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Dead End ■■■■■儀式 D●y ●日目 (4)
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これが、夢だと、わかる、これが…夢なのだと、わかる、だって、ありえないから
腕の中には小さな男の子がいる、産まれて半年くらいかしら?綺麗な男の子が腕の中で安らかに眠っている。
声を掛けられる、でも、音は聞こえない、夢だから、声を聞けるのなら聞きたい切に聞きたい、愛する人の声を思い出せない
だって、声を掛けてきてすぐ隣で包み込むように優しく微笑んでいるのは愛する人だから
嗚呼、こんな幸せな未来があったのだと、ありえたのだと、声にならない思念が伝わってくる。
この幸せな未来を掴みたくないのか?
簡単にあきらめてもいいのか?
可能性はゼロではないだろう?
魔術という未確定の技術だってあるじゃないか?
伝説の聖女は魔術を使って失った腕すらも再生させたというのだろう?
魂が月の裏側にあるのなら引き寄せることは可能だろ?
肉体を魔術で構成すれば魔力を注ぎ続ければ生きていけるだろ?
彼の肉体は焼いて現時点では、存在していないかもしれないが、肉体を構成する組織として骨はあるだろう?
彼を構成する物は魂か?肉体か?
可能性はゼロじゃない、諦める事が愚かじゃないのか?彼だって愛する人と共に手を取り合って歩んで生きたいのではないのか?彼は今もなお、月の裏側という不可視の領域で諦めていないと考えないのか?
耳障りな言葉が心の底から苛立ちを感じて、先ほどまでの幸せな世界が真っ赤に染まっていく、怒りの炎によって。
煩い、五月蠅い!うるさい!!だまれ!!
お前に、おまえに!!私達の何がわかる!ヤシオ様の魂を!!死者の魂を冒涜するな!!!
何も知らないやつが騎士様の至高なる高き魂を、想いを勝手に語るな!!
あの人は、始祖様の元で世界を救うための戦いに赴いている!かれ、の、かれの…崇高なる魂を、けがすな…けがすなっ…
「…大丈夫ですか?表情が、苦しそうですけど?痛みがあるのですか?」
音に誘われ、パチっと目を開けると、懐かしい顔が視界に映る…末席の王子、ピーカ王子、のはずよね?昔にあったときに比べて苦労をしていたのか、痩せている。
「必要な薬があれば仰ってくださいね?」
心配そうに覗き込んで、貴方、優しい表情が出来るようになったのね、私が知っているのは常に緊張して張り詰めた表情、生きるか死ぬかわからない瀬戸際の困った表情、自分自身の弱さに打ちのめされ絶望した表情…常に苦難に満たされた表情しか見てこなかったから、少しだけ、感慨深くなっちゃうわね、時の流れは色んなものを変えていくのね。
上半身を起こす前に心配してくれた優しい子に手を伸ばしながら声を掛ける
「大丈夫よ、心配かけてごめんなさいね」
つい、夢のせいなのか、目の前にいる男の子の頭を自分の子供のように撫でてしまう、まるで母親のように
…王族に失礼過ぎるわね、この光景を見られてはいけない人が見てしまったら不敬罪という罪状で連れていかれるわね。
重い上半身を起こして部屋を見回す。
そう、そうだったわね、シスター達のバックヤードに運ばれて、ソファーに寝かせられたのよね。
部屋の中にはピーカと司祭様、後はどちら様かしら?侍女の方かしら?
お二人は、今、到着したのかしら?私が寝てしまっているのを起こさずに待ってくれていたのかしら?だとしたら、申し訳ないわね、お二人ともお忙しいでしょうに。
それにしても、二人とも綺麗な服装ね、司祭様も朝にお会いしたような服装じゃないし、ピーカも王子らしい王族の服装。
それもそうよね、二人共に外に出るのならしっかりとした服装じゃないと駄目よね。肩書があるのですからね。
目を覚ましたからと言って直ぐに思考を動かせるほど、私の頭は出来が良くないし、頭痛と耳鳴りが鳴り止まないから、頭を動かすのが辛い。
私の脳が起きる迄、二人は何気なく会話をして間を繋げてくれている。
っというか、話の内容的に最近の情勢を話し合っているって感じで、元々、二人が話し合う予定ではあったって感じかしら?
