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幕間 私達の歩んできた道 5

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話の内容から、凄く、うん、とってもすっごく!色々と気になることが多い!!情報過多だよ!!取り合えず、無粋な質問を聞いてみてもいいものか確認してみよう、無粋すぎるし、無知すぎる内容だから、怒られるかもしれないけどね!
「先輩、質問いいですか?」
この街に来た時の様な若手のころと同じように、真っすぐと手を挙げて質問をしてもいいのかどうかの、許可を得る
私の昔懐かしい姿勢に、驚いた顔をしつつ、何処か嬉しそうにしながら
「あら?懐かしいわね、いいわよ、今の私は上機嫌だから何でも答えてあげましょう。後輩よ何でも聞きなさい」
背筋を伸ばして大きな胸がより高くそびえるような姿勢を取りながら、返事を返してくれる。

懐かしいやり取り、うん、私も同じことを感じているよ、時の流れって本当に残酷であり、救いであったりするよね

さて、質問をする許可をいただいたので、まず、第一に気になったのが
「宰相と知り合いだったの?」
そう、どうして、そんな偉いさんと知り合いなのか?そもそも、この人の出自を知らないのでまっさか、No2も王家縁とかないよね?

この質問に目を丸くしている、完全に驚いている表情で、少し困惑もしている
「貴女、何処まで把握しているの?ぇ?ちょっとまって、私とあなたのお父さんの物語はし」
「ごめん、知らない、だって、前に違うって否定されたから、その、聞いていい内容なのかわからないから、聞かないようにしてたんじゃない、何か秘め事があるんだって思うじゃない?」
気には、なっていたけれど、他の誰にこの話をすればいいのか、ね?…噂とかだと、確証は得られなかったんだもの、だから、当事者に聞くのが一番だけど、聞いたら違うっていうから…いつか腹を割って話してくれるのを待っていたんじゃない、そしたら、突如、街からいなくなるし!子供が出来たとか衝撃発言して、王都に帰るとか言われたんだもん!!

自分の発言を思い出したのか、ぁぁ~っと声を漏らしながら、頭を抱え、直ぐに、何か諦めたような顔をすると視線を右往左往に動かして慌てふためく、心が決まったのか目線を真っすぐにこちらに向けた後、直ぐに表情が一変する、恋する乙女のように頬を赤く染める。
「じゃ、じゃぁ、その、話してあげないこともないけれど、話さない限り始まらない気がするのよね、ぅぅ、なんて辱めなの?娘に、恋に恋する花も恥じらうような乙女だったころの私のことを話すなんて…」「…ぇ?」
聞きなれない言葉につい、素の反応をした瞬間に頭を軽く叩かれてしまった。
少し眉間に皺を寄せながら睨まれてしまう。
「はなも はじらう お と め いいわね?」
恥って概念あったんすね、先輩。
それならさー、研修とはいえね?まだまだ男の姿勢で過ごしていた私がいるのにさ、堂々と、全裸になって筋肉の流れを理解するためには、まず!デッサンをしましょう!なんて言えるわね。
まぁ、あの部屋には私のほかには男性が居なかったからかな?いなかったよね?
ふと、思い出した過去の映像に小さな違和感を感じる…あれ?あの時、部屋のついてあるカーテンをしめ…さぁ、過去は過去!思い出す必要のないことは忘れよう!忘れよう!!

「もう、話の腰をおらなぁ…なんだろう、悪寒を感じたわ、それに折る以前にまだ、始めていなかったわね」
どうやら、こちらの表情から何か察しかけたようだけれど、よかった、思い出さないでね?
大きくなったお腹を摩りながら、何から話したらいいのか悩んでいる
「ううん、本当、何処から何処まで話せばいいのやら…」
暫く様子を伺っていると、話す内容がきまったのか、ポツポツとお母さんが過ごしてきた日常を話してくれた。

話の内容は驚くことばかりだった、想像したこともない出来事ばかり、こんなちゃらんぽらんで掴みどころがない人だと思っていたけれど、しっかりと芯があり、自分がある人だった、まぁ、頑固者で挑発されると直ぐにのってしまうくらい沸点低いところもあるし、悪戯好きなかまってちゃんってのは昔から変わって無さそう。

