ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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詐欺

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赤字を回収するには他の物を売りつける必要がある。
「大変申し訳ありません。これで最後とさせてください」
「ふざけるな! 俺は手に入らなかったぞ! 」
「そうだそうだ! 婆さんが何個も持って行きやがった」
「そう言われましても私どもといたしましてもこれ以上はどうすることも…… 」
「ふざける! もっと持って来い! 」
宝石は善良な市民の心を惑わせる魔物。
怒号が飛び交う特設会場。このままではパニックに。
客はダイヤに目がくらみ理性を失っている。

「分かりました。同じものをご用意します。
これは本来次の参加者の分です。いいですか特別ですよ?
ですが三割引きは致しかねます。それで納得いただけないでしょうか? 」
強気の販売員。こればかりははっきり言わなくては後々トラブルになる。
「いい。それで構わない! 」
興奮状態の会場では誰かが叫べばそれに呼応していいぞいいぞの大合唱。
熱気と言うよりも狂気が場を支配する。

「それでは先程と同様。個数は確保しております。
急がず慌てずにお買い求めください」
青に赤、黄色の輝きに心を奪われてしまう。
在庫をすべて売り切る。
お客の要望に最大限お答えした形。
これで楽しい旅の思い出になるだろう。

「いやあ三十パーセントオフは逃したがこれほどのダイヤなら安いものだ」
「ははは…… 確かに言えますね」
それもそのはず。定価と言われてる値段も市場価格からすれば一割は引かれている。
そこから三割を引くのだから最初の購入者はかなりお得になった訳だ。
「ありがとう。いい買い物させてもらったよ」
「次もあるのかい? 」
お客は満足だと述べ、次の開催にまで興味を示してくれた。
良いことだが次のお知らせはまだできない。
開催が決まっておらず未定ではさすがに無理。
大興奮の中すべてのダイヤが売れた。
それ以外のクズダイヤも定価で売ることが出来た。
これは大きな成果だ。

午後九時過ぎ。
夕食を終えた数人が一つの部屋に集まる。
「いやあ今回は大盛況でしたね」
「そう。これくらい儲けなくちゃ。私たち損しちゃう」
「分け前が半分だもんな」
「ふふふ…… 馬鹿な奴らだぜまったく。偽物を売りつけられたとも知らんで」
「この人のおかげでしょうね」
「毎度。鑑定自体は正しいですよ。自分の目に狂いはなくすべて正しい。
最初の二十点は本物ですし残りの十点は偽物。これは間違いありません。
ただ後から定価で売りつけた物に関しては鑑定をしておりませんので何とも。
まあこの業界にいればあれらが紛い物だと一瞬で分かりますがね」
鑑定士は酒が進む。

「あんたお客に悪いと思わないの? 」
若い男がつっかかる。今回の販売員で口が達者。
ソフトな顔立ちでとても騙してるようには見えない。
誠実さが伝わってくるよう。ただ見た目と中身は違う。
これも商売と言えば納得もできるが見ていて気持ちいいものではない。
「ですから。お客様に鑑定を依頼されたらもちろん応えます」
「でもお客は興奮状態だからすべて本物だと。後から来た物も本物だと思う。
ちょっとした心理トリック。後からのがすべて偽物だとは思いもしないでしょうね。
かわいそうにね」
「自分は今でも鑑定してくれと言われたら拒みませんよ。鑑定士なんですから」

未だに鑑定士は詐欺の片棒を担いだと認めない。
捕まっても言い逃れできる。
それはここにいる誰もがそうだ。
知らなかったと言い張ればいい。返金を求められてもないと突っぱねればいい。
そうすれば取り立てられる心配はない。
民事でもどうにでもなるし刑事ではそもそも立件は不可能だろう。
証拠はないのだから。知っていたと証明するには計画した張本人を捕まえるぐらい。
逮捕でもしない限り真相は闇の中。

「おい鑑定士いい加減にしろ! お前いつまでふざけてるつもりだ。
もし鑑定してくれと言われたらどうする? 」
「もちろん鑑定しますよ」
「それでどう言うの? 」
女が笑いを堪える。
「これは立派な紛い物です」
「おいおい俺たち捕まっちまうよ。ははは…… 」
騙されたとも知らずに大興奮の客。
同じく大騒ぎの詐欺師たち。
どっちもどっちと言えなくもない。

                     続く
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