ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

文字の大きさ
103 / 122

ミスリード

しおりを挟む
全裸体の謎が解明されようとしている。
小駒さんは騙された男の恨みだと考えているらしい。
果たしてそんなに単純だろうか?
田中さんは争った痕跡を隠蔽する為だと主張する。
それは私も考えたが……

「その辺のところはどうだ? 」
相棒に確認を取る。
「ううん。それはないんじゃないかな。シャワーを使った形跡がない。
たぶん一回も使ってないよこの人」
さすがは相棒。ここまで断定するなら恐らく間違いないのだろう。
後は警察の到着を待つだけ。相棒の見立ては彼らによって裏付けられるはず。
恐らくミサさんは二晩とも大浴場へ。
汗を掻くこともあっただろうがそれは隣の部屋で済ました。
そう考えるのが自然か。
こうして田中さんの説は否定された。

「残念ながら違ったようですね」
「あら探偵さん。否定されるのをあらかじめ分かっていたみたいじゃないか。
私の考え方も彼女の推理もいい線行ってると思ったけどね。
まさか初めから知っていて最後に美味しいところを持って行こうって魂胆かい?
性格悪いよ。ほら木偶の坊も何か言ってやりな」
常に相棒に突っかかる困った小駒さん。
これでは相棒も我慢の限界か?
「へへへ…… 」
駄目だ。嬉しそう。喜怒哀楽が苦手な相棒は小駒さんのオモチャにされる。

「どうなんだい探偵さん? 」
「そんなこと言われると話しにくいな…… 」
小駒さんの強烈な追及に防戦一方。とりあえず様子を見ることに。
皆から熱い視線が注がれる。早くしてくれと言っているようだ。
小駒さんまで悪かったねと謝罪する始末。
よし。探偵としてもう黙ってられない。
真実を語る時が来たようだ。だがその前に一つ確認することが。
真犯人に目を向けると頻りに汗を拭いている。
焦っているなこれは。真相に迫ったと見ていい。
では披露しますか私の仮説を。恐らく間違っていないだろうが。
ただ確実ではない。慢心は真実を遠ざけてしまう。
慎重にも慎重に。

「お二人とも真犯人に踊らされてますよ。実は何も起きていなかったんです。
その証拠に血の跡がどこにもありません」
「いやだからそれはこの人が拭き取ったからでしょう? 」
小駒さんの指摘はもっとも。
「拭き取ってもルミノール反応が出ます。はっきり言えばもう逃れられません。
警察が来れば終わりなんです。真犯人もそのことを充分理解してるはず。
だから仮に田中さんの言う通りだとしてもそれはそれでいい。
真犯人の沈黙が不気味で追い詰めることを躊躇ってしまった。
ですが黒木さんを使い結果的に追い詰めてみても未だに大人しい。
何か切り札があるだろうと踏んだが何もない。
もうこれで充分。真犯人にはもう何も残されていない。そうでしょう?
あなたは一体どう言うつもりですか? 」
ふふふ……
ただ笑うだけで答えようとはしない。

「全裸体は真犯人によるフェイク。我々をミスリードする為の罠。
三号室で被害者と揉めその後隠蔽を謀ったかのように偽装したのです。
これこそが今回の全裸体の真相です」
「はあ? 無理がねえか? 」
さっきまで大人しくしていた黒木がキレ気味で反論する。
「なら婆さんの言うように騙された恨みでひん剥いたが正しいだろ?
ミサに何てことしやがるこの変態野郎! 俺の…… 俺のミサを返せ! 」
泣き出しそうな黒木に同情するアリ。
人間では誰も同情してくれないのでアリが涙を流す。

「黒木さんそれぐらいで。真犯人はどうしてもここで暴れたことにしたかった。
それはなぜだか分かりますか? 」
黒木が悪態を吐く。
小駒さんはぽかんとする。
田中さんは自分の推理が信じられなくなって項垂れる。
他の者はただ聞き役に徹する。

「ミサさんを全裸体にしたのにはミスリードさせる為。
或いはセンセーショナルにすることによって皆の目を遺体の方に向けさせる為。
そんなところ。どうです真犯人さん? もう何もかも吐いて楽になりましょうよ。
あなたが黒木さんを襲ったと言う揺るがない事実もある。
時間を無駄にしたくない。これ以上はどうか私の手を煩わせないで。
認めてはくれませんか? そしてあなたの口から真実をお願いします 」
だが何一つ反応を示さない真犯人。

残念だ。もうすべてを白日の元にさらすしかないらしい。
ここまで真犯人の良心に訴えかけ続けたのに。私の想いは結局届かなかった。
仕方がない。次の段階に移るとしよう。

                続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...