そんな人が、まさか、愛の為、恋の為、一途だったなんてね、学生のころからの一目惚れだったし、結婚していたとしても気にせずに追いかけていくなんて、お母さんって恋に真っすぐだったんだね。
浮いた話を聞かないのは、お母さんが一途だっていうのを街の皆は知っているからかな?
遠巻きに恋するだけじゃなくて、愛する隣人に成れるように、隣に立てるように、ひたむきに努力して努力して、講師陣に徹底的に指導してもらえるという学生という立場を利用して、全力で頑張ってきたんだね。
貴族の血筋で特筆すべきことが無く、大貴族じゃなかったら、何処かの貴族に取り入って側室になるのが正道だと言われてもしょうがないかって人生を諦めそうなのに、自分の感情と素直に向き合って、自分が望む未来へと突き進んだ凄い人。

こっちに来てから、結構、大先輩に食って掛かっては逆に論破されたり結構、若々しくて情熱的な人だったんだねって相槌を返すと
「…は?ぃ、今も情熱的…で、ですけどぉ?まだまだ、感情が衰える事なんて、な、ないですけどぉ?」
唐突に飛んできた、思いがけない感想に困惑している、その様子から見て、認めたくない事実があるのだろう、年齢という部分…そんな反応をするってことは、そういうことね。
あーもう、はいはい、若い若い、王都でお祖母ちゃん扱いされてたんじゃない?この様子だと…

その後もちょいちょいヤジやツッコミを入れながらお母さんの物語を堪能していく、きがついたら朝になってしまい、病棟で勤務しているスタッフが入れ替わりの時間になる。
お母さんも長いこと話をして疲れたみたいなので、仮眠を取るわっと眠そうにあくびをするので、お母さんの歩んできた物語の続きはまた今度になる。
お母さんが立ち上がろうとするので、補助するために手を出し、ゆっくりと立ち上がらせると「貴女はどうするの?」と、今日の予定を聞かれたので、頭に浮かんだ気になることがある。
それは、私達が外に出ている間に、色々と心配や、苦労、重責に、心労…様々な負担を強いてしまったメイドちゃんに会いに行こうかな…誰か、会いに行かないといけない人がいるような気がするけれど、まぁ、そのうち、会うでしょ。
その事を伝えると「そう、あの子も頑張っていたものね、今回くらいは二人っきりで会うのを許してあげましょう。いってらっしゃい」
頭を撫でられながら、よくわからない許しを得たので、今日の予定はメイドちゃんに会いに行こう。

でも、その前に、姫様の病室を出ていく前に、気になっていたので、ささっと、姫様の体を綺麗な布で拭いて、点滴の状況やバイタルの状態をチェックする。
特に問題ないのを確認したので、気持ちばかりだけど心の中にある不安が和らぐ。

本音だと、服を脱がして細かいところも拭いてあげたい、綺麗にしてあげたい、それはもう、徹底的に頭皮も、鼠径部も、腋下も、臀部も、爪の間も、全て!洗ってあげたいけれど!!
今は、無理に体を動かす時期じゃないから、ね、軽くでいいよね?ごめんね、綺麗好きなのに、ね。我慢してね。
手櫛で融かす様に姫様の透き通るような綺麗な真っ白の髪の毛を手で流す。

姫様の病室を出て、メイドちゃんに会いに行く前に行くべき場所があるよねっと、気が付く。

そう、私自身も少々、ね、汚れと臭いが気になるので朝風呂をいただきにいこう。

病棟を出て、真っすぐに大衆浴場へと足を運ぶ。

ぴゃぴゃっと服を脱いで、体も洗い終わって、浴槽で疲れでも落とそうかと、ぺたぺたと向かう、浴槽には他にも人がいるみたいで、誰だろうと近づくと、騎士部隊の人達だった。
久しぶりに会う人達も仕事帰りなのか、浴槽に浸かって、蕩けていたので、その集団に向かって声を掛ける、すると、さっきまで蕩けて呆けていたのに、パチっと目を見開いて、直ぐに立ち上がったと思ったら、全員が一斉に抱き着いてくる

熱い歓迎だね、実際に浴槽に使っていたのだから体もあったかい、歓迎してくれる心に私の心もあったかくなる。

全員が落ち着くまでハグをしあったりしてから、私も浴槽に浸かる、体の疲れをとりながら、他愛も無い会話をし、その流れのまま、現状で知りえる戦況を教えてもらう。
具体的に、騎士部隊の状況や、死の大地にいる敵の様子や、空気間を、教えてもらう。

