21 / 61
衝撃の事実 博士の行方
しおりを挟む
釣り開始。
静かだ。
穏やかな波の音が聞こえるだけ。
耳を澄ませば遠くで鳥のさえずりがする。
潮風が気持ちいい。
幸せ?
分からない。
急に不安が押し寄せてくる。
俺はなぜここに居るのだろう?
リンに誘われて。
いやそうじゃない。もっとこう根本的な話。
博士が戻って来てさえくれれば。
「もうお兄ちゃんブツブツうるさい! お魚さんが逃げるでしょう! 」
「済まん。済まん」
三十分後。
案の定リンは釣り竿を放り投げる。
「飽きちゃった」
そう言う性格だよな。ははは……
「お兄ちゃん。つまんない! 」
「おいおい。お前がやりたいって言ったから連れて来たんだぞ! 」
「でもリンもういい」
「待ってくれ。今日の分は確保しないと。できたら明日の分も」
「もうしょうがないなあ。だったら何かお話して」
「ええっ? 」
「何でもいいから! 」
「よしでは博士の話をしてあげよう」
「えっと…… 」
「どうしたつまらないか? 」
「博士ってあの博士? 」
「ああ。我々を置いて宝探しをしているどうしようもない男さ」
「違うよ! 」
「違う? 博士について何か知ってるのか? 」
「うん。雇い主だもん」
「それだけか? 」
リンは五人の中で一番ガードが緩い。
突破口があるとすれば彼女しかない。
「うん…… 」
「他に隠してる事は? 」
「リンは子供だから…… 」
「おいおい。その手は卑怯だぞ」
「だって…… 」
「よし一つだけでいい。教えてくれ」
「お兄ちゃん…… 」
観念したのか話し始めた。
「博士は…… 」
「博士は? 」
「もういない」
「ああそうだ。皆を置いて行ってしまった」
「そうじゃないよ! もうこの世にはいない…… かな…… 」
「ええっ? 」
「本当だよ」
あの純粋なリンが嘘を吐くとも思えない。
しかし信じろと言う方が無理がある。
「お兄ちゃん大丈夫? 」
「そうかリン。お前命令に背いたな? 」
「ええっ! お兄ちゃんじゃないの? 」
「何を言ってる俺は俺だ。少し鎌をかけてみたんだ」
「お兄ちゃん…… 」
「いや済まん。なぜかそんな気がしたんだ。心の声って言うか…… 」
リンは真っ青。笑顔だけは絶やさない。もちろん引きつっているが。
「博士は亡くなったのか? 」
「うん」
「そうか…… 」
「本当に覚えてないの? 」
「済まん。まったく」
リンは口を噤む。
持ち前の明るさは消えやけによそよそしい。
「リン…… 」
元のリンに戻してやることもできない。
博士が亡くなったと言う衝撃的事実に頭が追い付かない。
今日の分は確保できたのでコテージに戻る。
「行ってくるね」
リンは日課の水汲みに出かけた。
できるだけ手伝ってやりたいが今日はお供できない。
「ねえどうだった? 」
亜砂が駆け寄ってきた。
この様子だとリンと話をしたと見える。
笑顔を見せるがやはり引きつっている。
「何か思い出したの? 」
「いいや。ただ…… 」
「魚がこんなに大量だ。喜べ! 」
「ゲンジ…… 」
亜砂は警戒している。
思い出されてはいけない何かがあるとでも言うのか。
「教えてやろうか」
「ええ…… 」
いきなりのことに亜砂は何か言おうとするが上手く出てこないようだ。
「何のこと? 」
誤魔化して笑う。
「俺は別に何も思い出してないさ。ただ…… 」
亜砂は唾をのみ込む。
「博士が亡くなった」
「博士が? はっはは! ええ? 」
下手な芝居だ。
「だって博士は船で今も宝さがしをしてるじゃない。まさか今日不幸な事故で亡くなったとでも言うの? 」
「亜砂! 」
「何よゲンジ! 」
「俺の目を見ろ! 」
「み…… 見てる。見てるって! 」
「お前は俺が寝ている間に博士が戻って来たと言った。しかも何回もだ」
「だが俺は実際に見たわけじゃない。だから不確かだ。お前本当に博士が戻って来たのを見たのか? 」
「だって…… ゲンジが…… 」
「俺が何だって? 」
「まさかリンから聞いたの? 」
「やっぱりそうなのか? 」
「馬鹿なんだから。リンはいつもいい加減なことを言って私たちをからかっているだけ。真に受けたらダメ! 」
顔面蒼白な亜砂。明らかに無理がある。
しかし押し通そうとする。
「おいおい。それはちょっといくら何でも…… 」
「だってリンよ。あの子なのよ! 」
まるでアイミがリンを馬鹿にする言い回し。
今まで庇っていた亜砂が突然手のひらを反すのは不自然だ。
「俺にその話を信じろと言うのか? 」
もはや疑いようのない真実。
博士は亡くなった。
では一体なぜ? どのような理由から?
