最前線

TF

文字の大きさ
上 下
146 / 224

とある人物達が歩んできた道 ~ 手を…繋ぐ ~

しおりを挟む
姫ちゃんの調子が崩れて、早くも一週間が経過する。

一応、少しずつ、ほんの少しだけれど、調子を取り戻してきつつあるみたいで、ちょっとずつだけれど、寝れる様になってきた。
目の下のクマも…一番ひどい時に比べるとましになったかなってくらい。

三日ほど前だったかしら?奥様に未来姫ちゃんから指定された、研究っと言うか、新しい医療体制として必要な材料を集めてもらう為に声もかけてあるのよ。
なので、今日はどの程度、集まっているのか、また、予算は足りそうなのか確認しに行く予定なのよね。

研究塔に顔を出して皆に挨拶をしながら、奥へ進んで奥様に声を掛ける。

渡した必要なものリストを眺めながら頭を抱えている…

どうやら、リストに書かれている品物たちの中には、素材そのものが入手困難で、尚且つ、その入手困難で、とっても貴重故に失敗が許されない素材を使って精製するのだけれど、精製するための技術内容が、かなりの難易度みたいで、容易と言えるものじゃないのが非常に多いらしい。

全て揃えるには、もう少し、いいえ、かなり時間が欲しいと懇願されてしまう、私としては、姫ちゃんが恐れるような事態を回避するために必要なものだと考えているから、早めに色々と実験して把握しきりたいから、頑張ってっとしか言えないのよね…
それにしても、寝ていないのか奥様の顔も、これまた、取れにくいサイズの大きなクマをこさえているわね、今度、何か差し入れでもしてご機嫌をとるべきよね?

てっきり、奥様だったら簡単に集めれるものじゃないのかなぁって、浅はかに考えていたわ。
王都とか、専門の業者から手に入る、お金さえあれば売ってくれるようなモノだけじゃないのね。
錬成の難易度が物凄く高く、奥様からすると「久しぶりの難しい錬金に腕が鳴る!!」っと意気込んでいるのが救いかしら。
「研究塔にいる人達に高価で滅多に見せる事の出来ない技術を継承できる、伝えていく良い機会!!」腕をまくりながら、こちらを心配させないようにやる気が満ち溢れている様に振舞ってくれる。

ごめんなさいね、心配そうな顔をしてしまって、不安が伝わってしまったのね、もっと優雅に余裕溢れる様に振舞いたいけれど、今回のは、本当に不安なのよ、あの姫ちゃんがこうなってしまう程の脅威だもの…

未来姫ちゃんから渡された資料には、錬金で創らないといけないものとかには、錬成の手順も書かれている、正直な話、とてもじゃないけど、私の手には負えない内容なのよね。
なので、詳しく書かれている手順も奥様に開示してあるのよ、情報をどこで手に入れたのか不思議に思うかもしれないけれど、なりふり構ってられないわよ、多少、怪しまれても構わないから、お願いしたのよ。
お願いして引き受けてくれたのはいいのだけれど、まさか、そんなに難しい高難易度の錬金だとは思わなかったのよ、姫ちゃんが冷静になってから相談してから頼めばよかったと、少々後悔したよ?当然、奥様にはご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ない気持ちが私の心を満たしてくるわよ。

錬金の知識に疎い私が状況判断で動くのは良くないわね、ちゃんと相談するべきだったわ。奥様が欲しいものって何かあるのかしら?…こんどそれとなく先輩に聞いてみましょう、流石にね、安易に頼り過ぎてしまったと反省しないといけないわね…

奥様に無理難題を押し付けてしまったことについて反省しながら自室へと向かって歩いていくと向かいから戦士の一団が楽しそうに会話しながら歩いている。

戦士の一団の人達とすれ違ったときに坊やの顔が見えたので声を掛けると満面の笑みで握手される?その意図は何よ?声に出していいなさいよ。
時折、流れる様に視線を動かすわね、何処を見ているのよ?視線を下に動かして、そんなに私の胸が気になるの?坊やは本当に…ん?違うわね、もっと下を見ているわね…
もっと下っとなると、姫ちゃんをとらえているわね。
嗚呼、なるほど、なるほど、つい最近の坊やがベテランへと至ったであろう何かしらの出来事を思い出したと同時に物言わずに握手してくる意味を察する…
嗚呼、そう、大人の遊び場でお姉さま達に満足した、その事について情報源である私に感謝の気持ちを伝えたいけれど言葉に出すのは、憚られる状況ってことね、幼子の前で話す内容じゃないものね、そりゃぁ、話せないわよね~、むしろ話したら殺すわよ~?疑問に感じたら即質問してくる娘なのよこの子は、そんな子に純粋無垢な幼気な少女が口に出してはいけない危険なワードがあれば「お母さんそれってどういう意味なの?」なんて、質問してくる可能性が高いわよね?それを、どう返答したらいいのか皆目見当つかないものね!!!

