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九分咲き

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金曜日

ワクワク
ドキドキ

「おいどうした。そわそわしやがって」

相棒の目には異常に見えるらしい。

「お前には関係ない! 」

つい強い口調になる。

「ちょっと前まで眠い眠いってだらけていたのに。昨日はため息ばかり。

心配して見守っていたらそわそわしてたんで注意したらその態度」

相棒の言うことはもっともだ。だが認めたくない。

「だからお前には関係ない! 」

「言いやがったな! 」

関係がぎくしゃくし始めた。

「まったく困った奴だ。まあいいや。今日はサークルがあるからな。言っておくけどサボれないぞ。いいな? 」

相棒は分かってるなと念を押す。

「今日はミニゲームをやるんだ。参加するって言ったろ? 嫌なら自分で断れ」

そんな記憶はない。しかし適当に返事していたことはある。

相棒は熱心にサークル活動に励んでる。僕はと言うとほとんど顔を出していない。

先輩が来たら知らせろと言っているがサボっているのか相棒が分からないのか。

とにかくヨシノ先輩が来ないなら行く意味はない。

「行くよ。行きます。行かせてください」

断るぐらいなら参加する。あのリーダーを怒らせてはいけない。

「ははは。リーダー怖いものな」

自分の思い通りに行き気分がいいのかそれまでの僕の酷い態度を忘れてくれた。

ただ馬鹿なだけではなく単純なのだ。まあ良い奴であり親友なのだが。


「ああ。でも僕ユニフォームないんだ。やっぱり無理かな」

「余ってるのがあるから心配するな」

なんとか行かない方法はないだろうか。困ったなあ……

「ラケット買うって言ってまだなんだよね。やっぱり…… 」

「馬鹿だな。それも誰かのを借りればいい」

なかなかしぶとい。

「メガネが邪魔にならないかなあ」

「知るかそんなこと! 行くぞ! ぐずぐずしてるとこっちまで叱られちまう」

服を掴んで無理矢理引っ張っていく。

「馬鹿野郎! これは新品なんだぞ。伸びたらどうする」

文句を言っても放してくれない。仕方なくテニスサークルへ。

本当はこんなことをしてる場合ではない。明日のデートの準備だってある。


ぶつぶつ
ぶつぶつ

「何やってるリーダーが来たぞ」

「遅くなりました」

大声で叫ぶが誰も見当たらない。リーダーどころか誰もいない。

「はっはは。冗談冗談」

相棒は気合いが入っている。開始時刻の三十分前に来てしまった。

「騙しやがって! 」

「うるさい! お前はいつも来ないんだから今日ぐらいは一番に行くんだよ! 」

相棒との温度差を感じる。付き合いきれない。


相棒チームとの混合ダブルス対決。

「疲れるのは嫌…… 」ストレート

「早く帰りたいなあ…… 」ダウンザライン

「まだかよ…… 」サーブアンドボレー

「疲れたな…… 」キープからのブレイク

「終わってよ…… 」セットポイント

「明日にならないかなあ…… 」ゲームウイン

いつの間に試合が終わっていた。


相棒が駆け寄ってきた。

「凄いぞお前」

「まあ、テニスは見るのもやるのも好きだから。これくらい当然さ」

相棒には黙っていたが昔少しだけ嵌ったことがある。

ルールだって当然知っている。海外のテニス中継だってたまに見ている。

勝って当たり前。相手が弱すぎるのだ。

ペアの女の子は同じ一年生で初めて見る顔。

ルックスはまあまあだがスタイルは普通。僕にはもったいないぐらい。

ただその比較がヨシノ先輩では話にならない。

彼女は今日も来ていない。そのオーラが感じられない。

「本当に凄いぞ」

「相手が相手だからね」

相棒チームはコンビネーションが悪くダブルフォルトを連発し自滅していった。

勝って当然。何の不思議もない。


久しぶりの激しい運動。大量の汗が噴き出る。

ひとまず水分補給。運動後のドリンクは一瞬でお腹の中へ。

汗が気持ち悪い。あせもにならないか心配だ。

着替えを用意してないものだからこのまま帰るしかない。

早く終わってくれと心の中で叫ぶ。

充分に役目を果たした。後は先輩方の激しい戦いを見るだけ。

ああ、汗が目にもう嫌だ。


頑張れ!

たまに応援。たまに拍手。大声も混ぜながらボーっと観戦。

このスタイルで乗り切る。

ただ見ているだけと言うのも正直辛い。

ヨシノ先輩がいたらなあ。

隣で一緒に応援。楽しいだろうな。

横にいる相棒には悪い気もするが……

                    続く
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