そして誰がやったのか?
「ゲンジ! 考えてはダメ! 思い出してはダメ! 全てを失うことになるのよ。
それだけじゃない。あなたは罪悪感に苛まれる。再び思い出してはあなたの心が持たない。
お願い! 私たちの為にも。あなた自身の為にもこれ以上は詮索しないで! 」
亜砂の切実な訴えを無視するわけにはいかない。
「ごめんよ亜砂。俺が言い過ぎた。ただ真実が知りたかっただけなんだ」
「真実なんてこの島にはない。無意味で形のない幻でしかない」
「分かったよ。亜砂」
亜砂は泣き出した。
ここまで追い詰めてしまったのか。
俺の為に……
夕陽に照らされた彼女の肢体はまるで蜃気楼のようにぼやけて見える。
なぜだろう?
そうか。俺も彼女の涙に誘われ潤んだに違いない。
真っ暗になる前にリンが戻ってきた。
さあ今日釣った魚を食すとしよう。
【続】
静かだ。
穏やかな波の音が聞こえるだけ。
耳を澄ませば遠くで鳥のさえずりがする。
潮風が気持ちいい。
幸せ?
分からない。
急に不安が押し寄せてくる。
俺はなぜここに居るのだろう?
リンに誘われて。
いやそうじゃない。もっとこう根本的な話。
博士が戻って来てさえくれれば。
「もうお兄ちゃんブツブツうるさい! お魚さんが逃げるでしょう! 」
「済まん。済まん」
三十分後。
案の定リンは釣り竿を放り投げる。
「飽きちゃった」
そう言う性格だよな。ははは……
「お兄ちゃん。つまんない! 」
「おいおい。お前がやりたいって言ったから連れて来たんだぞ! 」
「でもリンもういい」
「待ってくれ。今日の分は確保しないと。できたら明日の分も」
「もうしょうがないなあ。だったら何かお話して」
「ええっ? 」
「何でもいいから! 」
「よしでは博士の話をしてあげよう」
「えっと…… 」
「どうしたつまらないか? 」
「博士ってあの博士? 」
「ああ。我々を置いて宝探しをしているどうしようもない男さ」
「違うよ! 」
「違う? 博士について何か知ってるのか? 」
「うん。雇い主だもん」
「それだけか? 」
リンは五人の中で一番ガードが緩い。
突破口があるとすれば彼女しかない。
「うん…… 」
「他に隠してる事は? 」
「リンは子供だから…… 」
「おいおい。その手は卑怯だぞ」
「だって…… 」
「よし一つだけでいい。教えてくれ」
「お兄ちゃん…… 」
観念したのか話し始めた。
「博士は…… 」
「博士は? 」
「もういない」
「ああそうだ。皆を置いて行ってしまった」
「そうじゃないよ! もうこの世にはいない…… かな…… 」
「ええっ? 」
「本当だよ」
あの純粋なリンが嘘を吐くとも思えない。
しかし信じろと言う方が無理がある。
「お兄ちゃん大丈夫? 」
「そうかリン。お前命令に背いたな? 」
「ええっ! お兄ちゃんじゃないの? 」
「何を言ってる俺は俺だ。少し鎌をかけてみたんだ」
「お兄ちゃん…… 」
「いや済まん。なぜかそんな気がしたんだ。心の声って言うか…… 」
リンは真っ青。笑顔だけは絶やさない。もちろん引きつっているが。
「博士は亡くなったのか? 」
「うん」
「そうか…… 」
「本当に覚えてないの? 」
「済まん。まったく」
