前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃

文字の大きさ
9 / 31

9.建国祭

しおりを挟む
 そして、数日が経ち。
 皆が心待ちにしていた建国祭の開催日が、いよいよやってきた。
 国民達は、この国の末永い繁栄を願って各々祭典に参加するのだ。

 もし、二人と──レオとハンスと出会わないままこの日を迎えていたら、私はきっと復讐心にとらわれたままだっただろうし、お祭りを楽しむ余裕なんてなかったと思う。
 そういった意味でも、二人には感謝をしなければ。

 よし。今日は、羽目を外して思い切り楽しもう。
 そう考えながら、鏡台の前に座って櫛で髪を梳かす。
 レオが言った通り、自分の顔が日々別人のように変化していっているように感じるのもきっと気の所為だろう。
 大丈夫。何も心配はいらない。前世のような不幸なんて、そう滅多に起こらないはずだから。

 ──でも……午前中は、ギュスターヴと出店を見て回らないといけないのよね。

 げんなりしつつも、小さく嘆息する。
 ギュスターヴと私の親子関係は、変わらず良好だ。
 頑張った甲斐があって、前世の記憶が蘇る前よりもずっと深い信頼信頼を得ることができた。
 でも、まだ足りない。だから、長い年月をかけて更に信頼を得よう。
 ……そう、自分がやられた時と同じように、事故死に見せかけてギュスターヴを殺害するために。
 もちろん、彼が死ぬ前にはネタばらし──私の正体が実は転生したマージョリーであること──もするつもりである。

「いつか、あの二人にも事情を話さないといけない日が来るのかしら……」

 レオは、私が自分の父親を良く思っていないことを知っている。
 詳しくは言っていないけれど、あの日──時計塔で、父親のことを憎んでいると明かした日。
 レオは、「言いたくなったら言えばいい」と私の意思を尊重し追求しないでいてくれた。
 できることなら、レオにもハンスにも復讐のことは……ましてや、自分が前世の記憶を持っていることなんて言いたくない。
 二人のことを大切に思っているからこそ、余計に言えないのだ。

「まあ、成るように成るわよね……」

 今から、うじうじ悩んでいても仕方がない。
 そう考えながら、鏡に向かってにこっと微笑んでみる。

「うん、大丈夫。今日も可愛いわよ、アメリア」

 そんな風に自分に活を入れていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」
「アメリア、準備はできたかい?」

 僅かに開いた扉の隙間から顔を覗かせたのは、ギュスターヴだった。

「はい。あの……今日は、先日お父様からプレゼントしていただいたお洋服を着てみました。どうですか? 似合いますか……?」

 恭しくあざといくらいの上目遣いで、それでいて自信なさげに尋ねてみた。
 すると、ギュスターヴは──

「似合っているに決まっているじゃないか! はっきり言って、世界中で一番可愛いよ! 流石は僕の自慢の娘だ!」

 と言って、仰々しく涙を流しながら駆け寄ってきた。
 我ながら、完璧な演技だと思う。
 愛娘からこんな風に尋ねられて、メロメロにならない父親はいないだろう。

「く、苦しいわ……お父様」
「ああ、ごめんよ。アメリアがあまりにも可愛かったから、つい……」

 ぎゅうぎゅう抱きしめてくるギュスターヴに苦しさを訴えると、彼は慌てて私から離れた。

「全く……お父様ったら。せっかくのお洋服が皺になってしまうわ」
「あはは……」
「では、そろそろ行きましょうか?」

 尋ねると、私は苦笑するギュスターヴの手を引っ張る。
 そして、足早に邸を出ると、私達は待機していた馬車に乗り込んだ。

 ***


 王都に到着し、広場に行くと、そこには数え切れないくらいの露店が並んでいた。皆、こぞって声を張り上げながら客引きをしている。
 色とりどりの風船、様々な種類の火酒、ジューシーなウインナーを挟んだホットドッグ、仮装をした人々。
 目に映るもの全てが普段とは違って新鮮だから、それらを眺めているだけでも自然と心が躍る。

「やあ、可愛らしいお嬢さん」
「わっ……!」

 広場に足を踏み入れるなり、ピエロの仮装をした男性が話しかけてきた。
 男性は大量の風船を手に持っており、その中から一つを選んで、

「風船、おひとついかがですか?」

 と、赤い色の風船を差し出してきた。
 突然、風船を差し出され驚いてしまったけれど……よく考えたら、私、見た目は十歳の子供なのよね。
 そう考えて、心の中で思わず微苦笑した。前世の記憶が蘇って以来、思考は大人のまま過ごしてきたからすっかり忘れていた。

「せっかくだから、一つもらったらどうだい?」

 隣にいるギュスターヴが、風船をもらうよう促す。

「えっと……それじゃあ、一ついただきます」

 そう返し、ピエロから風船を受け取る。

「君にとって、素敵な一日でありますように!」

 言って、ピエロは私に向かって手を振ると、別の子供のもとに歩いていった。
 彼の背中を見送った私とギュスターヴは、手を繋ぎながら露店を見て回る。
 一通り、店を見終わった頃。ふと、大階段の付近に行列ができていることに気づいた。

 ──何かしら? あの行列……。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ
恋愛
王太子ユリウスは、王立学園の卒業舞踏会で突然宣言した。 「カリスタ・ヴァレリオンとの婚約を破棄する!」 隣には涙を流す義妹ルミレア。 彼女は「姉に虐げられてきた可哀想な令嬢」を演じ、王太子はそれを信じてしまう。 だが――王太子は知らなかった。 ヴァレリオン公爵家が 王国銀行の資金、港湾会社の株式、商人組合の信用保証―― 王国経済の中枢を支える契約のほとんどを握っていたことを。 婚約破棄と同時に、カリスタは静かに言った。 「では契約を終了いたします」 その瞬間、王国の歯車は止まり始める。 港は停止。 銀行は資金不足。 商人は取引停止。 そしてついに―― 王宮大広間で王太子の公開断罪が始まる。 「私は悪くない!」 「騙されたんだ!」 見苦しく喚き暴れる王太子は、衛兵に取り押さえられ、床を引きずられるようにして連行されていく。 王太子、義妹、義父母。 すべてが破滅したとき、カリスタはただ静かに告げる。 「契約は終わりました」

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...