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人類生存圏を創造する 始祖様の秘術をここに 5

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南の砦から見て東側にあり、海から見て団芸絶壁の高所となり、壁を創るのに適した大地
その果てに到着すると同時に、人類の未来を背負い、大陸で最も優れた術士である人物が神の如き御業を、偉業を、秘術を

発動する

次々と建てられていく、大きな大きな壁、高さは人を縦に20積んでもより高く
側面から見た壁の分厚さは想像以上に分厚く、剛力無双の粉砕姫が全力で殴り飛ばしても体当たりしたとしても揺れる事すらない程の厚み

実際に試してみたのだから間違いはない。

間違いなく屈強であり頑丈、これであれば、獣の軍勢が一斉に体当たりしたところで崩れたりはしないだろうが、スコップなどの土を掘る道具や爆発するものを多用すれば、突破はできるだろう。

大陸全土を見渡しても彼女以上の術士はいないであろう、大陸最良の術士である彼女が神の御業を発動する。
その御業は多量の魔力を消費する、触媒である背中に背負った大型魔石が経ったの一度で、魔力が空っぽになってしまうほどである。

仮にこの魔力量を王都の民草が日常生活において使用した場合、炊事、洗濯、照明等で使用する魔力に置き換えると、王都全土に使用される魔力量、その丸一日分を軽く賄えるほどである。

それ程までの絶対的で恐ろしい程の魔力を消費して生み出される土の壁は高さ30メートル以上、奥行き10メートル近く、幅凡そ、100メートル
大陸で最も優れた術士だからこそ、出来る早業、これ程までの土の壁を生み出すのに使用した時間はたったの10分ほど…
伝説では、これ以上の幅を持たせた壁を創ったのにもかかわらず、使用された時間は、鼓動を感じるよりも早くだったのだと記載されている

壁を創り、壁の端まで移動し、空っぽになった魔石を交換し、術式を展開する

これを繰り返す事、4回目になろうかというときに後続で出発してきてくれた、第一陣に使用された車よりも大きな、大きな貨物車が現場に到着し魔石や、人材を運んできてくれる、大陸最良の術士指導により、第二陣と共に到着した王都が誇る魔術士部隊の精鋭である術士が術を理解し、説明された手順で展開する。
展開するのだが、最良の術士が一人で演算などを行い、御業を構築するのに対して、王都魔術士部隊、部隊長であらせられる二人は発動するのに、二人係で術の発動を行っている。
二人が掛かりで御業の術式演算を担当したというのに最良の術士が壁を創造するのに必要とした時間と比べると、作業時間が非常に遅く、同じ大きさの壁を創るのに一時間もかかってしまっていた。

幸いなのか、不幸なのか、魔石から魔力を取り出す魔道具は一つだけなので、彼らが二人係で壁を創造している間は、最良の術士は傍らに控えている美女たちに接待されながら、時折なるベルの音が鳴ると誰かと話をしているようだった

「誰が美女なの?」「私に決まってるじゃない」
私を背もたれにしながら魔力を注がれている姫様に作戦レポートを書くならこんな感じ?っと口頭で説明しながら、今が非常事態なのかと忘れてしまいかねない程、緊張感のない休憩を取り、姫様の番が回ってくるまでまったりと過ごしている。

もっと焦ったりするのが、正しいのだろうけれど、姫様が言うにはこの後、確実に辛くなるから休めるときに休みましょうっとのこと

なので、今後は、1時間ごとに交代でいいんじゃないのかな?
今は、王都から応援で来てもらった術式を専門に扱っている王都騎士団魔術部隊という狭き門の中でも更に狭き門である部隊長二人係で作業をしている。
それ程の肩書を背負っている人達に、1時間ごとに交代でもいいのよって伝えると「我々にも意地とプライドがあります!」っと、涙ながらに懇願されたので、
「自分の限界を感じるまで作業をしてもらって、満足したら交代すればいいよ」っと、突き放すような姫様からの提案により一時間以上過ぎていても作業を任せている。