寝ぼけた頭を起こす為に何か飲み物でも飲もうかと立ち上がろうとすると、侍女の方に制止されソファーに腰を下ろす。
どうやら、私の意図が侍女の方に伝わったのだろう、侍女の方が全員分のお茶を用意して配っている、彼女の仕事をとってしまうのはよくないわよね。
きっと、彼女は、王子専属の侍女なのでしょうね、佇まいと言い雰囲気と言い所作と言い完璧すぎるし、王子が何も警戒せずに彼女から受け取った紅茶に口につけている。
信用できる間柄なのでしょうね、なら、私も信用して飲むのが習わしよね、っていうか、私を毒殺する価値なんて無いでしょ?ついでに毒殺ってパターンはありえるけどね。
渡された飲み物をに口をつけると薫りが素晴らしく、最上級の茶葉を最適解で淹れたって感じじゃない、ちらりと侍女を見ると誇らしげに佇んでいる様に見えるわね、やるじゃない。
二人の会話をぼんやりと聞きながら待ち続ける、ちらりと視線を窓の外に向けると、カーテンが閉められていて外から中が見えにくくなっているけれど、灯りが入ってこない辺り、今の時刻は恐らく、夜なのだろう。
時刻は不明だが、夜にでもならない限り、お互いの時間が作れないのだろう。
二人の会話が終わるまで紅茶を飲みながら侍女の方に何処の銘柄なのか、このフルーティーな薫りを出す為に何か特殊な淹れるコツがあるのか、これに合うお勧めのお茶請けを取り扱っているお店があるのか、部屋の空気を乱さないように慎ましく、殿方の話の腰を折らない様に二人の淑女は、空間に彩の良い花を咲かせていると二人の会話が落ち着いたみたいで、「「聖女様はどちらの意見が正しいと思いますか?」」同時に声を掛けられる。
話を聞いていなかったので何方の意見が正しいとか知らないわよ、っていうか、何?私に主導権があるの?あるわけないでしょ?そんな立場の人が、意見を述べれるわけないでしょ?無関係でいたいのだけれど?言わないとダメなのかしら?
会話に参加するのを躊躇ってしまう、二人からの視線は一切外されることが無いので言わないといけない流れなのでしょうね。
だったら、側室の娘ではなく、朝にでも会話した奥様達の意見のように一般市民としての意見でいいのかしら?そういった意見が欲しいの?だとしたら、参考になるのかわからないけれど、意見は言わせてもらうから、もう一度、掻い摘んで説明してくれるかしら?
お互いの意見をわかりやすく噛み砕いてさらっと教えてくれるのは凄く助かります、話を聞いていなかったのですかっという声も無く丁寧に教えてくれる辺り、二人が温和な性格なのだと伝わってきます…唐突に会話に入って来いって言うのがそもそも、無理難題よね?
司祭様の意見として、簡潔にまとめると、勝ち抜くという考えを捨てて、何処かの派閥に頭を下げて迎え入れてもらって、王族としての力を削ぎ落されないように保身に勤めるべきっと言う意見ね。
確かにね、その意見には賛成としか言えないわね。
司祭様の話を聞く限り、勝利が厳しい状況であれば一発逆転なんて狙わないで、何処かに取り入るようにして派閥に入れてもらって、下積み?という感じで少しずつ地道に協力者を増やして、コツコツと勢力を増やして地盤を固め、王政の中でも発言力のある存在になれというのは至極当然、生き残ることを考えれば…正論よね、何も間違っていないわね。
これに対する王子の意見は、ちょっと冷静じゃないのよね、感情が先走ってしまっている。
そんな悠長なことをしていたら王都が死の街になるとか、今も、貧民と平民の数を減らして力のない貴族を都落ちさせるとか、要らない人は減らす選民思考で動いているとかって言うけれど…
王族がそこまでするのかしら?今回の選挙で王に成りえる可能性が高いやつは、それ程までに危険なの?王族と言えども無暗に血を流すようなことはしないのでは?