リンは口を噤む。
持ち前の明るさは消えやけによそよそしい。
「リン…… 」
元のリンに戻してやることもできない。
博士が亡くなったと言う衝撃的事実に頭が追い付かない。
今日の分は確保できたのでコテージに戻る。
「行ってくるね」
リンは日課の水汲みに出かけた。
できるだけ手伝ってやりたいが今日はお供できない。
「ねえどうだった? 」
亜砂が駆け寄ってきた。
この様子だとリンと話をしたと見える。
笑顔を見せるがやはり引きつっている。
「何か思い出したの? 」
「いいや。ただ…… 」
「魚がこんなに大量だ。喜べ! 」
「ゲンジ…… 」
亜砂は警戒している。
思い出されてはいけない何かがあるとでも言うのか。
「教えてやろうか」
「ええ…… 」
いきなりのことに亜砂は何か言おうとするが上手く出てこないようだ。
「何のこと? 」
誤魔化して笑う。
「俺は別に何も思い出してないさ。ただ…… 」
亜砂は唾をのみ込む。
「博士が亡くなった」
「博士が? はっはは! ええ? 」
下手な芝居だ。
「だって博士は船で今も宝さがしをしてるじゃない。まさか今日不幸な事故で亡くなったとでも言うの? 」
「亜砂! 」
「何よゲンジ! 」
「俺の目を見ろ! 」
「み…… 見てる。見てるって! 」
「お前は俺が寝ている間に博士が戻って来たと言った。しかも何回もだ」
「だが俺は実際に見たわけじゃない。だから不確かだ。お前本当に博士が戻って来たのを見たのか? 」
「だって…… ゲンジが…… 」
「俺が何だって? 」
「まさかリンから聞いたの? 」
「やっぱりそうなのか? 」
「馬鹿なんだから。リンはいつもいい加減なことを言って私たちをからかっているだけ。真に受けたらダメ! 」
顔面蒼白な亜砂。明らかに無理がある。
しかし押し通そうとする。
「おいおい。それはちょっといくら何でも…… 」
「だってリンよ。あの子なのよ! 」
まるでアイミがリンを馬鹿にする言い回し。
今まで庇っていた亜砂が突然手のひらを反すのは不自然だ。
「俺にその話を信じろと言うのか? 」
もはや疑いようのない真実。
博士は亡くなった。
では一体なぜ? どのような理由から?
そして誰がやったのか?
「ゲンジ! 考えてはダメ! 思い出してはダメ! 全てを失うことになるのよ。
それだけじゃない。あなたは罪悪感に苛まれる。再び思い出してはあなたの心が持たない。
お願い! 私たちの為にも。あなた自身の為にもこれ以上は詮索しないで! 」
亜砂の切実な訴えを無視するわけにはいかない。
「ごめんよ亜砂。俺が言い過ぎた。ただ真実が知りたかっただけなんだ」
「真実なんてこの島にはない。無意味で形のない幻でしかない」
「分かったよ。亜砂」
亜砂は泣き出した。
ここまで追い詰めてしまったのか。
俺の為に……
夕陽に照らされた彼女の肢体はまるで蜃気楼のようにぼやけて見える。
なぜだろう?
そうか。俺も彼女の涙に誘われ潤んだに違いない。
真っ暗になる前にリンが戻ってきた。
さあ今日釣った魚を食すとしよう。
【続】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる