される、その結果、手遅れになる可能性が浮上するの、私が念入りに準備してきた策が間に合わなくなってしまうとね、結果的に王都も危険になる」
王都も?王都から南が危険地帯になってて、獣が王都に侵入するってこと?王都騎士団がそれを許すとは思えないけれど?…一匹だけじゃない可能性があるってこと?
そ、それじゃ、どうしたらいいの?どうすれば、全員を助けれるの?
つぅっと姫様からゆっくりと涙が頬を伝い、悲しそうに絶望した顔で
「一定数の人を見捨てないといけないんだ」
どうしようもないよね、あははって涙を流しながら悔しそうな表情をし、大粒の涙を流した後、感情が抑えきれなくなって私の胸に顔を押し付けて声を殺し為に、口を閉じて声が漏れないように泣き叫ぶ。
感情が高ぶりすぎている姫様が落ち着くまであやしてあげる、どうしても姫様は救えない人がいるのが許せない人で、救えたかもしれない人が死ぬ未来を嫌がる。
きっと、幼い時にお母さんを救えなかったことが起因になっているんじゃないかなって思ってる。
遠い遠い関りが薄い人でも、少しでも縁があるのなら、救いたい、そんな人たちを救えたかもしれない、その後悔の念に堪えられないのだろう。
姫様は万能の神様じゃないのに、全てを救うことなんて無理なんだよ、不測の事態は絶対に来るものだよ?
…非情になって有情を消して見捨てろ言えないよ、だって私だって涙は出ないけれど、助けれる人を助けないなんて、怒りが込み上げてきてるもの、姫様が感情を爆発させてなかったら私の感情が爆発している。
どうして、一定数の人を見捨てないといけないの?どうして、失う前に行動をしてはいけないの?救える命を救わせてくれないの?…人ってこんなに愚かだったの?
私が教えてもらった教えは…なんだったの?意味をなさないの?幼い時に教えてもらった全ては幻なの?
ねぇ?お父さん、私達が頑張って救ってきた命は、無駄なの?頑張ってきた証は無意味だったの?お父さんは、そこまでわかってて、尚且つ、人類の為に命を使ったの?
何を想って、自分の未来を、自分が居なくなってもきっと誰かが世界を救うバトンを受け取るって思ったの?
…お父さんは無駄死になるの?
もう、わかんないよ…お父さんが僕に教えてくれた騎士たるもの弱きものを助け、弱きものを導き安寧の地へと誘うものだよって言葉は。いったい何なの?
お父さんから教えてもらった数少ない言葉
教会の神官から教えてもらった尊き行い
お爺ちゃんやお祖母ちゃんから教えてもらった人としての生きる道
お母さんから教わった、生きる為に必要なことは、助け合って生きること
この全てを否定されてしまった気分に陥る…もう、人は滅んだ方がいいんじゃないの?人は穢れてる。
人は、救うってしまってもいいものなの?ほろんだほうが
ぱんっと頬を掴まれ真正面から
「穢れてません!貴女は、あなたの考えは立派です、尊き考えです、絶対なる善性のものです、お願いだから見失わないで」
メイドちゃんの目から零れそうなほどの涙を浮かべながら、私の考えを否定してくれる。
もう少しで、自分の全てを否定された気分になってしまって、取り返しのつかない心に堕ちるところだった。
「ありがとう」
それを気づかせてくれたメイドちゃんを空いている方の腕で抱き寄せてお礼を言うと
「はい、貴女は私にとって聖女様なんです、お願いです、ずっとずっと、何があろうとその高き志を失わないで」
私は本当にダメダメだ、色んな人に支えてもらって導いてもらってばっかり、迷わない、私を導いてくれた人たちから受け取った優しさを間違えない履き違えない。
ずっとずっと、繋いでいく、何があろうと、私が受け取った明日へと繋ぐ人を想い慈しむバトンを、汚さないで綺麗なままで渡し続ける。
私が止めていいバトンじゃないよね?ごめんね、お父さん、一瞬でも疑ってしまって。
二人の感情の高ぶりが落ち着くまで、三姉妹仲良く抱きしめあう、私達はずっとずっとお互いの感情をぶつけあってきている、支えあってきている
本当の姉妹以上に。
二人とも落ち着いたみたいなので話の続きをすることに
「ねぇ、絶対に一定数の人を見捨てないといけないの?」
頭ではわかっていても、心では、どうしても納得できない部分
「うん、だって、今から全ての街に御触れを出してね移動してもらうことはやろうと思えば出来るの、私達側の王族がいるから、その人経由でアクションを起こせば絶対に動かせれる」
そんな太いパイプがあるのなら、実行してよ!!助けれるのなら助けようよ!!どうしてできないの?…王都が危険にさらされるから?王都にはお爺ちゃんもいるし、並大抵のことなら、たぶん、滅ばないよ?
