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宝石
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強行下山失敗。脱出不可。
土砂崩れで道が塞がれてしまっている。
「ダメだ! 」
運転手がクラクションを鳴らす。怒りが収まるまで何度も何度も。
大人しそうな人に見えたがハンドルを握ると豹変するタイプらしい。
取り敢えず落ち着くように説得。
「仕方ない引き返しましょう」
冷静になった運転手が確認をしてきたのでお願いしますとだけ言う。
困ったな。本当に大丈夫かな? 嫌な予感しかしない。
「私ね。旅行好きでして。よく友達と行ってたんだ。
でもその友達も数年前に亡くなって一人じゃつまらないだろ。
だからここ最近旅行してなかったんだがほら今回は特別でちょっと興味が湧いてね。
バス旅行ならワイワイガヤガヤで楽しそうだからさ参加したんだ。
でもこんなことになって後悔してる」
勝手に身の上話をされても困るがまあ大人しく聞いてやるか。
「それでさあ実は息子が…… それから妹がさ。ああ義理の妹ね」
どうでも良い身内の話に終始。興味ない。
ただドライバーの機嫌を損ねては危険だ。
ここは大人しく相槌。ガイドさんも男の話に耳を傾けている。
強行下山は失敗に終わり恥ずかしながら戻って来た三人。
ドスグロホテルで異変。
どうも中の様子がおかしい。騒々しく何かあったと思われる。
「あのどうしました? 盛り上がってるようですが」
慎重に原因を探る。まさか第二の事件勃発? 勘弁してよね。
「あんたか」
誰だか知らないが横柄な態度の男。その怖い顔を近づけないで……
「お得だそうですよ。あなたも一ついかがです」
えらく興奮した男が近づいてきた。
「私もつい買ってしまいましたよ。ははは…… 」
何だか良く分からないがキラキラと輝く。
これはジュエリー?
一体どういうことだ?
「ほらこれなどお買い得ですよ」
若い男がしきりにお得だと煽っている。
「おい。何をやってる? 」
「ははは…… 別に疚しいところはありませんよ。
ただお得な商品をお勧めしてるだけ。
あんたも欲しければ見て行きな。もちろんどれも定価以下だから安心だよ」
どうも怪しい。明らかにクズダイヤを売っている。
この値段では詐欺に違いない。
「これって本当に本物? 」
気になったので確認。
無知な者に売りつけようと必死でかなり怪しい。
これでは詐欺と言われても仕方がない。
ただ確証が掴めない以上売買を咎められない。
実に由々しき問題だ。
「これなどいかがですか? 」
カモを絞り込み攻勢をかけている。
さあ誰がカモなのか。大体分かりそうだが。
「ああこれは本物だよ。うん精巧に作られているけどこれは偽物さ」
偶然参加した鑑定士がダイヤの鑑定を始める。
もちろんそんな偶然あり得ない。二人はグルの可能性が高い。
「あなたは? 」
「ああ私は鑑定士をさせてもらっています」
「本物? 」
「はい間違いなく鑑定士です」
ダイヤについては断言してないところが怪しい。
「おいあんた回し者じゃないだろうね」
お婆さんが疑いの目を向ける。
専門道具を使って鑑定してる横で虫眼鏡で隅々まで見回す。
「こちらの品は偽物です」
「ああ確かにこれは偽物だ。私でも分かるよ」
鑑定士の言ってる通り。
これでは誰もが信じてしまう。
「これは本物。輝きが違います。
こちらは偽物。純度が足りませんね」
そうやって本物と偽物に分けていく。
三十点以上を鑑定し約二十点が本物と出た。
残りの十点近くを廃棄処分に回すとのこと。
「大変申し訳ありません。こちらの見落としでございます。
多数買い付けると一、二割は偽物が混じってしまうものでして。ハイ」
平謝りの販売員の男。
これは会員を無料で招待し宝石等の貴金属を売りつける悪質な商売に違いない。
ただ偽物を売りつけるのではないので詐欺には当たらない。
よく言われているグレーと言う奴。
そうとも知らずほいほいとカモが宝石の魔力に誘われていく。
「ちょと! 偽物を売りつけようとしたんでしょう! 」
このツアーには珍しい綺麗な女性。
名前はミサさん。近くにいる男が教えてくれた。
彼女は若作りで男をたぶらかす未亡人役がお似合い。
「どうかお許しください。お詫びにどれでも三割引きとさせていただきます。
こちらのミスで本当にお客様には申し訳なく思っています」
本物の二十点に目を奪われるお客。
「本当に? 」
「はい。どうかこれでお許しください」
あああ!
「そっちは私の! 」
「いやああ! 」
「妻に! 妻に買って帰るんじゃ! 」
「こらお前ら俺が先に手に取っただろうが! 」
うわああ!
