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幕間 私達の歩んできた道 3

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目が覚めると、メイドちゃんは仕事なのか姿が見えない、でも、置手紙が置いてあった

『生きて帰ってきてくれて嬉しいです』

その一言だけが殴り書きで書かれているので、急な用事でも頼まれたのだろう

病室を出て、直ぐにでも姫様の元へ駆け寄りたい、だけど、今この瞬間に足を運んでもいいのか、全員の意図を汲み取ると足が止まる、それにね、どこの病室に運ばれているのか知らないので病棟をうろつくのは良くない、うん、よくないよね、医療班全員を信じている。しんじてる…

外に出て少しでも気持ちと考えを入れ替えようかな。
久しぶりの故郷の様な感覚がするこの大地の空気でもめいっぱい吸い込んで、帰って来たんだよっと肺に満たして全身にこの大地の匂いを思い出せようかなと、歩き出すときに、ふと、病室で入院している人のネームプレートに目が留まる、やらかした人の名前…

悪運が強いわね、まぁ、生きている限り贖罪として奮闘しなさい、次は色をだすんじゃないわよ?
…あれ?No3の名前も書いてあるけれど、あいつも怪我してたのか。

どうりでね、あいつの性格を考えたら、真っ先に前に出てくるのに、出てこないから外勤務しているのかと思っていたら、怪我していたのね。

…あれ?それじゃ、誰が外勤務のメインを担当していたの?医療班が壊滅的状況だったってこと?

こればっかりはレポートを読んで状況を把握しておいた方がいいよね?

病棟の外に出ると真っ暗だった、最近は時間の感覚も日付の感覚も狂いっぱなしで今がどうなっているのかわからない。
ふらふらと深夜と思われる時間を独りでウロウロと歩いていく、歩いていく場所全てに思い出がある、長い長い時間をここで過ごしたのだと思う

私が16歳の時に、お爺ちゃんに相談して、この街に行く為に伝手を使って道を用意してもらった。

最前線の街に着いて会う人達に自己紹介で名前を名乗った瞬間に驚く程、色んな人たちから熱烈に歓迎してもらえて、驚いたけど、それ以上に期待される眼差しに嫌な予感がしていた。
この街にいる全員が私の事を勘違いしていた、全員が当然の如く、お父さんと一緒で戦士職だと前線で戦うのを希望しているのだと勘違いしていた。
あの戦士長が残した希望だのなんだと言われてさー、そっちの意味で熱烈に歓迎してくれていたのかと直ぐにわかったけどさ、おかしいよね?事前に提出した書類だと医療班志望だって書いてたのになぜかさ、戦士の部隊に配属されてしまって、その上、指導に当たってくれる指導員の方がさ、もう、驚くほどの熱い熱意をぶつけてくるんだよね、そうだよ、ベテランさんだよー、あの人って昂るというか、高まっていくというか、そういう時って話を聞いてくれない雰囲気になるのよねー。

だからね、徹底的にしごかれてさぁ…体重めっちゃ増えたもの…お父さんがデカくて重いからさ、それに近づけようとしてくれようとするのはいいんだけどさ、望んでないのー!お父さんの大きな体はそりゃ、戦士だったら憧れるけどー!そこまで鍛えちゃうと引き返せれないから、まだ、そこまでの決意はなかったの!

そりゃ、当時は物凄く復讐心に燃えてたし?出来るのならこの手で決着をつけたいとか、死の大地にいる全ての敵を羽虫一匹だろうと、残さず殲滅してやりたい!って、思ってたけどさぁ、私じゃ、返り討ちにあうのはさ、わかってたもの。
だから、少しでも死者を減らして、数の部分で有利にして、私の代わりに復讐を達成してもらえればいい、私が助けた人が私が殺したいやつを殺す。
これも、一つの復讐の形だと思っていた、だから、その、他人からするとやっぱり甘い考えだったのかな?うん、中途半端だなってのは今ならわかるかな、女性としての未練と、男性として戦士として生きる為の分岐点だと、今なら思えれるかな。

