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希望の光 ③

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溢れる心の力に翻弄されることなく。自分がなすべきことの為に立ち上がって直ぐに小走りで駆け出す。
勢いよく休憩室のドアを開き、隣の部屋に向かって突撃しようとしたのだけれど、気のせいだろうか?誰かがドアを開けて勢いのせいで、吹き飛ばしてしまった気がする?声とか音も、しなかったけれど…
ドアを勢いよく開いたとして何かにぶつかった感触は無かった、急に開いて驚いてってことはありそうな気がする。
開いたドアの陰に向かって視線を送ると、メイドちゃんが尻もちをついている…ドアの近くに居たんだね、気が付かなくてごめん
慌てて手を指しだそうとするが、慌てるように手を振り「急いでいるんですよね?行ってください、私は大丈夫、これくらいへっちゃらです」尻もちをついて少し涙目になっているのに…

「ごめんね!今度、必ず、何かお詫びするから!」

両手を揃えてウィンクしながら、隣の部屋に向かって駆けだしノックもせずにドアを開ける、だけど、部屋の中には目当ての人物がいない。机の上に筆が置かれている様子から見て経過記録を書き終えて何処かに向かって行ったのだろう、なら。行き先なんて決まっている。
姫様が寝かせられている治療室へ向かって走る、病棟を走るのはいけないけれど、幸いなことに大先輩は…たぶん、きっと、いない!なぜなら!No2の赤ちゃんの面倒を頼んでいるから病棟にはいないはず!

大先輩に病棟を走っているのを見つかったら冷たい床の上で正座させられちゃうからね?しちゃだめだよ?

先ほどまで震えていた体は、走ることによって熱を取り戻していくのを感じる。
ちょっと、太ももが大先輩の激怒した姿を思い出したのか一瞬震えたような気がするけれど、気にしない!

姫様が寝かせられている病室のドアをゆっくりと開けるとNo2が床に倒れてる!?
慌てて抱き起す…あーあ、お化粧がぼっろぼろに崩れちゃってるじゃん…浸透水式が終わって直ぐにうすーくお化粧をしたみたいだけれど、もう、涙でぐっちゃぐちゃだよ。
抱き起しても反応が無い、全身が冷たくなっている…きっとNo2も絶望という名のフィアーに犯されているのだろう。
抱きしめて自分は世界に一人じゃないと伝える、かえってきて、私達のお母さん…

「お母さん、だめだよ、まけちゃだめ、いつだって私達を希望へと明日へと導いてくれたじゃない」
誰かのぬくもりを感じる…暖かい、優しい、あの日みたいに、なつかし、なつかしい?
『貴女に何度、奮い立たされたか、何度、諦めたくなる状況でも幾度となく前を向かせてもらったかわかりません』
目をゆっくりと開くと光が乱反射して前がみえないでも、でも
「…きし、さま?」
わたしには、わたしにはわかります、幾度となく感じていた貴方が近くに、迎えに来てくれたのですか?私も月の裏側へ
『また、前みたいに貴女に誘惑されてみたいですね、でも、まだその時じゃない、息子を…娘を…お願いします』
…はい、惜しいですけれど…惜しいですけれどまだ、その時じゃないのですね、光をありがとう
「…きしさまぁ…」
目の前で抱き寄せてくれる優しい娘の温もりを感じるように抱き寄せる、嗚呼、騎士様、見守ってくださってありがとうございます。
はい、私はまだ、まだ、そちらに行く時ではないのですね…心に力が、明日を目指す生きる決意が満たされていくのを感じます。

「ありがとうね、後輩」
「いいってことですよ、先輩」

お互いの体を力強く抱きしめお互いが目指す先が一緒なのだと感じあえた、挫けない、何があろうとめげない、愛する娘がそうだったように、母親として負けてらんないわね。


抱きしめている人から伝わってくる…母親としての力を感じる、目標としていた先輩としての力強さも感じる、うん、姫様、もう大丈夫、私達はへこたれないよ!
姫様みたいにどんなことがあろうと、どんな状況になろうとも、立ち止まらない、絶対に明日を、未来を、その先を見続けるよ。

