【完結】わするるもの 〜龍の騎士団と片翼族と神子令嬢〜

丸山 あい

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龍脈に乗って

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 驚きの声を上げようとした瞬間には、すでに足元に地面の感覚が戻った。

 小鳥の囀り、羽虫の羽音、小川のせせらぎ__音も戻っていた。

 周囲を見渡す。屋内だったはずの空間はそこにはなく、青空と木々が茂っている屋外だとわかる。

 風に揺れる木々と、枝葉を通して降り注ぐ木漏れ日が、穏やかに森に温かさをもたらしていた。

 草地を踏み締める湿った音にそちらをみれば、シーザーが凛々しく周囲を警戒している。

「大丈夫か?」

 スレイシュの言葉に、ああ、と頷いてそちらを見ると、彼の背後に大きな岩が地面から突き出すように、そそり立っているのが見えた。

 大岩には、ついさっきまで立っていた床の模様に似たそれが彫られていて、淡い光を放っている。

「転移岩だ」

「転移岩?」

「これはケルビムの先祖が作ったもので、あの模様がその証。一筆書きができるんだ、これ」

 いいながらその模様を指先でなぞるスレイシュ。

 模様はひも状の筋が、幾何学的に絡み合っているもの。複雑だが、確かに彼の指は同じ筋を辿ることがない。

「あ、これと同じの、刺繍してた?」

「ちょっと違うけど、似たものを」

 シェインという少女が答えた。

 彼女たちの談笑に付き合っているとき、袖口や襟周りに刺繍していた。とても複雑だが、秩序があるように整って見えて、ロンフォールは好みだったので覚えている。

「意味があるんだよな? じゃあ、これも?」

 ひとつひとつの模様は意味があるらしい。

「ああ。俺たちの模様は、独特なんだ。流転、っていう意味合いが全てにある。全部が繋がっている、っていう意味も」

「帝国の模様にも、似たようなものがありますよ。美しいからでしょうか……そのあたりはよくわかりませんが。蓬莱にも、少し違いますが、唐草模様というのがあります」

「唐草模様?」

「つる草を模しているのですが、美しさより、私は見ていて楽しいですね」

 いいながら子響は笑う。

「妖精族も獣人族も、似たような模様を使いますね。この大陸は似たような模様を使う種族が多いから、帝国の人間族もそうなったのかもしれない」

 トヴェレリは穏やかな口調で言いながら、下草を食む馬の首を軽く撫でた。

 この馬もロンフォールと同じ感覚を味わったはずだが、まるで動じていなかった。慣れた様子で、とても落ち着き払っている。

「これは、他にもあるのか?」

 答えていいものか迷ったのか、ケルビムの一同は顔を見合わせてから、一様に子響を見た。

「__はい。それも世界各地、ですね」

 代表して答える子響は、躊躇せず答えた。それに一同は驚いた表情でいるが、咎める様子はなかった。

 なるほど、とロンフォールは思った。

 __どこまで明かすかは、年長の子響にすべて委ねてるってことか。
 
 リュングがいればまた違うのかもしれないが、おそらく子響について、導師が全幅の信頼を置いているという話だし、名代もそれに同じなのだから、得心が行く。

「……とはいいますが、我々に限らず、各国主要な都市には、転移装置がありますよ。一般の人が使えるものもあれば、限られた人しか使えないものもあります」

「国が管理しているんだ。往来できる地域も限定してたりする」

「里にもいける?」

「いや、知られていない転移岩だからな。知られていても、やり方が違うから呼応しあえないはずだ」

「一見便利そうですが、そういう不便なこともあるんです。他にも、大量に移動できない、というのが最大の特徴で。だから、他の交通機関も発達しているんです」

「他の?」

 ロンフォールの問いかけに子響は頷いたが、森の明るくなっている方__おそらく森の境目だろう__を指し示した。

「道中説明しましょう。たぶん、いろいろ見られると思いますから」

「わかった。__シーザー」

 傍らにいるシーザーに声をかけると、彼はちょうど後ろ足で首のあたりを掻いているところである。

 首にあるメダリオンの鎖が、爪に当たっているらしく、チャッチャッ、と短い金属の擦れる音がする。

 その様子を見ていた子響は、そうだ、と思いついたような声を上げ、シーザーの前で屈んだ。

 警戒の色を見せるシーザーに、子響は自分の手の平を見せ、ゆっくりとした動作で首__メダリオンの鎖へ手を伸ばす。

「外しておこう。忘れていた」

 言いながら、鎖の首輪からメダリオンを外して、ロンフォールに示した。

「これで噂が立たれても困るので。私が預かっても?」

「かまわない」

 それを懐へしまい、改めて彼は皆を促して進んだ。
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