CYBER

Eve

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セルフバティー

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ーーーーーー……。




 「おはよう、姫奈」

 「おはよう、姫ちゃん」



次の朝、一階に下りていくと、テーブルを囲んで3人が朝ごはんを食べていた。


美帰に隣に空いた椅子が一つ。



そして、そこに並べられたシチューとパン。それからコップ



 「あ…おはよう…」




姫奈はその席に腰を下ろしパンをちぎりシチューを染み込ませながら食べていく。





 「そういえば、今日だよね?セルフバティー、直してもらうの?」



千尋はサラダを食べる手を止めて姫奈を見つめた。


姫奈はこくりと頷いて笑顔を浮かべた。



 「うん、直せるといいんだけどね」



 「まあ、直せるとは思うけど。一応電子戦のセルフバティーだったしな」



玲の言う通り、電子戦のセルフバティーの持ち主なら期待できるかもしれない。


今まで、姫奈は電子戦セルフバティーを使いこなす人にはあったことがなかった。




これは、直るかもしれない。



 「大丈夫だよ、きっと直るよ。あたしを…みんなを助けてくれた、凄いセルフバティーだからね」


そう言って美帰はにっこりと笑った。


 2年前…美帰たちを助けたセルフバティー…


姫奈はこくりと頷いた。




セルフバティーは、通常一人一つ。

だけど、ほかの小さなセルフバティーは脳にコネクトしなくても使えるものがある。


おまけに、人間の脳は、数字に表すと760EDsの大きさだ。


つまり、540EDsの大きさのセルフバティーを脳にコネクトしたとしても、まだ残り、220EDsが残る。


だから、まだ、220EDs以下のファイルのセルフバティーならまだ、コネクトできるということ。



だから、レーナや、メイサも同じだ。


きっと2つ以上のセルフバティーをつけている。



でも、姫奈のセルフバティーは、すでに姫奈の脳の740EDsを使ってしまっている。


だから、ほかに脳にコネクトしなくても使えるセルフバティーしか今は使えないのだ。




 「ああ、姫奈のアビリティー(力)は、俺らの力を遥かに超えるからな。」


 「うん、一人だけ才能に恵まれた、美少女だよ」



 「あ、あははは」




姫奈は苦笑いを浮かべた。

確かに、姫奈の力は普通ではなかった。


普通は8歳くらいの時から、"貴族"かどうかが分かるようになる。


身体が大きくなるにつれ、身体の中に眠っているセルフエネルギー能力(アビリティ)が目覚めていく。


遅くて12歳。


12歳の時に身体にその能力が見られないのならば、その人は普通の人間。貴族ではない。



だが、姫奈は5歳でその能力が身体の中で発生し、発見され、8歳の時点では、家の壁一つ壊せるほど、セルフバティーを使いこなしていた。




 「姫ちゃん、千尋兄ちゃん、玲兄ちゃん!!遅刻しちゃうよ。早く行こう」



美帰の言葉に三人は思わず時計に視線を注ぐ。


8時20分




「「「ち…遅刻?!」」」




すぐに自分達が遅刻寸前になっていることに気付いて慌てて椅子から立ち上がる。



   あ、洗い物は後ででいいや 



そんなことを四人は思いながら慌てて家を出て行った。








ーーーーーー…


 「それじゃあ、約束通り、このセルフバティーを直すことができれば…サイバーに入ってもらうから」



メイサはそう言ってテーブルの上に姫奈のセルフバティーをのせた。



ここは、何処か実験室のような感じがする。


テーブルと言ってもガラスで出来た縦長いテーブル。


部屋の中は水色でテーブル以外何もない。



姫奈達はそれを囲んでいた。



 「ああ…もちろん…俺らはその約束出来たんだからな。ちなみに出来なかったら、俺らは入らないぜ」



怜はそう言ってメイサたちを睨みつけた。




「もちろんやって見せるわ。こんな貴重な人たちを4人ももらえるもの。こんなチャンス、もう来ないわ」



メイサはそう玲に微笑み返した。






 「じゃあ、姫奈さん。ここに横になってくださる?」



メイサはそう言ってテーブルの上を指差した。

姫奈はこくりと頷いてそこに横になった。



テーブルはきっと3メートルくらいある。


姫奈の身長は160cmだから、寝転がってもまだまだ広い。



 「じゃあ、スキャンを始める」



そう言って後ろからやってきたのはレーナだった。



すっと自分の手を姫奈のおでこに乗せるとすぐに目の色を緑に変えた。




「脈発を確認。脳とセルフバティーのコネクトを強化。セーフティー、プライベートを解除。脳とセルフバティーへの侵入を許可」



しばらく沈黙が走る。

侑芽の姫奈の額を抑える手が光り出す。



どうやらレーナは、姫奈の脳とセルフバティーの接続を強化して、万が一があってもディスコネクトにならないようにしているそうだ。




 「……セルフバティーへの侵入を確認」



レーナの言葉に玲達三人は慌ててメイサの方に視線を注ぐ。



メイサは真剣な顔で耳のセルフバティーを忙しそうに動かしていた。




動かすと言っても彼女自身は全く動いていない。


彼女は一点を見つめ動かない。


ただ、セルフバティーの光の点滅がいろいろ変わったり、形を変えたりしている。

それはメイサが作業をしている証拠だ。



  まさか、もう姫奈のセルフバティーに侵入したというのか…この短時間で



玲は驚きを隠せなかった。



 こんなに早くもセルフバティーに侵入できるものなのか?





