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第一話-⑤

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「えっ!?じゃ、じゃあ犯人は……」
水橋が橋本に目線を向ける。
「え?ええ!?い、いや俺じゃないですよ!刑事さん、さっき俺、言いましたよね!?」
疑いをかけられた橋本は動揺して立ち上がった。
「刑事さんたちがゴミについて質問してきたのはこれだったのか……。いや、でもこれは……。」
戸渡も橋本に対し、冷ややかな軽蔑の視線を送る。
「いや、本当に違うんだ!信じてくれ!」
その発言に対し302号室の高校生、米田はじきは汚物を見るような視線を橋本に浴びせる。
「何言ってるんだよ、もう決定的だろこんなの……早くさっさと罪を認めろよ。俺たちはここにずっと待機させられてるんだ、もう我慢も限界なんだよ。」
もう数時間にも及ぶ拘束にはじきはうんざりしているようだった。……彼だけではない。ここにいる全員が同じ気持ちを持っており、全員が橋本に対して冷ややかな視線を送っていた。橋本は周囲を見渡し、それに気付いた。そして冷や汗を浮かべ、焦りを露骨に見せる。
「い、いや……違う!お、俺はやってないんだ!信じてくれよ!!」
「あの……うるさいので黙ってください。」
探偵は興奮している橋本に冷凍ビームのような冷たい視線を送る。その額に青い血管が浮き出ているのを見た橋本は、恐怖を感じて即座に口をつぐんだ。
「俺は本来ある仕事を潰してまで、こうやって話してるんです。反論とかは全部話終わってからにしてください。」
探偵は咳払いをして話を続ける。
「ま、確かに橋本さんを疑うのは無理ありません。ですが結論を焦らないでください。いちいち訂正するのは面倒です。……では、話を戻しましょう。橋本さんのゴミ袋の中には包丁が入っていた……では誰が入れたのか?可能性は大きく二つ。橋本さんか、それとも他の誰かか、です。」
「え?橋本さん以外の人の可能性ってあるの?」
「ええ。今回の事件のポイントはそこです。……真田刑事。」
「ん?どうした?」
スマホをぽちぽちといじってゆったりとしていた真田刑事は、スマホから顔を上げた。
 ……おい、刑事よ。他人事じゃねぇんだよもうちょっと緊迫感持てよ。推理してんだぞ?この俺が。あとはもう探偵に任せればいいや!じゃない。
「それで?何だ?」
「あ、ああ……質問があるんだ。今回の殺人犯が隠さないといけないのは、凶器となった包丁だけか?」
探偵は怒りを押し殺して、落ち着いた声で質問した。
「いや。それだけじゃない。今回のような刺殺事件では、証拠を隠したいのなら犯人は返り血がついた服とかも隠す必要があるな。」
「そう、その通りだ。今回の事件は包丁による刺殺事件。それに部屋の血の飛び散り方をみるに、犯人の衣服にはかなりの返り血がついたはずです。服や犯行当時に身につけていた手袋、帽子にズボン、靴……。包丁以外にも隠したいものならいくらでもあるはず。だが、橋本さんのゴミ袋にはなかった。……おかしいとは思わないか?」
「まぁ、な~んか違和感はあるな。こう、なんていうか……。」
真田刑事が頭のモヤモヤと格闘していると、
「確かに、なんで服とか手袋をゴミ袋の中に入れなかったんでしょうかね?」
と、後藤刑事が助け舟を出して真田刑事をフォローした。
「あー!それそれ、それだよ!今おんなじこと思ってた!」
ホントかよ……まあいいや。
「そう、後藤刑事の言う通りです。ゴミ袋の中に凶器を入れて証拠を隠そう、と言うのなら包丁以外のものが見つかるはずです。しかしながら、それらの類は発見されなかった。」
「……そうですね。橋本さんのゴミ袋は全部漁りましたが、それらの類は見つけられませんでした。」
「橋本さんのゴミ袋がもう一つあるんじゃないですか?それの中に服が入っているんじゃ?」
増田さんがそう言った。
「いえ、先程、後藤刑事にゴミステーション付近の防犯カメラを確認してもらいましたが、橋本さんが持っていたゴミ袋の数は3つだけでした。橋本さんがそれ以外のゴミ袋を持っていった姿は確認されていませんでした。」
「そうでしたか……。」
増田さんは自身の予想が外れ、シュンとして椅子に座り直した。
「ではなぜ、ゴミ袋の中には包丁しか入っていなかったのか?答えは簡単です。犯人は包丁以外をゴミ袋に捨てるわけにはいかなかった……もっと言えば、服が見つけられるわけにはいかなかったから、です。おい真田、スマホ見てないで顔上げろ。」
「んぇ?なんか言った?」
コイツ、少しでも目を離すとすぐにスマホ見るな……。
「なあ真田。包丁から指紋は検出されたか?」
「いや……確か出てこなかった気がする。」
「そう、包丁からは指紋などの犯人の手がかりとなるものは発見されなかった。では、服や手袋はどうか?調べれば犯人の毛髪や皮脂、指紋などが検出されてしまうでしょう。だから犯人は包丁以外をゴミ袋に入れる訳にはいかなかった。」
「んん?なんか違和感がありますね。行動に矛盾があるような……。」
「その通りです、後藤刑事。もし犯人が自身の証拠隠滅のために動いていたのなら、そんなことを気にはしませず、服と包丁をいっぺんに処分します。逆に足がつきやすい服や手袋の方をまず何とかする必要があるはずです。捨てたり、隠したりだとか。」
「よくわからないんですが……つまり何が言いたいんですか?」