女将に、後続で来た車から資材や物資を受け取ってもらう、また、此方で使用して空っぽになった魔石も積んでもらう。
作業が終わったら、車が近くの大きな街に向かって走っていく

どうやら、近くに多くの人が住んでいる街があるのであれば、そちらに住む領民全員で魔石に魔力を注いでくれるように宰相が手筈を整えてくれていたので、魔石を運ぶサイクルが非常に速くなりそうなのはいいのだけれど、魔力が蓄えられた魔石が増えたとしても、その魔力を引き出す魔道具が無いと、作業効率が上がることはなさそう

後、良いことなのかどうか、判断に悩む内容なんだけど、魔力を渡し過ぎたせいもあってか、魔力譲渡術を極めてしまったかもしれない、魔力を注ぎこみながら、集中力が切れることなく、他の事を考える余裕が出てくるようになってしまった…これが世に言うマルチタスクという何かをしながら別のことをするという特殊技能…医療の現場だと普段から普通に日常的にしてることが多いけどね。

どうして、極めたと感じるのかというと、魔力を流す際の放出する度合いも微調整が出来るようになってきていて繊細な譲渡も可能にしている。
体から生み出される魔力を無駄にすることなく綺麗に渡しきることが出来ていると自信がある。

内なる自身に感無量の気分を味わっていると
「…無理してない?」
水分を補給しながら私の膝の上で地図を見ている、姫様が声だけで心配してくれるので素直に返事を返す
「…大丈夫、不思議とね、辛くない、魔力が湧いてくるような感じがするの」

暫く沈黙した後

「…うん、ごめんね」
深い意味がありそうな沈黙の後に謝罪が聞こえてきたけれど、真意は聞かない、いつかその時が来れば話してくれると思うし、察しはついている

犠牲無くして得るものはない

自身の魔力精製器官を酷使している状況に慣れつつあるという状況に実感を感じていると、女将がノシノシとこっちに向かって歩いてくる
「姫ちゃん、資材を運び終わったよ」
女将には、壁を建設する間の警護と、近くの領から建設関係の応援が来る手筈になっているので、壁の近くに、王都からの支援物資を車から降ろし、壁を補強するための道具や資材を運んでもらう仕事を頼んでいる。
創造した土の壁に階段を設置し、頂上を城壁の様に設備を整えて強化しておいた方が後々の事を考えると得策だと、姫様が判断し宰相にお願いしたので、そのような手筈になっている。
「ありがとう、力仕事ばっかり頼んでしまって、ごめんね?」
最近の姫様は謝ってばっかり、自分の予想が外れたり不測の事態が多すぎて迷惑をかけてばっかりだと考えているのか、純粋に魔力欠乏症からくるネガティブ思考に負けてしまっているのか、その何方かだろう。

「あやまんなくていいさぁねぇ、何もしないほうが辛いからねぇ…」
女将の視線の先を見ると、必死に二人係で壁を創造している術士を見ている。
女将も私も術式をメインで扱っているわけではないので専門の方に比べると理解度も熟練度も大きく劣る

現状では仕事が少なく、手持ち無沙汰になっている。
戦乙女ちゃん達は遠見の術式が施された望遠鏡を使って敵が来ていないか偵察する仕事に就いている。

敵が居ないのであれば、女将の仕事や戦乙女ちゃん達の仕事は殆どない
魔力を魔石に込めるのという提案があったのだが、姫様がその案を却下する、理由は、焼け石に水なのでしない、大型の魔石に魔力を多少注いでところで意味がない。と、女将たちの意見は一刀両断された。