まったく、それくらいの配慮はできるのね、こいつ…

終始無言で満面の笑みでお別れを告げて、足取り軽やかに修練所に向かっていき、先ほどまで一緒にいた戦士の人達と楽しそうに会話している。
その姿を見て、私の中にある坊やに対して感じていた不安が胸の中からすっと消えていく、あいつはもう大丈夫だろう、騎士様が居なくなった世界を受け入れ、その先に歩んだのだと確信することができた。



騎士様、愛する騎士様、貴方が育てた愛弟子の一人は、一つ先のステージへと進みました、見守ってくださり、ありがとうございます。



すっと目を閉じて祈りを捧げた後、姫ちゃんにお風呂にはいろっかっと伝えると小さく頷くので抱き上げてお風呂場に向かって少し上機嫌で歩いて行く。


長い時間、姫ちゃんと一緒に横になり、寝息も落ち着くくらい深く眠りについたのを確認してから、ゆっくりと起こさないようにベッドから起き上がって自分の机に向かう。

長い時間をかけて、ようやく、本当にようやくよ。未来姫ちゃんから渡された資料、その全てを読み切る…
物凄い量だったけれど、よくまぁ、一晩で書き綴ったわねぇっと感心してしまう、どうやって、一晩でこの量を書いたの?ちょっと気になるのよね~筆跡が凄く安定しているのよね、こんなに綺麗に同じように書体が崩れることなく正確に大量に書けるものなのかしら?私だったら無理よ?急ぎ足になればなるほど、字って崩れてしまうじゃない?こんなにも冷静に綺麗に、読みやすい字を書き続けることができるのかしら?

何かしらの方法があるような気もするけれど、純粋に姫ちゃんならさらっとやってのけてしまいそうな気がするのよね。
だってね、術譜を作っている姫ちゃんの手際の良さが凄すぎるのよ、正確無比と言いますか、何度見ても心から関心してしまうくらい凄いのよ。

術譜に描かれている陣って、手書きで用意するじゃない?
その手際とか見てるとね、毎回、驚かされるのよ、何個も何個も、寸分違わず綺麗に陣を描くのよ、数多くの創られた品を見比べてみるけれど、本当に誤差がないんじゃないかって思えれるほど、正確に綺麗に描き上げるのよ。そんな、特殊な技能を持っているから、姫ちゃんなら出来ると言われたら、出来るような気がするのよね~…

この資料もそうだと言われたら納得するしかないわね、手書きで書いたって言われたら違和感を感じるけれど、まぁ、特に気にする程の事でもないでしょうし別にいいわね。
そんな害のない違和感よりも!もっと気にしないといけないことがあるわよね?

現時点での姫ちゃんの容体なのよ…どうにも精神が安定しないというか常に不安にしているというか、あまり言葉を出してこないってのも気になるわね…一度、気分が落ち込むと持ち直せない程、心が弱いのかしら?ネガティブな思想から抜け出せないような子だったかしら?…そういえば

ふと思い出す、最近、姫ちゃんに魔力を渡したかしら?…一週間くらい前に全力で注いだから、減って、いない…と、思うけれど~。
魔力が少なくなることで精神に何かしら作用される、その可能性も…否定できないわよね~。

ふむ、数日前だったら、私も医療班の皆と一緒に魔力コントロールとか、譲渡の仕方とか教えている過程でちょっと魔力量が心許無かったけれど、今なら、多少だけれど、余裕も出てきたので姫ちゃんに魔力を注いでも問題は・・・ないわね、それなら、注いでみますかね

椅子から立ち上がってゆっくりとベッドに腰を掛けて首元に手を触れて魔力を注いでいく。

相変わらず、底が見えない…深い井戸に桶を投げ込んだみたいに魔力が吸い込まれていく…
この一週間碌に術式なんて使っていないのに、どうしてこんなにも魔力が減っているのかしら?体質だからと言われればそうだよねっとしか言えなくなる程、特殊な体質だけれど、封印術式はしっかりと機能しているし…何か原因があると考えるべきよね。

考えられる点と言えば…
…未来姫ちゃんと繋がると、もしかして、魔力が大きく減る?消費しているってこと?そういえば、魔力を限界まで渡したその夜に現れたみたいなのよね…
その可能性もあるわね、そう考えると、魔力が減ってしまった作用で、精神も安定していなかった?

