【完結】訳あり令嬢と騎士の訳ありな挙式

丸山 あい

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溺れる後朝 Ⅲ*

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 ぐいっ、ぐいっ、と最奥を押し上げるように動く怒張。内臓が持ち上げられ、押される心地が強くなる。動きは早いわけではない。寧ろ緩やかだ。だというのに、怒張が奥を押し上げる度、強烈な快感が背中を走る。

 重ねる毎に膨らむように強くなって、ぐっ、と喉に力を込めないと変な声が上がりそうになる。やがて、ぞくぞく、と震えてしまうほどにまで快感が膨れると、キルシェは声を留めることができなくなった。

「んあっ……ああ……! ふっ……やっあ!」

 鼻にかかったような甘ったるい声に、羞恥心が増す。苦しいはずなのに、快感に溺れそうになっているのが彼に伝わってしまうから。

 声を止められなくなると不思議なもので、余計に痺れるような快感まで加わってくるからどうしようもない。

 声に応じるように、押し上げている怒張の動きが、大きく、速くなってきた。

「ああぁ……んっ、ぁっ……ぁあっ、あっん……!」

 声が上ずる。

 比例して増す快感にシーツを握りしめ、頭を振って声なく、やめて、と乞うが、実際のところ、止めてほしいのではないこともわかっていた。

 あまりにも強いのだ、刺激__快感が。

「あぁあぁぁっ__!」

 一際強い弾ける快感に、びりびり、と走り抜けた痺れの直後、ふわり、と体が浮く心地がした。

 __い、まの……。

 ぬるま湯に頭が浸かってふやけそうになっているところに、腰をしっかり、と掴む手と、胎内にある陰茎がずるり、と生々しく動いた。

 キルシェは思考がふやけながらも、はっ、と我にかえるが、背中に覆いかぶさるようにして腰を一気に奥まで突き込まれ、脳天にまで抜ける容赦のない快感に息を詰めた。

「ま、って……! ま、だ……ぁあ!」

 ぱんぱん、と肉がぶつかり合うあの乾いた音がし始めた。

 耳元近くで、荒い息遣いがして、その口が耳朶を喰む。ぬるり、と舌が這い嬲ると、深く口づけるときよりも、生々しい粘性の高い音が鼓膜を襲う。

「キルシェ……はぁ……」

 腰を掴んで固定している手の一方が、臀部の輪郭をなぞるように表面をじれったいほどの優しさで撫で、そのくすぐったささえ快感になってしまう。ぞくぞく、と勝手に臀部と脚が震えて力が抜け、臀部を突き出す姿勢は崩れた。

 だが、その臀部を追うようにして、突き入れる腰は沈んで、逃げ場がなくなった秘部は大きく力強い彼の劣情を受け止めることになった。

 肉のぶつかる乾いた音は鳴りを潜めるが、それは彼の動き方が変わったからでもある。深くまで一気に穿ち、先ほど執拗に嬲ったあたりに亀頭を押し付けるのだ。

 その亀頭は時折、こつん、と最奥までも叩く。

 達したキルシェには、何をどうする力も、考えももうなくなっていた。

「リュ……はぁ……! リュ、ディ……! はぁぁ……」

 沼のように引きずり込もうとする快感に、頭を痺れさせて、ただあられもない声を漏らし、うわ言のようにリュディガーの名前をその声の合間に呼ぶことしかできない。

 やがて喉も乾いて声さえ挙げられず、荒い息遣いしか吐き出せなくなった。

「キルシェ、愛してる……!」

「ぁ、はあ、んっ、ん、ぃ、はあっ、はぁ! んっ、んんっ!」

 またも快感の波が膨れあがり、それに比例して、リュディガーの動きも速くなる。

「リュ、ディガ……ああぁっ!」

 またも弾け、頭が白く染まるキルシェ。きゅうっ、と下腹部に力が入って、はっきりと中のものを捉えた。

「っ__」

「あんっ!」

 リュディガーが息を詰めつつ、数度一際大きく強く奥を穿ったかと思えば、直後にずるり、と引き抜かれた。

 そして臀部と腰あたりに生暖かい液体がかかる。

 臀部にそっと置かれた熱く硬いものは、表面がぬるり、としたもので、時折しゃくりあげるようにひくついているそれは、彼の陰茎に違いない。

 肩で呼吸を整えるリュディガーは、しばらくそのままでいて、ようやっと呼吸を整えたらしい彼は、吐精してキルシェにかかったものから拭き清め、別の布でキルシェの秘部を拭いにかかった。