「ほら押さない! 」
「痛い! 痛い! 痛い! 」
狭い特設会場内はパニックになりつつある。
本物の宝石が定価の三割引き。
このチャンスは逃す手はない。
「うわあ! 待って! 」
つい欲に目が眩む探偵だった。
「どけ! 俺が先だ! 」
「おい! もうないのか! 」
三割引きセールにより開始五分ですべての貴金属が売り切れてしまう。
大盛況であった。ただ大赤字。
これは商売。大赤字を回収するには他の物を売りつける必要がある。
続く
土砂崩れで道が塞がれてしまっている。
「ダメだ! 」
運転手がクラクションを鳴らす。怒りが収まるまで何度も何度も。
大人しそうな人に見えたがハンドルを握ると豹変するタイプらしい。
取り敢えず落ち着くように説得。
「仕方ない引き返しましょう」
冷静になった運転手が確認をしてきたのでお願いしますとだけ言う。
困ったな。本当に大丈夫かな? 嫌な予感しかしない。
「私ね。旅行好きでして。よく友達と行ってたんだ。
でもその友達も数年前に亡くなって一人じゃつまらないだろ。
だからここ最近旅行してなかったんだがほら今回は特別でちょっと興味が湧いてね。
バス旅行ならワイワイガヤガヤで楽しそうだからさ参加したんだ。
でもこんなことになって後悔してる」
勝手に身の上話をされても困るがまあ大人しく聞いてやるか。
「それでさあ実は息子が…… それから妹がさ。ああ義理の妹ね」
どうでも良い身内の話に終始。興味ない。
ただドライバーの機嫌を損ねては危険だ。
ここは大人しく相槌。ガイドさんも男の話に耳を傾けている。
強行下山は失敗に終わり恥ずかしながら戻って来た三人。
ドスグロホテルで異変。
どうも中の様子がおかしい。騒々しく何かあったと思われる。
「あのどうしました? 盛り上がってるようですが」
慎重に原因を探る。まさか第二の事件勃発? 勘弁してよね。
「あんたか」
誰だか知らないが横柄な態度の男。その怖い顔を近づけないで……
「お得だそうですよ。あなたも一ついかがです」
えらく興奮した男が近づいてきた。
「私もつい買ってしまいましたよ。ははは…… 」
何だか良く分からないがキラキラと輝く。
これはジュエリー?
一体どういうことだ?
「ほらこれなどお買い得ですよ」
若い男がしきりにお得だと煽っている。
「おい。何をやってる? 」
「ははは…… 別に疚しいところはありませんよ。
ただお得な商品をお勧めしてるだけ。
あんたも欲しければ見て行きな。もちろんどれも定価以下だから安心だよ」
どうも怪しい。明らかにクズダイヤを売っている。
この値段では詐欺に違いない。
「これって本当に本物? 」
気になったので確認。
無知な者に売りつけようと必死でかなり怪しい。
これでは詐欺と言われても仕方がない。
ただ確証が掴めない以上売買を咎められない。
実に由々しき問題だ。
「これなどいかがですか? 」
カモを絞り込み攻勢をかけている。
さあ誰がカモなのか。大体分かりそうだが。
「ああこれは本物だよ。うん精巧に作られているけどこれは偽物さ」
偶然参加した鑑定士がダイヤの鑑定を始める。
もちろんそんな偶然あり得ない。二人はグルの可能性が高い。
「あなたは? 」
「ああ私は鑑定士をさせてもらっています」
「本物? 」
「はい間違いなく鑑定士です」
ダイヤについては断言してないところが怪しい。
「おいあんた回し者じゃないだろうね」
お婆さんが疑いの目を向ける。
専門道具を使って鑑定してる横で虫眼鏡で隅々まで見回す。
「こちらの品は偽物です」
「ああ確かにこれは偽物だ。私でも分かるよ」
鑑定士の言ってる通り。
これでは誰もが信じてしまう。
「これは本物。輝きが違います。
こちらは偽物。純度が足りませんね」
そうやって本物と偽物に分けていく。
三十点以上を鑑定し約二十点が本物と出た。
残りの十点近くを廃棄処分に回すとのこと。
「大変申し訳ありません。こちらの見落としでございます。
多数買い付けると一、二割は偽物が混じってしまうものでして。ハイ」
平謝りの販売員の男。
これは会員を無料で招待し宝石等の貴金属を売りつける悪質な商売に違いない。
ただ偽物を売りつけるのではないので詐欺には当たらない。
よく言われているグレーと言う奴。
そうとも知らずほいほいとカモが宝石の魔力に誘われていく。
「ちょと! 偽物を売りつけようとしたんでしょう! 」
このツアーには珍しい綺麗な女性。
名前はミサさん。近くにいる男が教えてくれた。
彼女は若作りで男をたぶらかす未亡人役がお似合い。
「どうかお許しください。お詫びにどれでも三割引きとさせていただきます。
こちらのミスで本当にお客様には申し訳なく思っています」
本物の二十点に目を奪われるお客。
「本当に? 」
「はい。どうかこれでお許しください」
あああ!
「そっちは私の! 」
「いやああ! 」
「妻に! 妻に買って帰るんじゃ! 」
「こらお前ら俺が先に手に取っただろうが! 」
うわああ!
「ほら押さない! 」
「痛い! 痛い! 痛い! 」
狭い特設会場内はパニックになりつつある。
本物の宝石が定価の三割引き。
このチャンスは逃す手はない。
「うわあ! 待って! 」
つい欲に目が眩む探偵だった。
「どけ! 俺が先だ! 」
「おい! もうないのか! 」
三割引きセールにより開始五分ですべての貴金属が売り切れてしまう。
大盛況であった。ただ大赤字。
これは商売。大赤字を回収するには他の物を売りつける必要がある。
続く
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