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とある人物達が歩んできた道 ~ タイムリミット ~

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作業をしていると戦士の一団から緊急要請の伝令が飛んでくると同時に、私と姫ちゃんが作業を中断させて立ちあがると、多くの人達が
「ご武運を!!」
大きな声で応援してくれる、今まで、こういった声を掛けるっという、誰かを応援するなんてこと、したこともない人達から応援を貰えるなんてね、嬉しいわね、心が暖かくなるじゃない。

寄せられる希望を全身に受け止め、心も熱くなり、前へ進む勇気が溢れ出てくる。

心が最高のコンディションへと近づいていく、足取りも軽やかに門に到着すると、伝令係の人がすぐさま、現場で起こっている緊急事態の内容を伝えくれる…

初日に想定していた合流地点に、坊やが到着できないと判断し、1日以上かけてでも、より遠い場所まで、坊やが、送られたであろうポイントを目標として、道中向かっている最中に2足歩行を発見するが、優先すべきは敵との戦闘ではない、坊やの救出がメイン。

作戦遂行を優先するために取る選択肢は一つ闘わない。

気づかれないように、認識阻害の術式を展開しながら回避しようとするが、相手には通用せず、此方に向かって駆けだしてきて、接敵されてしまい、応戦せざるを得ない状況になり、慌ててこちらに救援要請を出したってことね。

ある程度、敵の情報も伝わっているので、姫ちゃんはその情報をもとに作戦を考え、姫ちゃんが作戦を練っている間に、急ぎで研究塔にある、この時の為に準備をしといたものを取りに行く。


研究塔に、戻ると、出来うる限りの朝から用意していた術譜などを詰め込んだ背負うタイプのカバンを渡されたので背負う、後、姫ちゃんの腰につけるタイプのポーチも受け取り中身を確認すると大量の術譜が、これでもかと、詰め込まれていた。
念のために先ほどまで姫ちゃんが作っていた魔道具も一緒に運んでくれる。サイズも大きくないし、これくらいなら死の大地に持っていけそうね。
もし、必要だったら、また取りに行くという二度手間になってしまうので、運ぶのを手伝ってくれるのは凄く助かるわ。

荷物を持って門に到着すると、伝令を伝えていた人の姿が見えない?
どうやら、ある程度の作戦を伝えて、先に出てもらったみたいで、街を警護するために残留している戦士の一団の準備が終わり次第、姫ちゃんも出撃するのね。

当然、私も付いて行くわよ?

戦士の一団がこちらに来るまでの間に作戦の概要を教えてもらう。
敵の種類は凡そだけれど、判明している範囲で解っているのが幸いにして2足歩行タイプでも一番の最弱ではないかと言われている自爆タイプ
遠目の段階で自爆タイプの可能性が高い姿をしていたので、自爆タイプと戦闘すると、どうしても自爆された際に轟音が辺り一面に響き渡ってしまうから、他の敵も引き寄せてしあうことが多いのよね、それに、爆風によって思わぬケガをするということもあるものね、尚更、戦闘を回避したかったでしょうに…見つかってしまったのね。

自爆タイプだったら、最悪、自爆させて直ぐにその場から離れればいいのに、どうして、緊急要請を出してきたのかしら?
戦士全員が自爆タイプと闘うための訓練は何度もしてきているわよね?

戦士の一団も手早く自爆させて、目標地点に近づきたかったのだけれど、思う様にいかなかった
敵の自爆に巻き込まれないように戦闘を開始しているが、自爆タイプにしては行動原理がおかしく、様子もおかしい、此方の様子を伺う様に距離を取りながら攻撃してこないのが不気味だし、自爆タイプなので迂闊に敵に懐に飛び込めない。なので、戦士の一団もどうやって敵に攻撃すればいいのか攻めあぐねている

他にも様々な情報を教えてもらうのだけれど、情報量が多すぎるから、ちょっと混乱しちゃいそうね。

姫ちゃんが気になった内容をピックアップしてくれたので、そちらを優先して考えた方がよさそうね。
推測によると、敵側が探している人物かどうかを見極めている可能性が高い。
つまり、敵が探している人物なんて、わかり切っているわね。

坊やのことでしょうね、

逆に考えれば、坊やが近くにいる可能性も捨てきれなくなったわね、敵の包囲網を突破してこちらに向かってきている可能性が高まるじゃないの
敵側も当然、人が何処に拠点を構えているかなんて知ってて当然でしょう?だから、人が帰る場所を知っていれば当然、何処を通るのか凡その判断も出来るってことよね、それなら、何処を警戒すればいいのか、作戦を練りやすいものね、敵も阿呆じゃないってことね、先回りするように捨てても問題のない駒を配置した可能性が高いってわけね、自爆タイプってのがまたね、爆発したらそこに目標物が居たって知らせになるものね…ってことは、敵は自爆してこないのは目標物じゃないからってことになるのかしら?

