【完結】わするるもの 〜龍の騎士団と片翼族と神子令嬢〜

丸山 あい

文字の大きさ
22 / 69

地綱 Ⅱ

しおりを挟む
 蓬莱出身の子響とのやり取りを思い浮かべ、ふとある言葉が気になったロンフォールは、思い出したような声を上げる。

「子響から神子って言うのを聞いたんだが、それは?」

 スレイシュは右側の小ぶりな石の下に、小石を並べる。

「神子は、教皇の下で、神子の格__神の格によっては司教とも呼ばれる。その司教を守るために、さっき言った神官騎士という護衛がいて、その下の地位に神殿騎士がいる。神殿騎士は各地の神殿や地域、聖地の守備が任務。神子の身の回りの世話を行うのが、司祭。神官に関して、教皇は龍帝の勅命を受けて、それら一切取り仕切っている。他からの干渉は受けないぐらい……というか、やっぱり神様に関わることだから、畏れ多くて、文官も武官も口出しはほとんどできないな」

「怖いってこと?」

「ああ。どういったことになるか、わからないんだ。不可知ってのは、ヒトの想像をはるかに超える。言ってしまえば、龍帝も不可知だから、怖いといえば怖いな」

「どういうことだ?」

「龍帝御一家は、この地上にはいないんだ。龍胤ならいるが」

 ロンフォールは首を傾げる。

「龍胤は龍帝の血脈だ。今上帝の家以外に、5つの家に分かれていて、これを五宮家いつみやけという。側室制を廃して、龍胤の補完として五宮家の制度を設けたんだ。宗家が断絶した場合、他から龍帝を据えるために」

「そくしつせいど?」

「……さすがに、番って認識はわかるよな?」

「うん、ぼんやりと」

「よし。__妾みたいなものだよ。2番目以降の奥さん。正室ってのが、ちゃんとした奥さんだ」

「たくさんいるんだ……」

 まあな、とスレイシュは腕を組んだ。

「__今上帝……現龍帝は父帝の正室の子だけど、側室の息子として産まれた兄もいたんだ。正室は獣人族のお姫様。つまり、龍帝は半獣の生まれ。対して、側室は人間だ。生まれた息子も純粋な人間族」

「半獣って……獣人は人間と見た目が違う?」

「獣人は、平時は人間の体のどっかにその名残が見られる感じだな。半獣は、獣人と人間との間に生まれたやつら。こいつらは、より人間っぽい見た目だ。決定的な違いは、完全な獣になれるかどうか。格としては、獣人のほうが間違いなく上」

 そこまで言って、スレイシュは組んでいた腕を解き、両ひざの上に手を置いて、やや前のめりになる。

「獣人と人間ってのはいがみ合っていてな、当時。それをどうにか終わりにしたかった。獣人のお姫様を正室にもらって、それで戦をおさめようとしたんだ。だけど、帝国に所属するほとんどは人間だったから、父帝が亡くなったとき、側室の息子だけど、純血のこっちを擁立したわけだ。それは約束を違えることだったから、獣人族が怒った」

「正室の息子を次の龍帝にする、って約束かなにかをしてたのか?」

 ほう、とロンフォールの言葉に、スレイシュはわずかに片方の口角をあげ、再び腕を組んだ。

「勘がいいな。そうだ。人間と獣人の間の半獣の帝なんて、まさに友好の証だ。お互いの偉い人の血を引いているから、お互い納得する。そのために、大事な姫様を差し出したんだ。もちろん、そうした取り決めもなされ、お互いが納得していたのに、人間が反故にした。それで、獣人族も対抗した」

「また、争った?」

「ああ。__正室の息子を擁立したんだ。だけど、当人はそれを嫌がって、最初は逃げたんだと。腹違いだけど、兄は兄だ。周りが騒いで、勝手にしているだけといえば、そうだしな。兄は継ぐ気が満々で、自分はそれほどない。だったら、兄が継げばいい、と」

「どうして、逃げたのに、今の龍帝に?」

「兄は討伐令を出したんだ、弟の。生きているだけで、己の地位を脅かすんだからな。当然の行動だ。だけど、ここから可笑しくてなってく」

 皮肉に笑んだスレイシュに対し、ロンフォールは首をかしげ、先を促した。

「__絶対的な力を欲した兄は、なにを思ったか、禍事の神と取引して、その力を使えるようになったらしい」

 やや低めた声で、身を乗り出しながら言い放つ彼。ロンフォールは思わず息をのんだ。

「え……それって……」

「とっても恐ろしいことだ。この世が崩れる。それを知って、いよいよ弟は立ち上がり、対して戦神をその身に降ろして戦って、勝利をおさめた。まさに神代の再来だよ。__で、龍帝はもうヒトではない。だから、地上にいるわけにはいかなくなった。ここで色々と制度を変えた。そのひとつに、戦の元凶になった側室制度を廃し、龍帝の血脈を守る意味で、分家を五宮家として配したってわけだ。もちろん、宮家が争わないように、継承には決まりを作ってな」

