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五分咲き
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翌日
酷い二日酔いで頭痛と吐き気が付きまとう。
外に出かけるのも一苦労。
いっそ家で寝ていたいがそうも言ってられない。
初日から欠席では印象が悪い。とにかく行くしかない。
夕方。
「あれ? 君は? 」
昨夜の公園を歩いていると急に見知らぬ女性から声をかけられる。
怪しみつつも溢れ出る高貴なオーラに異常なほど引きつけられる自分がいる。
これはまずい展開。とりあえず様子を窺う。
「私はえっと…… 」
「要りません」しっかりと断る。
何を売りつけるつもりなのか分かったものではない。
これだけの美しい女性を見たのは初めて。まるで同じ人間には見えない。
そんな女性が僕に用があるとしたら間違いなく勧誘だ。
昨日は断れなかったが今日はその反省を生かしてはっきり断る。
「ちょっと待って! 何を言ってるの? 」
まだ騙せると思っているらしい。ずいぶんと甘く見られたものだ。
きれいな女性には気をつけろ。それが親からのアドバイス。
「だから要りません! ついても行きません。結構です! 」
「私はセールスじゃないんだけどな」
手強い。まだ引き下がらないのか。
「そうですか。でも入会しません」
困った顔を見せる。
「何の話をしているの」
「しつこですよ。警察呼びますよ」
「警察? 」ほんの少し動揺する。心当たりがあるのだろう。
「デート商法は犯罪ですよ」
「デート? 何それ? 」笑い出した。
演技なのか本気なの分からないが警戒は怠らない。
「デートしたいの? 」
からかい始めた。その気にさせるのはお手の物と見える。
「いや、だから構わないでください」
「デートする? 」彼女は動じない。
もちろん答えはイエスだが悟られたらお終い。
ここは突き放す。
「変な勧誘は止めてください」
昨日のことで懲りている。こんなきれいな女性が僕なんかに興味を示す訳がない。
何を売りつけるのか。何に引き込もうとしているのか。
まさかまた変なサークルの勧誘なのか。もうお腹一杯だ。
ほら今にも食道から逆流しそうだ。うう…… 気持ち悪い。オエエ!
「困ったなあ。そんな言われ方されるなんて心外。
言わせてもらうけど昨夜は大変だったんだからね。君を運ぶの」
「どういう事でしょう? 」
「昨夜酔い潰れたでしょう? 」
「ええ、まあ…… 」頭を掻く。
「介抱してあげたのに。まったくもう」
あの現場にいたとでも言うのか。確かにあの後何人かが合流した。
私を駅まで送ってくれた人もいた。
「本当ですか」
「本当だって! 」
疑わしいが嘘とも思えない。いや嘘を吐くメリットが無い。
「あの後大丈夫だった? ちゃんと帰れた? 」
「ええ、おかげさまで」疑うのは止めて礼を言う。
「それは良かった。君は酷く酔い潰れていたから心配だったんだよね」
再び礼を言う。
「それでデートするの? 」
冗談のつもりだろうか。チャンスは逃さない。
照れながらもハイと返す。
「ふふふ。分かった。次に会った時にでも。もう行かなくちゃ」
期待させるだけ期待させといて行ってしまう。
そうはいかない。引き止める。
「お名前は? 」
「ヨシノよ。君よりも上だからヨシノ先輩とでも呼んでね」
そう言うと彼女は行ってしまった。
雑踏に消えてった彼女は薄ぼんやりしていて現実なのか幻なのか区別がつかない。
どうやらまだ酔いが醒めてないらしい。
桜色をまとっていたヨシノ先輩。春の装いにはぴったりで何の違和感もない。
しかし夢の中の出来事に思えるのはなぜだろうか。
彼女との出会いにウキウキしながら満開を迎えた桜並木を駆け抜ける。
<間奏>
天敵のカラスもいなくなり自由に大空を羽ばたく小鳥。難なく餌もゲット。