数多くの光が大地に降り注いだ後は、歴史上類を見ない程の数多く押し寄せてきていた敵が死の大地から消えうせたかの如く、全滅した!っと、思ってしまいかねない程、一匹も敵と出会っておらず、現場である死の大地には、光に焼かれた敵の破片しか落ちていない。

ですので、現在は、敵の破片を拾ってきては持ち帰り、残された破片から少しでも情報を得るために、色々と解析したり分解したりする為に破片を持ち帰りつつ、いつまた、敵の集団が現れるかわからないので、確固たる姿勢で油断せず、警戒態勢で巡回している。

数多くの軍勢との戦いで、物資も大量に消耗したので、今のうちに、物資を補給したり、蓄えたり、装備や設備の点検、改良点があれば改良し、傷ついた装備や設備などの修復も徹底的に行っている。
また、巡回予定の無い人達の中には、今回の一件で各々の鍛錬をもっともっと増やす必要性があると認識した人が多く、自ら進んで、ベテランさんと団長のお爺様に手ほどきをしてもらっている。

後、部署が違うので詳しくは詳細を知りませんが、噂では研究塔と術式研究室も何か用意をしているみたいで、街のはずれにある工場エリアにこもりっきりという話も聞けた。

どうやら、各部隊でするべきことを見定めて、各々の判断で、今できることを探しては、全力で動いているみたい。
医療班の人達も、街の皆に姫様が意識不明っていう情報もしっかりと伝ているみたいで、街中がその事を知っている、っていうか、私が寝ている間に色んな人がお見舞いにきたりしていたみたいで、私の状況なども、ほぼ、街の全員が現状を理解している感じ。

その話を聞いてからだけど、気が付いてしまう、医療の父に投与された麻酔、結構、長い間寝かせられたのだと感じる。一日近く寝てたんじゃないかな?

その後は、私達が離れている間に交戦した敵との緊迫する内容を聞いたり、アレを目撃した人もいたみたいで、一目見た時はもらしそうになったと冗談交じりに言っているが、顔は笑っていなかった、彼女は、次にアレと出会ったら動けなくなる気がするので、他の人にそのことこっそりと伝えると、暫くは後方勤務にしますと頷いてくれた。

談笑を交えながらの近況報告を受け取り、お風呂から出る、火照った裸のまま脱衣所にある冷蔵庫を開けて、大好きな牛乳の瓶が入っているのか開くと、ちゃんと冷蔵庫にあるのを見て、心の底から実感が湧き上がってくる、無事に帰ってきたんだなぁっと痛感しながら、心からの安堵と共に、全裸のまま、腰に手を当てて冷えた牛乳を一気飲みをする、喉から伝わってきて胃の中にひんやりとした液体が流し込まれる何とも言えない、この時しか得られない感動を味わう為に目を閉じる。
目を閉じると、五臓六腑にキンキンに冷えた牛乳が全身に満遍なく染み渡る、独特のあの、感覚を堪能する。暫く余韻に浸ったあとは服を着なと湯冷めしちゃうからね、そう思いながら、振り返ると

仁王立ちでこちらをみているメイドちゃんがいた…

片や、片手に空っぽになった牛乳瓶を持った全裸の人
片や、心なしか汚れが目立つメイド服に、髪の毛もボサボサになって手入れが行き届いていない人

凄い、プレッシャーを、圧を、感じる…伝わってくる圧を分析してみるとこんな感じだろうか?
【私はろくに休憩もしないで働いていたのに、貴女は優雅にお風呂ですかぁ?牛乳は美味しかったですかぁ?】そのような想いが、ひしひしと伝わってくる気がする、心なしかお腹いたくなってきた…

「団長!!」
仁王立ちのままで大きな声を出すものだから一瞬びっくりすると同時に、気をつけの姿勢になると直ぐに次の言葉が出てくると同時にメイドちゃんが動き出す
「お帰りなさい!!」
大きな声を出しながら頭から胸元に突撃してくるので甘んじて衝撃と共に受け止めてあげる。
まったく、普段は感情を押し殺しているのに、感情が溢れ出ているときは勢いが凄いなこの子は…