その話って確実性があるの?確かな情報なの?ぇ、裏は取れていない?だけど、アレに親しい人から話を聞いたの?
彼が考える今後の王政が付いて行けないと愚痴をこぼしていたから、情報を得る良き機会と判断して、酒を飲まして本音を徹底的に根掘り葉掘りきいた?だから、エビデンスはある?…お酒の席で?
…う~ん、証拠が無いのでしょう?お酒の席での話でしょう?愚痴をこぼした彼とアレとの会話記録でもあれば、って、そんな事が出来ないから何とも言えないのよね。
一応、その親しい人から知りえた情報はまとめてあるのね…念のために教えてもらってもいいかしら?
・貧困層の王都として不必要で生きていても仕方がない、使えないやつらは全て駆逐する
・平民だろうが、向上心のない奴は放逐する、つまりは、王都から地方へ追放して奴隷の如き扱いで農地や鉱物でも担当させて資金を得る
・貴族として媚び諂う事しか出来ないような屑どもには、平民としてゼロからやり直させる、直系だろうが、なんだろうが都落ちさせる
・南の地方だろうが、東の地方だろうが、西の地方だろうが、仕事のしない貴族は全て切り捨てる、仕来りだの過去の功績だの関係が無い
・死の街の扱いとして、先に述べたそれらの厚生施設として活用しつつ壁の向こう側を一歩ずつ開拓してデッドラインを超えさせて軍事拠点を作る
・死の大地に住む敵を管理しつつ、他の大陸から敵の脅威をチラつかせて寄付金を巻き上げる
・資金を得たら少しずつ他国を侵略して植民地とする、戦争は何時だって大歓迎
・この大地に住まう王族こそ秘宝、王の血を濃くし、あの50年を凌駕する力を手にいれる
・俺がこの世全ての、覇者となり、絶対的な王と成る
…力こそ全て、王こそ全て、我こそが覇者、天にも大地にも我こそが王であり絶対、神ですら、始祖ですら、頭を垂れ跪かせるっと高らかに宣言したって、そこまでいかれたヤツなの?シラフで語ってた?本当に?特殊な薬かアルコールを過度に摂取していない?話が盛に盛られてる可能性はないの?…どうせ、そこで聞いた話もお酒の席でしょう?
この最後の「…お酒の席で知りえた話ですが」っが、司祭様も私も凄く引っかかるのよね、それがシラフで心を許せるほど信頼関係を築いてきた相手だったら、確かな情報だと私も思うわよ?でも、酒が入っているのでしょう?それを、その、鵜呑みにするのは如何なものかと?
司祭様の思っていることが言葉にしなくても伝わってくる、支持をするのはどちらが正しいですか?情報が間違っている可能性を考慮すべきではないですかっと。
見つめ合いながら通じ合っているのが気に喰わないのか
「ですから!この様な悪しき考えを持っている人物を、次の王にしてはいけないと思いませんか?僕だって命を狙われたんですよ!?」
それは、貴方が若いからじゃないの?一番年下でしょ?…国王には隠し子が他にもいそうな気がするけれど、貴方が現段階で末席よね?
