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房付 Ⅰ
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どんな志を、どんな想いを抱いて自分は龍騎士になったのか__。
ロンフォールは自らの手を見つめた。そこに出来ている皮膚が極端に固くなっている部分__子響が言うには、胼胝(たこ)という__を。
武人だったからこそあるそれ。得物を握り、手綱を握り、大空を翔けていたときの名残。
答えなど出ないはずなのに、考えずにはいられない。考えると、記憶を無くす前と今とを比べ、その乖離りをはかろうとするのだが、霞が掛かる前にやはり思い出さないほうがよいのでは、とここのところ思うようになってきて思考を止めてしまう。
「__あ、来たな」
ちょうどその思考を止めようとしたところで、スレイシュの声が発せられた。
声を上げたスレイシュを見れば、彼が腕を組んで入り口あたりに向けて顎をしゃくった。
示されたそちらを見る。ワグナスのほかに、同じ年頃の子供たちが籠を持ってやってくるところだった。
彼らもロンフォールたちの存在に気づいたようで、会釈をしてから駆け寄ってくる。
後ろめたさのあるロンフォールは、逃げ場を求めるように周囲を探るが、子供たちがたどり着く方がはるかに早かった。
「ロンフォールさん、こんにちは。えっと……エオローとベオーク、オセルです」
ワグナスは、手近に並んだ順に紹介をしていく。
きっと、導師の仇とわかっているはずだ。にもかかわらず、臆せずに交流を持ってくれようとしている気遣い。嬉しいが、同時に申し訳なくも感じる。
エオローとベオークは男の子で、エオローの方が髪の毛が豊かで長い。後ろで3つの束にわけ、ワグナスにも見られる金の装飾をつけている。
エオローに比べ背が高いベオークは、対して短めの髪の毛だが、右の揉み上げだけ長くして、同様に飾りがある。
オセルは女の子らしく、一番小柄。ワグナスの後ろに隠れるように袖を掴んで見上げてくる。彼女は後ろで豊かな三つ編みをし、その先に金の飾りをつけていた。どことなく、サミジーナに似ているのは気のせいだろうか。
「その……はじめまして」
ぎこちなくロンフォールが挨拶をすると、彼らははにかんだように応じて挨拶を返してくれる。
「スレイシュさん、仲直りしたの?」
「……仲直りとか、そういうことじゃない。色々あるんだ、大人には」
憮然としてワグナスに答えるスレイシュは、足元に並べてあった石を足で、さっ、と蹴って散らした。その様子の不自然さに、エオローが片眉をあげる。
「大人って、つい半年前になったばかりじゃないか」
「お前たち、房付(ふさつき)にはわからんさ。お役目っていうのがないからな」
「房付?」
ロンフォールが首を傾げると、スレイシュがワグナスの両方の揉み上げにある飾りのついた房を示す。
「これだ。子供はみんな、魔除けってことでするんだ。16になると大人と見なされ、とる。だから、子供は房付、って呼ぶこともある。お前もつけてたはずだ」
「そうなんだ。でも、みんな違うつけ方だけど?」
「父方の家系に従ってつけるから、いくらか違ってくる」
「スレイシュさんと僕は、同じだったよ。従兄弟同士なんだって」
だよね、とワグナスが同意を求めると、スレイシュが、ああ、と頷く。
「へぇ」
なかなかに興味深い。
記憶はないとはいえ、自分にも幼少期はあったはず。であれば、どのような形の房付だったのだろう。
都合がいいとは承知だが、そういう面での記憶のみだけでいいから、思い出せないだろうか。
「ロンフォールさん、あの……」
のぞみ薄な記憶を手繰り寄せるということを、無意識にしていたロンフォールは、遠慮がちな声で我に返った。
声の主はオセル。その遠慮がちな声はかえってよく注意を引き、ロンフォールをはじめとした皆は、彼女に一斉に視線を向けた。
視線を集めてしまった彼女は、顔を赤らめて視線を落とし、グッ、と口を引き結ぶ。
「オセル、ちゃんと言わないと。サミジーナさんに言われてるだろ」
ワグナスがオセルの掴む袖を引っ張って促すと、恐る恐るロンフォールを見上げた。
「あの、大きい犬……」
「シーザーのこと?」
「うん。……一緒に遊んじゃダメ?」
ロンフォールは面食らう。
「オセルは犬が好きなんです」
この里には、馬や牛以外にも猫や犬もかつてはいた、と子響がいっていた。猫も犬も、迷ってこの森に来たものばかり。この1年の間に、老衰でどちらも亡くなってしまったのだそうだ。
どうだろう、とロンフォールも困ったようにシーザーを見た。
訓練されている犬であるのなら、分別はあるのだろう。特に、主人の危機には敏感で、対処するようによく訓練されているようだ。だからといって、子供の相手をしろと命じて、果たしてできるのだろうか。
__遊ぶっていうのが……できるのか……。
分別があるという以前に、この大犬はじゃれて遊ぶようには思えない。