北風から南風になり気候もだいぶ落ち着いてきた。
「ねえ。君の友達を紹介してよ」
「友達だよ。もっと僕を守ってくれる勇敢なお友達」
桜の木は反応しない。
小鳥だけがさえずっている。
「どうしたの? 」異変を察知した。
「済まない。少し考え事をしていてね」
苦しそうに答える桜の木。
「僕に関係ある? 」
頷く。
「困るの? 」
「ああ。もう守ってやれないかもしれない」
激しく動揺する。
「落ち着いて聞いてくれ。あと少ししたら君を守る力が無くなってしまう。
そうしたらもう無防備だ。私は何の役にも立たなくなってしまう。
ただデーンと構えてるだけのデクの坊」
「そんな事ないよ」
「いや、これは仕方ない事なんだ。早く出て行った方が良い。どんどん力が無くなっていく」
小鳥は慌てふためく。
「嫌だよそんなの。もう少し。もう少しお願い」
「我がままを言うな! 私の言う事を聞くんだ! 」
「どうすることもできないの? 」
小鳥は懇願する。
「ダメなんだ。どんどん力が吸い取られていく。
後はこのスピードを遅らせることしかできない。
春の嵐に遭えばあっと言う間だ。お願いだから言うことを聞いてくれ」
動揺していた小鳥も冷静さを取り戻した。
「うん。分かった。僕も準備を始めていたんだ。旅立つ時が少し早まっただけさ。何の問題もないよ」
「そうだ。その調子だ。さあ旅立て! 」
「じゃあ。僕行くよ。お世話になりました」
「ああ。来年も来るといい。その時は歓迎するよ。さあ行け! 」
「ありがとう」
小鳥は新たな居場所を求めて旅立つ。
桜の木は力尽き眠りにつく。
また一年後。
会える日を楽しみにしているよ。
無常。
花びらが風に舞い、漂う。それを嵐が巻き取っていく。
春はまだ始まったばかりだ。
続く
酷い二日酔いで頭痛と吐き気が付きまとう。
外に出かけるのも一苦労。
いっそ家で寝ていたいがそうも言ってられない。
初日から欠席では印象が悪い。とにかく行くしかない。
夕方。
「あれ? 君は? 」
昨夜の公園を歩いていると急に見知らぬ女性から声をかけられる。
怪しみつつも溢れ出る高貴なオーラに異常なほど引きつけられる自分がいる。
これはまずい展開。とりあえず様子を窺う。
「私はえっと…… 」
「要りません」しっかりと断る。
何を売りつけるつもりなのか分かったものではない。
これだけの美しい女性を見たのは初めて。まるで同じ人間には見えない。
そんな女性が僕に用があるとしたら間違いなく勧誘だ。
昨日は断れなかったが今日はその反省を生かしてはっきり断る。
「ちょっと待って! 何を言ってるの? 」
まだ騙せると思っているらしい。ずいぶんと甘く見られたものだ。
きれいな女性には気をつけろ。それが親からのアドバイス。
「だから要りません! ついても行きません。結構です! 」
「私はセールスじゃないんだけどな」
手強い。まだ引き下がらないのか。
「そうですか。でも入会しません」
困った顔を見せる。
「何の話をしているの」
「しつこですよ。警察呼びますよ」
「警察? 」ほんの少し動揺する。心当たりがあるのだろう。
「デート商法は犯罪ですよ」
「デート? 何それ? 」笑い出した。
演技なのか本気なの分からないが警戒は怠らない。
「デートしたいの? 」
からかい始めた。その気にさせるのはお手の物と見える。
「いや、だから構わないでください」
「デートする? 」彼女は動じない。
もちろん答えはイエスだが悟られたらお終い。
ここは突き放す。
「変な勧誘は止めてください」
昨日のことで懲りている。こんなきれいな女性が僕なんかに興味を示す訳がない。
何を売りつけるのか。何に引き込もうとしているのか。
まさかまた変なサークルの勧誘なのか。もうお腹一杯だ。
ほら今にも食道から逆流しそうだ。うう…… 気持ち悪い。オエエ!