そう、そうよね?自爆タイプなのに、自爆してこないってことは、自爆しないで情報を持ち帰るか、自身が爆発することで合図を送ることになる。

自身の体を目標物を見つけたという情報を発信するために配置している可能性も考えられるってことなのね。

長期戦になると応援を呼ばれる可能性があるので、自爆しないと想定して早めに敵を殲滅する短期決戦にするようにと伝令係に伝えたのね。

そして、姫ちゃんが現場に行く理由は、認識阻害の術式を看破することが出来るのが姫ちゃんしかいない。
敵の動きから見て坊やが近くにいる可能性があるのであれば、認識阻害で隠れている坊やを見つけれる可能性が向上する。

坊やを救助に出た一団からは来て欲しいっという要請はないのだが、姫ちゃんとしては近くに坊やがいる可能性が高く、潜んでいると判断しており、見つけれる可能性が高いのであれば、なりふり構っていられないって判断したので、姫ちゃんは要請や要望は無いが、駆けつけるのが最善と考えたのね。

戦略眼ってやつなのかしら?物事を、大局でいいのかしら?全体をとらえる角度が凄いわね…
敵と遭遇したから単純に、見つけたから倒すってわけではないのね。
どうしてそこに敵が居るのか、何を目的として動いているのか、敵がこれから起こす何かを推測していく。

敵側の状況を少ない情報から判断して、敵の動きを考察し、何をもって考え動いているのか読みあう…

それが真の司令官ってことね、今までの私達では、あり得ない考え方なのよ、敵が戦略という人類の様な、知恵のある考えを元に動いているなんて…考えたことも無い前提なのよ、私達からすれば敵の行動原理なんて人を見かけ次第、殺す。っていう知性のない判断しか出来ない低脳だと嘲笑っていた。
それが私達にとってごく自然の当たり前の考えだったのよね。

姫ちゃんから貰った情報をおさらいしておきましょう。
いざ現場に到着した時に作戦の理解度が低いのと高いのでは、姫ちゃんが次に起こすアクションに動けなくなってしまう恐れがあるから。
備えれることは、備えるのが大事なのよね、医療班として先輩に叩き込まれたことがここでも、生きていくのね…医療も同じ、患者の症状に合わせて何が必要なのか、先輩だったらどの手順で治療していくのか、症状を把握しているからこそ、迅速に対応し、先輩が起こすアクションを先読みすることが出来るからこそ、完璧な連携が取れるのよ、目と目が合うだけで相手が何を求めているのか瞬時に判断できるのが理想よね。

なので、作戦を成功に導くために、今できることを考え抜く!

まず、敵が普通とは違い、様子がおかしい
└坊やを追っていて、坊やを探す為の包囲網を作っている最中、
 もしくは、坊やが移動しそうな場所に配置して待ち伏せ

 つまり、そこでの戦闘を長引かせてしまうと、包囲網を作っている最中だとしたら、
 他の人型が現場に集まってしまう可能性が高くなる=危険が増すってことね。

坊やが認識阻害の術式を使用しながら移動している可能性がある、
元より、その予定で、予定していた合流地点に近づけば解除する作戦だった、けれども、戦闘中は例外となる。
└だけど、此方側も認識阻害の術式を連続して起動している可能性が高い、
 戦闘によって人型以外の獣に襲われないようにする為に

 なので、坊やも認識阻害の術式によって、此方側を認識できていない可能性がある

 姫ちゃんが言うには、まだ、相互認識できる認識阻害の術式を組めていない
 Aという術式と、まったく同じAという術式を使っているからと言っても、
 お互いが、別々の魔道具を持っていて別々に認識阻害を稼働させると
 近距離まで、恐らく手が触れるほど近づかない限り、お互いに術が作用されてしまって発見できない。

 看破用の術式もあるのだが、それの扱いは困難を極めるので、
 術式への理解度が低い人に持たせたとしても魔力を無駄にするだけなので、渡していない。

 確かにね、戦士の一団って、魔力量が多いとは思えない人達が多いのよね。

重要な情報をまとめると、こんな感じよね?そこから導き出す姫ちゃんが私に求める内容は…

ないようは…わかることはただ一つだけね!!私が姫ちゃんに求められているアクションはただ一つ!!!