「この方法を使うとね、絶対に反発が起きてしまうの、民衆はね?犠牲が出ないと動かないんだ、失ってからしか動けない愚者ばっかりなんだよ、ごめんね、犠牲という恐怖と不安がないと今まで住んできた土地を放棄する決断ができないの」
言われてみれば、そうだよね、だって今までずっと安全だったのだから、この街がある限り獣たちが襲い掛かってくるなんて、誰も想像しないよね?
絶対的安心に日常を営んでいるのだから、説得するのに材料が少なすぎる。
そういえば、王族からの信頼は落ちてきているって誰か言ってた気がするし、そんな根拠も何もない御触れなんて、反発しちゃうよね?
でも、姫様が先導して行えば、民衆は耳を傾けてくれるんじゃないの?
「でも、反発があったとしても、アクションを起こせるじゃない!助けようよ!罵られてもいいから助けようよ!姫様が前に出れば言うこと聞くよ!」
姫様に助けれる人が居るのなら罵倒されてもいいから助けるべきだと説得するが
「反発は民衆だけじゃなく王族内でも発生する、当然だよね、何の権限があって街を放棄しろなんて大それた御触れをだせるかってこと、王様でも躊躇う内容を勝手に発動しちゃったらね、私達側についてくれている人の身が危なくなる、その人の地位が危うくなると発言権が無くなる。そうなるとね、この先に待ち受けている人類存続するための作戦が発動できないの…」
ぇ?どういうこと?先ほどの策って、王族の支援がいるってこと?
「それはね」
バンっと大きな大きな音と共にドアが開きベテランさんが声を荒げながら
「姫様!指示を求む!!獣の軍勢が、王都の南の街から報告が上がった!!」
終わりの始まり、人類滅亡へのカウントダウンが始まった
ベテランさんの言葉を聞いた瞬間に、脳の中に突如、湧いて出る言葉に納得することしかできなかった
気が付くとメイドちゃんがすぅすぅと眠ってしまったので、頭を撫でながら、姫様に今後はどうするのか聞いてもいいのかなっと思っていると
「今後はね、この街から離れて、ある作戦を決行するための準備を進めていきたいんだけど」
きゅっと私の服を握りしめながら不安そうにしている、姫様もずっと、不安と闘い乍ら頑張ってきたんだよね。
街を離れるということは暗殺の危険もあるってことだよね?守ってくれる傍にいてくれる人が欲しいってことだよね!
頼ってくれて嬉しい!!
「No2が居ない今、医療班を離れるのは難しいと思う、けれど、きっとNo3、もといネクストが頑張ってくれるよ、私も付いて行く」
不安そうにしている姫様を抱き寄せると
「…ありがとう、遠慮なく頼るね」服を掴んでいた力がより強くなる。
「うん、出来ることがあれば、何でも言ってね?」ぽんぽんっと肩を叩いてあげると
「んじゃ遠慮なく魔力タンクとして頑張ってもらうね!毎日、アレ飲んでね!!」
にぱーっと屈託のない笑顔で思い出したくない味のドリンクを毎日飲めとえぐい要求をしてくる…もしかしなくても、はめられた?
「姫様も飲むんだよね?」にっこりとした笑顔の人に質問を投げかけると返事が返ってこない…
耳に手を当てて「…ぇ?」聞こえないふりをしないの!!
肩をがっしりと掴んで、正面から凄む様に「飲むよね?」圧をしっかりと言葉と手に乗せていくと
「・・・・はい、飲む」観念したみたいで眉をひそめてうげぇっとした顔をしている、あの味を思い出してしまったのだろう。
あの味に慣れないとなぁ、飲めないことは無いんだけど、飲まなくてもいいなら飲みたくないよ。うげぇ…
気を取り直して、作戦があるのなら聞いておきたいよね?