魔力が余っているので少しでも利用したいのか?とはいっても、魔力譲渡術はしっかりと研修を終えてから出ないと危ないのでさせるわけにはいかない。

女将がどかっと地面に座ると、壁を創造する音がしなくなったので、視線を術士二人組に向けると限界を迎えたみたいでぐんにゃりと両膝から倒れるように座り込み、項垂れている
それを見た女将が座ってすぐなのにおいしょっと掛け声を出しながら立ち上がり、項垂れている術士から魔道具を剥ぎ取り、魔道具を此方の近くに持ってきた後、術士二人を車の中に運び込むために、車のドアを開けてから、ゆっくりと丁寧に転がっている術士を脇に抱え込みやすい姿勢に換えた後、どっこいせっという掛け声と共に、二人を両脇に抱え車内に放り込みドアをバタンと閉める

その音と同時に、姫様も行動を開始する、私の膝から降りると手に持っていた地図を渡されるので受け取り畳んでポケットに入れる。
私も立ち上がって魔石が搭載された魔道具を持ち上げて姫様に背負ってもらう、重たいので後ろで支えてあげようとすると「大丈夫、あたいの仕事さ」女将が片手で背負うタイプの魔道具を持ち上げることで姫様に魔道具の重みが乗らないようにしてくれる。

あの重みを片手で軽々と持ち上げるなんて、本当に逞しい、世にいる戦士が羨む体躯なだけはある。

姫様の補助は女将に任せて医療班の私が出来ることをする。
車の中でダウンしてしまった術士のケアに移るとしましょう。

車のドアを開けて中に入っていくと、椅子の上に這いずって何とか乗ろうとしているが、気力不足で辿り着けず上半身だけ椅子の上に乗せてダウンしている
もう一人は、動く気力すらなくなって、床に転がったまま

中に入って上半身だけ椅子に乗ってる人をしっかりと椅子に座らせ、床に転がっている人の肩を叩き、上半身を介護するように起こしてあげてから、何とか立ち上がらせ腰を支えながら椅子に座らせてあげる。
魔力測定器で測定してから判断するのが医療手順としては正しいのだが、問答無用でぐったりしている人の顔を上げ口を開かせ、鼻を摘み、瓶のふたを口で開き液体を口の中に流し込み口を閉じさせ「お薬です飲んでね」と耳元で囁くと、悶えるような表情と声にならない声を叫んでいる。
だが、絶対に口を開かせないように顎を持っているので声が口から出てくることは無かった、ごくりと喉を液体が通るのを確認した後、口直しの飲み物を渡して「お口直しです、お辛いようでしたら飲んでね」と優しく声を掛け、飲めたね偉いねっと頭を撫でてから、もう一人も同じようにする。

二人の処置が終わると、姫様と女将は結構遠くの方まで進んでいたので、追いかける準備をする

気が付くともう100メートルくらい移動しているので流石は姫様って感じ。

休憩用に出していた椅子などを車の屋根に載せていると遠くの方から此方に向かってくる車が見える
もう次の便が来たのかと驚きつつも移動の準備を続けていく

準備が終わるころには此方に戦乙女ちゃんが走ってきて「すいません!片付けをさせてしまって」慌てて車の運転席に乗り込むので、私も素早く助手席に座り、移動していく、移動先は現在作業している場所よりも少し離れた場所、女将と姫様が作業を終えるであろう位置まで移動する。

移動が終わった後は先ほどと同じように椅子などを取り出し、通信用の魔道具を机の上にセットしていくとベルが三回ほど鳴り声が聞こえてくる
「聞こえますかー?」どうやら、移動の間、通信をオフにしていたので、その間に何かあったみたい
「聞こえてますよ、声の感じからして緊急事態では無さそうだけど?」非常事態だと感じさせない程、ゆったりとした声が聞こえてきた
「繋がった!其方で何か事件が起きたのかと不安になりましたよー、此方からの定時報告です、お爺様が率いた部隊によって戦線は安定しております、先ほど、ベテランさん率いる部隊が人型を仕留めて敵の亡骸を確保して尚且つ、敵が用いていた魔道具が破損はしていますが、入手しましたー!」
吉報を伝えるのが嬉しいみたいで声のトーンも高く、遠くにいて声だけしか聞こえないのにメイドちゃんのにこやかな笑顔が脳内に映し出される。
「よかった、心配してたんだよ、被害状況は?」
医療班のTOPとして担ぎ込まれた人達の安否が気になる
「…すみません、救えない命が多く8名ほど殉職されました…」
状況が状況なので、致し方ないのだけれど、悔しいという感情が変わることはない…

