ヒナギクは彼の溺愛に気づかないー彼のとなりで大福を

白もふ

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姫さま、大福仲間が増えました

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 屋敷につくと、ムスッとした顔で、腕を組んだサスケが待っていた。

「ただいま、サスケ」
「おかえり姫さま、うわっ!」

 ヒナギクは、サスケをぎゅっと抱きしめた。
よろけたところを、彼のたくましい腕が支えてくれる。

「ヒスイさん、ありがとう」

「気を付けろ。サスケじゃ、あんたを支えるのはまだ無理だ」
「姫さま一人ぐらい支えられるよ!一番、姫さまと仲良いのは俺だからな!」
「俺だって、こいつをずっと見守ってきた」
「ただのストーカーだろ!」

 ヒナギクを間にはさんで、二人が口論する。止めようがない。
それとも、二人の口に大福を突っ込めば止まるだろうかーー
ヒナギクは、真剣に悩む。

「あら、まさかの三角関係ですの?年上と年下のイケメンから取り合われるなんて……さすがはヒナギク様ですわ!」
「白百合の会の会長として、キク様にこの感動を伝えねばなりません」

 フローディアが、紙と筆を取り出し、何か熱心に書き込んでいる。

 なんだろう、この乙女思考。ばあやと通じるものがある。

「ようやく、ヒナギク様にモテ期が来たようで、ばあやは嬉しゅうございます」
 
 ばあやが、扇子を広げて微笑む。
挿し絵には、まさにサスケとヒスイを見守るように描かれた、ヒナギクの絵姿が。

「その絵はまさか、キクさまですの!?」
 
フローディアは、顔を紅潮させながら、うち震えている。
確かにばあやの名は、キクというが、知り合いだろうか。

「ええ、そうです。私の描いた《花開くそのとき、二人の愛は永久に》を知っているのですか?」

「はい!わたくしはその神本のファンで、世間に広めるため、白百合の会を発足しましたの。今では、売り切れるほどの大人気になりましたわ。やはりモデルは、ヒナギク様たちですの?」

「そうなのです。鈍感きわまりないヒナギク様を、彼がどう攻めるのか、間近でこんなおいしい収入ーーごほん、素晴らしい人材がいるのです。書かずにはおられません」

 ばあや、収入って言った。収入って。大事なことなので、二回言う。

「分かりますわ、この方たちを見ていると、乙女心がキュンキュンしますもの」

 フローディアには、ばあやのがめつい志向が耳に入っていない。感動で涙を流しながら、ばあやの手を握る。

「これからも、いい作品を期待しています」
「ありがとうございます。お疲れでございましょう?食事の用意をしますから、温泉にでも浸かって、ゆっくりしてくださいな。何なら、他の作品もございますよ」

「ぜひ、拝見したいですわ!」

 二人は楽しく談笑しながら、歩いていく。
その後をコムギがついていく。目が合うが、気まずそうにそらされてしまう。

 ヒナギクは、仕方なく二人の口論が過ぎ去るのを、しばらく待つことになるのだった。

 ようやく二人に離してもらい、廊下を進むと、ご飯をがっついているダイフクがいた。

「うらぎりもの……」
 恨めしく思い、おしりをつっついても知らんぷりだ。実に美味しそうに食べている。

「ヒナギク様、キク様が先に温泉をどうぞ、と、おっしゃるのですが」
 フローディアが戻ってきた。

「すみません、ご案内しますね。コムギさんは?」

「コムギは、シン先生ーーヒスイさんとおっしゃるのですよね?彼が、案内してくれるそうです。少し、不服そうに見えましたが」
 フローディアは何かを思い出したのか、苦笑いを浮かべる。

「ヒナギク様と、片時も離れたくないようですわ。キク様に命じられて、仕方なくといったところでした」

「そんなことないと思うけど……」

 最近、彼が猫のように見える。猫は気まぐれだが、親しい人にはすごく甘えて、ずっと着いてくるのだ。

 フローディアと話ながら、温泉に向かう。
広場にある温泉より狭いが、乳白色で、慢性疲労、神経痛、美肌効果もあって、肌がスベスベになる。
 長い廊下を進むと、鳥居としだれ桜を温泉から、景色を一望できる。

「なんて素敵ですの!」
 フローディアは、感嘆の声をあげた。

「自慢のお風呂なの。肌がスベスベになるのよ」
 あまり誰かと入ることがなく、恥ずかしいので、タオルで肌を隠す。

「だから、そのように白く美しい肌をしているのですね。うらやましいですわ」
「そうかしら?ありがとうございます」
 彼女に体や髪の洗い方を教え、二人で湯船に浸かる。

「本当に、ここにこれてよかったですわ」
 フローディアが、しみじみと呟く。

「でも何故ここに?この国はあまり認知されていないはずよ」

 桜華国はほとんど外交していないので、知っている人の方が少ない。

「屋敷に出入りする商人に、教えていただきました。もふもふの桃源郷があると。山道は大変でしたけど、来てよかったですわ。何より、聖女様に会えましたもの」
 
 やっぱり勘違いされてる。いたたまれなくなって、訂正する。
「あの、私は聖女じゃないですよ。どちらかというと、巫女かしら?」

「いえ、やはりヒナギク様は、始まりの聖女様に似ておられます。ギスタニアでは、昔、二人の男女が召喚されましたの。一人は勇者、もう一人は聖女として」

 もしかしてーーサクラ様のことだろうか。

「彼女は、癒しと守りの力を持っていたと聞いております。ただ、いつの間にか行方不明になってしまったとか。誰かに拐かされたか、それとも自ら消えてしまったのかーー詳細は分かっておりません」
「勇者様は、ずっと聖女様を探してらしたそうです。きっと大切な方だったのですわ」

 この国では、サクラ様は追放されたと文献には残っている。その食い違いはどういうことだろうか。

 フローディアををちらりと見るが、なんの含みもなさそうだ。
それどころか、彼女の乙女センサーに引っ掛かっているのか、景色を眺めながら、陶酔している。

 あまりサクラ様のことは、言わない方がいいかもしれない。
彼女が何かするとは思えないが、ギスタニア帝国は注意が必要だ。うん、話題を変えよう。

「どうやってここまで来たの?結構距離があるのでは?」
「そうですわね、とりあえず着ていたドレスを換金して、目立たないように闇魔術を自分とコムギにかけて、途中まで馬車を使いました。山道は無理でしたので、途中からは歩きですわ」

 桜華国に続く山道は、けっこう傾斜があって大変だ。
それを自らの足で登ってくるとは。かなり根性のある方だと思う。

「あと、どうしても食べたいものがありまして」
「食べたいもの?」

「商人からいただいた、大福が大変美味しくて!洋菓子とはまた違った、ほどよい甘さが忘れられませんでしたの」

 やだ、いい人。

 思わず、彼女の手を握る。

「大福のことならお任せを。色々、ご紹介しますね!」

 大福仲間を新たにゲットして、胸が踊る。
要注意という言葉が、頭からすっかり消えてしまうヒナギクだった。
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