落ち着くまで抱きしめてあげたいけれど、服、着たいなぁ…

その気持ちが伝わることもなく、長い時間、抱き着かれている間に私の体はすっかり湯冷めしてしまい、つい、クシャミが漏れてしまう
そのクシャミを聞いた瞬間に
「ぁ、ごめんなさい、湯冷めしちゃいましたね」
ぱっと、離れると、その場で、いそいそと服を脱ぎ、汚れたメイド服を洗濯します加護に放り込み下着は個々に用意されている脱衣かごに放り込む
「私もお風呂をいただきにきたんですけど、団長も湯冷めしちゃいましたし、もう一度、一緒にお風呂入りましょう!」
全裸になると同時に此方の返答を待たずに手を引かれてお風呂場に逆戻りとなってしまった。

…湯冷めするの待ってたような節があるけれど、気のせいだよね?

メイドちゃんが体を洗って欲しいなぁって上目遣いで、甘えてくるので、しょうがないなぁっと承諾する。
それくらいの可愛い我儘に付き合ってあげるよ、体が綺麗になった後は、二人で浴槽に浸かりながら、メイドちゃんしか、知りえない情報があると思うので、現状の確認をする

南の砦から連絡があり、今後の為に壁の創造は必須と考えて作業を継続している。
ただ、変更点があって、こちらの街にある大規模な魔力の塊を飛ばして、魔力を送り込む魔力装填は使わないことになった。

理由は単純で、今後に備えて魔力を蓄えておいておくべきと各々が判断したため、現在は魔力を蓄える為に、非常事態にならない限り、使わないでいる。
では、どうやって魔力を工面するのかというと、南の砦側では、王都に住まうごく普通の人達から魔力を提供してもらっている。
向こうに残してきた、周囲の人達から魔力を集めて、魔石に蓄える魔道具を使って、王都にいる人達の魔力をもって、魔石の中に魔力を満たし、魔力が満タンまで入った魔石が出来次第、南の砦に運び、壁を創造しています。

その為、南の壁は、王都に住む人々の祈りで生まれる壁という意味を込めて、祈りの壁と呼称されることになったそうだ。
こっちの壁は、確か、王都だと死の壁って名前なのにね…

後、魔石から魔力を取り出し、術者の周りに漂わせる為の魔道具も生産が終わり次第、南の砦に送っていますし、魔力を集める魔道具も在庫が確認されているので魔石と共に王都に運び込んで作業効率を上げています。

この話がきっと噂の出どころだろう、噂で聞いた工場に人が集まっているっていうのは、このことだろう、工場の中では、魔道具の生産や魔石の生産を急ピッチで行っているのだろう。

南の砦側で本来、私達、そう、最前線の街である人達が担当するべき内容、すべき仕事を、女将が担当してくれることになり、そのまま継続して祈りの壁を創造する為の補佐をしていただいている。
昔から、女将には、ほんっっっと、無理ばっかり頼んでいることになる、非戦闘員だ~ってさ、言っておきながら仕事を頼んでばかり。駄目だとはわかっていても、頼りにしちゃう。

一通り体も温まったので、お風呂から出る、出た後は、メイドちゃんに会う前に行きたかった場所があるので、その場所を伝える。
そう、今回の襲撃によって亡くなった人の所に行きたい、騎士部隊の人達と話をしていると、会いに行くのは全てが終わってから、良い報告と共にって思っていたけれど、だけど、今ならメイドちゃんも一緒に来てくれると思うので、メイドちゃんと一緒だったら、悲しみと絶望で押しつぶされることも無いだろうし、その事を、メイドちゃんに伝えると一緒に来てくれるみたい

服を着替えるのだけれど、珍しくメイド服を脱いで隊服に着替えている。どうやら、予備のメイド服も洗えていない程、ここ数日は忙しかったと愚痴を漏らしていた。

大衆浴場である大浴場を出て、集合墓地の前まで向かう、集合墓地の一角に新しく出来たお墓が二つある。
そこにきっと…此度の戦闘で亡くなった人達がまとまって埋葬されているのだろう。

新しく建てられた墓標には亡くなった日付と亡くなった人達の名前が刻まれていた。

集合墓地の入り口にはお手入れ用の道具がそろっているのでそこから、綺麗な布を取り出して桶に水をいれて持っていく、桶の水を大理石で出来た墓標にかけては綺麗な布で磨いていく、今の自分が出来る死者を弔う行為はこの程度しかできない、心を込めて磨いていく、私達の街を守ってくれてありがとうと、祈りを込めて。

磨き終わった後は、メイドちゃんが持っている資料の中にある、亡くなった人達のリストを貰い一人一人、名前を見ながら、顔を思い出し、一人一人名前を読み上げて祈りを捧げていく。
新人達の名前が数多くあった、だからこそ、アイツが色を出して乗っ取ろうとしたのだろう、その結果が多くの希望ある未来が待っている新人を失ってしまったのだろう…

アイツは何度、絞めたら反省するのだろうか?

