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Dead End ユ キ・サクラ (4)

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いけないことをしようとしているのが楽しいのか、敵が苦悶の表情で歪むのを想像して悦に入ってしまったのかはわからないが、今の私の心は非常に喜ばしい状態だ。
昂る感情のせいで浮足立ち、周りが見えない程に気が付けば早足で廊下を歩いていた。

私は知らなかった、感情が昂ることによって、時間の感覚が狂うという事を、つい先ほど、自分の部屋を出たと思っていたら瞬きをした程度の時間しか経過していないと感じているのに、もう、目の前はお母さんの部屋…

ついつい、ごくりと生唾を飲み込んでしまう程に昂っている状態でドアノブを捻ると…

キィィっとドアが軋む音と共に開いてく!!日頃の行いが良いのだと日々頑張り続けてきた自分を褒め称えながら中に入っていく。
「うっひっひ!!」
余りにも嬉しくて、つい、声が漏れてしまう。まだ、目的の物が手に入っていないというのに、心は歓び、自然と体は小躍りをしていた。
タンタンっと軽快なステップを挟みながら奥へ進んでいく。
お母さんの部屋には、直ぐに見つからない様にちょっとした仕掛けが施されている、一目見ただけではわからないこっそりと仕込まれているギミックを動かして、特別な保管庫の扉を開くと、劇物が保管されている魔道具が出てくる、魔道具が入っているテーブルを引くとガラララと音を出しながら…眼前にお披露目しますっと

眼前にある保存を目的とした魔道具の蓋を開こうにも当然、鍵が付けられている。
だけれど、こんなの私にかかれば障害になんてならない、鍵という存在意義を完全否定する様に秒殺で解錠しお宝を取り出すの…だが

手に取った瓶を見つめる…強かなお母さんが何もしないわけがない。薬が入っている瓶にしっかりと線が書かれてる…

中身が減ったり増えたりしていたら即バレる、しかも、番号も丁寧に振られていているし日付もばっちりじゃん…

お宝を目の前にして、どうしたものかと少しだけ考える…何が正解なのか直ぐに答えが出てくる賢い頭が悲しく感じる…
拝借したのがバレると本気で怒られる、それも、皆の前で正座させられて…

弁明不可の状況で良い年齢にもなって下手をすると大勢の前で怒られるという悲しい未来を選択する…という愚かな行為はしない。
浅はかな考えは、斯くも虚しく空虚を掴む…幾度となく手を伸ばしては短慮浅慮、希望を掴んでは絶望を抱く愚かなりしは短気かな…っぐぅ、あきらめるしかない、っか!
全てのギミックを元通りに戻す、その際もしっかりと、指紋が残らない様に綺麗に拭き取っていく。
お母さんほど用心深い人であれば指紋もチェックしている可能性がある。バレない様にしないと…

諦めて部屋を出ようとする怒髪天の乙女はドアに手を掛けるが、表情は落胆しておらず小さな笑みを浮かべている、何故なら

手元には数枚の紙を手に取っているから。

現物がダメなら調合すればいいんだよね!金庫の中にはお宝はあったよ?レシピっていうお宝がね!!
部屋を出るその仕草は得物を仕留めた狼のように足を上げて上機嫌
幸いにも誰にも遭遇せず、仕留めた獲物を片手に自室に戻り、書き写す為にレシピを開き一目見た瞬間に自然と息が漏れる

ひゅっという、かすれるような吐息が漏れ、希望は絶望へと変わった

レシピの中に『特殊な光に反応する液体』という項目を見て即座に察する…あの金庫に特殊な塗料が塗られているという事を!!
悪戯した状況がどう足掻いてもばれてしまうという絶望をどうやって回避するのか必死に考えるが時すでに遅し…
この塗料を調合するには時間が無さ過ぎるし、塗料を拝借したところで残量がメモられているので減ったという事実は消えない

つまるところ

詰みだ…

…今私にできるのは、このレシピを書き写して、どうして必要なのかお母さんにそれっぽい言い訳を並べて、ならべて…誤魔化すしかない!!!
大急ぎでレシピを書き写し、大急ぎでお母さんの部屋に戻り、金庫の中にレシピを放り込む!どうせバレるのなら一刻も早くこの場を離れて誤魔化す為に必要な物を用意する時間が欲しい!なので!指紋なんて拭き取らない!
慌てふためき、心臓跳ね上がり、心乱れながらも、この状況を見た人に怪しまれない様に冷静を装いながら部屋を出て、周りを見渡し誰も居ないのを確認したのちに、駆け足で自室に戻り、書き写したレシピの中で人に害が無く誤魔化すのに適した都合の良いレシピがあるか片っ端から見て行く…っが、どれも、害しかないじゃん…それも、そうだよね、危険だから厳重に封印してるんだよね。

書き写したレシピ片手に部屋の中をウロウロと落ち着きなく歩きながら言い訳を考え続けている白髪の少女が、ふと、足を止めると窓からは張りがあるようで疲れ果てたような声が聞こえてくると、足を止め全てを諦めたのかゆっくりとソファーに座り天を仰ぐように天井を見つめていると、完全に万策尽きたのかその場で目を閉じソファーに全ての体重を預け眠りにつく…


