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盗賊
しおりを挟む旅は大変でございます。いきなりの展開。何の準備もしておりません。
もちろんガムだってそうでしょう。でもガムに任せておけばたぶん大丈夫。
馬車を調達。
「ステーテル? 」
疲れてウトウトしていたところを起こされる。
ガムが心配そうにこちらを見る。
「問題ありません」
山に差し掛かった。
この山を越えればサーチャット王国。
本来ならイーチャットを目指すべきところだが昔のことがばれてはまずいので行くわけにはいかない。
そうだ! 肝心な世界観をお教えしていなかったわね。
世界は九つの小国によって成り立っています。
その中でもイーチャットが実質支配している強国。
それ以外は拮抗している。
今は大分落ち着いているがいつまた争いが本格化するか分からない。このまま平和な世界が続けばいいんだけど。
うおおお!
外が騒がしい。何かしら?
「ガムお願い」
馬車の速度が落ちる。
銀貨一枚で道案内を任せたのがまずかったかしら?
ガムがけちるから。こういう所で足元を見られるんだわ。
トントン
トントン
「今すぐ逃げましょう。盗賊が! 盗賊が! 」
盗賊? 何それ?
前から初老の男が懇願する。
「はあ? かっ飛ばしなさいよ! 」
「ステーテル! 」
ガムにたしなめられる。
「無茶を言われても困る。もう囲まれておるわ」
「もうしょうがないわね」
ガムを見る。
薄暗い登り道に松明を持った野蛮な男たち。少なくても五人はいる。
「おい、早く出てこい! 」
まったく困った人たちね。
「俺たちはここを縄張りにしているハッシャの者だ! 」
ハッシャってあの悪名高い盗賊。まずいわね。
「出てこないならこっちから行くぞ! 」
うおお!
いつの間にかお爺さんは逃げてしまった。
「しょうがないわね。ガムよろしく」
ガムは優秀な付き人。どんな状況でも冷静沈着。
「任せてください」
馬を走らせる。
「馬鹿め。逃げ切れるわけないだろ! 」
馬車を囲む。包囲網はすでに出来上がっている。
松明でも投げ込まれた日にはどうにもならない。
どうしよう……
ガムを見る。
彼女はまったく動揺していない。それどころか笑っている?
「王の命令であるぞ! そこをどくのだ! 」
ガムの迫真の演技。さらに畳みかける。
「ニーチャット次期国王の命を受けている。邪魔をする者は国王を敵に回したと思っていいな? 」
もちろん命など受けていない。ハッタリでしかないが使える物は何でも使うのが本当のプロ。
すなわちガムの交渉術なのだ。
「誰が信じるか証拠を見せてみろ! 」
「王に確認せよ! 」
「ふふふ…… 馬鹿め。その手は食わん! 」
引き下がってくれない。
久しぶりに現れた獲物。簡単には通してくれそうにない。
「分かりました」
ガムによって馬車から降ろされる。
「へへへ…… イイ女じゃねえか! 」
松明に照らされた私はそれはきれいで皆を魅了してしまう。
本来ならこのような卑しい者に顔を晒すのはご法度。
穢れてしまう。それだけで転落してしまう。
どうしましょう。
「こちらのステーテル様は何とド・ラボーの資格を持った選ばれし者なのです。この書がその証拠。ご確認くださいませ」
そう言うと男の一人に渡す。
冷静で男相手に一歩も退かない強いガム。尊敬しちゃうな。
男は目を通すと頭を下げ離れる。
「通してやれ」
「親分! 」
「本当によろしいんですか? 」
不満そうな手下。
黙らせる。
「何をしてる? 早くしねえか! 」
盗賊たちは何も取らずに引き上げて行った。
さすがに奴らも国王には逆らえない。そんなことをすれば命はないのだから。
一人ではない。皆が火あぶりにあうのだ。
ガムはそのことを理解していたから強気に出れる。
実際は追われる身。
「ガム…… 」
「さあ参りましょう」
馬車を操る者はもういない。代わりにガムが動かすことに。
予定よりも遅れてしまった。急がなければ!
夜のうちにサーチャットに入る。
続く
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