でもね、この時に運命の出会いがあったから、頑張れたっていうか、その人と一緒にいたいなぁって邪な想いも混ざってたよね?うん、打算的な考えがあったと思う。
この街に来てからの初恋!!そうだよ!つい最近、結婚して子供も出来て失恋しちゃった相手だよ!!はぁあ、16の時から好きだったのになぁ…どうして、あんな恋愛とか小ばかにしていた人と結婚したんだろうなぁ?ちょくちょくジャブで恋バナを仕掛けるんだけど、絶対にそういう話題をしなかったから、興味がない人だと思ってたのにー!!うらぎりものー!幸せになれよチキショウ!!

そうだよー、同期で一緒の時期に配属されたティーチャーがさー、見た目も綺麗でさー、身長も私よりも高くてさー、すらっと余計な脂肪もなく筋肉もしっかりあってさ、かっこよくてさー、ちょ~っと影がある感じがまたさー、ほっとけないなぁっとかさぁ、傍にいて支えてあげたいなーっとかさぁ、見た目も好みでしょー?
これがまた、性格も良くってさー、気が利くし?周りもちゃんと見れてるし?ちょっとしたことで手を貸してくれるし?気を使ってくれるし?…優しいし?
そりゃさぁ、何度も一緒に過ごしてたらさー、そりゃねぇ?当り前だよね?徐々に心惹かれていったんだよね…

それにね、2歳ほど年上だったかな?だからかな、昔にね、何度か子供のころだけだけどね、遊んでくれたお兄ちゃんがいるの、教会の掃除をするときだけに会えた人、ある時期を境に会えなくなっちゃった人。
もしかしたら、うん、きっと、アレが私の初恋じゃないのかなぁって思うような人、音楽が好きでね、笑顔がとっても明るくて可愛くて、心が綺麗な男の子。

その人と何処となく面影っていうのかな?雰囲気がね、似てる気がする、うん、今思い返してもやっぱり、似てる気がするなぁ、だから、好きになったのかな?初恋の影を追いかけちゃって。

配属された当初はさ、一緒の部屋で苦楽を共にしたんだよね、誤解が溶けるまでの短い期間だったけどさ、着替えをしているティーチャーの後ろ姿に何度も何度も、胸が高鳴ってさ、一緒の部屋にいるってだけで、心臓の鼓動が早くなって音が大きくなって、耳元で大音量で音が響き渡るみたいにドキドキが抑えきれなかったんだよね。
そんな生活をしていたら、上の人から通達があったのか、ベテランさんが私の希望は本当は医療班って本当?って聞かれたから、やっと、私が医療班を希望しているって言うのをやっと言えたんだよね。
そこから、医療班に配属される時に部屋割りも変わって、医療班所属の部屋割りに変更されたんだけど、男の人で医療班に行く人は結構少ないから、一人部屋になったときは凄く寂しく感じた部分もあるけれど、夜ぐっすり寝れるようになるからほっとするような部分もあったね。

初めて一人部屋になった夜は今でも思い出せるかな、寂しくて涙を流しながら寝ちゃった弱い自分がいるのだと知った時だもの。

医療班所属になって、憧れていた医療の父に出会って、教えを何度も何度も乞うたものだよー。
一緒に勤務していた同期に近い人達が驚いていたもの、あの怖い人によく質問できるねーって、何も怖くなかったけどね?そりゃ、間違ったら怒られるけど、間違えた私が悪いじゃない?それを真っすぐにちゃんと理由も添えて怒ってくれる人だよ?真っすぐに怒る相手のことを考えて導いてくれるくらい、考えてくれる人だよ?そんな優しい大人、そうそういないもの。