当然、その日の夜に疲れていて直ぐにでもベッドで眠りたかったであろう医療班団長であるジアが、顔を真っ赤にしてソファーでふて寝している白髪の少女を叩き起こし、冷たい床の上で正座させる。
少女は壁に駆けられている時計を見て、覚悟を決める…長い長い説教が始まるのだと、床から伝わってくる冷たさと、硬さに口をへの字にして視線を彷徨わせながらも、どうせ起きたのだったら時間を無駄にしないつもりで、虎視眈々と次の一手を考える。
この冷たくて硬くて、耳障りな言葉の暴力を受けたという屈辱もプラスして何倍にも返してやるのだと、新月の夜に向けて復讐の…いいや、これはもう八つ当たりだ、その策を練り続ける。

「これに懲りたら必要な薬剤があれば、理由を添えて申請する様に!良い大人になったんだから、言わずもわかるわよね?わかるわよね?」
ゴツンっとおでこにお母さんの固いおでこをぶつけられ痛みを感じながらも、その痛みに対して言い訳をせずに「はい、ごめんなさい」素直に謝ると深いため息と共に離され頭をポンポンと撫でられる…正直、普段ならこの撫でられ方は大好きだけれど、今ばかりはあの夜を思い出してしまい、心の奥底で燻ぶるように憤りがぼやぁっと、火が灯ろうとする。
「まったく、その顔、何かあったの?未来姫ちゃんから新しい指令でも来たの?私には言えない内容?」
心配そうにこちらを見つめるその表情で火が燃え盛ることはなくゆっくりと鎮火されていくのを感じる…
この慈愛に満ちた、慈母のような表情に縋りたくなってしまう、屈辱を味わったのだと打ち明けて抱きしめて欲しくなる。

相談できる内容であれば直ぐにでも相談したいけれど、魅了の力によって絆されている彼女に伝えるべき内容では無い。
何時もの様に仮面をかぶり、腹の内をさぐされない様にするのは…お手の物、だよね…

縋りたくなる甘えたくなる心を抑え、瞬時に仮面をかぶる…ここからは、私の番だね

「大丈夫、だいじょうぶだよ、お母さん、未来から情報は来たけれど、必要な薬剤をお母さんが持っているのか確認したかっただけだから…」
母に甘えるように…幼い子供のような笑顔で受け答えをしてやり過ごす、相談できるのならしたいけれど、客観的に公平に判断してくれるのなら素直に全てを聞き入れてくれるだろうけれど、相手とお母さんとの関係値に魅了の力を考慮すると分が悪い…

この人は敵に回したくない…から。

「それで、欲しいモノはあったの?どういうモノが欲しかったの?」
聞かれたくない質問に対して信憑性がある内容で誤魔化すとなると
「神経に関する薬物、痛みとか、感覚を遮断するタイプ」
実際問題、この手の薬はある程度、出来上がっているがまだまだ副作用などを考慮すると改良の余地もあれば、発展の余地もある。
「…そうね、その手の薬はあることはあるけれど、これを弱毒化するのは…難しいわね」
リストに中にあった薬は特殊な液体と混ぜることで揮発性を向上させ、毒を揮発させ無味無臭の気体へと変化させ敵に吸い込ませる毒
更には肺に成分を取り込みやすくなるように特殊な液体を混合配合することによって、呼吸系統の働きを阻害させ、即座に肺の働きを止め窒息死させる働きがある。
この毒は、特殊な液体と混ぜない限り経口摂取、または、直接投与しない限り、危険性は無いが体内に入ると組織の働きを止めようとする毒で、神経に投与すれば当然動きを止めることが出来る…って感じで、これを弱毒化することが出来れば痛み止めになるんじゃないかってレシピに書かれていた…今のところ弱毒化が出来ていない劇毒。

この話題にお母さんも納得したのか、流れる様に薬学の談義が始まる。
今の状況を事情を知らない人達が遠くから見れば、親子が他愛も無い日常を過ごしているように見えるのだろうが、決して耳を澄まして会話を盗み聞きしてはいけない、聞けば人間不信に陥ってしまうだろう。

愛する娘との微笑ましいのか甚だ疑問を感じる談義が終わりを告げると、昼間の疲れか母親は眠そうに欠伸をしてから部屋を後にする。
娘もまた、手を振り、張り付けた笑顔で見送る。

ドアが閉めるの見るや否や、張り付けた笑顔の仮面を外すと、邪悪な笑みが浮かびあがる
「くっくっく、さっすが、毒の天才!いい方法、教えて貰っちゃった~にっしっし!」
その邪悪な笑みを見てしまったら多くの方がその先に待ち構えている悪だくみ(最悪)を想像し、背筋に冷や汗が流れてしまいそうになるだろう。

邪悪な笑みを浮かべた白髪の少女は時を忘れ、ある準備に没頭していく…


幾ばくかの時が流れ、ふと、集中が途切れたのか、白髪の少女は目を何度も閉じたり開いたりしている

「と、取り合えず、一旦、いったんねよう!」
机に広げている設計図を見ると書き込みが非常に多かったのだが、どうやら、切の良い場面まで仕掛けの設計図が出来たのだろう
机から立ち上がって外に視線を向けると太陽が昇り、窓から光が直接差し込むような時間
窓のカーテンを閉め、暫く予定を強引に空けれた功労者に感謝を捧げ少女は着の身着のままでソファーに倒れ込むように横になったと思ったら、即座に眠りにつく。
眠りについた表情は何処か晴れやかな表情だった。

きっと、思い描いた結果が楽しみで仕方が無いのだろう。

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