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死の接吻
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地下牢がある。中には人のような物体。
ふふふ……
声が掠れている。喉でも痛めたのかよく聞こえない。
お爺さん?
第一印象は決して良くない。
もじゃもじゃの白髪頭に伸び放題の白が混ざった髭。ボロボロの汚らしい格好。近寄ると臭いが漂ってくる。
仕方がなくハンカチをあてる。
「くっさ! 」
「私にお任せください」
ガムが制止する。
「あなたは? 」
「ひひひ…… 誰だと思う? 」
ただの爺にしか見えない。よく言ってもイカレた囚人。
「儂はな王じゃ! この国の王さ」
ダメだ完全にイカレている。
「お爺ちゃん。もう眠りましょうね」
ガムは手慣れている。
「おうおう。優しいのうお嬢さんって…… ふざけるな! 」
爺の悪ふざけにしか見えないが……
「儂は王だ! 」
まだ続けるつもり?
「殴ってやりましょうか? 」
「王だ! 」
「いい加減にして! 」
ガムがいつになく熱が入っているので代わる。
「あなたは本当に国王様なのですか? 」
「ああ。いかにも」
「では今いる国王や王子は? 」
「あれは偽物だ。いや正確にはこの国を乗っ取った謀反者。奴らには罰が下るだろう」
「なーんだ。あなたは前の王ってわけね」
「うぐぐ…… 図星だから何も言えん」
「ねえここには他に人はいないの? 」
「見て分かるだろう。儂一人じゃ」
「ねえもっと若い人を見なかった? 」
「儂よりも? 」
「ええあなたよりもっと若い人。私と同じぐらいの」
「さあな。誰一人入ってきた者はいないはずじゃが」
「そう…… 」
「ステーテル? 」
「ううん。何でもない」
ガムにも悟られてはいけないもう一つの使命。ただ王子を探していただけではない。
私にはやらねばならないことがある。
「なあお嬢さん方。儂をここから出してくれんか? 」
「でも私たち鍵を持ってない」
ガチャ!
ガチャ!
いくら回しても引っ張てもびくともしない。
「ごめんなさい。お役に立てそうにない」
「そうか」
「国王は私たちの味方だって。もしかしてあなたのこと? 」
「まさかお前さん方。よそ者? 」
「そんな言い方しなくてもいいでしょう! 」
「ステーテル。もう帰りましょう。これ以上の長居は無用。危険が増すだけです」
「では最後に一つ教えてやろう。ここは地獄だ」
「えっ? 地獄? 」
「ステーテル! 」
「儂は常に正しい。今から言うことをよく聞け! 」
さすがは元国王。威厳がある。
「よそ者がこの世界に来るのは珍しい。何年ぶりかのう」
爺の長話が始まった。困ったなあ。
「お前たち橋を渡って来たんだろ? 」
「ええ。詳しいんですね」
「馬鹿者! 」
いきなり説教。これだから爺は……
「誰も止めなかったのか? 」
「はい…… いえ。お爺さんに止められました」
「でもガムが銀貨で追い払ったから」
「私のせい? それはないですよ。ステーテルの判断」
「ええっ? 本気なの? 」
「擦り付けあいは見苦しいぞ! いいかよく聞け! 元の橋に行けば戻れるはずだ」
「元の橋? 」
「ああ。あちら側が開いていれば行ける」
「閉じてれば? 」
「残念だが一生無理だな」
「そうだ! 聞こえた…… 最後に開けておくとかなんとか…… 」
「それは吉報だな。ではそやつが儂を頼れと言ったのだな」
「だからお爺さんじゃなくて国王だって。あなたはいまいち信用できないのよね」
「何じゃその眼は? その言い草は? 国王に無礼であろう? 」
「はいはい。お爺さん」
まだ完全には信用できない。罠の恐れもある。
「では一つ良いことを教えてやろう。王子の接吻には気をつけろ」
「接吻? 」
「お爺さんはそう言う趣味? 」
ガムが興味津々。
「違うわ! とにかく気をつけろ! 」
「あら…… 私、最初にお会いした時に手にされたんだけど」
「それくらいは問題ない。危険なのは接吻。良いか王子と婚約にでもなってみろ。誓いの接吻をせねばならない」
「えへへ…… 」
「ステーテル。妄想は禁止ですよ」
「だって…… 」
「接吻をしたらもう元の世界には戻れない」
「ど…… どういうこと? 」
「接吻した者は一時間もしないで凍ってしまう。そうしてこの世界で生き続ける。永遠にな」
決して受けてはいけない。
死の接吻。
続く
ふふふ……
声が掠れている。喉でも痛めたのかよく聞こえない。
お爺さん?