「それで、今後はどうするの?」私も準備とかいろいろとしないとね全貌があるのなら教えてほしい
暫く沈黙した後、ゆっくりと姫様の口が開くと驚きの内容だった
「…話したくない」ん?なんで?なんでさ?
「どうして?信用できない?」あれかな?私が知ってしまうと動きに制限されるやつ?それとも外部に漏れると困るやつ?
「ううん、違うの作戦の全容を聞いたら絶対に怒ると思うから言いたくないの」掴んでいた服がさらにしわしわになる。
怒る?作戦内容で?…考えよう、私が怒る内容について、そうすれば自ずと作戦内容が見えてくるはず。
私が怒る内容ってことは、姫様が単独で自爆覚悟で特攻したりとか?それともベテランさんとか?
応えに辿り着きポロリと言葉が漏れでる。
「あ、そうか、命を使用する作戦ってことだ。何かを犠牲にする作戦ってこと?」
私の考えがあっているみたいで姫様は肯定してくれる、けれど、想像以上の内容が返事として帰ってくる。
「うん、そう、概ね正解、王都から南にある都市全部を犠牲にする」
・・・ぇ?どういうこと?なんで?
「うん、言葉の意味の通り、敵の位置が掴めない以上、対策をどうしたらいいのか、やりようが無いの。ある作戦を覗いてね、その作戦を決行するためにも、少しでも多くの人達を王都よりも北に向けて出発してもらって、今まで住んできた街を放棄してもらうの」
あ!そういうことね!…よかった、南の街に住む人類全てを犠牲にするのかとおもったけど、そうじゃないのね。
「でもね、この作戦を決行するうえでどうしても、最低限、ある手順を踏まないと実行できないの、たぶん、それが団長にとって一番、怒るポイントだと思う」
そりゃぁ、今までの生活を捨てての移動なんて生活するために必要な仕事を全部放棄しないといけないってことはさ、生活苦になってしまって、ぁ、そうか受け入れ先である王都が受け入れないかもしれないってこと?難民になるからかな?
「難民が増えるってことかな?」姫様に自分の考えがあっているのか確認するが答えはNO,首を横に振る
なんだろう?難民が発生することがいけないの?それとも、難民を受け入れたくない?
「そもそも、王都が難民を受け入れない?」
あ、これはYESなんだ、こくりと首を縦に振ってくれる。そうだよね、王都よりも南には数多くの街があって、その全て王都に辿り着いたら住む場所がないから、受け入れようがない、ある程度なら可能だと思うけれど全ては受け止めれない。
「でも、王都から最善の街までの間ってさ、土地って結構、余ってるし、所有権も王都所属の土地じゃなくて、大半が最前線の街管理の土地になってるよね?」
土地の所有権を確認するとYESと頷いてくれる!
「だったら、さ、王都が受け入れなくても、私達なら受け入れることは出来るよね?建物がないから、野宿になるけど」
そうだよね建物がないから、野宿になっちゃう、テントの数も豊富にあるわけじゃないし、適当な布で作ってもいいけど雨が降ったら最悪だよね?環境が悪いと病気も蔓延しちゃうから、よくないしなぁ、どこかに、安全な場所って
そこまで考えが、思考がある場所に行きつくように辿り着くと、稲妻のような閃きが湧いて出てくる
「あ!まって、それにほら、最前線の街にはどうしてか知らないけど誰も済んでいない建物がいっぱ…ぇ、そういうことなの?」
前々からずっと謎に思ってきた、最前線の最奥、死の大地とこの街を獣から守るために作られた城壁ともいえる壁からもっともっと王都側にある商業施設エリア、女将がお店を出してたり、お洋服のお店があったりするエリアがある。
そのエリアの殆どが2階建てとか、3階建てになってて、しっかりと居住エリアとしても完備されている、住む人がいないのに、どうしてか知らないけれど、王都の一等地クラスの人が住むとしても遜色のない、
非常に居心地がいい完璧な家が数多く立ち並んでいる。
こんなにも街としての機能を要しているのか謎だった、商業だけだったら、住む必要性は左程いらないと思っていた、だって、私達、最前線の街で働く人はちゃんと寝泊まりするための寮があるし、必要ある?って思っていた、まさか、このため?