…大いにあり得るわね。
暫くの間は魔力を注ぎまくろう。
幸いにも医療班の皆も少しずつ魔力を譲渡する感覚を覚えつつある、それを利用しない手はないわね。我ながら利用できるものは即座に利用するスタイル、自画自賛だけど好きよ。
当面は、医療班の皆から練習という名目で私に魔力を注いでもらおう、正直に言うと毎日姫ちゃんに魔力を注ぎ続けるのはちょっと辛かったのよね、今でこそ、封印術式のおかげもあって頻度は減っているけれど、しっかりと姫ちゃんを観察しておかないといつ必要なのか分かりづらいのよね~。
医療班の皆から注いでもらった魔力を姫ちゃんに注ぐ!いいじゃないの!完璧な計画じゃない。

今後の方針として、気になっている部分があるのよね、封印術式の被検体を増やしたいっていう考えもあるのよ、誰かに頼むよりもまずは、私の体にも施すべきじゃないかと最近、沸々と感じているのよね、実体験することで得られることもあると思うのよ…
美しさも保てるし、若々しい見た目も、たもてるし、ちょこ~っと改良すれば…うん、色々と分かる範囲で調べましょう、封印術式を!!

姫ちゃんが落ち着いたら相談してみてもいいかもしれないわね。美も保てるし、私専用に改良しないと

医療班の皆から魔力を注いでもらっては、姫ちゃんに渡す、おかげ様で私自身もしっかりと魔力を体全身に巡らせていけている!今すぐ駆け出せるほど気力精力滾る!体調が良き!

そんな日々が三日続き



「お母さんおはよう!」
まさかの、朝早くに体を叩かれて起こされるなんてね…
姫ちゃんに起こされるとは思っていなかった、私よりも早起きなんて絶対にないのに…寝ぼけながら飛び込んできた姿

元気で爽やかに朝日と共に輝く笑顔

私の心に巣くい始めていた不安という病巣は、その輝きによってゆっくりと泡のように消えていった。

輝く笑顔に手を伸ばして、頭を撫でて両手で頬をこねくり回して堪能していると「やめてよ!」ばしっと、小さな音と共に手で払われる。
姫ちゃんを堪能してから朝日と、姫ちゃんの陽気な雰囲気に包まれながらベッドからゆっくりとはいでる。

時計を見ると、ほんと、早朝だね~、寝起きで頭が動かないわね…

思考が定まらないので取り合えず、ソファーに座ると無言で櫛を渡されるので、渡してきた姫ちゃんを膝の上に乗せてから髪の毛を整えてあげる。

起こされた雰囲気から考えて見ても姫ちゃんも寝起きみたいね、起きたのはいいけれど、どうしたらいいのか、ふと隣を見ると私が寝ている、起こすかってくらいの感覚でおこしたでしょ?はぁもう、起こす事に関しては別にいいわよ…早朝に起きてする用事なんて無いけれど、こういった穏やかな時間は嫌いじゃないもの、むしろ、大歓迎よ。

それに、十日近くもこの子の笑顔を見ることが出来なかった、今はそれがある、それだけで朝早く起こされた価値があるって思わない?

髪の毛を綺麗に整えてあげてから、はい、いいわよっと肩をぽんっと叩くと私から櫛を受け取って立ち上がる、櫛を元の位置に戻しに行ったのかと思えば、後ろに回ってきて私の髪の毛に触れてくるじゃない、珍しいわね?

姫ちゃんにされるがままに、髪の毛の手入れをお願いしていると
「お母さんも、私と一緒だね」
ん~…それは何処の部分?髪の毛が白いってこと?貴女の体はまだまだお母さんみたいに色気も気品も漂う、男を惑わすような様絶で魅惑的な我儘ボディじゃないわよ?

「私ね、たぶん、ううん、たぶんじゃない」


記憶がある、私が経験してきていない記憶がある


その一言で何が言いたいのか伝わってくる、貴女も鍵を開いたのね、何処かの世界にある、今の私達とは違う、経験を経た…存在の記憶に



未来からの思念というなの記憶


未来姫ちゃんの記憶と経験が貴女の中に強制的に繋がった結果、徐々に混ざっていくのでしょうね。
「お母さんがね、この間、唐突に真顔で涙を流していたのも、開いたからだよね?」
ええ、そうよ、悲しい悲しい一人の女性が死の間際に残した記憶が…あの一瞬で開いて弾けていったのよ、徐々にゆっくりと気が付かないうちに混ざってきた思念という記憶が、特定の鍵をきっかけに突如、開き、その結果、追体験したのよ、その人が歩んだ人生を

「私も、開いたみたい、でもね、私ね、この感覚に覚えがあるの、昔に実験した時に感じた内容に近しいっていうかね、似ている気がするの、たぶんだけど、それよりも更に上の術式だと思うけれど、私は知っている…」