「それに、この間の事件で数多くの人が大きな怪我を負ったとお聞きしていますよ?彼らだって僕らが守らなければいけない民ですよ?守るべき民を率先して排除しようとする考え、王族としてというよりも、一人の人間として間違っていませんか?」
うーん、それが真実であれば、そうだけどさ、その事件はアレがしたという証拠がないでしょう?証拠なんて残さないと思うけどね。
感情ばかりが先行している王子の言葉をどの様に質せばよいのか考えていると、司祭様が我慢できないのか、少々感情を露にして言葉をぶつけ始める。
「では、貴方は、彼らを保護したとして!その先を考えているのですか?仮にですよ、貴方が王に成ったとして彼らを救えるのですか?身も心も、魂ですらも、救済出来るのですか?助けきれない相手の事は捨ておくとか考えていませんか?救えないのであれば、致し方が無いという考えには絶対に至らないのですね?」
至極当然、わかり切っている部分を冷静に指摘されると、自分自身でもその部分を理解しているのか、声を小さくして何とか反論しようとしているが
「声すら小さくして何が王ですか、その程度の器、その程度の存在感に誰が命を託せれると考えてくれるのですか?命を任せても良いと思ってくれると思いですか?王とは何か、人の上に建つとは導くとはどういったものなのか、未だに理解できていないのですか?実感がまだ湧いていないのに王を目指すというのですか?」
長年連れ添った教育係のように、流れる様にさらっとお叱りの言葉が溢れ出てくる、淡々と冷静だったものが徐々に熱を帯びていきお小言から、徐々に徐々にお小言の域を飛び立ち𠮟咤へと変わっていく…またも、私を置き去りにして、二人だけの世界に入り込む。
この状況を見て私が思うことは一つだけ
…帰ってもいいかしら?
紅茶に口をつけ、ちらりと侍女を見ると首を横に振る、帰ってはいけないのね、視線をあの二人に向けると侍女が首を縦に振る、私が止めろってことなのね。
もう一度、侍女の方を見て騒がしい二人を指さすと大きく頷かれる…目の前にある二人を止めるという淑女らしからぬ行動に反吐が、ん、んぅ、心の溜息が溢れそうだぞ♪
手のひらを大きく開き、手首を返し、スナップを利かせる様に力強く動かし、手のひら同士が体の中央で弾ける様に力と力をぶつけ一際大きな乾いた音を一度鳴らすと、一瞬だけ視線が此方に向かって交差する
「はい!静かに!今必要なのは今後の方針!策を巡らせる!何が最も王都に必要なのか、何が正義なのか、各々の正義を振りかざすだけじゃなくすり合わせる時間でしょ!!」
二人とも、静かに頷いてからは、私が!したくも無い司会進行を務めながら、朝まで討論は続いた…
腕の中には小さな男の子がいる、産まれて半年くらいかしら?綺麗な男の子が腕の中で安らかに眠っている。
声を掛けられる、でも、音は聞こえない、夢だから、声を聞けるのなら聞きたい切に聞きたい、愛する人の声を思い出せない
だって、声を掛けてきてすぐ隣で包み込むように優しく微笑んでいるのは愛する人だから
嗚呼、こんな幸せな未来があったのだと、ありえたのだと、声にならない思念が伝わってくる。
この幸せな未来を掴みたくないのか?
簡単にあきらめてもいいのか?
可能性はゼロではないだろう?
魔術という未確定の技術だってあるじゃないか?
伝説の聖女は魔術を使って失った腕すらも再生させたというのだろう?
魂が月の裏側にあるのなら引き寄せることは可能だろ?
肉体を魔術で構成すれば魔力を注ぎ続ければ生きていけるだろ?
彼の肉体は焼いて現時点では、存在していないかもしれないが、肉体を構成する組織として骨はあるだろう?
彼を構成する物は魂か?肉体か?
可能性はゼロじゃない、諦める事が愚かじゃないのか?彼だって愛する人と共に手を取り合って歩んで生きたいのではないのか?彼は今もなお、月の裏側という不可視の領域で諦めていないと考えないのか?
耳障りな言葉が心の底から苛立ちを感じて、先ほどまでの幸せな世界が真っ赤に染まっていく、怒りの炎によって。
煩い、五月蠅い!うるさい!!だまれ!!
お前に、おまえに!!私達の何がわかる!ヤシオ様の魂を!!死者の魂を冒涜するな!!!
何も知らないやつが騎士様の至高なる高き魂を、想いを勝手に語るな!!