「…そう、ごめんね、悲しい報告をさせてしまって」私がそこに居れば救えたのかもしれないと傲慢に考えてしまう、救える症状だとは遠くにいるから知りえないのにね
「いえ、此方こそ心配をおかけしました、状況が安定してきたのもあって多少のゆとりが生まれてくれたのが一番の救いです…」状況が激しく変化していくのに、司令官である姫様がいないのは辛いよね、こういう状況になると予測して画期的な魔道具を用意していた姫様に感謝だね
「そうね、こちらも驚くほど順調、南の砦も非常に安定している、姫様が一番危惧していた敵が陸に出てこない分、作業を急ぐ必要性が低いけれども…ゆっくりし過ぎるわけにもいかないものね…」もう一つの危険因子の存在が気になるけれど、それをメイドちゃんに伝えるのは不安にさせるだけなので、伝えるべきなのかどうか、私では判断が出来ない。

暫く、言葉に詰まっていると
「団長」メイドちゃんが切なそうな声で呼びかけてくる、どうしたのだろうか?
「…私情で申し訳ありません、一言だけ、一言だけでいいので…応援の言葉が欲しいのです」
独りで不安なのだろう、震えるような声で懇願されてしまってはね・・・

「大丈夫、メイドちゃんだったら大丈夫、頑張れ、負けちゃだめよ。応援してるからね」
優しく優しく、子供をあやす様に声を出すと
「・・・・・・はい!!」いつものように元気な声が静寂な野原に響き渡る、その声を聞いてこちらも安心する。
メイドちゃんには辛い立ち位置を要求してしまっている負い目も感じているので、姫様は何も思っていないと思うけれども、私はそういうのを感じてしまう。

もう一つの通信魔道具から連絡が入る、南の砦を守っている宰相からも定時報告だった。
宰相からの連絡も終始穏やかで、逆に嵐の前の静けさなのではと、不安を覚えてしまう。

姫様の予測は当たることが多い、直近の状況で情報が数多くあればほぼ、確実に正確に予測できることが多いのだけれど、不安材料が多く、現状どの様に転ぶのかわからない相手の情報も乏しい状況だと予測が外れることがある

今回に限り、最悪の予測は外れて欲しい

私達の街が、王都が精鋭である近衛騎士達が守護する南の砦が、5分も経たずに戦線崩壊、全滅する恐れのある敵が攻めてくるなんて…
一瞬だけ、想像してはいけない情景が脳裏に描かれ、土地の影響も重なり寒くなってしまった。

そういえば、私達の街にある高い場所もここの様に肌寒い、ああ、そうか、きっとメイドちゃんも心も体も寒くなってしまって、暖かい心に触れたかったんだろう。
全部終わったら、また、皆でゆっくりとお風呂に浸かりたいな…

戦闘服を引っ張り、すんすんと自身の匂いを確認すると、嫌な臭いがする…ぅぅ、お風呂に入りたい、むさ苦しい雄の匂いがする。。。女の子の香りになりたい。。。

壁が創造される地鳴りが近くに鳴ったので音のする方に視線を向けると、大きな大きな壁がせり上がっていく。
先ほどまで何もない場所に凄い速さで地面が凹みその中心で高い壁がどんどんと高くなっていく瞬間を見ると、奇跡が目の前にあるのだと実感が湧いてくる。

これ程までの高い壁を土、石、レンガ、などの建築資材を使って建設する場合、どれ程の時間が必要なのだろうか?
ただ、土の壁を創るだけではなく、強度も申し分なし、見た目以上に頑丈にできている。
ここまで、がっちりと強度を高めるのを目的としただけでも相当な時間を有するのだろうと、素人でもわかる。