ロンフォールが唸っていれば、当のシーザーはすっ、と目を細めた__ように見えた。
ロンフォールは自らの手を見つめた。そこに出来ている皮膚が極端に固くなっている部分__子響が言うには、胼胝(たこ)という__を。
武人だったからこそあるそれ。得物を握り、手綱を握り、大空を翔けていたときの名残。
答えなど出ないはずなのに、考えずにはいられない。考えると、記憶を無くす前と今とを比べ、その乖離りをはかろうとするのだが、霞が掛かる前にやはり思い出さないほうがよいのでは、とここのところ思うようになってきて思考を止めてしまう。
「__あ、来たな」
ちょうどその思考を止めようとしたところで、スレイシュの声が発せられた。
声を上げたスレイシュを見れば、彼が腕を組んで入り口あたりに向けて顎をしゃくった。
示されたそちらを見る。ワグナスのほかに、同じ年頃の子供たちが籠を持ってやってくるところだった。
彼らもロンフォールたちの存在に気づいたようで、会釈をしてから駆け寄ってくる。
後ろめたさのあるロンフォールは、逃げ場を求めるように周囲を探るが、子供たちがたどり着く方がはるかに早かった。
「ロンフォールさん、こんにちは。えっと……エオローとベオーク、オセルです」
ワグナスは、手近に並んだ順に紹介をしていく。
きっと、導師の仇とわかっているはずだ。にもかかわらず、臆せずに交流を持ってくれようとしている気遣い。嬉しいが、同時に申し訳なくも感じる。
エオローとベオークは男の子で、エオローの方が髪の毛が豊かで長い。後ろで3つの束にわけ、ワグナスにも見られる金の装飾をつけている。
エオローに比べ背が高いベオークは、対して短めの髪の毛だが、右の揉み上げだけ長くして、同様に飾りがある。
オセルは女の子らしく、一番小柄。ワグナスの後ろに隠れるように袖を掴んで見上げてくる。彼女は後ろで豊かな三つ編みをし、その先に金の飾りをつけていた。どことなく、サミジーナに似ているのは気のせいだろうか。
「その……はじめまして」
ぎこちなくロンフォールが挨拶をすると、彼らははにかんだように応じて挨拶を返してくれる。
「スレイシュさん、仲直りしたの?」
「……仲直りとか、そういうことじゃない。色々あるんだ、大人には」
憮然としてワグナスに答えるスレイシュは、足元に並べてあった石を足で、さっ、と蹴って散らした。その様子の不自然さに、エオローが片眉をあげる。
「大人って、つい半年前になったばかりじゃないか」
「お前たち、房付(ふさつき)にはわからんさ。お役目っていうのがないからな」
「房付?」
ロンフォールが首を傾げると、スレイシュがワグナスの両方の揉み上げにある飾りのついた房を示す。
「これだ。子供はみんな、魔除けってことでするんだ。16になると大人と見なされ、とる。だから、子供は房付、って呼ぶこともある。お前もつけてたはずだ」
「そうなんだ。でも、みんな違うつけ方だけど?」
「父方の家系に従ってつけるから、いくらか違ってくる」
「スレイシュさんと僕は、同じだったよ。従兄弟同士なんだって」
だよね、とワグナスが同意を求めると、スレイシュが、ああ、と頷く。
「へぇ」
なかなかに興味深い。
記憶はないとはいえ、自分にも幼少期はあったはず。であれば、どのような形の房付だったのだろう。
都合がいいとは承知だが、そういう面での記憶のみだけでいいから、思い出せないだろうか。
「ロンフォールさん、あの……」
のぞみ薄な記憶を手繰り寄せるということを、無意識にしていたロンフォールは、遠慮がちな声で我に返った。
声の主はオセル。その遠慮がちな声はかえってよく注意を引き、ロンフォールをはじめとした皆は、彼女に一斉に視線を向けた。
視線を集めてしまった彼女は、顔を赤らめて視線を落とし、グッ、と口を引き結ぶ。
「オセル、ちゃんと言わないと。サミジーナさんに言われてるだろ」
ワグナスがオセルの掴む袖を引っ張って促すと、恐る恐るロンフォールを見上げた。
「あの、大きい犬……」
「シーザーのこと?」
「うん。……一緒に遊んじゃダメ?」
ロンフォールは面食らう。
「オセルは犬が好きなんです」
この里には、馬や牛以外にも猫や犬もかつてはいた、と子響がいっていた。猫も犬も、迷ってこの森に来たものばかり。この1年の間に、老衰でどちらも亡くなってしまったのだそうだ。
どうだろう、とロンフォールも困ったようにシーザーを見た。
訓練されている犬であるのなら、分別はあるのだろう。特に、主人の危機には敏感で、対処するようによく訓練されているようだ。だからといって、子供の相手をしろと命じて、果たしてできるのだろうか。
__遊ぶっていうのが……できるのか……。
分別があるという以前に、この大犬はじゃれて遊ぶようには思えない。
ロンフォールが唸っていれば、当のシーザーはすっ、と目を細めた__ように見えた。
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