ゆっくりと離れると少し照れくさいけれど、四の五のいってらんないよね?私達には1秒も無駄には出来ないんだから!だよね?姫様

No2の手を取って立ち上がり誰かに背中を叩かれたような気分と共に部屋を出ると
「おー…説教は後がいいか?今がいいか?」
大先輩がNo2の赤ちゃんを抱っこしながらこちらを睨んでいる…どうしているの?っていうか、見られてた?走っているの、見られていたってことだよね?
「あー、とが、いいかなー…な~んて…」
視線を逸らしながらNo2に助けを求めようとするが、赤ちゃんを受け取り、直ぐに近くの空き病室へと入っていく…うん、お説教タイムだね。
「今だな、ほらこい」
首根っこを掴まれて大先輩がいつも働いている診察室へ連れていかれる…うわー、油断してたわけじゃないけれど、いると思わなかったんだもーん!!私達にお説教してる時間なんてないんだよー!?

椅子に座らされると、きつい言葉が飛んでくるのかと思えば
「ほれ、コーヒーでもいいか?」
温かいコーヒーを渡される?ぁ、淹れたてみたいで、香りがいい、落ち着く…
「苦かったら適当に砂糖いれな、お前さんは甘え目がすきだったろ?」
コクコクと頷きながら砂糖が入ったカップを受け取り小さじスプーン一杯の砂糖を入れてよくかき混ぜる。
「三度目のご苦労様、体調はどうだ?何処か辛くないか?危険な術式を連続連日でやっているんだ、お前自身の体もいたわれよ?」
テキパキと脈を測ったり熱を測られたり、魔力測定器などでバイタルを確認されていく
「うん、異常はねぇな、アレは、精神が堪えるってのは聞いているけれど、どうなんだ?変な感覚はあるか?違和感はないか?噂だと何処からともなく声が聞こえる奴もいるって聞いたことがあるが、どうなんだ?」
うーん…幻聴はないよ?それってさ、たぶん、魔力欠乏症からくるアンニョイで憂鬱な感情に悩まされる症状じゃないかな?
事前に、医療班の皆から魔力を分けてもらっているから、特に、欠乏症の症状はでてないかな?…混ざっての陰鬱な感じはあったけれども、アレは姫様だから起きた現象でしょ?知らなかったんだもん、あんなに壮絶な過去があるなんて思ってもいなかった。
思ってもいなかったけれどさ、私個人としては、知れて良かったと思う、肌で感じて良かったと思う、姫様ってさ、あんまりっていうか、殆ど自分の事って語りたがらないから、何を考えているのかわからないときがあったから…

ただ、一つだけ懸念点があるのが、姫様って御伽噺とか英雄譚好きでしょ?夢の中の話ってオチはないよね?あそこ迄、現実味のある追体験させられといてそういうのは、無いと思うけれど、姫様の口癖というか可能性はゼロじゃないってやつじゃないよね?

まぁ、それが夢だとしても、それを知れて良かったと思うかな?姫様の友人として…隣人として…彼女の悩みに触れれたような、彼女の心にようやく…触れられたような気がしたんだ。
そりゃ、出来るなら体験したくないよ?凄く辛かったもの。死ぬほどの、痛みだよ?身も凍る程の凄まじい痛みだよ?人生で一度でも経験したくないよね、自分が死ぬ感触なんてさ。

一応、死ぬような感触が伝わってきそうなことを大先輩に相談すると、衣服をささっと捲られる?
「うーん、大丈夫そうだな」
どうしたのかな?
「心理現象の一つとしてだな、俺は見たことが無いんだけどよ、ある定説があってな、実際に体験したわけでもないのに誰かが体験した出来事、例えば、膝をぶつけたとか、殴られとか、そういった会話を聞くとな、突如、自分にも同じような傷跡が浮かび上がるってやつを聞いたことがある、念のために、それが浮かび上がっていないか確認してみたが、大丈夫そうだな」
うん、大丈夫、浮かび上がっていたとしたら、たぶん、凄いことになってるよね?
だって、胴体真っ二つに食いちぎられてたりしてたよ?
毒に犯されて内臓全部溶けたりもしてたよ?
人型の魔道具から放たれた火炎に包まれて全身が焼けて呼吸できなくて死んだりとかね?
他にも一杯、数えきれないほど、多くの死の体験をしてきている…

