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完全満開

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翌日もその翌日もヨシノ先輩に出会うことは無かった。

桜並木をゆっくりゆっくり歩く。

ヨシノ先輩がいないか。声をかけてもらえないか。

もはやどうすることもできず無為に時間が過ぎていった。

虚しい毎日だった。

桜も随分やせ細った。

このまま行けば今週中にもすべて散ってしまうだろう。

上手く行けば来週までは持ちこたえるかもしれないが。それでも大差ない。

強風が吹けばまた来年のお楽しみとなる。

まあ全国にはまだ桜の見られる箇所も残っている……

ただ僕にはその金銭的余裕もなければ時間も取れない。虚しい限りだ。

出来たらまたヨシノ先輩と桜を見られたらなあ。

彼女は今どこにいるのか。

そんな事ばかり考える。


今日までテニスサークルには一度も顔を出さないヨシノ先輩。

幽霊部員も中には数人いると言っていたが彼女がその一人である可能性は低い。

なぜならヨシノと言う部員は存在しないからだ。


久しぶりサークルに参加。

男女混合のダブルスが行われていた。

試合を見ながらボーっとしているといきなりボールが飛んできた。

避ける暇も無ければその気力も無い。ただ迫ってくるボールを顔面で受け止める。

僕の左頬に強烈なスマッシュが打ちこまれた。

「痛い! 痛いよう…… 」

酷く腫れた左頬を抑えながら大声で喚く。

「大丈夫? ごめんね」

「悪い。悪い」

駆けつけた女の子に付き添ってもらい手当てをする。

隣には同じく心配そうに見守る張本人の先輩。

球が直接当たったのではなくバウンドして命中。

だから痛みの割には大したことはない。

しっかり処置をしてもらい事なきを得る。


張本人の先輩は軽症で助かったと一言残し戻っていった。

「大丈夫歩ける? 」

「ああ問題ないよ。ありがとう」

同じ一年で先日もペアを組んだ女の子。

世話焼きなのか心配そうに付き合ってくれる彼女に好感をもった。

今日は相棒が欠席しており僕をからかう者はいない。

もちろん奴の頼みで代わりに参加したのだが……

言い方は良くないが邪魔者はいない。彼女の好意をありがたく受け取る。

「本当に大丈夫? 無理しないで」

奇跡的にメガネは吹っ飛んだだけで傷は付いたものの問題はない。

だが一時的に外すしかない。

視力が年々落ちていることもありぼんやりとしか分からない。

今彼女に支えられて歩いている。

情けないが仕方ない。今は彼女に頼るしかない。

時折くっついているせいか彼女の柔らかい胸が当たって苦労する。

嫌がるのも変なので苦笑いでごまかす。

「ありがとう。もう大丈夫だよ」

元の場所へ戻りメガネをかけ直し微笑む。

一緒に帰ろうと言う誘いを断り一人帰宅の途につく。


今日はついているようなついてないようなそんな一日だった。

当たったような当たってないような。

痛いやら気持ちいいやら。

何ともよくわらない一日だった。

もしかして僕…… いや俺はモテ期? 何てね。まあそんな訳ないか。

結局ヨシノさんに会えずじまい。

桜は散りどんどんその数を減らしていく。

明日またサークルに行こう。

明日にはヨシノ先輩に会えるかもしれない。

わずかでもチャンスがあるならそれに賭けるべきだ。

何となくだが予感がする。

ただそれが良いのか悪いかはっきりしない。

明日も確実に花が散っていく。

もちろん次の日もまた次の日も。その流れが止まることは無い。

止める手段などない。ただひたすら見守るだけ。

また来年。

果たしてその来年があるかも分からない。


翌日

「さあ行くぞ」

相棒に引っ張っれる前に自分からサークルへ。

「おい、面倒臭そうにしてたのによ。昨日何かあったのか? 」

嗅覚は鋭い。僕のサークル参加意欲が上がったことに疑問を持っている。

だが相棒にとって僕が積極的なのは大歓迎なのだ。

「まあいいや。俺も引き立て役が欲しい欲しいって思ってたんだ。

お前がいろいろとへまをしてくれれば俺の存在価値が高まるのよ」

「いやそれは無理ってものじゃないか。顔を見ろよ」

「うん? 顔がどうしたって? 顔って言えばその痣みたいのは何だ」

「ちょっとね。ははは…… 」

濁す。昨日の失態を話せば笑われるに決まっている。

「急ぐぞ。遅れちまう」

ウキウキといったところか相棒のスピードが速い。何をそんなに焦る必要がある。

まったくせっかちな奴だ。前回だって一番乗りだったはず。困ったものだ。


着いたと同時に女の子に話しかけに行ってしまった。

僕はその様子を観察することにした。

いったい彼のどこにそんな度胸があると言うのか。

僕がサボっている間に親しくなったのか自然な会話が成り立っている。

少し離れて見守る。

彼の趣味は意外にもよく、選ぶ相手はかなり美人だ。奴にはもったいない。

積極性は認めよう。だが相手にされているかは別でうまくあしらわれている様子。

奴が望むような発展はなさそうだ。脈なしと見るのが自然だ。

悪いな相棒。客観的事実だ。頑張れ。

心の中で励ます。

無意味とまでは思わないがほどほどにしたほうが身のため。

もちろん彼の努力は認めるが。

僕もこれくらい…… 無理だ。


相棒の視線が移った。

まったく贅沢な奴だ。

次から次に。見てるこっちが恥ずかしい。

うん? 

一人の少女。

誰だっけ?

なぜかこっちに向かってくる。

まさか……

ダメだこっちに来るな!

残酷な運命が僕を、いや、僕たちを……

「どうも」

「ああどうも」

挨拶だけと思いきや素通りせずに立ち止る。

止まっちまった。

相棒の目の動きも止まった。

僕の心臓も一瞬。

時が止まったようだ。

汗が噴き出る。

おそらく相棒の第一候補。それは昨日付き添ってくれた女の子。

間違いない。最悪だ。

友情と愛情どっちを取れと言うのだ。

もちろん友情に決まっているが。

僕にはヨシノさんがいる。裏切れない。

「昨日は大丈夫だった」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」

なるべく自然に。感情が入らないように。

怒っているだろうな。しかし僕のせいではない。

相棒を見ることができない。


「先に行ってるぞ」

他の者は準備を終えコートに。部屋は三人だけになった。

「ねえ今日は一緒に帰ろうよ」

「しかし僕にも都合が…… 」 

嫌われるにはどうすればいい?

嬉しい気持ちを抑え断る。

「じゃあ今週暇ある? 」

「はいもちろん」

嘘はつけない。

相棒の本命は間違いない。彼女だ。

視線が辛い。

「ならデートしよう」

「デート? デートですか…… もちろんいいですよ」

彼女は相棒の存在を無視している。

そう言う僕も無視してないとは言えない。

もう相棒はこちらを見ていない。いやもうここに存在していない。

いじけて帰ったらしい。僕はどうすることもできない。

「やった! 絶対だよ」

「こちらこそ」

デートぐらいどって事ない。

彼女主導のデート。結果は見えている。

すぐに振られるに決まってる。そうすれば相棒も笑って許してくれるだろう。

                      続く
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