「うん、私個人でね出せる範囲でもいいから予算汲んで、もしも今後の作戦に必要な資産が足らなくなると困るから、影響の出ない範囲で、尚且つ、大工さんの手が空いているときに出来る限り、無理のない範囲でコツコツと建てたエリア」
あれって、何処から予算を組んでいるのか知らなかったけれど、姫様の個人資産からだったんだ。
「建ててる最中もね、じみーに反発があったんだよ?だって、今現時点で必要がないから、どうして建設するのかって、方々から反対の声があったんだよ?」
そりゃねぇ?使う予定のない家なんて、どうして建てるんだろう?ってなるよね?ただでさえ、油断すると上空から強襲さえる可能性がある街で、無駄に建物を増やすのかなってなるよね?
「みんな、不思議そうな顔してたもの。無駄金じゃんって色んなところから声が出てても、趣味があるからこそ頑張れる人の為!ってごり押して、納得してくれなかったけれども、頼み込んで、しっかりと手を抜くことなく作ってくれた、あのエリアはね、来る日に備えて難民を受け入れるために作ったエリアなんだ」
そうだったんだ、てっきり、もっともっと、死亡率が低下して、姫様の名声が高まってきて、色んな人材が自ら来てくれるようになってきたから、街に人が増えてきているから、いつか寮だけじゃ入りきらない為に備えてなのかなー?って、それにしては気が早すぎないのかな?って、疑問には思っていたけれど、この事態を見据えていたの?
「それにね、商業エリアからね、農業エリアってね、そこまで離れていないからね、歩いて行けるほど近いから、今まで農業とか営んできた人たちも安心して、働けるようにしてあるの」
そうなんだよね、だから、女将の家族のことを考えて、そういった配置にしてあるのかな?って思ってたけど、ちゃんと意味があったんだね、姫様は好きな人には徹底的に甘いところあるから。
「でもね、難民を受け入れるとね、どうしても、大きな一つだけ、なんだけどね、問題が浮上してくるの、団長はその問題って、なんだと思う?」
「食料!」きりっと素早くこたえる、けれども、自信満々に答えたんだけど、姫様の反応がよろしくない、間違えたみたい。
「ぅ、ぅぅん、違う…そりゃ食料も大事だけど、ぶっちゃけると我が最前線の街が開拓してきた農業エリアは王都全てを賄えるほどの食糧生産能力があるから何も問題ないの」
ぇ?食料の生産量ってそんなに多かったの!?
「この街は、何も、私が起こした産業だけで潤っているわけじゃないんだよ?」
売り上げの多くは姫様が作った便利な魔道具だとずっと思っていたけれど、いろんな産業がしっかりと機能しているんだね。
「あ~そっか、そうだよね、思い出してみれば、団長って、あんまりそっち方面の会議に参加しないもんね、この街は畜産も農業も成果がずば抜けてて、王都と、最前線の街全ての食糧庫になってるんだよ?ちゃんと色んな街に最前線で作られた作物が届けられているんだよ?」
なるほど、確かにこの街で飢えることは絶対にないって豪語するのはそういうことなんだ。ほかの街から仕入れているからってことじゃなくて、しっかりと地産地消をしてきたってことなんだね。
食料の問題じゃないってことは、新しい人が起こす問題…ぁ!じゃぁ治安だ!子供のころ、家の近くに見慣れない人がいると、ご近所の人達みんな、警戒してたから、きっとそうだよね?治安問題じゃないのかな?姫様は人の悪意がどうのこうのってよくいうもんね!
「治安でしょ!」ドヤ顔でいうと、んん~っと呆れられた顔をしている
「治安もくそもないよ、この街に来れる人でそんな悪事を働こうとする人なんてそうそういないよ、職も仕事も何もかも満たしてあげるから犯罪に手を染める人はそうそういないよ」
言われてみれば、そうだよね仕事があって、ご飯も美味しくて、家族も笑顔だったら、わざわざ、犯罪を犯す必要性ってないのかも?
「人はね、食べる場所、寝る場所、仕事をする場所、生きるのに必要な物がそろっていたら、そうそう、犯罪に手を染めないし、この街で犯罪をしようものなら、デッドライン特攻の刑に処されるから、やる勇気はないよ?一応、この街の騎士部隊の人達が敵の侵入を許さないためにも巡回警備しているし、団長は知ってるよね?この街の騎士部隊が如何に優秀なのか?」
うん、もちろん知ってる、弱小領主が抱えている私兵団に比べたら練度も個人的な総合力も段違いに差があるよね。
それに、そんなえげつない刑罰をちらつかせられたら誰も、犯罪に手を染めないようね、見つかる=死だもんね、処刑されるんじゃなくて恐怖に怯えながら、誰も見送ってくれない孤独な死って、相当辛いよね。
なんだろう?本気でわからないんだけど?ほかに何があるのだろうか?
応えに辿り着けない私を見かねて答えをサラッと教えてくれる
「王都と教会が許さないの」その声は冷酷に冷淡だった、姫様は言いにくいことや人の悪意に関することをいうときはいつも、冷たい声で淡々と言葉を発する。
…ん?なんで?難民を受け入れるのだから王都の懐が痛むわけでもないし、治安が悪くならないし、いいことづくめじゃないの?あと、どうして教会が出てくるの?迷える人達を救行為って尊い行為じゃないの?
姫様の言葉の意味を考える、納得が出来ない。
「そうだよ、迷えいし心の安寧、救いを求める難民を、心も体も何もかも、満たされるように救ってあげるなんてそれはもう、たいそう素晴らしい出来事じゃん?とうぜん、そういうのってさ、本来実行するのってさ、どこの立場の人だと思う?」
その言葉にはっとする、そうじゃん、そうだよ!教会だ、今まで信仰して寄付とか清掃とか色々としてきてもらった尊き信者を守るのが教会の仕事じゃない!!
その仕事を奪っちゃうから、メンツが潰されるってこと?
「教会って、そんなにダメなところなの?メンツなんて気にしないで喜んで手助けしてくれるものじゃないの?」
幼い頃に掃除とか讃美歌とかいろんな行事をお爺ちゃんやお祖母ちゃんと参加してたから、そんな、悪い場所だとは思えないんだけど?メンツぐらいで怒るような組織なの?
私の言葉に姫様が一瞬、遠い目をした後、切なそうな声で教えてくれる
「うん、ある日を境に一気にダメになったんだ、たぶん、団長が幼い頃からかな?そのころから、ゆっくりと内部が腐っていったと思うよ?団長はさ、教会が柱にしてる信仰って何か知ってるよね?」
「月と始祖様を信仰の対象としてるのでしょ?」これは自信がある、一応、熱心ではないけれど、信徒だからね?ちゃんと教会でのお話はいっぱいいっぱい聞いてきたからね。
「もう一つ忘れてるよ、昔から一番、信仰の対象だった、アレが抜けてるよ?」
・・・あれ?おかしいな、結構、幼い時から神官さんのお話は聞いてきたと思うけれど?なんだろう?
「聖女伝説と、深い結びつきがある神様、昔はね、世界情勢が病とか戦争とかで、この大陸全土が人の心も荒んで苦しくて、食べるものも少なくて犯罪も多かった時代があるの」
神様はわかるけれど、神様と結びつきが強い聖女様?…聖女様伝説って詳しい無いから、何も言えない。
「教会内部で、小さくもめ続けているのね、聖女様伝説と始祖様伝説、どちらが民衆の支持を得られるのかって」
どちらも大事じゃないの?人類を救世したのだから、そのどちらも神様からの御使いじゃないの?二つの教えがぶつかることっておかしくない?
「結果はね、今の人達は古すぎる聖女の伝説よりも、資料もいっぱい残ってて絵本もいっぱい出てる、民衆の身近に存在している、始祖様信仰が勝ってるよね。それによって、教会内部の、昔からある教会の始まりでもある、聖女様伝説を信仰している一派が追いやられてしまったの、その結果、信仰深い神を信じている人達がどんどん、王都にある教会から爪弾きされて、王都の教会は、信仰心が薄い人たちで構成されてしまって腐り果てたんだよ」
そうだね、私も始祖様のことは信じているけれど、聖女様のことは、信じていないかも。
でも、始祖様を信仰するのは良くないことなの?救世主を待ち望んではいけないの?
