ヒナギクは彼の溺愛に気づかないー彼のとなりで大福を

白もふ

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姫さま、彼と一緒に大福を

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 今日は、広場にたくさんの人だかりができていた。
皆、作業着をまとい、手にはタオルと石鹸を持っている。
ヒナギクも同じように、桃色の作業着を着用して、壇上に上がった。

「みなさ~ん、今日はいいもふもふ日和ですね。では、さっそく恒例の、もふもふたちラブラブウォッシュ大作戦を、決行したいと思います」

「恒例とは聞いていなかった」
「別に恒例じゃないけどね。それより、あのダサい作戦名が気になるんだけど」

 こんな時だけ、馬が合うサスケと彼。隣では、フローディアが目を輝かせている。
彼女を少しは見習ってほしい。

 ちなみに、コウヤもちゃっかり列に並んでいる。おい、城主。

「それでは、準備はよろしいですか?捕獲班、洗い班、乾燥班、救護班、お願いしま~す!」
「おう!!」
 と、威勢のいいみんなの声が聞こえ、一斉に動き出す。
相手は俊敏で、そうそう捕まらない。

「ヒスイ、どっちが多く捕獲できるか、競争な!」

 父が、年がいもなく張り切っている。馬鹿力なので、もふもふたちが心配だ。

「では、勝利したものの願いを、ひとつだけ叶える、というのはどうでしょう?」
 ヒスイが提案する。

「いいだろう。俺が勝ったら、ヒナギクの半径一メートル以内に、近づくの禁止な。お前が娘に、ベタベタ引っついているの知っているんだからな」
 コウヤが、彼をにらむ。

「まあ、隠していませんし。では本気でいかせていただきます」
「いつになく真剣だな。何を願うか知らねぇが、受けてたつ!まだまだ若いものには負けねぇぞ」
「承知!」
 言うが早いか、二人の姿が消えた。

 ヒナギクとフローディアは洗い班で、乾燥班にはサスケとヨシノ、救護班にはコムギとばあやが担当することになった。

「ヒスイさんの願いって何かしら?大福一年分とかかな?」
 たらいを用意しながら、フローディアに声をかける。

「んもぅ。ヒナギク様ったら、鈍いですわ。男と男の勝負と言ったら、アレしかございません」
「アレって?」
「わたくしの口からは申し上げられませんわ。キク様はお分かりですよね?」

 ばあやは、もふもふに引っかかれる人たちを考慮して、薬や包帯を用意する。

「もちろんでございます。いつでも執筆の準備はできておりますよ」

「さすがキク様!もしできれば、わたくしに一番に読ませていただきたいです」
 フローディアがばあやに懇願する。

「よろしいですよ。では感想をいただけると、幸いです」
「嬉しいですわ!読んだら、即、感想をお伝えしますね」
 二人で盛り上がっている。
うーん、これにはついていけそうにない。

 ヨシノが大量のタオルを用意し、サスケも追加で持ってくる。

「サスケ、いいの?姫さまを取られちゃうわよ。もっと強引にいかないと」
「別に、決めるのは姫様だし……。それに、姫さまが幸せになればそれでいい。あいつは気にくわないけどね」

「サスケ、なんていい子なの!おなたを生んで本当に良かったわ。私、幸せよ。だからあなたにも幸せになってほしいの。何なら命に代えても、彼に……」

「やめて、そんなことしなくていいから。母さんが死んだら、父さんが悲しむよ。俺も悲しいから、絶対やめてね」

 不穏な空気が漂い始めたヨシノに、サスケが念押しする。普段は穏やかで、優しい彼女だが、身内のことになると暴走しがちだ。

「何なら姫さまに媚薬をーー」
「それもいい。大福を口に突っ込まれそうだから」
「それもそうね。姫さまは、そんな残念なところが可愛いのだけど」

 絶対ほめられてないよね。泣いていいかな。
サスケも彼の事情を聞いたのだろう。それでもひどい言いぐさだ。

 捕獲班が傷だらけになりながら、猫たちを捕まえてくる。

 コウヤの腕の中には、六匹の猫がいた。
父は満足げだが、もふもふたちは毛がボサボサで、どこかげっそりしている。

 僅差で遅れて、ヒスイが現れる。
彼の腕の中に猫が五匹、頭の上に三匹、両足に六匹が、しがみついていた。
どの、もふもふたちも酩酊したように、頭をなすりつけて、ゴロゴロ鳴いている。