「これで子供を授かったら、まぁ……思し召しだな」

 ひとりごちるリュディガーに、キルシェは気恥ずかしさを覚えた。

 彼がこうして胎内で果てないのは、まだふたりきりの時間を堪能したいからだ。それはキルシェも望んでいることである。帝国においてキルシェは行き遅れに片足をつっこみかけた年齢であるが、それでも彼との__彼とだけの時間がほしいと思える。

 __やっと夫婦になれたのだもの……。

 拭われて、ぬるり、と滑る布の感触に、どれほどそこが濡れそばっているかを知らされるキルシェは、自身を掻き抱くように縮こまる。

 やがて自身も拭き清めたらしいリュディガーが、完全に締め切らないでいた天蓋の布をどけ、サイドテーブルへと手を伸ばした。

 水差しからグラスへ水を注ぎ、彼は一気に煽った。

 喉が乾いていたキルシェは、水が欲しくて唾を飲み込んだ。だが、体が気だるさですぐには体を動かせないでいると、リュディガーの顔が近づいて口付けてきた。すると、僅かにあいていた唇を彼の舌が入り込むようにして開けた直後、わずかずつ水が口の中に送り込まれてくる。

 最初驚いて目を見開いたが、口付けあったまま視線が噛み合った彼が目元を緩めるので、彼の意図を察して、彼が口に含んだ水を受け切ることにした。

 やや温められた水だが、喉の乾きはまだあってもっと欲しかった__それを察してか、彼はもう一度口に含んで、口移しで与えてくれる。3度それをして、ようやっと喉の乾きが落ち着いてキルシェは、ありがとう、と呟く。

 リュディガーはそのあとやっと一杯分を飲み干し、キルシェの体にすりよると横抱きにして密着してきた。

 火照った心地の体だが、彼と密着すると、筋肉質なリュディガーの体がいかに熱いかがわかる。

 肩や背中、項__背後から腕を回して抱きしめる彼が届くところに、口付けを施していく。

「朝から、嫌だったか?」

 無骨な手が、さわさわ、と体を擦る。

 問いかけにキルシェは、ふやけた頭で言葉を探した。

「嫌では……ない、ですが……」

「が……?」

 労るような動きであるが、どこかそれは、キルシェの劣情を煽ろうとしている動きにも思え、身じろぎするのを最低限にしてやり過ごす。

「……そういう、答えにくいこと、聞くのは……止めてください……」

 そうか、と喉の奥で笑うような声で言われ、顔が赤くなるのがわかる。

 手の上で転がされている心地がする。悔しいが、嫌だ、とも言い切れない。大好きな最愛の人に求められ、分かち合う快感は嫌なはずがないからだ。

 むしろ__と、キルシェは考えを断ち切るように小さく首を振った。

「盛りのついた小僧じゃないんだが……駄目だな。どうにも欲しくてたまらなくなる」

「後生ですから……」

 キルシェは身を捩って振り返る。

「悪かった」

 穏やかに笑うリュディガーが、口付けてきた。

「__もう少し、このままで」

 もはや朝だ。時間はわからないが、やがて使用人がやってくる。こんな姿を見られるのは恥ずかしいが、確かに自分もまだこうしていたい。

 大きな心音と、彼の香りに包まれると、体中に残っている快感の残滓が眠気を誘う。

 自分とは無縁だと思えた、最初から愛慕のある夫婦仲。

 後朝がこれほど心地良いもので離れがたいものだとは、思いもしなかった。

 __これが、これからも、続く……ように、なる……。

 なんて幸せ者なのだろう__キルシェは閉じた目元が熱くなるのを感じた。
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