全力疾走!!!



っふ、姫ちゃんを抱えて、現場に向かって全力疾走するだけ!ってことにしか、行きつかないのよね…何となく求められているものが何かは察してはいたけれど~、内容が内容だけに、ちょっと考えたくなかったけど~、行きつく答えはどう足掻いても、全力疾走なのよ、考えれば考えるほど、その答えしかありえないのよね~…

さぁ、覚悟を決めますかぁ!!

これから行われる死の大地を戦士達と一緒に行軍する、それも姫ちゃんを抱えてね。
普段から運動を心がけていない軟弱な体と心に喝を入れる、まずは、心に活力を与える、私が頑張らないと姫ちゃんが危険に晒されるし、現場では確実に姫ちゃんは無理してでも術式を酷使する、誰が姫ちゃんに魔力を渡すことが出来るのかってことよ!私しかいないじゃない!!踏ん張りどころよ!!騎士様の愛弟子と、愛する娘の為!!!女として母親として、やってやるわよ!!

心が姫ちゃんと共に歩むという決意で満たされる。

次にすることは、決まっている、少しでも体を温めておくことで、足がもつれたり、腱が切れたり、つったり、不測の事態に陥らないように、しっかりと、待ち受けているであろう運動量に備えて、全身の筋肉を温めて気合を入れる!!

体を温めるために、念入りに、その場で足踏みをしたり、軽くジャンプしたり、腰を捻ったり、腕を真っすぐに伸ばしたり、上に上げたりと、軽く他動的ストレッチもする。
今から、腱と筋肉に無理をするからね!!っと、語り掛ける様に気合をいれていく。

気合を入れていく過程でつい、太ももを上げた瞬間に太ももと目が合う…


足、太くなってきているよね…


そう、ここ最近における、私の太ももが太くなってきているという、女性として由々しき問題!側室として見初められるように美意識だけは磨いてきた、私の女としての理想の姿!騎士様に見初めて貰えるように磨いてきた絶世の美女として振舞う為に努力し続けてきた!

過去の頑張りが、努力してきた部分が、美意識が!!今までの頑張りを否定する行いに、とって大きくストレスとなって心を締め付けてくる!だって。お風呂上がりとか、洋服を選ぶときに、つい、鏡を見るでしょう?その度に辛いの!!!心が痛いのよ!!!!

すぅっと鼻から息を吸い、口からため息と共に零れ落としてく…心にのしかかってくるストレスを吐き捨てるように、息を吐き…心の中で叫ぶ。

さようなら!!!自慢のパーフェクトプロポーション!!!

完璧なる究極の美を、自分の理想とするエロい女を維持してきた、この体!
騎士様に捧げるために磨いてきた!美を追求してきた!この、からだぁ!!!
日に日に太くなってきている太ももぉ!!!っぐぅぅ、過去の私、ごめん!!太もも太くなっちゃうぅ!!

覚悟をきめるぅぅぅぅ!!!過去の私が磨いてきた自慢の美バランスが崩れる覚悟きめるのよぉぉぉぉ!!!

…今回ので絶対に、理想のプロポーションからお別れ宣言されるでしょうね。
心の中で涙して、お別れする、磨いてきた完璧なる理想、培ってきた貴族たちが好む絶景なる美から、にこやかに手を振られお別れする…


戦士達の準備も私の心も…完了したので、最後の確認をする。
全員が、この街の為に奮闘してきた一人の戦士を救出する為に、死の大地を駆け抜け、2足歩行と対峙している戦士の一団に、新しい攻撃手段となる物資を届ける。
そして、姫ちゃん指揮の元、吹き荒れる風のように素早く敵を倒し、死の大地で孤軍奮闘しているであろう、坊やを救出するための作戦を決行する。

私の仕事は、姫ちゃんを抱えた状態で走り続ける事、魔力を譲渡すること。
姫ちゃんの仕事は、全体を見回しつつ、坊やが展開している認識阻害の痕跡、または、認識阻害が展開されチエルエリアが無いか、周りを見る
三名の戦士の仕事は、先頭で誘導、周囲を警戒しつつ奇襲されても対処できるように警戒、認識阻害の杖型魔道具に魔力を注ぎ展開する。