大先輩がもっと、若かったらなぁ惚れてたなぁ…

医療の父のもとで徹底的に勉強してさ、もう、弟子みたいな感じでずっと、傍にいたんだよね。
医療班で働きつつ、気になることもずっとあった、噂では聞いた事がある、この街の裏ボス、裏で支配しているっている女性が居るってのは聞いたことがあるけれど、まだ、会ったことがないんだよね。
外交とか色々としないといけないみたいで、最近は外にいることが多いって教えてもらった、この街で働いていればそのうち会えるだろって、それも気になるけれど、それよりも知識欲が私を突き動かし続けていて、それどころじゃなかった。

もしかしたら、何処かですれ違ったりしていたりすると思うしね。

そういえば、確か、この時にだっけかな?何度か、健康診断とかあって、色々と調べられていたんだっけ?血もすっごく抜かれたし、半年にかけて血を抜いて調べてからあの時期ってちょっと貧血気味だったかも?
今に思えば不思議な健康診断だよね、あれ、ってさ、麻酔使って検査しますーってなって、浸透水式で検査したような?麻酔で寝かせられていたから、この辺りの記憶って朧気なんだよね。

うん、っで、この後くらいかな?姫様に出会ってさ、色々と話をすると、2歳か3歳ほど年上って聞いたときは驚いた、見た目が私よりも若いから年下だと思っちゃったもの、身長も小さいし、小柄だし、胸も控えめだし、姫様だけは私の事を男性扱いせずに、一人の人間として接してくれていたのだけれど、ほら?姫様みたいな人が男の人とずっと一緒にいるなんて変な噂が出てきちゃうと申し訳ないなぁって思っちゃってさ、距離置いていたんだよね。

それでもさ、ちょこちょこ、会うたびに色んなことをして遊んでたんだよね。年齢が近くて、性別とかそんなの関係なしに遊びに誘ってくれるのって姫様しかいなかったから。凄くありがたかった、どうしてかわからないけどね、私を遊びに誘ってくれる人って誰もいなかったから、この街だからと言って遊びがないわけじゃないよ?公園でノンビリと誰かと一緒に話したり、本を読んだり、お酒を飲んだりと息を抜く人はいっぱいいるからね?
なのにさぁ、誰も誘ってくれないんだもん…寂しかったなぁ、ティーチャーもさぁ、忙しくて休みが合わないからさぁ、会話することもなくてさぁ…
だから、姫様と一緒に遊んだりするのが凄く楽しかったし、傍にいて異性として何も考えなくていいのが凄く楽だった。
ふと、当時は、よく遊んでいたのにメイドちゃんの姿が思い出せない。
そういえば、メイドちゃんと初めてあったのは、この辺りだっけ?いつだっけ?気が付くと居たからよく思い出せないや。

メイドちゃんも仕事が凄く忙しい人だし、表立って何かをする人じゃなかったから、話す機会が殆どなかったんだよね。

ふふふ、当時は、今もかな?メイドちゃんに怒られること、何をしているんですか?って、冷やかな言葉で詰められることが多かったなぁ、だって、姫様が悪戯したり、仕事さぼったりするからだけどさぁ…私も巻き添えで怒られちゃうんだよね。

これくらいの時期かな?
私の活躍を当時の医療班を仕切っている人、そう、今でいうところの、No2だね、彼女が医療班の団長をしていたんだよね。
それで、私を次の団長として育成するって言い始めてさ、育成も何も、医療の父と一緒になってめちゃくちゃ教材渡されて、寝る間もないくらい働かされて、付き人の如く二人にこき使われまくって、最新の医療の技術や情報をドンドン詰め込まれてきたのだから、これ以上更にきつくなるの!?って警戒してたら、単なる引継ぎって感じで拍子抜けだったかな。
なんでも周りではNo2と私がどっちが団長に相応しいのか!って、派閥が生まれつつあるみたいで、いい加減その手の相手をするのも疲れちゃったからささっと後任選びたかったのって言って私が団長の座になったんだよね。

