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二分咲き
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<第一章>
四月上旬
土手沿いでは黄色の花が辺りを埋め尽くし主役を主張している。
そこに遅れてピンクと白の花が共演し次第に取って代わる。
春に咲く花。それは桜だ。
満開の桜は日本全国のいや世界の人々の心を癒すだろうか。
いらっしゃい。
行列に並びようやくイカ焼きをゲット。
少々お高めの上、味も大雑把で生焼けにも思えるが気にせずにかぶりつく。
手はべたべた。口の周りも酷い有り様。
「先輩待ってくださいよ。置いて行かないで! 一人にしないで! 」
花見シーズンはずっと露店が開いている。
どこも盛況で簡単には目当ての物は手に入らない。
イカだけでなく焼きそばやたこ焼きリンゴ飴と昔からのもの。
チョコバナナやフルーツ棒と比較的最近のものまで目につく。
匂いも強烈でついつい引き寄せられてしまう。
「先輩どこ? どこですか? 」
「うるさいなあ。早く行くよ! 」
もぐもぐ ギーギー
なかなか噛み切れないイカ。
口の中で何度も噛み続けようやく食べ終わる。
「それにしてもイカは…… 」
「いいから早く! 」
強引に僕の手を掴み引いて行こうとする。
まるで迷子にならないように見守る姉のように。
僕は手を振り払おうと何度も抵抗するが放してくれない。
「先輩放して! 先輩の手までベタベタになりますよ」
「まったくもう。そんなこと気にしないよ」
「だって…… 」子供のように黙る。
「さあ行くよ。後で手を洗えば済むんだから」
これが二人の初デートだと僕は思っている。
彼女は果たして僕のことをどう思っているのだろうか。
手を引かれトイレに連れていかれる。
これでお面でも被ればただの小学生。見た目も体つきも身長も。
そうコンプレックスでしかない。
それからお洒落とはかけ離れたメガネ。
本当はコンタクトにしたいんだけど入れるのが怖くてどうしても無理。
先輩が戻って来た。
化粧を直したのか朝よりもさらに綺麗になっている。
まあ自分はその辺のことに疎くどの程度変化したのか本当は良く分かっていない。
髪形も変えたようで大人っぽさが際立っている。
「いいなあ…… 」つい心の声が漏れる。
「もう。何を言ってるの! 行くよ! 」
先輩の後を追い駆け人混みに同化する。
「先輩! 待ってくださいよ! ヨシノ先輩! 」
「うるさい! 早く! 」彼女は先を行く。
「待っててば! 」僕は常に後ろを追いかける。
「先輩! 」彼女は僕でなくても追い駆けたくなるような後ろ美人だ。
もちろん前だって申し分ない。
すれ違った男が振り返り嫌らしい目で上から下まで追うか。
神々しい物を見たかのようにその場で立ち尽くすかで。
たまにどうしようもない奴もいて勢いに任せナンパしようと食い下がる。
もちろんそんな奴を彼女は相手にしない。ホラ今だって勇者は敗れ退場する。
「先輩早いってば! 」 息を切らし追いかける。
「いいから早くしなさい! 」
「あの…… デートなんですからもう少しゆっくりお願いします。
桜だって見てやらないと可哀想だし…… 」
「もう。嫌らしいわね! そんなに見たら桜だって…… 他の桜だって困るでしょ」
そう。先輩は恥ずかしがると意味不明な言動を繰り返し変になってしまう。
そこが可愛いところでもあるのだが。でもそれを言うと本当に怒ってしまう。
透き通るような白い肌。頬をゆっくりピンクに染めていく。
どんどん濃くなり赤まで行くと恐ろしいことが。まずいことになるのだ。
怒ると本当に手が付けられなくなってしまう。
前回の教訓を生かし彼女を落ち着かせる。
自販機で水を買って渡す。
「大丈夫ですか? 」
「何が? 」 ベンチに座らせる。まだ怒っているようだ。
その後ベンチで一時間以上おしゃべり。
「大丈夫ですか? 」
「別に」
彼女の機嫌が直ることは無かった。
こうして初デートは失敗に終わった。
何がいけなかったのか。
何を怒っていたのか。
問いただすわけにも行かない。やはりこちらが察してやるべきなのか。
そんなことを考えながら別れた。
彼女を送っていくことなく現地で解散。
もちろん彼女の家など知らないのだが。
それを言えば彼女についてほとんど知らない。
どこに住んでいるとか詳しいことは教えてくれない。
知りたいと思うのが男の性。
しかし彼女は秘密主義なのか何も情報を出さない。
分かっているのはその美しさと先輩であるということ。
ヨシノさん。
ミステリアスな彼女。
僕たちは本当に付き合っているのか?