この秘術を残してくれたことに感謝という言葉しか湧き上がってこない部分もあれば、全部仕留めてから月に還ってほしかったという身勝手な考えも同時に湧き上がってくるのが人として傲慢なのだろう。

姫様がすれ違いざまに手を振って挨拶をしてくれるので、私も手を振って見送る、魔石の残量的にも時間配分的にも、後もう一枚、壁を築いたら姫様のターンは終了となる。

後方で土煙があがっているのが見えたので、望遠鏡で土煙の方を見ると、馬車が走っていくのが見えた、馬車の走る向きから察するに、壁がある方に向かっていると考えられる、きっと、領主が送り出した壁に階段などを取り付ける作業をするための人員だろう、現にこちらではなく、一番最初に築いた壁に向かって走って行っているのが見える。

色んなところで色んな人が生き残るために全力を尽くす、素晴らしい光景だと思えるし、同じ人類として同じ大陸に住まう仲間として誇りに感じながら、魔力回復促進剤を二本開けて一気に飲み干す

もう味に慣れてしまった、飲む際に抵抗を感じない、感じないけれど、それはそれ、これはこれ、すぐさま口直しの飲み物を飲んで中和する。
慣れたけれど耐えれるとは言ってないからね!!

気が付くと日も暮れようとしているので、野営の準備をする。
人員も増えたので、車中泊とはいかなくなってしまった、王都から応援に来てくれた人のテントを組み立てていく
野営の設営は久しぶりなので手際が悪く、上手にできず、四苦八苦しながら組み立てていく。

普段は部下にしてもらってばっかりだったから、コツを忘れてしまっている、それに用意されたテントは王都騎士団の所有物で、私達が普段から使っているテントと構造が違っていて、その、うん。苦手…
ペグを打つ箇所はここでいいのかな?天蓋がなんか皺寄ってるけど、どうやってピンと張れるの?あと、なんで若干傾いてるのかな?テンションのかけ方が違うのかな?紐の長さ?

寝れたらいいや、どうせ一晩で片付けるし

崩れないよう軽く確認をした後、焚き木の準備をし火を起こしていく、温めるだけで食べれる食料も支援してもらっているので、焚火の上に鍋をセットして材料を放り込み、液体を注いでいく、これがひと煮立ちすれば出来上がりで、後は乾いたパンに、保存のきく干し肉もある。
葉野菜が食べたいなぁっという我儘が喉から零れ出る

幸いにも周りには誰もいないので悲しい独り言に反応する人はいなかった。

野営の準備である、寝どころも、ご飯も、問題なく終わったころに、女将にお姫様抱っこされながらぐったりとした状態で姫様が帰ってくる。
あのハイスピードで壁を創造しているのだから、術式を起動するために相当な演算が必要ではないかと思われる、演算に必要な負担は想像を絶する程なのだろう、きっと、彼女の脳に深く鋭く負担が刺さり、響いているのだろう

だって、先ほどに比べて顔が真っ青になっている。

女将から姫様を受け取り魔力を渡していく、少しでも休めれたおかげで、休む前に比べて魔力を感じ取れる。

ぐったりとしている姫様にご飯を食べさせていく、少しでも体力を回復していただかないと、ね…

気が付くと皆も食事をとっていて、王都の術士二人もゆっくりだけど食事をしている、休憩した、したけれど、回復しきっていないって感じで1時間ごとに交代っていうのは無理があるのだと判断が出来る、姫様もきっと、これを見越して1時間サイクルを推奨しようとしなかったのだろう。
手持ちにある魔石の残量的にあと一巡はかるく出来そうだけれど、今日は休憩したほうがいい、作戦の要がこんな序盤で倒れてしまっては、今後の作戦が全て泡となって消えてしまう。

ペース配分を間違わずに、迅速に早急に作業を完遂しないといけない…矛盾している言葉だと重々理解している。
姫様が地図を見ていたのも現状のペースで間に合うのかどうかずっと、計算していたのだろう、素人判断でいいのであれば、このペースだと一か月くらいかかりそうな気がする