「聖女様が提唱する教えは、清く正しくをもっとうとして、尊き行為を推奨する教えだけど、始祖様の教えは違う、捉え方によっては力こそ正義、清く正し生きる?それよりも、明日を勝ち取る力を求めよって解釈できてしまうの」
この力で全て解決できるのは救世主である始祖様だからこそであって、弱い私達は隣人と力を合わせて困難に立ち向かえって教えてもらったけれど?違うのかな?
「うん、違わないよ。その教えで正解。でもね、貴族たちは違うよ?始祖様の教えを自分たちの尺度で解釈してるからね?その殆どが、力さえあれば何をしても許されると解釈してるよ、そんな貴族が支援している王都の教会が、こんな未曽有の事態に、何も付け入るスキを与えないで、私達が横やりして犠牲者無くして信者を囲ってさ、教会のプライドとか矜持とか関係なしに完璧に助けてしまったらどう思う?」
誰も犠牲が出ない最高の結果じゃないの?何か困るようなことあるの?
「完璧すぎる救済は、聖女様の再来と認定されてしまって、王都にある教会は始祖様一派が中心となるから、完璧に救済してしまったら私が聖女様の再来、再誕、降臨、そのどれかを謳われてしまって、私と助けた民衆が教会と真っ向から衝突することになるの。」
そこまで愚かじゃないでしょ?衝突する意味ってあるの?
「バカみたいだよね。人を純粋に助けたいだけなのにね、聖母のごとき慈悲深き行為を嘲笑うかの如くあいつらは反発するよ?自分たちの立場が危うくなるから…だから、確実に邪魔される、その結果、手遅れになる可能性が浮上するの、私が念入りに準備してきた策が間に合わなくなってしまうとね、結果的に王都も危険になる」
王都も?王都から南が危険地帯になってて、獣が王都に侵入するってこと?王都騎士団がそれを許すとは思えないけれど?…一匹だけじゃない可能性があるってこと?
そ、それじゃ、どうしたらいいの?どうすれば、全員を助けれるの?
つぅっと姫様からゆっくりと涙が頬を伝い、悲しそうに絶望した顔で
「一定数の人を見捨てないといけないんだ」
どうしようもないよね、あははって涙を流しながら悔しそうな表情をし、大粒の涙を流した後、感情が抑えきれなくなって私の胸に顔を押し付けて声を殺し為に、口を閉じて声が漏れないように泣き叫ぶ。
感情が高ぶりすぎている姫様が落ち着くまであやしてあげる、どうしても姫様は救えない人がいるのが許せない人で、救えたかもしれない人が死ぬ未来を嫌がる。
きっと、幼い時にお母さんを救えなかったことが起因になっているんじゃないかなって思ってる。
遠い遠い関りが薄い人でも、少しでも縁があるのなら、救いたい、そんな人たちを救えたかもしれない、その後悔の念に堪えられないのだろう。
姫様は万能の神様じゃないのに、全てを救うことなんて無理なんだよ、不測の事態は絶対に来るものだよ?
…非情になって有情を消して見捨てろ言えないよ、だって私だって涙は出ないけれど、助けれる人を助けないなんて、怒りが込み上げてきてるもの、姫様が感情を爆発させてなかったら私の感情が爆発している。
どうして、一定数の人を見捨てないといけないの?どうして、失う前に行動をしてはいけないの?救える命を救わせてくれないの?…人ってこんなに愚かだったの?
私が教えてもらった教えは…なんだったの?意味をなさないの?幼い時に教えてもらった全ては幻なの?
ねぇ?お父さん、私達が頑張って救ってきた命は、無駄なの?頑張ってきた証は無意味だったの?お父さんは、そこまでわかってて、尚且つ、人類の為に命を使ったの?
何を想って、自分の未来を、自分が居なくなってもきっと誰かが世界を救うバトンを受け取るって思ったの?
…お父さんは無駄死になるの?
もう、わかんないよ…お父さんが僕に教えてくれた騎士たるもの弱きものを助け、弱きものを導き安寧の地へと誘うものだよって言葉は。いったい何なの?