少数精鋭スタイルね、昔を思い出すわね。

姫ちゃんが拳を握って手を前に出すけれど、何を意味するのか全員解らなかったけれど、姫ちゃんが言うには全員で同じように手を出して拳を合わせることでお互いの無事を祈り、お互いを支え、無事に帰還できるようにするという心を通わせる儀式って教えてくれたので、姫ちゃんの言うとおりに拳を突き出し全員の拳を当てると、心なしか全員の心と繋がった様な、そんな気分になる。

門を潜り、先導する戦士に付いて行くように走る、最初はチラチラとこちらの様子を伺いながら走ってくれている、私も姫ちゃんをおんぶしているけれど、特に問題なくついて行けている、先導する方が速度を調整してくれているので当然だけどね。

ここ数日、動き回っては、術式で筋肉をすぐに回復させていたおかげなのか、戦士達と共に駆けても概ね辛くない。
速く走ることも出来ているし、肺が辛くなることも無い、横隔膜が痛みを訴えてくることも無い!
私だってまだまだ、若いってことよね!それなら、多少…たしょう…足が太くなっても取り返しがきくってことじゃない?また、完璧なる理想像へと近づければいいわよ!

そんなことを考えながら走ることだけに意識を集中させていく、周りの警戒や進む道は周りの人に任せればいいのよ、私は、私の仕事に集中すればいいの。いつも、守られてばっかりだけどね。私に闘う才能がないってだけよ。才能があれば、どれだけよかったか…



長い時間、走り続ける、体感で言うと一時間近く、走っていないかしら?

流石に、最初のころに比べると、走るスピードは落ちてきている、感覚で言うとジョギングくらいの速さに落としている。
私の体力不足が理由じゃないわよ?

敵が想像以上に多くうろついているのよ…

この二日間、街には大量に仕留めた獲物を運んだ筈なのに…街から少し離れた程度の距離なのに、まだまだ、数多くの獣達がうろついている。
うろついているのだけれど、様子がおかしい、獣達が、周囲を警戒しているっと思う人は思うでしょうね、辺りをキョロキョロと耳と目と鼻を動かして何かを探している。

それだけじゃない、地面を鼻や腕先を使い、掘っては、何かを探すような仕草をしている。

戦士の人達も、その動きを見て特に違和感を感じてはいない、獣なのだから当然、居きる糧である餌でも探しているのだろうと言っていた。

けれど…言葉にしないが、私と姫ちゃんは、その発言が間違いだと気が付いている、あれが、餌を探すようなことをするわけがないと、ごく普通の獣と同じように、生きるための行動じゃない、探しているのよ、私達が奪った魔道具を探しているようにしか見えない。

敵が数多くいるけれども、認識阻害の術式がしっかりと機能しているおかげで、かなり早く動けている。
戦闘を避けるためには、従来の手法だと、身を小さくするように潜めて、呼吸を限りなく小さくし、気配を殺す。
近くまで接近を許してしまっても、徹底的に動かないで敵が過ぎ去るのを待つ、それが今までの正解だった。

だけど、今は違う

認識阻害という新しい技術によって、身を隠す必要がない、止まることなく、目的の場所に向かって歩き続けることが出来る。
敵の真横を歩いたとしても、発見されることなく素通りできる、過去の常識では考えられないくらいありえないことだった。あまりにも画期的過ぎて、これになれてしまうと、認識阻害なしで、死の大地での活動である、見回り任務なんてしていられなくなるでしょうね。

少しでも、敵に見つかるリスクを減らす為に、出来ることは全てする。息を殺しながら、気持ち程度、些細な問題かもしれない、だけれど、足音を人からすると聞こえないかもしれない、その程度でも、注意深く歩く、慎重に音を消しながら歩く。

ゆっくりと歩いていると、背中から声が聞こえてくる。

「いたよ…全員警戒して」

その言葉に全員が周囲を見渡し警戒する、私も見える範囲で2足歩行をとらえるために視線を彷徨わせるが、視界に入ってこない。
姫ちゃんだけが、どうやら敵を補足しているみたいね、誰も見つけることが出来ないっとなると、視力を強化する術式っぽいわね。
戦士達も、深く警戒し、進行方向を見据えながら、此方が捉えるよりも先に、敵に気が付かれるわけにはいかないので、音を、気配を、極力消して、近づいていく。