と米田家の父親、米田勝が尋ねた。彼だけではなく、聞いていた人の頭の上にははてなが浮かんでいた。
「ああすいません、回りくどい言い方しちゃって。つまり何が言いたいかと言うと、包丁がゴミ袋の中に入っていたのは『証拠を処分するため』ではない可能性が大きいんです。もしそうだとすると、あまりにも証拠の処分方法に違和感がある。そうなると、もっと違う別の理由があると考えられます……そう、例えば『他人に罪を押し付けるため』とか。
 そう仮説を立てると、何で包丁と衣服を別々に処分したのかがすぐに分かります。他人に冤罪を被せるのなら、その証拠品から真犯人である自身の情報が出てくることは不味いから、ですね。」
「それはちょっと早計じゃないですか?」
手を挙げ、戸渡が探偵の話に口を挟む。
「橋本さんがゴミ袋に包丁しか捨ててないとしても、それ以外のものは外で捨てたという可能性もありますよ。」
「ああ!そういえばそうじゃん!探偵お前、昨日の夜に橋本さんが外出していたっていうことを考え忘れてるぞ。戸渡さんが言ってたじゃないか。その時に服を捨てたかもしれないだろ?」
真田刑事は戸渡の話に乗っかって探偵にツッコミを入れた。
「真田、そして戸渡さん、助言ありがとうございます。確かに、先ほどの事情聴取で戸渡さんが仰っていた『黒パーカーのフードを被った男性』は昨日の夜8時半あたりに、マンションのエントランスの防犯カメラにバッチリと写っていました。」
それを聞いた戸渡は、ここぞとばかりに探偵に大きな声で畳み掛け
「なら!」
「でも、それはあり得ません。」
……ようとした。しかし、探偵は即座にそれを遮った。
「な、なんで?」
戸渡は動揺の表情を見せる。
「アリバイがあるからです。」
「ア、アリバイ、だって?」
「ええ。橋本さんには確かなアリバイがあります。……橋本さん、もう一度伺います。あなたは昨日の夜にどこで何をしていましたか?」
探偵に尋ねられた橋本はすっかり落ち着いた様子で質問に答える。
「昨日の夜は自分の部屋で、一人でゲームをしていました。」
「それではアリバイにならないんじゃないんですか?部屋には一人でいたんでしょ!?」
「ええ、そうですよ。」
橋本は戸渡の方へ向き、冷静に返答する。
「そうですね。確かに自室で一人、ゲームをしていてもアリバイにならない、そう考えるのが自然です。ですが、ではアリバイになり得ます。……橋本さん、あなたはなんのゲームをしていましたか?」
「スフラトゥーンです。」
「スフラトゥーンって、あの?」
「ええ。戸渡さんが想像している通りです。スフラトゥーン、今大人気のシューティングゲーム。橋本さん、あなたはそれをプレイしていましたか?」
「『おにゃんこワンワン』さんで……あ、そう言うニックネームのネット友達とです。」
「ありがとうございます。それで後藤刑事、さっき依頼したことはやっておいてくれましたか?」
「はい、ちゃんとデータも取ってあります。」
後藤刑事はタブレットを見ながら質問に答える。
「先程、プレイヤーネーム『おにゃんこワンワン』さんご本人に連絡を取りました。……彼女の供述によると、昨日の夜8時半辺りはずっと『エクスペリア゛』さん、すなわち戸渡さんとゲームをしていた、とのことです。彼女から提供してもらったゲーム中のスクリーンショットや動画などを拝見させていただいたので、その供述が嘘である可能性はないですね。」
「ありがとうございます。……これでお分かりいただけましたか、戸渡さん。橋本さんは、昨日の夜8時半頃はネット上の友人とゲームをしていたそうです……しかもゲームを。シューティングゲームは常に的確な判断や動きが求められ、プレイ中は目を離している暇もありません。また、橋本さんにお願いしてゲーム機やパソコンを調べさせていただきましたが、自動操作プログラムや放置プログラムの類は発見されませんでした。……ですよね?後藤刑事。」
「ええ。コンピューター類のデータを鑑識に調べてもらいましたが、それの類のプログラムの作成、および削除履歴はありませんでした。」
「だそうです。つまり、ゲームをしていた橋本さんには夜の8時半に外に出ること、いや部屋から出ることすら不可能と言えます。……ところで戸渡さん。」
探偵は戸渡の下へとゆっくりと歩み寄り、顔を近づけた。
「あなたは昨日の夜、一体誰を見たんですか?」
「え……えと……いや、その……。」
戸渡の額からは冷や汗が滲み出ていた。さらに呼吸も乱していて、彼が動揺しているのは誰の目から見ても明らかだった。
「あ!も、もしかしたら見間違いだったのかもしれません。うん、きっと、いや絶対そうだ!あの時は暗くてよく見えなかったし、フードも深々と被っていてよく顔が見えなかったので。いやぁ、すいません探偵さん。煩わしいこと言っちゃって。」
戸渡は言葉につっかえたりどもりながらも早口で喋った、まるで言い訳を必死に考えている学生のように。
「そうでしたか。まあ、間違いは誰にでもありますから。気にしないでください。」
「探偵さん、どうもほんとにすいませんでした。いや、わざわざ手を煩わせてしまって本当に申し訳なく思っています。」
戸渡は腰を90度に曲げて、必死に探偵に謝った……まるで何かを取り繕っているようである。
「大丈夫ですよ。それよりも本題に戻りましょう。」
探偵は戸渡に愛想笑いを浮かべた、なお目は全く笑っていないが。そして、他の人たちの方へと向き直り、話を再開した。
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