お父さんから教えてもらった数少ない言葉
教会の神官から教えてもらった尊き行い
お爺ちゃんやお祖母ちゃんから教えてもらった人としての生きる道
お母さんから教わった、生きる為に必要なことは、助け合って生きること
この全てを否定されてしまった気分に陥る…もう、人は滅んだ方がいいんじゃないの?人は穢れてる。
人は、救うってしまってもいいものなの?ほろんだほうが
ぱんっと頬を掴まれ真正面から
「穢れてません!貴女は、あなたの考えは立派です、尊き考えです、絶対なる善性のものです、お願いだから見失わないで」
メイドちゃんの目から零れそうなほどの涙を浮かべながら、私の考えを否定してくれる。
もう少しで、自分の全てを否定された気分になってしまって、取り返しのつかない心に堕ちるところだった。
「ありがとう」
それを気づかせてくれたメイドちゃんを空いている方の腕で抱き寄せてお礼を言うと
「はい、貴女は私にとって聖女様なんです、お願いです、ずっとずっと、何があろうとその高き志を失わないで」
私は本当にダメダメだ、色んな人に支えてもらって導いてもらってばっかり、迷わない、私を導いてくれた人たちから受け取った優しさを間違えない履き違えない。
ずっとずっと、繋いでいく、何があろうと、私が受け取った明日へと繋ぐ人を想い慈しむバトンを、汚さないで綺麗なままで渡し続ける。
私が止めていいバトンじゃないよね?ごめんね、お父さん、一瞬でも疑ってしまって。
二人の感情の高ぶりが落ち着くまで、三姉妹仲良く抱きしめあう、私達はずっとずっとお互いの感情をぶつけあってきている、支えあってきている
本当の姉妹以上に。
二人とも落ち着いたみたいなので話の続きをすることに
「ねぇ、絶対に一定数の人を見捨てないといけないの?」
頭ではわかっていても、心では、どうしても納得できない部分
「うん、だって、今から全ての街に御触れを出してね移動してもらうことはやろうと思えば出来るの、私達側の王族がいるから、その人経由でアクションを起こせば絶対に動かせれる」
そんな太いパイプがあるのなら、実行してよ!!助けれるのなら助けようよ!!どうしてできないの?…王都が危険にさらされるから?王都にはお爺ちゃんもいるし、並大抵のことなら、たぶん、滅ばないよ?
「この方法を使うとね、絶対に反発が起きてしまうの、民衆はね?犠牲が出ないと動かないんだ、失ってからしか動けない愚者ばっかりなんだよ、ごめんね、犠牲という恐怖と不安がないと今まで住んできた土地を放棄する決断ができないの」
言われてみれば、そうだよね、だって今までずっと安全だったのだから、この街がある限り獣たちが襲い掛かってくるなんて、誰も想像しないよね?
絶対的安心に日常を営んでいるのだから、説得するのに材料が少なすぎる。
そういえば、王族からの信頼は落ちてきているって誰か言ってた気がするし、そんな根拠も何もない御触れなんて、反発しちゃうよね?
でも、姫様が先導して行えば、民衆は耳を傾けてくれるんじゃないの?
「でも、反発があったとしても、アクションを起こせるじゃない!助けようよ!罵られてもいいから助けようよ!姫様が前に出れば言うこと聞くよ!」
姫様に助けれる人が居るのなら罵倒されてもいいから助けるべきだと説得するが
「反発は民衆だけじゃなく王族内でも発生する、当然だよね、何の権限があって街を放棄しろなんて大それた御触れをだせるかってこと、王様でも躊躇う内容を勝手に発動しちゃったらね、私達側についてくれている人の身が危なくなる、その人の地位が危うくなると発言権が無くなる。そうなるとね、この先に待ち受けている人類存続するための作戦が発動できないの…」
ぇ?どういうこと?先ほどの策って、王族の支援がいるってこと?
「それはね」
バンっと大きな大きな音と共にドアが開きベテランさんが声を荒げながら
「姫様!指示を求む!!獣の軍勢が、王都の南の街から報告が上がった!!」
終わりの始まり、人類滅亡へのカウントダウンが始まった
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