 「………え…」




急にレーナが顔の色を変えた。

彼女の額にも冷や汗が浮かんでいる。



 「どうしたの?レーナ?ストレージの情報を早く私に…」



 「メ、メイサ…それが…ティップ、IP、アドレス、データは読めるのだけれど…攻撃パターン、つまり技が…一つしかなくて、そのパターンが…読めない…」


 「な、なんですって…」



メイサも顔色を変えた。

もちろん、それはメイサだけじゃない。姫奈もだった。



姫奈は、"あの時" 、姫奈のセルフバティーの中にある全てのデータ、( 攻撃パターンなど )を無理矢理消去し、無理矢理ある攻撃パターンをダウンロードしたからだ。




そのダウンロードされた攻撃パターンが読めないということだ。




そして、レーナがその攻撃パターンを読めずにいるのは…

きっと、その攻撃パターンの情報はレーナのセルフバティーの中にはない攻撃パターンだからだ。




 「あの…アイファル…メモリア…という攻撃パターンを知っていますか…」


美帰が小さな声でレーナに話しかける。


レーナは頭をかしげた。




 「アルファ…メモリア…?そんなの…聞いたこと…ない…」


 「そ…そうですか……」



 やっぱり、知らないわよね。



姫奈はふうっと息を吐いた


アルファメモリア は、特にハイレベルな技。そう簡単にセルフバティーにダウンロードして、使えるようになる攻撃パターンじゃない。



知らない人だっているし、姫奈のセルフバティーに侵入したからって全員が、その技を読み取ることができるわけじゃない




 
 「その攻撃パターン…読むことはできなくても、削除することは出来るんですよね。お願いします。」



姫奈はメイサの顔を見つめた。


 「え…」とメイサは驚いた顔をする。



別に、きっと、その技を使うことはもうない。


なぜなら、この技で倒さないといけない敵はもうこの技で倒してしまった。



もう、使い道もない。



 「私のセルフバティーのオーバーヒートの原因はそれです。

私が無理矢理ダウンロードなんか出来るはずのない技を、無理矢理押し込んでダウンロードしたんです。」



これは小さな箱だ。

例えば、小さな箱に、大きなまくらを入れる。


当然まくらは入らないけど、無理矢理中に押し込むことは出来る。そして、押し込んだ時に箱の蓋を閉める。


そうすると、枕は中に入ったまま。でも、数秒経つと、箱はもちろん、枕のせいで開いてしまう。


それが姫奈のセルフバティーでおきたことだ。




姫奈は入るはずのない物を、箱の中に押し込んだ。

もちろん、無理矢理押し込んだ物は中で大きくなり、箱の蓋を開けて、いや、開けるだけじゃなく…壊して中から飛び出した。


だから、箱は壊れてしまっている。




そしてメイサが、中に入っているその枕を取り除いて、破れてしまった箱をテープで止めて、蓋をすれば…いいのだ。



 「……削除すればいいのね?」



メイサの言葉に姫奈は頷いた。




 「ま…まって!!!!!!」


その時、部屋に美帰の高い声が響いた。



 「ひ…いちゃんは、それでいいの?」


美帰は俯いたままだった。



 「姫ちゃん、それは…それは…姫ちゃんがあんなに苦労してダウンロードしたもの…全てを守るために…あたしを守るた……?!」



その時声をあげていた美帰の口を遮るように大きな手で塞がれた。




その手は、玲のものだった。

玲は右手で美帰の口を押さえ、まっすぐとメイサ達を見つめていた。



その手は冷たく、感情がない…そんな感じだった。

だから、美帰もハッとして、なにも抵抗が出来なかった。





 「そう…姫奈さんは、大切な人を守るために全てを尽くしたのね。なんていいお姉さん…」