【時空に干渉する術式だよね。】

ええ、そうよ、貴女が考案し構築し、過去も現在もすっと、研究している生涯の研究テーマ、その一つ、ある意味、未来姫ちゃんが使っている術式が完成系という評価をしても過大評価ではないでしょうね。

過去に干渉するという術式

貴女のお母様を救う為に考案した術式、過去の自分に未来の情報を伝えるという時空干渉術式
これを完全にもしも、今この瞬間にその術式を行うことが出来たら、きっと過去の姫ちゃんに封印術式や医療の知識を送り届けて姫ちゃんのお母様を救うことができるでしょうね、私もその術式を完全に理解し実行することが出来れば、もしかしたら、隣にあの人がいるのかもしれないわね。

それくらい、未来からの情報というのは価値が凄いのよ、私達が歩んできた失敗や成功を詰め込めるのだから、研究に費やした時間をカットすることもできる。

今すぐにでも使用したいけれど、姫ちゃんがそれをする気配が無いのはきっと条件が必要だと思うのよね。
時空に干渉するための発動条件なんて、当然私が知っているわけがないじゃない、何が、何をもって、発動するためのきっかけとするのか、更に、どうやって送り届けたのか確証を得る方法が無いのよね、過去に姫ちゃんが行った実験も第三者が居る状態で行っているわけじゃないので、本当に、謎なのよ、確証を得られないのよ、見る人によっては、私達の脳みそ、人格等が狂っているって判断する人もいるでしょうね。

未来の存在が、過去の対象に干渉した。
その結果、未来を変えることが出来る。

過去の存在からしたら、突如にして発生した知らない記憶、その記憶を呼び起こす条件が何かわからない、だから実は、今もこうやって何もなく日常を過ごしている最中にも、もしかしたら未来からのメッセージを受け取っている可能性もある、ただ、呼び起こす条件が不明なだけでね。

術式に疎い私よりも、貴女の方がより鮮明に未来の情報を受け取っている可能性が高いでしょうね。
「はい!髪の毛、綺麗になったよ」
褒めて褒めてと後ろから抱き着いてきてじゃれついてくるので偉いわねっと頭を撫でていると
「私ね」
耳元でゆっくりと囁いてくる

「絶対にお母さんを死なせない」

力強く前に回してきた腕に力が込められていく、力強く決意溢れる腕に触れながら私も姫ちゃんに習って決意を言葉にする

「ええ、私も、貴女を絶対に…幸せにしてみせる」

私の未来に待ち受けている【死ぬしかない未来】それを、覆す決意を胸に宿す。
私が死んでしまったらこの子はきっと幸せになれない、それなら、私が死なないようにしながら、無念を晴らす、その為には…この子の力を借りないといけないのだと思う。

私達は、今後もきっと…こうやってお互いを支えあって歩んでいくのだと思う、本当の親子の様に…


ただ、問題はどうやって私が待ち受けている試練を彼女に伝えるのかという点と…
そもそも、どうしたらいいのか私自身もな~んにも策を練れていないのよね~、時期は何となく察しているのだけれど、何をどうすればいいのか、考えても考えても…出たとこ勝負なのよね~、こまったことにね!!

確かに、彼女から伝えられた無念の記憶はあるわよ?
でもね、結構、途切れ途切れだし、断片的だったし、どの様に話が繋がっているのかちょ~っと、わかりづらいのよ~。
記憶っと言うよりも感情がダイレクトに伝わってきちゃってて、内容が、その、詳しい状況までは、知りえれていないのよ、何時何分に何が起こるのか、何日に誰と会うのか、けっこう欠落しちゃってるから…

難しいのよね~

最近なんて完全に沈黙しちゃってて、呼び起こそうにもどうやって、語り掛けるべきかわからなくなっちゃってるのよ、たぶんだけど、完全にまざったのか、その時が来るまで干渉せずに自我を保つために眠っているって感じかもしれないのよね~
あの時以来、明確に彼女の記憶っという私が知りえぬ記憶を探ることが出来ないのよ、何かしらのきっかけが必要なのだと思うのよね。

そう考えると、未来姫ちゃんが書類の書き起こしてくれるのは非常に助かるのよね~

そんなことを考えていると、すっと姫ちゃんが離れた後、机に置いてある資料を手に取り読んでいくので、そっとしておく。
取り合えず、目覚ましの紅茶でも淹れて、二人で今後のことを相談しましょうかねっと


こうして、復活した姫ちゃんと共に未来に向かって私達はお互いの手を取り合って歩んでいく…
私達が手を取り合い、歩んできた道は時折、思い返してみてもいいかもね…




しおりを挟む

処理中です...