事前情報だと、敵は此方の認識阻害の術式を看破している、当てには出来ない、昔ながらの方法で、出来る限り気配を消してゆっくりと近づいていく。

「できれば、敵を挟み込みたいけれど…位置取りがわるいね」
背中越しに聞こえてくる呟きに大きく同意する。

ええ、そうね、見つかっていないという利点は大事よね、気付かれずに、敵の背中から、奇襲する…挟み撃ちこそ理想よね。
それに、万が一を考えると、自爆タイプである可能性が高い敵に正面から無策に突っ込みたくないものね

徐々に近づいていくと、ようやく、私の目にも、敵と戦士の一団が闘っている姿が見えてくる。残念なことに、此方から見えているのは。戦士達の背中…
つまり、私達は戦士の一団の後ろ側から合流したことになる。

「…うん、先人の部隊もしっかりと敵を抑え込んでいる、そうなると、気付かれていない私達がすることは、時間が掛かってもいいから敵の後ろに回り込んで、挟み込むのが一番だよね…普段、この辺りの獣ってどのタイプが居るの?」
先頭を走っている戦士に声を掛ける「普段は…平常時であれば、この辺りは猪、鹿、牛といった突進が怖いタイプの獣が数多くいる」こちらに振り返ることなく教えてくれる。

戦士からの返答になるほどっと小さなつぶやきが聞こえると直ぐに
「なら、認識阻害の術式を見破れるタイプでもないし、起動しながら敵の背中をとるよ!」
司令官である姫ちゃんからの指示を受け取ったみたいで、真っすぐに戦士の一団に合流するように取っていた進路を回り込むように敵の背中が見える場所へと変える。

トントンっと肩を叩かれる
「お母さん」
何を伝えたいのか直ぐに察する。ゆっくりと歩きながら、おんぶスタイルからお姫様抱っこスタイルに変更する、姫ちゃんも協力的だったからすんなりと持ち方を変えることが出来た。そして、そのまま手を姫ちゃんの服に突っ込み背中に触れ、魔力を渡す。
封印術式の影響で特定の部位からしか、魔力を譲渡できない可能性があったけれど、日々の研究によって、何処からでも魔力を押し込めるっというのも把握済みよ。

視線を下げると、目を瞑って集中しているのが見える、現在の状況からどの様に敵を倒すのか、策を巡らす為に考え込んでいるのでしょう。
額に汗が滲み出てきているのが薄っすらと見える、汗を拭いてあげたいけれど、両手が塞がっているのよね…

私達が敵の後ろを陣取る前に策を練り切って頂戴ね…



少しずつ少しずつ、敵に近寄っていくのが…やっぱり怖いわね、自然と心音がドクドクと強くなっていくのが伝わってくるわね。

心音に身を委ねると、自然と恐怖によって全身が支配されていくでしょうね、今も、気を許せば顎が震えそうだし、腕が小さく震えだそうとしているのがわかるもの。
恐怖なんてない、なんて強がっては、いるけれど、どう足掻いても今の私では勝ちようがない、正面衝突すれば死は免れない存在に、近づけば近づくほど、本能的に身の危険を感じていくものよ。

恐怖がじわじわと体を浸食していくのが感覚でわかってしまう。

恐怖に骨の髄まで汚染されないように心を強く持つために自信を鼓舞する。
大丈夫よ、あの程度の敵、あの時に比べたらやりようがあるじゃない、何時だって、守られてきてばっかりで情けないけれど、大丈夫、今回もなんとかなるわよ。信じるのよ仲間を、姫ちゃんを。

背中に触れている手が緊張によって汗ばんでくる、姫ちゃんに伝わっていないといいのだけれど、お母さんが不安を感じているなんて、感じさせたくないものね。
手のひらから溢れてくる汗を拭いたいけれど拭えない状況に、より一層、あせってしまいそうになると
「うん、この術譜を起動して敵と戦士の間に投げて数は5ほどで」策を練り上げたのか目を開くと同時に声を出しながら動き始める。
姫ちゃんの腰にあるポーチから術譜を取り出して隣で並走している戦士に渡すと、敵と戦士の一団の間を目指して走り出す。
すぅっと、姫ちゃんが大きく息を吸い込んでいる、たぶん、遠くの人に声を掛ける為だろう