あの人は、始祖様の元で世界を救うための戦いに赴いている!かれ、の、かれの…崇高なる魂を、けがすな…けがすなっ…
「…大丈夫ですか?表情が、苦しそうですけど?痛みがあるのですか?」
音に誘われ、パチっと目を開けると、懐かしい顔が視界に映る…末席の王子、ピーカ王子、のはずよね?昔にあったときに比べて苦労をしていたのか、痩せている。
「必要な薬があれば仰ってくださいね?」
心配そうに覗き込んで、貴方、優しい表情が出来るようになったのね、私が知っているのは常に緊張して張り詰めた表情、生きるか死ぬかわからない瀬戸際の困った表情、自分自身の弱さに打ちのめされ絶望した表情…常に苦難に満たされた表情しか見てこなかったから、少しだけ、感慨深くなっちゃうわね、時の流れは色んなものを変えていくのね。
上半身を起こす前に心配してくれた優しい子に手を伸ばしながら声を掛ける
「大丈夫よ、心配かけてごめんなさいね」
つい、夢のせいなのか、目の前にいる男の子の頭を自分の子供のように撫でてしまう、まるで母親のように
…王族に失礼過ぎるわね、この光景を見られてはいけない人が見てしまったら不敬罪という罪状で連れていかれるわね。
重い上半身を起こして部屋を見回す。
そう、そうだったわね、シスター達のバックヤードに運ばれて、ソファーに寝かせられたのよね。
部屋の中にはピーカと司祭様、後はどちら様かしら?侍女の方かしら?
お二人は、今、到着したのかしら?私が寝てしまっているのを起こさずに待ってくれていたのかしら?だとしたら、申し訳ないわね、お二人ともお忙しいでしょうに。
それにしても、二人とも綺麗な服装ね、司祭様も朝にお会いしたような服装じゃないし、ピーカも王子らしい王族の服装。
それもそうよね、二人共に外に出るのならしっかりとした服装じゃないと駄目よね。肩書があるのですからね。
目を覚ましたからと言って直ぐに思考を動かせるほど、私の頭は出来が良くないし、頭痛と耳鳴りが鳴り止まないから、頭を動かすのが辛い。
私の脳が起きる迄、二人は何気なく会話をして間を繋げてくれている。
っというか、話の内容的に最近の情勢を話し合っているって感じで、元々、二人が話し合う予定ではあったって感じかしら?
寝ぼけた頭を起こす為に何か飲み物でも飲もうかと立ち上がろうとすると、侍女の方に制止されソファーに腰を下ろす。
どうやら、私の意図が侍女の方に伝わったのだろう、侍女の方が全員分のお茶を用意して配っている、彼女の仕事をとってしまうのはよくないわよね。
きっと、彼女は、王子専属の侍女なのでしょうね、佇まいと言い雰囲気と言い所作と言い完璧すぎるし、王子が何も警戒せずに彼女から受け取った紅茶に口につけている。
信用できる間柄なのでしょうね、なら、私も信用して飲むのが習わしよね、っていうか、私を毒殺する価値なんて無いでしょ?ついでに毒殺ってパターンはありえるけどね。
渡された飲み物をに口をつけると薫りが素晴らしく、最上級の茶葉を最適解で淹れたって感じじゃない、ちらりと侍女を見ると誇らしげに佇んでいる様に見えるわね、やるじゃない。
二人の会話をぼんやりと聞きながら待ち続ける、ちらりと視線を窓の外に向けると、カーテンが閉められていて外から中が見えにくくなっているけれど、灯りが入ってこない辺り、今の時刻は恐らく、夜なのだろう。
時刻は不明だが、夜にでもならない限り、お互いの時間が作れないのだろう。
二人の会話が終わるまで紅茶を飲みながら侍女の方に何処の銘柄なのか、このフルーティーな薫りを出す為に何か特殊な淹れるコツがあるのか、これに合うお勧めのお茶請けを取り扱っているお店があるのか、部屋の空気を乱さないように慎ましく、殿方の話の腰を折らない様に二人の淑女は、空間に彩の良い花を咲かせていると二人の会話が落ち着いたみたいで、「「聖女様はどちらの意見が正しいと思いますか?」」同時に声を掛けられる。
話を聞いていなかったので何方の意見が正しいとか知らないわよ、っていうか、何?私に主導権があるの?あるわけないでしょ?そんな立場の人が、意見を述べれるわけないでしょ?無関係でいたいのだけれど?言わないとダメなのかしら?
