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光と闇

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時は過ぎていく。

もう辺りは真っ暗。

ライトアップの光が僅かに僕らを照らす。


彼女の足が急激に悪化しもう見ていられない。

僕はおろおろするするばかりでどうすることもできずにいる。

せっかくいいところを見せるチャンスなのだが頭が回らない。

彼女が怒っていないのが唯一の救い。

弱った声で微笑むヨシノさん。

息が苦しそうだ。

「痛みますか? 」

間抜けな質問に苦笑いを浮かべ首を振る彼女。

もう口も開くのも辛いのだろう。

彼女の足の急激な悪化は彼女自身にも意外らしく、ただこう言うのみだ。

「どうしちゃったんだろう? 」

どんどん血の気が引いていく。

その蒼白な彼女の様子をただじっと見守るだけの自分がいる。

血の気が引いた彼女も美しい。そんな感想しか言えない。


「まずいですよヨシノ先輩。痛みますか? 分かりました。

病院に行きましょう。どうしようもなければ救急車を呼びますが」

彼女は僕の提案のすべてに首を振る。

どうしたと言うのだ?

我がままを言うなと叱り飛ばしたい。

彼女は依然辛そう。

助けが必要な状況に変わりはない。

何とも不甲斐ない。

彼女は僕を信頼していないのか?


ベンチまで戻ってきた。

光と闇。

ライトアップの公園と夜道。

彼女と僕。

月の光と心の奥の欲望。

一緒になる。

混じり合う。

僕は自分の心の奥のさらに奥にしまってある愛と言う名の欲。

決して表には出してはいけない感情が見え隠れするようになった。


何度も声をかけるが反応は薄い。

ベンチに座らせ上着を着せてやる。

ありがとうと弱々しく返す彼女。

何とも痛々しい限りだ。

しかしそれでも美しいのだ。

なぜこんなにも惹きつけられるのか?

輝きは決して失われてなどいない。

いや、逆に増しているようにも見える。

「フフフ…… どうしたの? 」

「いえ、僕はちょっと飲み物でも買ってきます。そこで大人しく…… 」

動く体力も残されていない。ぐったりしている。

急いでドリンクを調達。


「ヨシノ先輩…… 」

大丈夫だ。どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

寝顔がライトに照らされ映えている。

何と美しいことか。

見事までの芸術作品。

これがアートであるならばこの格好では物足りない。しかしまだ春でしかも強風だ。

このままゆっくり鑑賞するのがいいだろう。

もう誰も邪魔をする者はいない。

今が絶好のチャンス。

心に秘めた思いを伝えねば。

今ならできる。

自分を鼓舞する。

ほら自分!

勇気を出して!


寝ている彼女の横へ。

偶然を装ってこんな事やあんな事も……
 
気持ちよさそうに寝息を立てる彼女に肩を貸してやる。

よし今だ!

決行の時。

後戻りはできない。

後悔もしないしさせもしない。

ダメだ……

体が言うことをきかない。

なぜだ?

どうしても緊張してしまう。

ためらう。

自分よしっかりしろ!

もう彼女は許しているではないか。受け入れているはず。

それが分からないのか!

何をためらう必要がある?

救ってやれ!

彼女の気持ちに応えてやれ!

求められているのが分からないのか?

ほら今も目を閉じて待っている。

笑みが何よりの証拠だ。

誘っている。それが分からないのか?

                  続く
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