上半身を捻って首に回していた片腕を外し指を輪っかの形にし、戦っている戦士達に向けて何かを叫んでいる、近くにいるのに声が全く聞こえない、本当に不思議ね、いつかどうやっているのか教えてもらわないとね。

術譜を起動させて敵と戦士の達の間に投げてきたみたいで、戦士が慌てながらも急いで帰ってくる
「次の一手の為に、敵の後ろに回り込んで注意を引き付けるよ、後、この術譜を先陣の部隊に渡してきて」
帰ってきて息が切れそうになっている戦士に術譜を渡すと、またも、戦士は走り出す。

一度に渡してあげればいいのにっと、思うかもしれないけれど、初めて使う道具で見た目も同じような道具、手違いで違う術譜を使用されては作戦が失敗する恐れがあるので、一つ一つを確実に間違えないようにしたのだろう。

術譜を渡された戦士が先人の部隊に合流するよりも早くに、此方は敵の後ろ側へと、位置取りすることが出来た。
術譜を数枚取り出し、先頭にいる戦士に渡し指示を出す「術譜を起動させ敵の背中に向けて投げる」受け取った戦士は術譜を起動した後は丸めて投擲する。

丸めた術譜が敵の背中にポスポスっと当たった、当たったけれど?何も起きないわね、あれでいいのだろうか?
敵も何かが背中に当たった感触が伝わったみたいで、此方を振り返り人がいることを視認した後は、此方を警戒しはじめる。

投げた戦士も「すみません、不発です、もう一度、いただけますか!?」慌てながらも、冷静に敵から視線を外さない。
冷静に手だけを姫ちゃん向けて術譜を受け取ろうとするが
「あれでいいの、魔力を通して置けば、此方で任意に遠隔起動できるタイプだから、起動するタイミングは、大丈夫、任せて。」
説明を聞いた瞬間に頷いて手を引っ込めるけれど、内心、本当に?って思っていそうね。私も同じよ、本当に大丈夫なの?

術譜を渡す為に駆けて行った戦士も無事、合流出来たみたいで自身が持つ槍を掲げて合図を此方に向かって送ってくれている
「準備できたみたいだね!いくよ!こちらも槍を掲げて!」
先ほど敵の背中に向けて術譜を投げた戦士が槍を掲げると同時に、敵の毛皮が逆立ち始める?それを見た先人の一団が敵に向かって何かを投げている?

よく見ると術譜を投げているみたいで、術譜から水が溢れ出ている?

敵もこちらが何をしたいのか、困惑している、急に水が湧いてきたことに驚いているのか、此方が何をしようとしているのか初めての出来事で、どうしたらいいのかわからず、取り合えず飛んでくるモノを腕を振って弾こうとしている、だけど、投げられてくるモノを上手く捉えることが出来ていないのか、自身の腕の力に振り回されている様に見えるけど、どうして?腕を振った後は、バランスを崩す様に上半身が大きくぶれている?

「足元」

私が敵の動きに疑問を感じて凝視しているのが、姫ちゃんに伝わったみたいで、作戦で何を目的としているのか、ヒントをくれた。
敵の足元を見てみると、いつの間にか敵の足元は地面がぬかるんでいるみたいで、足首まで近くまで、地面に埋まっている?でも、埋まっているだけだったら、抜けばいいのでは?多少、泥によって沈んだ程度だったら、足を滑らせるような相手でもないでしょう?ぬかるみだけで、あんなにも目測を見誤り、上半身が大きくぶれてしまうものかしら?

「足元をね、先に投げてもらった術譜で濡らして、敵がそのぬかるんだ場所に足を踏み入れた瞬間にジワジワと術譜で温度を下げて凍らせたんだよ」

なるほどね、足元が凍り付いてぬかるみに足が入っているっと敵は思っていたら、いつの間にか氷が出来ているから絶妙に滑る、その統べる感覚に対処しきれていないから、動きがおかしいのね。
でも、あいつらだったら多少、凍った程度ならお構いなしに動き出すと思うけど?どうして、その場に留まっているのだろうか?
「毛が逆立ってるでしょ?あれは自分で逆立てたわけじゃないよ、丸めて投げた術譜が背中に当たって敵の足元に落ちたよね?その術譜が温度を下げる強風を地面から上に向かって吹いてるからだよ、地面にある冷たい凍るような風を、あいつは、濡れた毛で受け止め続けているの、そんな状態が続けばどうなると思う?もうすぐ、あいつは動けなくなるよ」