「てめぇ、その数おかしいだろ!?いったい何しやがった!」
 コウヤが彼に詰め寄った。

「マタタビを使用しただけです。勝敗に道具使用禁止とは、聞いていませんからね」
「お前、そこまでやるか?」
「誰にでも、負けられない戦いがあります。約束は守ってもらいますよ。詳細は後ほど」

「ちっ、わあったよ」
 父は悔しそうに、洗い班に猫を手渡す。

「ごくろうさまです、ヒスイさん、父さま。次は、猫たちを洗うのを手伝ってくださいね」
 ヒナギクは、二人ににっこり笑う。

「お前も人使いが荒いな。そういう顔、コチョウにそっくりだぞ」
 
 コウヤがヒナギクの頭を撫でる。少し、ぼさぼさになった。
まあ、今は仕方ないから、文句はなしにしよう。

「母さまに?なら、父さまも嬉しいですよね。私は、使えるものは何でも使う主義ですよ。あとで、サキチの作った大福を、みんなで食べましょう。疲れたあとの大福は格別ですからね」

 洗い班は、手際よくもふもふたちを洗い、乾燥班に渡していく。
最後の仕上げにブラッシングをし、怪我をしたものたちは、救護班で手当てを受けた。

「みなさま、ご協力感謝します。今日の大福は、いちご大福、ぶどう大福、みかん大福、生チョコ大福、抹茶大福です。好きなものを食べてくださいね。私はもちろん、全種類制覇するつもりです!」
 ヒナギクが鼻息を荒くする。誰も、そんなこと聞いていない。

 ヒスイやサスケたちに手伝ってもらいながら、広場に簡易テーブルを設置し、大福を並べていく。フローディアやばあやたちには、緑茶や紅茶を用意してもらった。

「ん~、この季節のいちご大福は格別よね。私はこし餡で食べる派よ。サスケは白餡よね?フローディアさんは?」
 隣で、美味しそうに食べている彼女に聞く。

「わたくしもこし餡でしょうか。白餡も捨てがたいですが」

「コムギさんは?」
 コムギはあまり大福に手をつけず、お茶ばかり飲んでいる。

「僕は、和菓子が少し苦手でして……あ、でも緑茶は美味しいです」

 ふむ。やっぱり中には、和菓子が苦手な人もいるか。ちょっぴり悲しいけど、好みは人それぞれだ。用意しておいてよかった。
コムギの手に、白い包みを渡す。

「これは?」
 珍しく、彼が驚いた表情をしている。

「クッキーです。好みが分からなかったので、チョコ、抹茶、クルミと、色々用意したから、お好きなものをどうぞ。フローディアさんと一緒に作りました」

「はい、楽しかったですわ。あなたには随分苦労かけましたし、少しでも感謝を伝えたかったのです。いつも、ありがとうございます」

「いえ、そんな……。お嬢様、ヒナギク様、ありがとうございます。これ、とっても美味しいですね!」

 どこか遠慮していた、コムギの本当の笑顔を見た気がする。

 フローディアの話だと、彼は天涯孤独で、三年前に路上で座り込んでいたところを、声をかけたのがきっかけだったとか。
ちょうど仕事を首にされて、空腹だったので、すごく助かったらしい。

 みんなが和気あいあいと食べるなか、ヒスイとコウヤが対峙していた。あそこだけ、空気感が違う。

 フローディアはワクワクした顔で、ばあやは手帳と筆を握りしめて、どこか期待した眼差しを二人に向けている。
ヒナギクには、さっぱり意味がわからない。
とりあえず、次の抹茶大福を口に入れた。抹茶のほどよい苦味と、あんこの甘さが合わさって、とても美味しい。サキチは天才や。