…壮絶過ぎる死に方を、かなりしてたから、それ全部、浮かび上がってたら発狂しちゃうよ。

思い返してみても全部、個人的に体験したくなかったけれどさ、肉体的っていうよりも、心が酷く辛かったのが、王都での死に方だよね…あれは、救いがなかった。明日を求めない死に方だった。希望なんて何もなかった。
後は、此方の騎士達や戦士達が敵に洗脳されて、洗脳から救うには、殺すしか助ける道が無くて、姫様の手で仲間を殺し続けるのも嫌だった…あれも救いが無かった。
だから、様々な抵抗値を底上げする水薬、各種様々なレジストポーションっていうのが産まれたんだね、敵からの魔の手を防ぐために
麻痺系統のレジスト薬を飲み過ぎて、此方が用意した痛覚を麻痺させる薬剤や魔道具がまったく通用しない時があったりもしたけどね!まったく、適当に飲む人がいるからなー…

本当に壮絶な経験をしてきているのだと痛感するよ…あれ?


そういえば、まだ、私が出てくるところまでは追体験してなかった、よね?…私と出会ってからも先ほどみたいに多くの死を迎えていたとすれば、私はもっと多くの死を追体験しないと姫様の最深部に辿り着けないってことになるのかな?


背中に氷でも入れられたかのように体が震える、まだ先に死の体験が待っているのだとわかってしまうと…
「ぉ、だ、大丈夫か?寒いのか?な、何か温かいモノでもって、コーヒーが、ぁぁ、でも」
体がブルブルと寒そうに震えている姿を見て大先輩が慌ててしまっているので
「だ、大丈夫です、ちょっと思い出しちゃって…色々と」
大先輩には姫様の隠された過去全てを打ち明ける必要はない、知ってもどうしようもないし、姫様も知られたくないと思うから
だって、姫様、大先輩も一度、殺してるもん…泣き叫びながら、ね…
「すまない、そうだよな、同調現象ってのが尾を引く物なんだな」
その様子だと、No2が作成しているカルテをまだ見てないご様子かな?大先輩は浸透水式に対して適性が無いから経験が無いんだよね。
「うん、でも大丈夫です、あれくらいへっちゃらですよ」
心配性な大先輩に、心強く見守ってほしいので女将みたいにニカっと口角を両方とも上げて笑うと
「っふ、そうやって豪快に口端を持ち上げていると、お前さんの父親…戦士長の事を思い出しちまうな…」
あ、そうなんだ、女将風に笑ってみたんだけどな?
「女将のやつもよ、戦士長がよくそうやって笑って皆を元気づけていたのを見て真似するようになったんだよ、懐かしいな」
そっか、お父さん口下手だもんね、そっか、受け継がれてきたんだね、お父さんの不器用なところも
「そうやって、笑えるってことは姫様のことも、期待していいんだな?任せても大丈夫だな?」
医療の父らしく真剣な顔でこっちをみてくる…うん、大丈夫、笑えるよ。姫様。
「うん!まかせて!」
姫様と同じように笑顔でお決まりの言葉を言うと
「っはは、似てやがるなちくしょう…なら、任せたぞ、馬鹿弟子の為にも、この街の為にも、人類の未来の為にも…プレッシャーをかけちまうのはよくねぇのはわかっているが、頼んだぞ」
コクリと頷いて、椅子から立ち上がり診察室を出ようとしたとき
「っはは、そっくりじゃねぇか、父親と同じでよ、頼もしい背中をしてやがる…大きくなったな」
大切な友人の息子を、孫を見送るような暖かい声と視線が届いてくる、その想いを背負って歩き出す。
私はまだまだ、知らないといけない、過去を…全ての過去を知ってから挑むのが正解だったのかもしれないけれど、この大地の残された時間は…余裕は無いから先にできることをって、ことで…急ぎ足で浸透水式を開始したけれど失敗に終わってしまった。

1回目は完全に、失敗に終わった、2回目と3回目は、失敗とは言えない得るものがあったから…
No2がどうしても、どうしても、そこだけは譲れない想いがあったから実施した。
失敗する可能性が高いとわかっていても、試さずにはいられなかった、私だって同じ思いだったから。
姫様の細胞は冷凍保存してあるから、ある程度の臓器は元々、直ぐにでも培養できるように指示されていたみたいで、姫様はこうなる予想でもあったのか、いくつかの臓器は既に培養されていた、だけれど…適合しなかったのは仕方がない。

4回目…私は、全てを知ったわけじゃない、確実に来るであろう衝撃に、死の体験に…備えないといけない、姫様の壮絶な死の物語を受け止める覚悟を!!
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