会話に参加するのを躊躇ってしまう、二人からの視線は一切外されることが無いので言わないといけない流れなのでしょうね。
だったら、側室の娘ではなく、朝にでも会話した奥様達の意見のように一般市民としての意見でいいのかしら?そういった意見が欲しいの?だとしたら、参考になるのかわからないけれど、意見は言わせてもらうから、もう一度、掻い摘んで説明してくれるかしら?
お互いの意見をわかりやすく噛み砕いてさらっと教えてくれるのは凄く助かります、話を聞いていなかったのですかっという声も無く丁寧に教えてくれる辺り、二人が温和な性格なのだと伝わってきます…唐突に会話に入って来いって言うのがそもそも、無理難題よね?
司祭様の意見として、簡潔にまとめると、勝ち抜くという考えを捨てて、何処かの派閥に頭を下げて迎え入れてもらって、王族としての力を削ぎ落されないように保身に勤めるべきっと言う意見ね。
確かにね、その意見には賛成としか言えないわね。
司祭様の話を聞く限り、勝利が厳しい状況であれば一発逆転なんて狙わないで、何処かに取り入るようにして派閥に入れてもらって、下積み?という感じで少しずつ地道に協力者を増やして、コツコツと勢力を増やして地盤を固め、王政の中でも発言力のある存在になれというのは至極当然、生き残ることを考えれば…正論よね、何も間違っていないわね。
これに対する王子の意見は、ちょっと冷静じゃないのよね、感情が先走ってしまっている。
そんな悠長なことをしていたら王都が死の街になるとか、今も、貧民と平民の数を減らして力のない貴族を都落ちさせるとか、要らない人は減らす選民思考で動いているとかって言うけれど…
王族がそこまでするのかしら?今回の選挙で王に成りえる可能性が高いやつは、それ程までに危険なの?王族と言えども無暗に血を流すようなことはしないのでは?
その話って確実性があるの?確かな情報なの?ぇ、裏は取れていない?だけど、アレに親しい人から話を聞いたの?
彼が考える今後の王政が付いて行けないと愚痴をこぼしていたから、情報を得る良き機会と判断して、酒を飲まして本音を徹底的に根掘り葉掘りきいた?だから、エビデンスはある?…お酒の席で?
…う~ん、証拠が無いのでしょう?お酒の席での話でしょう?愚痴をこぼした彼とアレとの会話記録でもあれば、って、そんな事が出来ないから何とも言えないのよね。
一応、その親しい人から知りえた情報はまとめてあるのね…念のために教えてもらってもいいかしら?
・貧困層の王都として不必要で生きていても仕方がない、使えないやつらは全て駆逐する
・平民だろうが、向上心のない奴は放逐する、つまりは、王都から地方へ追放して奴隷の如き扱いで農地や鉱物でも担当させて資金を得る
・貴族として媚び諂う事しか出来ないような屑どもには、平民としてゼロからやり直させる、直系だろうが、なんだろうが都落ちさせる
・南の地方だろうが、東の地方だろうが、西の地方だろうが、仕事のしない貴族は全て切り捨てる、仕来りだの過去の功績だの関係が無い
・死の街の扱いとして、先に述べたそれらの厚生施設として活用しつつ壁の向こう側を一歩ずつ開拓してデッドラインを超えさせて軍事拠点を作る
・死の大地に住む敵を管理しつつ、他の大陸から敵の脅威をチラつかせて寄付金を巻き上げる
・資金を得たら少しずつ他国を侵略して植民地とする、戦争は何時だって大歓迎
・この大地に住まう王族こそ秘宝、王の血を濃くし、あの50年を凌駕する力を手にいれる
・俺がこの世全ての、覇者となり、絶対的な王と成る
…力こそ全て、王こそ全て、我こそが覇者、天にも大地にも我こそが王であり絶対、神ですら、始祖ですら、頭を垂れ跪かせるっと高らかに宣言したって、そこまでいかれたヤツなの?シラフで語ってた?本当に?特殊な薬かアルコールを過度に摂取していない?話が盛に盛られてる可能性はないの?…どうせ、そこで聞いた話もお酒の席でしょう?
