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Dead End 6■■の黙示(3)

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暫くしたある日、朝から何かきな臭い動きが王都中の随所で発生している、同胞からもこれは良き好機だと教えてもらった。
同胞から得た情報だと王家に属する何処かの派閥の何処かの誰かが、神をも恐れぬ蛮行の限りを尽くしているそうで、おかげさまで大量の素材が教会に運び込まれてきた。

これだけの素材があれば、足りるのではなかろうか?
受け取った儀式、我らの悲願である、我らの神を降臨させ、我が悲願を叶えてもらえる日が一気に近づくのだと、神さえ降臨させてしまえば褒美として、肉を用意し、その肉に魂を宿してくれると私は信じている。悲しむそぶりを見せながらも、腹の底では歓喜していた。

歓喜しながらも、表面は悲しそうに悲劇を嘆く様に近隣の方達に怪我をした人たちを救う為に協力を願い出ていると、目の錯覚か己の目を一瞬疑ってしまった。

何故なら、有り得ないからだ、神はまだ降臨していない、なのに…死臭が漂いそうな場所に白き花を、白き月を…見た

一目見た瞬間に膝から崩れ落ちそうになる



愛するイラツゲ様が、怪我人が溢れる悲しき世界を見据えていたのだ



心が遥か高く天に上る程、高らかに音が鳴った、一目見た瞬間に世界が真っ白に染まった、世界が浄化されたと感じた、生きてきたことに心から神に感謝の言葉を捧げたくなった。
今すぐにでも駆けつけたかった、いますぐにでもだきつきたかった、あたまを 撫でて欲しかった。あの時のようにあの頃のように私の、僕の…名前を読んで欲しかった。

衝動的に動きそうになるのを何とか制止し、冷静に事を考える…
此方の儀式は何一つ発動していない、考えられる可能性を考えるのだ…
心当たりは無い事も無い、もしかしたら、あの日…教会から、いや違うな、王族から逃げ延びた聖女としての力に目覚めることが無かった妹君が、実はご存命で、今もなお、聖女の運命から逃れ生きていられたという可能性、その可能性であれば頷けるし納得も出来る、何かのきっかけで王都に帰ってきたのだと、イラツゲ様の妹君が戻ってきた可能性はある、だとすれば、最高の肉ではなかろうか?

焦る気持ちを抑え、直ぐに接触せずに相手の様子を伺うとしよう。妹君であれば最高なのですがね

それに、この様な王都が荒れるタイミングで、彼女がどうしてこの場に現れたのか、その理由を見極めないといけない…

いけないのだが、彼女の仕草が一挙手一投足、歩き方に、墓地を掃除する仕草、祈りの姿勢、死者を尊び神から祝福され光り輝く白き髪…
目に映る全てが、すべてがイラツゲ様にそっくりで、瓜二つで、心が、心が!!!

抑えきれない。バクバクと鳴り響く心臓が五月蠅く感じるほどに!!!

何度も何度も自分に言い聞かせるように心を落ち着かせる、アレはイラツゲ様ではないのだと…
それに、イラツゲ様の妹君で在らせられるのであれば、自ずと育ったこの教会の誰かに挨拶に来てくれるであろうから、それを待てばよい、この様な陰で眺めている状況で声を掛けるわけにはいかない、勘の鋭い方だった場合、此方の動きを把握されている可能性もありますからね。

なので、ゆっくりと彼女を見続けるとしましょう、これは先に待ち受ける我が悲願にとって必要なことなのです…
それにしても、なんと、なんともまぁ、墓地を綺麗に掃除し続ける姿はまさにこの世に降臨した女神と偽りが無いといっても過言ではない美しさ、死者を尊ぶその姿は聖職者として完璧と言える、これ程までに美しくて尊い世界があるのかと心の琴線が揺れ続けている、イラツゲ様以外にここまで、私の、俺の、心が揺り動かされることがあるなんて

その完璧すぎる理想を体現したイラツゲ様としてパーフェクトの存在を見ていると私の心の中にひとつの気づきが産まれ出。

そうか、そうじゃないか、彼女はイラツゲ様の器だ、器じゃないか、きっと神が、敬虔なる信徒で在り行動し続けた褒美を授けてくれたのだ!私の願いを大願を成就する時が来たのだと心が確信へと至った瞬間に世界が開けたように感じ取れた、そう、あれこそが神が用意してくださったイラツゲ様の器だ…

今までの私の頑張りが認められたのだ、大願成就がすぐそこに!!

自然と私の手は素肌に触れている、エンブレムへと手が伸びる…あの日に賜りし儀式に用いる魔道具、それが手に触れた瞬間に私の素肌よりもほのかに熱を帯びている!熱を帯びているのがわかる!誰にも見られないように慎重に取り出し、三角形の真ん中にある開かれし目玉がイラツゲ様の器を見ていらっしゃるではないか!!