「ヒナギクが、俺を受け入れてくれたら、あなたも認めてください」
 彼が、真剣な表情で言う。

「ぐっ……」
 父が、苦虫をかみつぶした顔で、しばらく沈黙し、長く息をはいた。

「あくまで、娘が了承したらだからな!無理強いは許さん」
「承知しました」

 皆、一斉にヒナギクに注目する。

「へ?」
 
 訳もわからずキョロキョロしているところに、彼がこちらにやってくる。
目前で片膝をつき、ヒナギクの右手を取った。

「ヒナギク、俺と結婚してくれ」

 ケッコン?彼は、何をいっているのだろうか。

「え~っと……」

 目の端に、フローディアとばあやが拳を頭上に突き上げ、しきりに頷いている。

「あんたのために、一生大福を捧げると誓う。師匠が」
「おい!!」
 サキチが思わず、突っ込む。

「私、あなたのこと覚えてなくて。まだ知り合ったばかりで、よく知らないし」
「これから知ってもらえればいい」
「小さい頃に、あなたに多大な迷惑をーー」
「俺は迷惑と思っていない。むしろ、目を覚まさせてもらった」

 魅力的な言葉に抗うのは難しい。澄んだ翡翠の目とぶつかる。

「私と一生一緒に、大福を食べてくれますか?」

「無論だ。あんたの隣がいい」

 隣というか、距離感がゼロのような気がするが、彼になれてしまった。
そばにいないと、つい探してしまう自分がいる。それに彼といると、胸が暖かくなるのだ。

「なら、了承します。結婚はもう少し待ってください。もっとあなたのことを知りたいから」

「分かった。ーーあんたを愛している。それだけは、覚えておいてくれ」

 彼が耳元でささやく。顔が熱くなる。
この色気全快にはまだなれそうにない。顔をあげると、彼の唇が重なった。

「んっ……」

 ビックリして思わず離れようとしたら、優しく背中を撫でられ、頭を固定される。
深くなる口づけに大丈夫だと言わんばかりに、髪をすかれ、動けない。
頭がパニックになって、涙がこぼれそうになると、彼が苦笑しながら離れた。

「悪い、怖がらせた」

 ヒスイの手が、ヒナギクの唇をぬぐう。それから、ふわりと抱きしめられた。

「ううっ。恥ずかしいです」
 彼の腕に顔をうずめて、ぐりぐりする。

「すまない。つい可愛くて、おさえられなかった」
 頭をいたわるように撫でられ、少し溜飲が下がる。

「あのさ、二人の世界に入っているとこ悪いんだけど、コウヤ様を放っておいていいの?放心して、動かないんだけど」

 遠慮がちに袖をつかまれ、サスケが声をかける。
顔をあげれば、泣き出す人や、奇声をあげる者、俺たちの癒しがーーと、地面にふせる者、三者三様だ。

 みんなの存在をすっかり忘れていた。
父に目を向けると、涙を流しながら、固まっている。
そのそばには、もふもふたちが寄り添い、ダイフクが肩に飛び乗り、肉球で父の頬を押していた。

「姫さま、ついにやりましたね!きっとコチョウ様も空の上で、お喜びになっていらっしゃいますよ」

「父さまは、悲しんでいるようだけど」

 さっきから全然動かないが、大丈夫だろうか。

「アレのことはいいのです。さあ、これから忙しくなりますよ!」

 ばあやのこんな嬉しそうな顔、初めてみた。
手帳には、びっしり文字が書かれている。

「ヒナギク様、おめでとうございます。わたくし、本当にこの国に来てよかったですわ。何より、すごく良いものを見せていただきました」

 フローディアが顔を赤らめながら、ハンカチで涙をぬぐう。
どうも、乙女心が忙しいようだ。

 彼を見ると、どこか落ち着かないのに、嬉しいと感じてしまう。

 微笑まれて、髪に口付けられる。

「ヒスイさん、もう勘弁して……」
 ドキドキしすぎて、鼓動がうるさい。

お腹に、彼の腕がまわる。

「なれてくれ」

 なれるどころか、遠慮がなくなっている。

「う~大福が食べたいです!」
 もはや、大福が精神安定剤と化していた。

「言っとくが、結婚はまだ先だからな。婚約までだぞ!!」
 いつの間にか、復活したコウヤが叫ぶ。

 これからも、みんなと彼と一緒に桜華国を過ごしていく。

 皆に幸あれーー

 ヒナギクは心の中で、そっと祈りを捧げた。





 長くなってスミマセン(;・ω・)

 これで、桜華国編は終わりです。
次は、ギスタニア編の予定です。
よろしければ、もう少しお付き合いください。
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