一応、私とNo2が争って勝ち取った!!ってことになってるけど、事実はこうなんだよね。

それにねぇ、私もNo2もさ、大先輩に頭が一つも上がらないから、団長?雑用係の間違いでしょ?って感覚だったもの。
医療班団長なんて言うけれどさ、裏に大ボスが控えているものだから、何も偉いことないのよね。

このちょっと後だったかな、そうそう、この時に姫様に私の長年の悩みである心の問題を打ち明けたんだけど、受け止めてくれて、私は私でいいんだと認めてくれたみたいで嬉しかったなぁ。

そこからも最前線の街以外では、常に色んな事件があったみたい、姫様が方々を駆けまわって色々としていたから、私は詳しくは知らないけれど、暗殺事件とか王族と関係のある事件もあったのだと思う、姫様って自分のことをあんまり話さない人だったから、王都に行ったときにそんな事件に巻き込まれているなんて知ったから驚きだよ、No2もずっと忙しそうにあっちこっちと引っ張りだこだからさ、その分、私と大先輩が医療班を支えてたんだからね、まぁ、No2ってさ、研究塔にも顔を出しているどころか専用の研究室まであるし、術式研究所も姫様と一緒に研究してたし、医療班にずっと腰を据えて医療を頑張る!って人じゃなかったものなぁ。

基本的に私が外を担当していて、内は大先輩が担当していて、No2はそのどちらかのサポートがメインって感じが医療班の主軸だったかな。
No3とか、多くの医療班が育ってくると、私も休みを多くとれるようになって自分の研究とか勉強とかも出来るようになったんだよね。

教えられた全てを綺麗に完結にまとめたりしたメモ帳がさ~姫様に見つかっちゃって、これ売れるよーって教えてもらって、姫様に委託販売をお願いしたら、飛ぶように売れて、凄い財産になって返ってきたっていうのもあったよねー、ただでさえ、この街でのお給金すっごい高いのに、これ以上貰ってもいいのかな!?って、困ったものだよね。

お母さんに手紙でお金困ってない?って送っても、『自分の為に使いなさい』って返事しか返ってこなかったんだよね、まだ、完全に立ち直れていないのなら生活費くらいだすよって手紙を送ってもさ『娘に心配されるほどやわじゃありません、仕事は順調です、むしろお小遣い欲しいの?』って、返って来た時は心の底から安堵したかな、いつものきつめのお母さんだって、立ち直れたんだって。

これからもずっと、こんな感じで敵と闘いながらも、少しずつ少しずつ勢力を拡大してさ、人の生活が豊かになって、いつかは、デッドラインを超えて、敵を倒すっていう世代が来るのだろうなって、デッドラインのその先への関心が薄くなっていってたってのも、このころからかな?ちょっと楽観的に考えていた時期があるかな。

最初に、この街に行くって決めた時の動機がさ、お父さんの仇を、お母さんを悲しませた元凶を滅ぼしてやる!って、思っていたのにね。
経ったの数年で復讐っていう牙が抜け落ちちゃってさ、お父さんには申し訳ないなぁって思っちゃったものさ、牙が抜けちゃうのもしょうがないと思わない?だってさ、この街の皆がお父さんのことを尊敬していて、大事にしていて、でも、復讐したいなんて誰も思っていなかった。
復讐なんて考えを偉大なる戦士長は望まないって、お父さんを知っている人は全員、感じていたのだと思う。

それに、感化されちゃったんだよね、きっと。

皆がみんな、明日を見ていて、色んな目的をもってこの街で働いて傷つきながらも闘ってさ、生きるっていうのはどういうことなのかっていうのを大きく学ばせてもらったかな。

ね、お父さん

いつの間にか修練所にまで足を運んでいた、お父さんが生前、戦士達を指導するときに座って愛用していた椅子に座って、月を眺める。
お月様もだいぶ傾いちゃって見えないや。

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