「困ったなあ。そんな言われ方されるなんて心外。
言わせてもらうけど昨夜は大変だったんだからね。君を運ぶの」
「どういう事でしょう? 」
「昨夜酔い潰れたでしょう? 」
「ええ、まあ…… 」頭を掻く。
「介抱してあげたのに。まったくもう」
あの現場にいたとでも言うのか。確かにあの後何人かが合流した。
私を駅まで送ってくれた人もいた。
「本当ですか」
「本当だって! 」
疑わしいが嘘とも思えない。いや嘘を吐くメリットが無い。
「あの後大丈夫だった? ちゃんと帰れた? 」
「ええ、おかげさまで」疑うのは止めて礼を言う。
「それは良かった。君は酷く酔い潰れていたから心配だったんだよね」
再び礼を言う。
「それでデートするの? 」
冗談のつもりだろうか。チャンスは逃さない。
照れながらもハイと返す。
「ふふふ。分かった。次に会った時にでも。もう行かなくちゃ」
期待させるだけ期待させといて行ってしまう。
そうはいかない。引き止める。
「お名前は? 」
「ヨシノよ。君よりも上だからヨシノ先輩とでも呼んでね」
そう言うと彼女は行ってしまった。
雑踏に消えてった彼女は薄ぼんやりしていて現実なのか幻なのか区別がつかない。
どうやらまだ酔いが醒めてないらしい。
桜色をまとっていたヨシノ先輩。春の装いにはぴったりで何の違和感もない。
しかし夢の中の出来事に思えるのはなぜだろうか。
彼女との出会いにウキウキしながら満開を迎えた桜並木を駆け抜ける。
<間奏>
天敵のカラスもいなくなり自由に大空を羽ばたく小鳥。難なく餌もゲット。
北風から南風になり気候もだいぶ落ち着いてきた。
「ねえ。君の友達を紹介してよ」
「友達だよ。もっと僕を守ってくれる勇敢なお友達」
桜の木は反応しない。
小鳥だけがさえずっている。
「どうしたの? 」異変を察知した。
「済まない。少し考え事をしていてね」
苦しそうに答える桜の木。
「僕に関係ある? 」
頷く。
「困るの? 」
「ああ。もう守ってやれないかもしれない」
激しく動揺する。
「落ち着いて聞いてくれ。あと少ししたら君を守る力が無くなってしまう。
そうしたらもう無防備だ。私は何の役にも立たなくなってしまう。
ただデーンと構えてるだけのデクの坊」
「そんな事ないよ」
「いや、これは仕方ない事なんだ。早く出て行った方が良い。どんどん力が無くなっていく」
小鳥は慌てふためく。
「嫌だよそんなの。もう少し。もう少しお願い」
「我がままを言うな! 私の言う事を聞くんだ! 」
「どうすることもできないの? 」
小鳥は懇願する。
「ダメなんだ。どんどん力が吸い取られていく。
後はこのスピードを遅らせることしかできない。
春の嵐に遭えばあっと言う間だ。お願いだから言うことを聞いてくれ」
動揺していた小鳥も冷静さを取り戻した。
「うん。分かった。僕も準備を始めていたんだ。旅立つ時が少し早まっただけさ。何の問題もないよ」
「そうだ。その調子だ。さあ旅立て! 」
「じゃあ。僕行くよ。お世話になりました」
「ああ。来年も来るといい。その時は歓迎するよ。さあ行け! 」
「ありがとう」
小鳥は新たな居場所を求めて旅立つ。
桜の木は力尽き眠りにつく。
また一年後。
会える日を楽しみにしているよ。
無常。
花びらが風に舞い、漂う。それを嵐が巻き取っていく。
春はまだ始まったばかりだ。
続く
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