ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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多数決

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「いい加減にしてください! 」
怒らせてしまった。
「しかし…… 何もすぐに立ち去りたいからではなく危険だと言ってるんですよ」
なぜ理解してくれない? 俺を信用してくれたっていいのに。
「分かりました。多数決にしましょう。半数以上の賛同が得られたらすぐにでも」
無駄なことを。誰が殺人事件のあった現場に留まりたいと言うのだ?
そんな物好き存在するものか。警察や探偵かジャーナリスト、テレビぐらいなもの。
普通の人はすぐに帰ろうとするはず。それが常識。非常識な奴などここにはいない。
仮にいても一人か二人。だから多数決を採れば下山するのは見えている。
ああもうそんな無駄なことをしてどうする? こっちは時間がないんだぞ。
依頼人を待たせてる。これ以上ここにいられるか。

「ちょっとガイドさん」
お婆さんの邪魔が入り中断。
やはり彼女はガイドさん。ここの管理も任されてるのだろう。
責任感が強いのは良いが探偵の言うことを素直に受け入れるのが客の為。
安全管理や危機意識が希薄ではもしものことが起きては使い物にならない。
いやもう現実に起きてしまっている。
少々厳しい言い方をすれば責任者失格。
まあ私も間違えてドスグロ山に来た手前強くは言えないが。探偵失格?
大丈夫だよ。一緒にこの危機を乗り越えて行こう。
今のうちにもう一度現場を見ておくか。

再び現場に戻る。
何か違和感があるんだよな。
一体何が気になってるんだ。
壺。凶器は壺。
たまたま置いてあった壺で撲殺。
確かにカッとなって衝動的に壺を取ることもあるだろう。
それは否定しない。ただ練りに練った計画殺人だとしたらお粗末。
その場にあるものを凶器にするのは理に適っていても不確実。
いくらあらかじめ準備していたとしても心もとない。
だとすればやっぱり。

明らかに違う。
複数の陶器の破片が散乱している。
これは部屋に持ち込まれたものの証明になる。
ただそれが二つ以上あることが判明しただけでいくつかまでは分かっていない。
一歩前進なのは間違いないが。
凶器は恐らく壺。しかし飾ってあったものではなくあらかじめ用意したもの。
だとすれば犯人は現場に壺を持ってきたことになる。
いくら夜とは言え目立ち過ぎる。
壺を抱える間抜けな光景が目に浮かぶ。

全員をレストランに集める。
「ええ多数決を採ります。
今すぐ帰りたい方? 」
「おい冗談じゃない。たかが一人亡くなったくらいで予定は変更できないぜ」
若い男が吠える。
彼は私が一族の次男と勝手に決めつけていたその人で。
若そうに見えるがもしかすると大学生?
はいはいはい。
三名。要するに否決された。
三名は俺とガイドと男。
ガイドは私の説得に応じた形。まあ当然か。このツアーの責任者。
責任が問われるとしたら彼女だろうからな。
男は嫌な予感がすると言って騒ぎ出した。
取り敢えず誰かが代表して下山することを進言。
結局俺たち三人で行くことに。
これで脱出できる。
何も連続殺人を恐れているのではない。
ただ出来るなら急いで薄曇り山に。

「では出発しましょう」
地面が濡れる。ぽつぽつと雨が降って来たと思ったらすぐに土砂降りに。
視界が悪くこれ以上進めば危険。引き返すべきか判断が迫られる。
遠くの方で雷まで鳴りだした。
やはりドスグロ山の雷人は通してくれそうにない。
さっきまで快晴だった空が真っ暗。
まだ昼だというのにおかしな天気だ。
ドスグロ山なだけある。
それでも行けるだけ行ってみる。

「急ぎましょう」
今ハンドルを握っているのは見知らぬ男。
本来ガイドさんがやるべきところだろうがまだ事件のショックが大きい。
もちろん私は免許がないので助手席だ。
まあ行きは歩いたので他の奴よりは記憶に残っている。
意外とこのメンバーは好都合なのかもしれない。
「さあここを下れば山入り口のはずです」

昨日は散々だった。
道に迷うわそもそも山を間違えるわ。
倒木で遠回りするわでついてない。
登山を開始したのは夕方。大雨で休憩と大変だった。
六時に着く予定が八時過ぎになってしまった。
合計四時間越えのの強行軍。
筋肉痛にならないのは日頃の鍛錬のおかげ。
毎朝のランニングと筋トレが実を結んだ形。
まあ探偵としては当然。

「ああストップ! ストップ! 」
薄々は感じていたがやはり大雨の影響で土砂崩れ。それに倒木と。
道が塞がれてしまっている。

                 続く
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