そこにも疑問がある。
先輩との出会いはいつだっただろうか。遠い過去のような気がする。
もう何ヶ月も一緒に過ごしたような感覚。でも実際には十日も経っていない。
あれは……
続く
四月上旬
土手沿いでは黄色の花が辺りを埋め尽くし主役を主張している。
そこに遅れてピンクと白の花が共演し次第に取って代わる。
春に咲く花。それは桜だ。
満開の桜は日本全国のいや世界の人々の心を癒すだろうか。
いらっしゃい。
行列に並びようやくイカ焼きをゲット。
少々お高めの上、味も大雑把で生焼けにも思えるが気にせずにかぶりつく。
手はべたべた。口の周りも酷い有り様。
「先輩待ってくださいよ。置いて行かないで! 一人にしないで! 」
花見シーズンはずっと露店が開いている。
どこも盛況で簡単には目当ての物は手に入らない。
イカだけでなく焼きそばやたこ焼きリンゴ飴と昔からのもの。
チョコバナナやフルーツ棒と比較的最近のものまで目につく。
匂いも強烈でついつい引き寄せられてしまう。
「先輩どこ? どこですか? 」
「うるさいなあ。早く行くよ! 」
もぐもぐ ギーギー
なかなか噛み切れないイカ。
口の中で何度も噛み続けようやく食べ終わる。
「それにしてもイカは…… 」
「いいから早く! 」
強引に僕の手を掴み引いて行こうとする。
まるで迷子にならないように見守る姉のように。
僕は手を振り払おうと何度も抵抗するが放してくれない。
「先輩放して! 先輩の手までベタベタになりますよ」
「まったくもう。そんなこと気にしないよ」
「だって…… 」子供のように黙る。
「さあ行くよ。後で手を洗えば済むんだから」
これが二人の初デートだと僕は思っている。
彼女は果たして僕のことをどう思っているのだろうか。
手を引かれトイレに連れていかれる。
これでお面でも被ればただの小学生。見た目も体つきも身長も。
そうコンプレックスでしかない。
それからお洒落とはかけ離れたメガネ。
本当はコンタクトにしたいんだけど入れるのが怖くてどうしても無理。
先輩が戻って来た。
化粧を直したのか朝よりもさらに綺麗になっている。
まあ自分はその辺のことに疎くどの程度変化したのか本当は良く分かっていない。
髪形も変えたようで大人っぽさが際立っている。
「いいなあ…… 」つい心の声が漏れる。
「もう。何を言ってるの! 行くよ! 」
先輩の後を追い駆け人混みに同化する。
「先輩! 待ってくださいよ! ヨシノ先輩! 」
「うるさい! 早く! 」彼女は先を行く。
「待っててば! 」僕は常に後ろを追いかける。
「先輩! 」彼女は僕でなくても追い駆けたくなるような後ろ美人だ。
もちろん前だって申し分ない。
すれ違った男が振り返り嫌らしい目で上から下まで追うか。
神々しい物を見たかのようにその場で立ち尽くすかで。
たまにどうしようもない奴もいて勢いに任せナンパしようと食い下がる。
もちろんそんな奴を彼女は相手にしない。ホラ今だって勇者は敗れ退場する。
「先輩早いってば! 」 息を切らし追いかける。
「いいから早くしなさい! 」
「あの…… デートなんですからもう少しゆっくりお願いします。
桜だって見てやらないと可哀想だし…… 」
「もう。嫌らしいわね! そんなに見たら桜だって…… 他の桜だって困るでしょ」
そう。先輩は恥ずかしがると意味不明な言動を繰り返し変になってしまう。
そこが可愛いところでもあるのだが。でもそれを言うと本当に怒ってしまう。
透き通るような白い肌。頬をゆっくりピンクに染めていく。
どんどん濃くなり赤まで行くと恐ろしいことが。まずいことになるのだ。
怒ると本当に手が付けられなくなってしまう。
前回の教訓を生かし彼女を落ち着かせる。
自販機で水を買って渡す。
「大丈夫ですか? 」
「何が? 」 ベンチに座らせる。まだ怒っているようだ。
その後ベンチで一時間以上おしゃべり。
「大丈夫ですか? 」
「別に」
彼女の機嫌が直ることは無かった。
こうして初デートは失敗に終わった。
何がいけなかったのか。
何を怒っていたのか。
問いただすわけにも行かない。やはりこちらが察してやるべきなのか。
そんなことを考えながら別れた。
彼女を送っていくことなく現地で解散。
もちろん彼女の家など知らないのだが。
それを言えば彼女についてほとんど知らない。
どこに住んでいるとか詳しいことは教えてくれない。
知りたいと思うのが男の性。
しかし彼女は秘密主義なのか何も情報を出さない。
分かっているのはその美しさと先輩であるということ。
ヨシノさん。
ミステリアスな彼女。
僕たちは本当に付き合っているのか?
そこにも疑問がある。
先輩との出会いはいつだっただろうか。遠い過去のような気がする。
もう何ヶ月も一緒に過ごしたような感覚。でも実際には十日も経っていない。
あれは……
続く
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