メイサはそう、うっとりといった。



「いえ…。」



姫奈の小さな声は誰の耳にも届かなかった。

レーナはすっと姫奈の額から手をなした。すると同時に手から出ていた魔法陣も消えた。


すると今度はメイサが一歩姫奈に近づいた。


そして、ゆっくりと姫奈のセルフバティーを手にすると、水色の魔法陣でそのセルフバティーを覆った。







そして今度はメイサの周りにたくさんのデータが浮かんできた。


それは、宙に浮いていて、ホログラムのようだ。

メイサのすぐ目の前に、一つの画面が映る。



《 セルフバティーにコネクト中 》



そして、下には緑色にケージがあり、それがゆっくりと増えていく。


そして、100パーセントになった時、その画面は一瞬にして消え、今度はたくさんの画面が浮かび上がった。


ぱっと見、25くらい。


メモリーのようなものや、他にもいろんなものがある。





これは、姫奈のセルフバティーのメモリーを映像化し、宙にうつしているのだ。


メイサは手慣れた手つきで次々と画面をクリックしていく。



 「…なるほどね、だから、誰もあなたのセルフバティーを修復させられなかったのね」



メイサはふうっと息を吐いた。


 「そ、それって…もしかして…直せるってこと…?」



姫奈は思わず大きな声でそう聞いた。

そして、すぐに自分が大きな声を出したことにハッとし、視線を逸らした。


 「ええ……悪魔の攻撃パターン…いえ、失われた悪魔のアビリティーね。


アルファ メモリア…ね。聞いたことはあると思ったけど、実際に見て思い出したわ」




メイサはそう言ってにっこりと笑った。





 「し、知ってるんですか?」


 「知ってるも何も…アルファ メモリアの、姉妹アビリティーと言われている、そのアビリティーと全くの互角の技を、私は持ってるもの」




「「「「「え?!?」」」」」




メイサの言葉にみんなが声を合わせた。


メイサの目の前にある映像は、インストールされた、アイファルメモリアの情報だ。



メイサはそれをみてにっこりと笑った。



 「面白いわ。月雛姫奈さん。まさか、悪魔のアビリティーをインストール出来るなんてね。この技をインストールできる人はそういないもの。後で、しっかりとあなたの力を見せてもらうから」




メイサは指をどんどん動かしていった。


そして、とうとうある画面にたどり着いた。



《 このアビリティーをアンインストールしますか? 》


彼女はすぐに「はい」のボタンを押した。




《 アビリティーをアンインストールしました。 》



その画面が出た時、美帰だけじゃなく、

姫奈も、玲も、千尋も…何か、心の中で壊れた気がした。


なんだか、チクリと痛む…何かが…



  もう…私たちを助けたアビリティーは…姫ちゃんのセルフバティーには存在しない 


美帰は唇を噛み締めた。





《 セルフバティーをリセットしますか 》



メイサは戸惑いなく、はいを選択した。


はいを選択すると画面が暗くなった。




 「 お礼は、ちゃんとしてもらうわね」



メイサはそう言って姫奈にセルフバティーを手渡しした。



姫奈は慌てて起き上がると自分のセルフバティーを見つめた。



 「もう…使えるんですか…??」


姫奈がそう聞くとメイサはニコリと笑った。


 
 「あなたのレベルはまた、調べさせてもらうわ。放課後、サイバーの部屋で待っているわ。」



メイサはそういうとレーナとともに部屋を後にした。




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