第一印象は決して良くない。
もじゃもじゃの白髪頭に伸び放題の白が混ざった髭。ボロボロの汚らしい格好。近寄ると臭いが漂ってくる。
仕方がなくハンカチをあてる。
「くっさ! 」
「私にお任せください」
ガムが制止する。
「あなたは? 」
「ひひひ…… 誰だと思う? 」
ただの爺にしか見えない。よく言ってもイカレた囚人。
「儂はな王じゃ! この国の王さ」
ダメだ完全にイカレている。
「お爺ちゃん。もう眠りましょうね」
ガムは手慣れている。
「おうおう。優しいのうお嬢さんって…… ふざけるな! 」
爺の悪ふざけにしか見えないが……
「儂は王だ! 」
まだ続けるつもり?
「殴ってやりましょうか? 」
「王だ! 」
「いい加減にして! 」
ガムがいつになく熱が入っているので代わる。
「あなたは本当に国王様なのですか? 」
「ああ。いかにも」
「では今いる国王や王子は? 」
「あれは偽物だ。いや正確にはこの国を乗っ取った謀反者。奴らには罰が下るだろう」
「なーんだ。あなたは前の王ってわけね」
「うぐぐ…… 図星だから何も言えん」
「ねえここには他に人はいないの? 」
「見て分かるだろう。儂一人じゃ」
「ねえもっと若い人を見なかった? 」
「儂よりも? 」
「ええあなたよりもっと若い人。私と同じぐらいの」
「さあな。誰一人入ってきた者はいないはずじゃが」
「そう…… 」
「ステーテル? 」
「ううん。何でもない」
ガムにも悟られてはいけないもう一つの使命。ただ王子を探していただけではない。
私にはやらねばならないことがある。
「なあお嬢さん方。儂をここから出してくれんか? 」
「でも私たち鍵を持ってない」
ガチャ!
ガチャ!
いくら回しても引っ張てもびくともしない。
「ごめんなさい。お役に立てそうにない」
「そうか」
「国王は私たちの味方だって。もしかしてあなたのこと? 」
「まさかお前さん方。よそ者? 」
「そんな言い方しなくてもいいでしょう! 」
「ステーテル。もう帰りましょう。これ以上の長居は無用。危険が増すだけです」
「では最後に一つ教えてやろう。ここは地獄だ」
「えっ? 地獄? 」
「ステーテル! 」
「儂は常に正しい。今から言うことをよく聞け! 」
さすがは元国王。威厳がある。
「よそ者がこの世界に来るのは珍しい。何年ぶりかのう」
爺の長話が始まった。困ったなあ。
「お前たち橋を渡って来たんだろ? 」
「ええ。詳しいんですね」
「馬鹿者! 」
いきなり説教。これだから爺は……
「誰も止めなかったのか? 」
「はい…… いえ。お爺さんに止められました」
「でもガムが銀貨で追い払ったから」
「私のせい? それはないですよ。ステーテルの判断」
「ええっ? 本気なの? 」
「擦り付けあいは見苦しいぞ! いいかよく聞け! 元の橋に行けば戻れるはずだ」
「元の橋? 」
「ああ。あちら側が開いていれば行ける」
「閉じてれば? 」
「残念だが一生無理だな」
「そうだ! 聞こえた…… 最後に開けておくとかなんとか…… 」
「それは吉報だな。ではそやつが儂を頼れと言ったのだな」
「だからお爺さんじゃなくて国王だって。あなたはいまいち信用できないのよね」
「何じゃその眼は? その言い草は? 国王に無礼であろう? 」
「はいはい。お爺さん」
まだ完全には信用できない。罠の恐れもある。
「では一つ良いことを教えてやろう。王子の接吻には気をつけろ」
「接吻? 」
「お爺さんはそう言う趣味? 」
ガムが興味津々。
「違うわ! とにかく気をつけろ! 」
「あら…… 私、最初にお会いした時に手にされたんだけど」
「それくらいは問題ない。危険なのは接吻。良いか王子と婚約にでもなってみろ。誓いの接吻をせねばならない」
「えへへ…… 」
「ステーテル。妄想は禁止ですよ」
「だって…… 」
「接吻をしたらもう元の世界には戻れない」
「ど…… どういうこと? 」
「接吻した者は一時間もしないで凍ってしまう。そうしてこの世界で生き続ける。永遠にな」
決して受けてはいけない。
死の接吻。
続く
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