それまで、砦は耐えれるのだろうか?壁を創っていない箇所から獣の軍勢が攻めてこないのだろうか?姫様が警戒する敵がいつ投入されるのかわからない…
不安要素を上げれば上げるほど、焦ってしまう、そんなときにお爺ちゃんの言葉を思い出し噛み締める…焦ってはいけない

姫様に膝枕をしながら焚火に当たっていると、焦っていはいけないのに、気が付くと姫様が術士の人に説明するために用意していた術式の工程が書かれている内容を読みふけってしまう。

魔力タンクの私が術式を扱うわけにはいかないけれど、もしもに備えるのは大事だと思い必死に読み、術を展開する手順を頭にインプットしていく
気が付くと女将も戦乙女ちゃん達も私が読み終わった紙を手に取り理解しようとうーうーっと唸り声が漏れ出ながらも必死に理解し覚えようとしている。

月明りの下で、始祖様の秘術に触れていく、自然と天を見上げ空に浮かぶ月に目が行ってしまう、月夜は昔から体調が良いと感じ取れる
自然と魔力も湧き上がってくるので、魔力を無駄にしないように膝の上で眠っている姫様に注ぎ続ける。

私に姫様のような頭脳があれば、もっと作戦はハイスピードで進めれたのだろうか?

自分の傲慢さに呆れてくる、無い物ねだりばっかり

女将のような強靭な肉体を欲し、姫様のような術式に適した頭脳を欲しがる…
全て自分一人で解決したがる部分がある、誰かを頼りたいのに、自分で全てを終わらせたいと願ってしまう。

私の心は常に矛盾している、それがきっと、男性の部分と女性の部分と分かたれてしまった、根っこの原因じゃないかと今になって思ってしまった。
だって、男性の心では女将の肉体に憧れるが、女性としてはごめんこうむりたい。女性らしくありたいから
姫様のような頭脳を男性は欲している、女性の私としては責任重大なことばかり押し付けられそうで重責に耐えられないので逃げたいと感じてしまう。

欲しがりなのに、傲慢なのに、我儘ばっかり…
そんな自分が嫌になる…

魔力が体内から抜けていくからネガティブ思考に偏ってしまう、本当にメンドクサイ、どうして人はこんなにも環境や体調、外的要因、内的要因に左右されて心が揺れ動くのだろうか?
強い心が欲しい、どんな状況にも屈せず、どんな困難にも負けない鋼の意志が欲しい。

お父さんのような流されない信念が欲しい

弱々しい女々しい私を見て、お父さんは励ましてくれるのかな?それとも、怒るのかな?…
男として接してくるのなら怒られそう、女として接してくれるのなら励ましてくれそう、ふふ、お父さんにも難題を要求するなんて、本当に私は悪い人だね…

月の裏側にいるお父さんに想いを馳せながら月はゆっくりと傾いていく


傾ききったときに人類が生きている保証はないのに、私の心は落ち着いている、焦りもない、何処かで諦めているの?
ううん、違うわ…これは諦めじゃない、人類を信頼しているの、どんな困難だって一丸となれば、立ち向かえると私は信じている

嗚呼、そうか、この根っこにある、人を信じるという心がメイドちゃんが言っていた善性なのかな?…
この部分だけはどんなことがあっても流されずに私が女であろうと男であろうとあり続ける心

これが、信念なのかな?

だとしたら…

うん、これだけは失わないように生きよう、最後まで人を信じよう。
私が人を信じていけるのも、これからも信じようと思う心はきっと、私を真っすぐに育ててくれた人たちに笑顔で再開するためだから。


月夜に浮かぶお月様に問いかけるように自分と向き合っていく、そうすることで自然と不安も消えていき、ネガティブな思想も鳴りを潜めていく。
きっと、お父さんが、始祖様が、私の心に安寧を保つために語り掛けてくれたのだろう

感謝を込めながら目を瞑り祈りを捧げる


ベルが三回鳴るその瞬間まで・・・・

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