言われた内容通りに、徐々に振り回す腕も、確実に動きが鈍くなってきていて、動きがどんどん、遅くなっていく。
敵も今の不可思議な状況を、理解したのか慌てて手を地面について足を抜こうとしているが力が入らないのか、膝から上がピクリとも動かない。
敵をそこから逃がさないためにも、間髪入れずに術譜を投げ続けていく、敵の頭からつま先まで、しっとりとしっかりと濡れていく、よく見ると頭の方にある毛先が凍り付いて行っている?

「うん、そうだよ、足元からも、上からも、あのあたりの温度は急激に下がり続けているよ。敵は動きたくないみたいだから、なら、それを逆手に取らないとね、動きたくないのなら

その場に、氷漬けにしてしまえばいいじゃんってわけ」

敵を凍らせるなんて、そんな常識から逸脱した考えなんて、誰も思いつかないわね、これが新機軸の作戦、これが、魔道具をつかった新しい戦い方…奇跡としか表現できないわね。

「自爆タイプ、攻撃したくても己が持つ最大の武器は…残念ながら、使用を禁止されている。敵としては情報を持ち帰りたいので、死にたくない、だけど、目の前には、殺したい人類がいる、殺したいけれど手段がない、でも、自分がここに居ることで、私達を足止めできる、なら、応援が来るまで待ちたいってところかな?ざ~んねん、応援が来る前に死神が応援にきちゃったかな~☆彡」
悪い顔で嬉しそうに説明してくれるけど、姫ちゃんには敵の思考が見えているの?ってくらい、綺麗に策にはまるわね…

「さぁ、止めといきましょうか」
凍り付いた足を持ち上げようと地面に手をついてしまったがゆえに、腕も地面に縫い付けられるように凍ってしまい、全身が水浸しになってしまったせいもあり、全身が凍り付ていく。
その結果、体が思う様に動かせないでいる、四つん這いに近い状態になってしまった敵の胸元へと、ゆっくりと凍りが付いた土が太い槍の様に隆起していき、ゆっくりと敵の心臓がある場所まで伸びていく、敵に触れるか触れないかまで隆起していく。
地面からゆっくりと生えてきた土と凍りで出来た槍が敵の心臓の手前で止まると、敵の周囲に待機していた戦士の一団が槌を片手に助走し、敵に向かって大きく飛び掛かる

全体重を乗せた槌による上空から地面に向かって叩きつける様に振り下ろす、振り下ろされた強烈な一撃が、敵の両肩、背に当たる、結果は見てのとおりね…
土と凍りが混ざってできた槍が心臓を通り越して背中へと貫通するように、貫かれると…敵は動かなくなった。

前回もそうだったけれど、こんなにも綺麗に戦闘って終わるものなの?私があの遠征で味わった、あいつらとの闘いは何だったの?

「はい!余韻に浸らないの!離れて自爆タイプだよ!」

その手で、2足歩行を仕留めれたという、初体験の人も居るのだろう。
その余韻に浸っていて動けないでいた戦士達が、声に反応して慌てて離れる為に、槌をその場に置いて離れる。

すると、敵が小さく爆発した、自爆タイプなのに拍子抜けするような小さな爆発だった、お腹の辺りが爆発しただけで地面に向かって爆風が小さく巻き上がっただけだった
「なるほど、トリガーは心臓かな?そのトリガーが破損したから大きく爆発できなかったのか、それとも、温度が低いから爆発できなかったのか、良いデータがとれたね♪」
爆発した光景に姫ちゃんはにんまりを嬉しそうにしている、私からすると、腹部が爆発する光景なんて敵とはいえ、怖すぎるわよ…一瞬、心臓がひやっとしたわ。

戦士の一団が敵を仕留めれたことに、歓喜の声を出さずに、歓喜の感情が溢れ出てダンスを踊っている。
その気持ちはわかるわよ、だって、未熟な自分達だけで、騎士様もいない、巨躯の女性もいない、そんな状況で、2歩足を仕留めれると思っていなかったのだろう、それも、被害なしで


「さぁ、合流して!忘れないで!私達の目的を!ベテランさんを探すよ!敵を持って帰りたいけれど人命優先だからね!」



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