確信を得た瞬間からずっと頭のてっ辺から冷たい何かが全身を駆け巡り、思考が冷たい何かに誘われる様に一気に真っ白に染まっていく…
恐らく体内を駆け巡る衝撃はきっと歓喜という得も言われぬ衝動なのだろう。修道の果てに肉の痛みから解放されてしまった私の体では、その衝撃が薄くなってしまった感じ取れない。
だが、今すぐにでも果てそうな程の悦びは感じている、その衝撃の凄まじさから膝から崩れ落ちそうになるが何とか耐え、彼女に見つからない様に息を潜める。

こんな状態で声でもかけられでもしたら、私は歓喜の余りに飛んでしまいそうになる、いや、飛ぶだろう、天高く昇ってしまうだろう、いけない、今はいけない。

固唾を飲みながら、果てそうになりながらも、眺め続けているとゆっくりと墓地から離れていく、その優雅な仕草はまさに女神…
彼女にお会いするには今の状態では心が張り裂けてしまいそうだ、いや、なる!なればこそ、一度、精神統一をする程の鍛錬を行ってから赴くとしましょう。

墓地から離れ、一度、教会の地下へ行き、神への祈りを捧げ、心を落ち着かせるために激しい修練を行ってから現場へと戻る。

その後も、彼女が何をしようとしているのか遠目で見続ける…

彼女の動きを見続けていると全ての要素が肯定してくれる。私の直感は正しいのだと、やはり彼女は、彼女こそがイラツゲ様の魂を受け入れる為の器だ。

イラツゲ様が聖女としての運命、目覚めた力は初代聖女様と同く人々の傷を癒す、癒しの力。
視線の先にいる器もまた、傷ついた人を癒す力を持っていた、聖女様と同じ力を、持っている…
正に運命!これぞ、運命!!いや、違う、これぞ神の台本!!神が描いた道筋なのだろう!私の願いを、信徒である私の願いを!!叶えてくださるのですね!!!

神からの褒美に歓喜の声を叫びたくなるが、今の状況で叫ぶわけにはいくまい、耐える事にはなれている

さぁ!神の意志を感じるのです!何をお求めなのか!そんなものは決まっているではありませんか!!
そうと決まれば、より多くの贄を、供物を捧げないと…はぁあぁ、そうか、この一連の流れ!そうじゃないですか、その為なのですね!!

教会に運び込まれた負傷者たちは、この為なのですね!!

全てにおいて、この様な御膳立てしてくださるなんて、なんて、なんて!慈悲深き神なのだ…
信じてきてよかった、あの時、この全てを教えてくれた人物、神の使いである使徒様にお会いした時は一瞬とはいえ疑ってしまったことが、本当に心の底から申し訳なく感じてしまう。

またも、感極まってしまったので、誰にも見つからないように一旦、教会から離れ、目を閉じて神経を研ぎ澄まし、昂る心を落ち着かせる。

心の鍛錬も終わり、今の私であれば彼女を目の前にしても慌てる事も無く天に昇ることも無く果てる事も無く、平常心を保てれるでしょう。
では、私もそろそろ動き出すとしましょうか…

心も体も整った私に怖い物はない、ゆっくりと近づいていくと、現場がざわついていますね。
ちょうどよいタイミングですね、何か問題でもあったのでしょう、話に割って入りやすいではありませんか、責任ある司祭という立場であってよかったですよ。
シスター達がイラツゲ様の周りに集まっている、この様なベストなタイミング迄、用意していただけるなんて、なんて慈悲深く、狡猾な御方なのだろうか。

神に感謝を捧げ、心も体も平常心に持っていき民草が理想とする司祭としてゆっくりと歩み寄る。この舞台を壊さないように、さぁ、舞いましょう、私は神の道化、神が用意してくださった台本通りに舞い踊る道化。


台本通りに踊りましょう、イラツゲ様の器と共に!!!


心も体も整っていたと思っていたのですが、私もまだまだ、修道が足りていませんね。
体内を駆け巡る歓喜の渦で今にも果ててしまいそうになっている、何故かって?

声まで、お声まで!あの甘くて優しくて切なくなるお声も記憶どおり、遜色なく同じだからですよ!!!

はぁああぁぁ、忘れかけていた、いや、忘れていたイラツゲ様の甘い甘美なるお声が…福音のように私の体を蕩けさせようとしてくださる。
また、私の耳を通して心に染み渡るなんて…そうだ、そうですとも、今日は女神が降臨した祭日にしましょう。毎年、この日は祭りを開き全ての教会で祝福を祈りを捧げるのがよいでしょう。

感極まりすぎて、迂闊な言葉を話すことが出来ない、私が蕩けているのが察してしまわれるので。
イラツゲ様の邪魔をしない様に、器の彼女に言われるがまま、怪我をした民を救う。
可能であれば全員を贄にしたかったのですが、軽症の方もいらっしゃるご様子ですからね、流石に全てを贄にするには、手が足りなさすぎますね。
であれば、生き残れそうなものは生きればよい、窮地を助けてくれたイラツゲ様に心酔しながらこの世を生きることを許しましょう。

それに、彼女を慕う信徒が増えれば増えるほど、イラツゲ様が目を覚ました時にお喜びになられることでしょう。

そうと決まれば、死にゆくものは贄に、命を長らえたものは信徒へと至ってもらいましょうか。その為には色々と恩義を与えて身も心も捧げてもらいましょうか。
神が用意してくださったであろう司祭として動けと言う台本通りに舞う為に、炊き出しを行う為の声かけをしたり、近隣の信徒から応援を願ったり、我が同胞である信徒たちには蜜ら叶いようにすれ違い時にメモを渡したりと、大忙しじゃないですか。
大忙しだけれども体が辛いという悲鳴は一度も上がってこない、喜びで疲れなんて湧いてこない、肉体が悲鳴を感じることなぞ無い。


今の私は、俺は、何があろうと動き続けることが出来るでしょう神の御力によって。


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