「そして、地上からいなくなった?」

「そういうことだ。聞くところによれば、帝都の真上のずぅっと高いとこに小さい島が浮いていて、そこに宮殿があって住んでいるらしい。空に浮いてる大地で、かつ天帝から分けてもらった島のことを、高天原、と呼ぶ。さっき言った上三位は、その宮殿へ出入りできるらしい」

 そして、と彼は、ロンフォールを指差した。

「お前たち__龍帝従騎士団の者も地位こそ州侯以下で低いが、例外として許されている。元帥と龍帝従騎士団とあわせて禁軍と呼ばれ、龍帝のための特別な部隊だ。元帥の直下にある軍はまた別で、国そのものに帰属するとでもいえばいいのかな……。規模としては、龍帝従騎士団より巨大だけど、火力のある龍帝従騎士団と力の均衡を保つためにそうした規模になっている」

「どうして?」

「龍帝だって今は神様といえるが、もともとはヒトだ。圧制を強いて民を虐げ、国を傾かせるかもしれないだろ? そうしたことを防ぐ抑止力ということで、軍があるんだ。もちろん、その逆も然りだが」

「抑止力……」

「不可知であるが故、己の意思の具現者として、龍帝従騎士団を作ったとも言われている。龍帝ってのは存在するんだぞ、って。ヒトは目に見えないものをあまり信じない。それに、軍は力を持ちやすいからな。均衡を保って悪戯に国を荒れさせず民を守るためでもあるし、なにより、龍の号を賜ったときに、そうせよ、と天帝からお達しがあったとか」

「龍帝従騎士団っていうのは、本当に別格なんだ」

「ああ。そんな組織にあって、お前は有名人だろ? なにかしら、謀略にはまっていても可笑しくはない」

「……」

 ごくっ、とロンフォールは生唾を飲んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

ベテラン精霊王、虐げられ皇子の子育てに励みます

はんね
ファンタジー
 大陸で最も広大な領土と栄華を誇るアストラニア帝国。 その歴史は、初代皇帝ニコラスと精霊王バーティミアスが“疫病王ヴォラク”を討ち倒したことから始まった。ニコラスとバーティミアスは深い友情を結び、その魂を受け継ぐ皇子たちを永遠に見守り、守護する盟約を交わした。  バーティミアスは幾代もの皇帝を支え、帝国は長き繁栄を享受してきた。しかし、150年の眠りから目覚めた彼の前に現れた“次の皇帝候補”は、生まれたばかりの赤ん坊。しかもよりにもよって、十三番目の“虐げられ皇子”だった! 皮肉屋で老獪なベテラン精霊王と、世話焼きで過保護な月の精霊による、皇帝育成(?)奮闘記が、いま始まる——! 人物紹介 ◼︎バーティミアス 疫病王ヴォラクを倒し初代皇帝ニコラスと建国初期からアストラニア帝国に使える精霊。牡鹿の角をもつ。初代皇帝ニコラスの魂を受け継ぐ皇子を守護する契約をしている。 ◼︎ユミル 月の精霊。苦労人。バーティミアスとの勝負に負け、1000年間従属する契約を結びこき使われている。普段は使用人の姿に化けている。 ◼︎アルテミス アストラニア帝国の第13皇子。北方の辺境男爵家の娘と皇帝の息子。離宮に幽閉されている。 ◼︎ウィリアム・グレイ 第3皇子直属の白鷲騎士団で問題をおこし左遷されてきた騎士。堅物で真面目な性格。代々騎士を輩出するグレイ家の次男。 ◼︎アリス 平民出身の侍女。控えめで心優しいが、アルテミスのためなら大胆な行動に出る一面も持つ。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界転生した元開発担当、チート農業スキルで最高級米を作って「恵方巻」を流行らせます!没落令嬢と組んでライバル商会をざまぁする

黒崎隼人
ファンタジー
コンビニ弁当の開発担当だった俺は、過労の果てに異世界へ転生した。 手に入れたのは、触れるだけで作物を育て、品種改良までできる農業チートスキル『豊穣の指先』。 でも、俺が作りたいのは普通の野菜じゃない。 前世で最後に食べ損ねた、あの「恵方巻」だ! 流れ着いた先は、パンとスープが主食の田舎町。 そこで出会ったのは、経営難で倒産寸前の商会を切り盛りする、腹ペコお嬢様のリリアナだった。 「黒くて太い棒を、無言で丸かじりするんですか……? そんな野蛮な料理、売れるわけがありません!」 最初はドン引きしていた彼女も、一口食べればその美味さに陥落寸前? 異世界の住人に「今年の吉方位を向いて無言で願い事をする」という謎の風習を定着させろ! 米作りから海苔の養殖、さらにはライバル商会とのバトルまで。 チート農家と没落令嬢がタッグを組んで挑む、おいしくておかしなグルメ・サクセスストーリー、開店!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...