この最後の「…お酒の席で知りえた話ですが」っが、司祭様も私も凄く引っかかるのよね、それがシラフで心を許せるほど信頼関係を築いてきた相手だったら、確かな情報だと私も思うわよ?でも、酒が入っているのでしょう?それを、その、鵜呑みにするのは如何なものかと?
司祭様の思っていることが言葉にしなくても伝わってくる、支持をするのはどちらが正しいですか?情報が間違っている可能性を考慮すべきではないですかっと。
見つめ合いながら通じ合っているのが気に喰わないのか
「ですから!この様な悪しき考えを持っている人物を、次の王にしてはいけないと思いませんか?僕だって命を狙われたんですよ!?」
それは、貴方が若いからじゃないの?一番年下でしょ?…国王には隠し子が他にもいそうな気がするけれど、貴方が現段階で末席よね?
「それに、この間の事件で数多くの人が大きな怪我を負ったとお聞きしていますよ?彼らだって僕らが守らなければいけない民ですよ?守るべき民を率先して排除しようとする考え、王族としてというよりも、一人の人間として間違っていませんか?」
うーん、それが真実であれば、そうだけどさ、その事件はアレがしたという証拠がないでしょう?証拠なんて残さないと思うけどね。
感情ばかりが先行している王子の言葉をどの様に質せばよいのか考えていると、司祭様が我慢できないのか、少々感情を露にして言葉をぶつけ始める。
「では、貴方は、彼らを保護したとして!その先を考えているのですか?仮にですよ、貴方が王に成ったとして彼らを救えるのですか?身も心も、魂ですらも、救済出来るのですか?助けきれない相手の事は捨ておくとか考えていませんか?救えないのであれば、致し方が無いという考えには絶対に至らないのですね?」
至極当然、わかり切っている部分を冷静に指摘されると、自分自身でもその部分を理解しているのか、声を小さくして何とか反論しようとしているが
「声すら小さくして何が王ですか、その程度の器、その程度の存在感に誰が命を託せれると考えてくれるのですか?命を任せても良いと思ってくれると思いですか?王とは何か、人の上に建つとは導くとはどういったものなのか、未だに理解できていないのですか?実感がまだ湧いていないのに王を目指すというのですか?」
長年連れ添った教育係のように、流れる様にさらっとお叱りの言葉が溢れ出てくる、淡々と冷静だったものが徐々に熱を帯びていきお小言から、徐々に徐々にお小言の域を飛び立ち𠮟咤へと変わっていく…またも、私を置き去りにして、二人だけの世界に入り込む。
この状況を見て私が思うことは一つだけ
…帰ってもいいかしら?
紅茶に口をつけ、ちらりと侍女を見ると首を横に振る、帰ってはいけないのね、視線をあの二人に向けると侍女が首を縦に振る、私が止めろってことなのね。
もう一度、侍女の方を見て騒がしい二人を指さすと大きく頷かれる…目の前にある二人を止めるという淑女らしからぬ行動に反吐が、ん、んぅ、心の溜息が溢れそうだぞ♪
手のひらを大きく開き、手首を返し、スナップを利かせる様に力強く動かし、手のひら同士が体の中央で弾ける様に力と力をぶつけ一際大きな乾いた音を一度鳴らすと、一瞬だけ視線が此方に向かって交差する
「はい!静かに!今必要なのは今後の方針!策を巡らせる!何が最も王都に必要なのか、何が正義なのか、各々の正義を振りかざすだけじゃなくすり合わせる時間でしょ!!」
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