大切な次世代の命を犠牲にして自分が生きているのだと自覚があるのだろうか?
気が付くと拳を握りしめてしまっている、墓地でそのような怒りの感情を覚えてしまうのは良くないこと。
怒りという発散先のない感情につけ入れられた結果、悪魔に魅入られちゃう、絵本の登場人物のようにね。

すぐ横にある、建てられた日付の若い墓標を、先ほどと同じように祈りを捧げ乍ら磨いていく、心が締め付けられそうになる、墓標に書かれているよく知る人達の名前を見る度に、涙がにじみ溢れ出てくる。

急遽現れた、未曽有の悪魔によって殺された人達のリストを見せてもらう、悲しみと切なさと寂しさという感情が混ざり胃を締め付けてきてこの場で吐きそうになる、苦楽を共にしてきた人達の名前を見るたびに、思い出が脳内で再生されていく、一つ一つの思い出が蘇るたびに吐きそうになる、今の私の顔は人に見せれたものじゃないだろう、涙に鼻水に、胃液まで零れ落ちそうになっている。

嗚咽を殺しながらも墓標に縋りつく様に拭き掃除を続けていく。

最近は、悲しい出来事が多すぎて、何度も心が折れそうになる、何度も心が憎悪に染まっていく、その都度、誰かに導かれる様に気持ちを切り替えてこれた気がする、でも、今はそれを感じない…旅立ってしまったから。

だからだろう、拭き掃除を終えたのに、墓前から動けずにすすり泣く様に嗚咽を小さく漏らしながら悲しみの渦から抜け出れずに前を見ることが出来ず目を閉じて座り込んでしまうのは、私の心を支え傍に寄り添ってくれていた柱が消えてしまったから…

私は弱い、本当はとても弱い、人の死を受け入れ乗り越えれるほど、気持ちの切り替えが早いわけじゃない、ずっとずっとずっと…引きずって、引きずって、自分の心が擦り切れるまで何もできない程、本当はとても弱い…

これを打ち消すほどの強い感情が湧いてこない限り乗り越えることが出来ない…
そのきっかけは、いつも誰かに授けてもらっていた、その誰かも、今は眠り、今は去り、私を導いてくれる存在は遠い場所にいってしまった…

これよりも、もっともっと、愛が深く、長い年月を心の拠り所にしていたあの人はどうやって乗り越えたのだろうか?…
話を聞いて行けば私も彼女と同じような心の強さを得ることが出来るような気がする、今日の夜も話を聞きに行こう、前へ向かう為に、心を強くある為に

目を開けて深呼吸をすると、メイドちゃんが優しく抱きしめてくれていた、その暖かい手に縋る様に手を取り自分の頬に触れさせると抱きしめられる力が強くなり、抱きしめられる強さに生を感じてしまう、私は、まだ生きている、傍にまだ生きている人がいると、生を感じさせてくれる。

メイドちゃんが男性だったらきっと、好きになっていただろうな…ありがとう傍にいてくれて。

まだ、心が締め付けられ、気持ちの切り替えが出来ていないけれど、じっとしているのはよくない、悲しみの連鎖から抜け出ることが出来なくなってしまう、離れたくないけれど、皆とはお別れしないといけない、後ろを振り返りすぎると、生を諦めろ、死を受け入れろという、私が死ぬことを望む波のように迫りくる悪魔の声がまた、聞こえてきてしまうから。

何とか立ち上がり、メイドちゃんと一緒に肩を寄せ合って墓地から離れていく
私が悲しみから抜け出せないでいるからか、メイドちゃんに何処かに引っ張られていく、力強く引っ張ってくれるその頼もしさに縋りながらも付いて行く。


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